ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ 作:たかてつ
コムロンさん目線のお話です。
多分……続きます。ごめんなさい。
「しかし……こんな剣欲しさに、可哀想だよな……」
瞬く間に殺人を終わらせたシュウは、 《アニールブレード》 を器用にくるくると回転させると腰の鞘にすっと収める。
「欲に目が眩むのは理解出来るけれど……それを実行出来てしまうのは、格差社会の被害者だから、ってところか……」
……すごくめんどくさい考え方するなー、このひと。
「確かにねー。この剣、それほどレアってわけでもないしー。クエスト受けるのがめんどくさいからって強盗はよくないよねー」
「日本は治安が良過ぎるっていうのもあるからな……枷が外れれば、これが現実だろうね。まあ、所詮動物ってことだよ」
いやー、めんどくさい。おじさんくさいなー。ほんとに二十代かなー? このひと。
オレは話題を変えた。
「そういえばシュウくんって、膝治ったの?」
彼はちょっとだけ首を傾げると、左膝に目を落としてくすくすと笑いだした。
「あれ? 変なこと言ったかな? オレ」
「いや、こっちではあっちの身体の怪我って再現されなかったからさ。すっかり忘れていたよ……」
あー、なるほど。オレもニキビ潰しちゃったところ、痛くないし。
「手術が成功したから……日常生活に支障が出ないくらいには回復するらしい。まだ、ほとんど歩けない状態だけどね……」
あー、この話題、あんまり……
「そうなんだ……オレさー、高校の頃 《東京選抜》 の試合でゴール決めた後にさー、ズサーって滑ったら、ぐきーってなったことあって、すっごく痛かったんだけどさー、それよりもっと痛かったんだよねー……手術頑張ったんだね。すごいよ、シュウくん!」
……ほんとは、中学の体育、ですけどー。
にやにや笑いながらシュウは、
「ありがとう……」
オレの肩をぽんぽん叩くと、次の街へ向かって歩き出した。
次々にプッギイイというあんまり可愛らしくない悲鳴をあげるイノシシくん。
……しかし、容赦ないな、このひと。
きっと運動神経が良すぎるんだ。弱点の場所を教えると、あっさりクリティカルヒットさせてしまうもの。
ほとんどゲームの知識は無いのに、とにかく飲み込みがすごく早くて……本当にすごい。
オレもβテストでいっぱい練習してマスターした 《ソードスキル》 だけど、シュウと比べちゃうと同じ技が全然違う技に見えちゃって、正直悲しいな。
これが持って生まれた才能、というものか。自己嫌悪になっちゃうな。
――でも、それでも嬉しいな。こんな人と冒険できるなんて。なんかヒーローマンガみたいだし。もう死んじゃっても悔いはないかも。ん? それは……あるかも。
「コムロン、何でこのイノシシ全部同じなの? もうちょっと、いろいろ……流石に飽きてきちゃったよ」
あはは、さっきからずーっと狩りまくっているもの。それは飽きるでしょ、普通。
「めんどくさいから、でかいイノシシ倒して一気に上限までレベルアップ……まあ、それは無いか……」
そいつに出会ったら、多分死んじゃうよー。ふたりとも。
背中の鞘にアニールブレードを収めながら、
「オレもβテストでそれ系、探してみたけどさー、出会えなったよー。かなり上のほうまで行った人の話でも、あんまり……まー知ってても教えてくれる人のほうが珍しいからねー」
オレの話を聞きながら、すぱーんと 《ホリゾンタル》 を決めるシュウ。その華麗な姿は男の子のオレでもカッコいいと思っちゃう。
――ただ、最初からずっとつまらなそうにしているよね、シュウくん。
でも 《リトルネペント》 の大群に襲われて死にそうになった時だけはイキイキしていたな……もうやめて欲しいけど。
きっと、変わった感覚のひとなんだ――でも、もうちょっとこのゲームを楽しめばいいのにな。
「こんばんわー。すいません、ホルンカの村ってこっちで合ってますか?」
振り返ると、道端に男の人が二人立っていた。
シュウと目を見合わせる――了解。また強盗さんですか。お疲れ様でーす。
オレは膝まで伸びている背の高い草をのしのし踏み付けて、草原よりもちょっとだけ高くなった道端へ上がろうとした。けれど、
「わあ、」
草で滑ってズテーっと、かっこ悪くこけちゃった。恥ずかしい。
剣を抜く気配――バカだなー、この強盗さん。
「おいっ、お前、動くなよ。このマヌケが死ぬことになるぞ」
あーあ、すぐに刺せば良かったのに……でもカッコつけたいんだよねー、わかるわかる。
「よいっしょっ!」
背中にちくっと刺さる感触……痛くないけど気持ち悪い。
「ありがと――」
頭上からそれが聞こえた次の瞬間、ばたーんっと倒れる音。
「おめえ、」
「あ、動かないでねー! すぐに終わるからさー」
強盗仲間さんの喉元に、オレはアニールブレードの剣先を突きつけた。
おー、ちょっとカッコいいこと言えた。えへへ……うわーかわいそう。なむなむあーめんごめんなさい……
シュウは斬殺を終えるとすっと振り向き、強盗仲間さんに剣先を向ける。
瞬間、こっちにダッシュ。速いなー、カッコいい。
「はわあっ、」
強盗仲間さんの変な声――と、同時にオレはしゃがみこんだ。
アニールブレードの剣尖が強盗さんの眼球すれすれで止まる。
「追うなよ……」
――よーい、どん。オレは一気にダッシュ。ぐんぐん加速する。
シュウは異様に速いダッシュで後ろから追いかけてきた。すぐにオレの横に並ぶと、
「ほんと、めんどくさいな……」
不機嫌そう……それはそうか。
「アイツ、来るかなー?」
シュウは首を横に振ると、苦笑いで、
「時間が経てば復讐を考えるかもしれないけど、今は……」
走りながらちょっとだけ振り返る。強盗仲間さんは、まだ道端にぺたっと座っていた。
あれからしばらく走り続けた。
ようやく街の明かりが見えてくると、シュウはやっと減速してくれた。
「もう圏外バトルの全滅エンドでよくないか? ゲーム好きってこんな奴らばっかりだろ。社会的にも喜ばしいだろうな……」
うーん。何も言えないなー。
急に足を止める。やった、ようやく深夜のマラソン大会が終わったよー。
「……ごめんなさい。コムロンは別だ。ちょっと疲れてるのかも」
シュウはそう言って小さく頭を下げた――オレもへとへとだよー。こんなに走ったの久しぶりだしー。
「大丈夫。さすがにこれじゃー疲れるよねー……オレのほうこそ、ごめんね。シュウに殺させてばっかり、」
「いや、お前が謝ることじゃないよ。俺のほうが……人殺しっぽいからな……」
そう言って微笑むシュウ。なんか……ほんとにこじらせてるなー。
「でもさー、もしも圏外バトルで好みのタイプの女の子が相手だったらさー、シュウくん、どうするの?」
首を傾げるシュウ。それから俯いてすたすたと無言で歩きだした。
……もしかして、いちいち考え込むタイプかな? だからめんどくさいのかなー?
「……コムロン。俺は、こんな世界に来なきゃいけない女の子って、申し訳ないけど時代の犠牲者……そう思ってしまう」
――うわー、めんどくさいよー。
「う、うん……それは可哀想だよねー。うん……」
「だから、極端な奴は彼女達の為を思って、とか……でもさ、理不尽に斬り殺される彼女達の気持ちを考えれば、それって違う気がするし……ごめん、後でゆっくり考えてみるよ」
――いやー、考えなくていいよー。これ失敗だったー。
オレはもうめんどくさくなるのが嫌なので、ふわっとした話題を振った。
「そ、そうだね……ちなみにシュウくんの好みの女性って、どんな女の子?」
それに目を丸くして驚くと、すぐにシュウは笑いだした。
「あはは、そうだねえ……ナーヴギアが似合わない娘がいいな」
……このひと、絶対こっちでモテないや。かわいそうに。
(終わり)