ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ 作:たかてつ
ナナミさん目線のお話です。
多分……続きます。ごめんなさい。
「じゃあ、またね!」
彼女は軽く右手を上げると、眩い光に包まれる。
――そういえば名前、聞いてなかった。
しかし、すでに手遅れ――はにかみながら小さく頭を下げて、拡散する残光を見送った。
さて……これからどうしよう?
この部屋に残っているのは、この眠そうな馬鹿だけ。
「……よいしょっ」
おじさんのような掛け声。くたっとソファーに腰を下ろしたシュウはフードを脱ぐと、
「いやあ……ほんとながかった……ふあぁ……」
欠伸をしながらウインドウをタップして水筒を取り出し、私のカップにお茶を注いでから自分のコップに。
「いつもここ、使ってるの?」
とりあえずの質問……熱そうなお茶をゆっくり口にするとシュウは、
「いや、俺も初めてだよ……誰かがアルゴに相談して、適当に決めたんじゃないかな?」
「ふーん」
そっとカップをテーブルに置いて、
「お茶、ありがと」
とりあえず……お礼を述べてみた。
シュウは首を横に何度か振って、それから傾げて、今度は一度縦に振った。
――きっと、いやいや、ん? 違う? どういたしまして、かな?
そのまま俯いているシュウに、
「じゃあ、誰かと一緒に来たの?」
「いや、ひとりだよ。適当に……かなり早く着いちゃって、暇だった……」
らしい行動……これだからあまり出歩きたがらないのだろう。
同時に深い溜息――すっと顔を上げたシュウ。
今まで見たことのない、恐怖を感じるほど真剣な表情で、
「……ナナミ、どうするの?」
貰ったばかりのダークグレーのコートを装備し終えると、
「じゃあ、行くけど……約束」
シュウはそう言ってゆっくりと右手の小指を私の胸の前に。
「えっ、何……?」
よく分からないけど、とりあえず小指を絡めてみた。
「……死ぬときは、一緒だから」
瞬間、指をほどいて猛烈な勢いで走り出した。
「…………」
――ほんと、馬鹿。
どうしても笑みが浮かんでくる。けれど、それを置き去りにして必死で後を追った。
大鎌に弾き飛ばされ、後方に退く黒マントの男。
さらに無音で加速したシュウ。迸る橙色の光彩が男の背中を袈裟に切り裂く。
続けざまの一閃が腹部をえぐった瞬間――柔らかく右腕を振り抜いた。
音も無く滑るように落ちる首。
直後、シュウは光を失った大鎌の脇を擦り抜けるように跳ぶ。
――仕留める。絶対に。
弾ける光の断片を突き抜けて、私はシュウの軌跡を全速で辿る。
紅い閃光の先に崩れ落ちた男の顔面を私の剣閃が切り裂く。
「――終わり」
背後から聞こえる冷めたい声。
振り返ると鮮やかに拡散する光の欠片。
声の主は大鎌を何度か回転させると肩に担ぎ、口元に笑みを浮かべて左手を軽く上げた。
「おつかれさま!」
髪を靡かせながら素早く私達に背を向けると、颯爽と走り出す。
見計らったかのように周囲から近づいてくる深緑の軍人達。
「後は、お願いします」
俯いたまま彼らに一言そう告げると、私の横を通り過ぎる瞬間、掌でぽんと肩を叩いた。
「帰るよ……」
「……うん」
そのまま無言で歩くシュウの背中を私は追った。
《アルゲード》 のいつものカフェ。珈琲を飲みながらぼんやりと雑踏を眺めている 《可愛い馬鹿》 に意地悪な疑問をぶつけてみた。
「あれ、どういう意味?」
シュウはカップを手にしたまま首を傾げ、五秒ほど固まり、また逆に傾げ、その三秒後にがっくりとうなだれた。
「あれって何、は愚問……まあ、なんだろうね……大切だ、いや、大切なことだから……かな?」
――何その中途半端。
らしくないその答えがおかしくて、声を出して笑ってしまった。
シュウはゆっくりと顔を上げると視線を落としたままで、
「まあ、お疲れ様。初仕事……」
「ありがと……」
私は小さく頭を下げると、両手で握っていたカップをテーブルにそっと置いた。
「とりあえず、シュウがロリコンの人妻好きじゃなくて、良かった」
「なんだよ、それ…………あいつ、アホだな」
さらに笑うと拗ねた様に頬杖をつくシュウ。
ふいに面白そうな悪戯が降りてきた。
――ちょっとは、やりかえさないと。
えいっと身を乗り出し、テーブルに肘を置いて、シュウの目の前に小指を立てる。
「はい、約束」
シュウはちょっと嫌そうな表情をしてから、すっと顔を背けて小指を絡めた。
「死ぬときは、一緒に、ね?」
にこっと私が笑うと、シュウはくすくすと笑いながら、 「おまえ、めんどくさい」 と呟いて、優しくそっと指をほどく。
……めんどくさいのは、おたがいさま。
シュウはまた雑踏に視線を向ける。私はそんなシュウを眺めながら、両手で少し冷えたカップを握った。
(終わり)