ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ 作:たかてつ
ナナミさん目線のお話です。
多分……続きます。ごめんなさい。
私はシュウのこと、何も知らなかった――
眼前で繰り広げられる激しい戦闘――何も出来ず、ただ立ち尽くして見守ることしか出来ない。
そのあまりの違いに、これまで経験した戦闘とは全く別種の 《殺し合い》 に私が割って入る隙など全く存在しない。
――こんなに速く、しかも連続で斬り込めるなんて。
想像を超えた速度。異常なまでの正確さ。繰り出される剣技。
その全てに圧倒されている。予測はおろか目で追いきれない瞬間さえもある。
そして、相手もシュウと同等……それ以上に強い。
リーチの差を全く感じさせない攻守。シュウの剣を交わし、逸らし、受け止める。
おそらく、それだけではない――常に何か狙っている。罠を仕掛けようとしている。
剣に気を取られれば、その一瞬の隙に特殊攻撃を受けて倒れるだろう。
おそらく一分も経過していない。
けれど、やっと止まった――そう感じさせるほど集中を切らせなかった。
シュウはいつも通りの無表情。相手の表情は深く被ったフードで遮られ、ほとんど伺えない。
ふいに男の口元が動く――次の瞬間、シュウが消えた。
複数の紅い閃光の後、黒いポンチョの男に袈裟の斬撃。
バックステップでそれを回避すると鮮やかな一閃がシュウの頭上をかすめる。
しゃがみこんで下段水平に振り抜かれたシュウの剣。男はすかさず跳んで唐竹にダガーを振り下ろした。
刹那、シュウは剣を垂直に立てて華麗に受け流すと逆手の切り上げ――剣閃が僅かにかすり、男は瞬時に後方へ退いた。
水色の閃光がシュウの身体を急加速―― 《ソニック・リープ》。
次の瞬間、黒いポンチョの男は高い跳躍。赤黒いダガーが発光する。
――斬れる。
私は右足を踏み出した。両者が硬直する瞬間、そこならば踏み込める。
その時、シュウの剣先が私に向けられた。
えっ、なんで――
振り下ろされたダガーがシュウの胸を斬る。拡散する細かな光彩。
反動で私のほうに向かって飛ばされるシュウ――私は受け止めようと、
「「駄目だ――」」
瞬間、身体は宙を待っていた。
地面に叩きつけられると同時に耳を劈くような爆音。黒い粉塵が舞う。
「え、……シュウ?」
広がる粉塵から飛び出す男――直後、交錯する幾つもの紅い閃光。
「……相変わらず面白ぇな、貴様も」
身体に突き刺さったピックを投げ捨てると、男はゆっくりと粉塵のほうへ向かう。
……やめて。
それは、声にならなかった。全身が震えている。
これから起こることを止めなければ、シュウが――けれど、私は動けなかった。
笑っている……
男の歪んだ笑みは、硬直した私の精神を斬り裂いて、絶望させた。
「…………Suck」
脚が止まる――無数の閃光。それを男は巧みに回避すると、瞬く間に闇夜に消える。
「シュウ、…………」
粉塵の中から引きずり出されたシュウは左目、首、腕、腹……何本もの真っ黒なピック……
我を忘れ、這い寄り、その傷ついた身体に触れようとした。
「シュウ? ねえ、シュウ、」
瞬間、襟元を掴まれ後方に投げ飛ばされる――
「ヒール!」
必死で身体を起こすと、紫色のストールで顔を覆った彼女が、シュウの胸元に手を置いていた。
直後、ふたりは何事も無かったかのように立ち上がる。シュウは大きく伸びをしながら、
「いやあ、負けたな……やっぱりプロには敵わない、か……困ったね、ミト」
「えっ!? 勝てると思って戦っていたの? ……ほんとにバカ」
笑うふたり……私はその光景をただ眺めていた。
背後から足音。それは私の横で止まった。
「無知なうえに臆病。そう評価せざるえない働きでした」
その言葉が私に……この僅か数分の間に起きた出来事を理解させた。
頭上の声の主は、足早にふたりのほうへ向かう。
「あっ、すいません。助かりました……ぼろぼろになっちゃったので、新しいやつ、お願いします」
シュウは軽く頭を下げると、穴だらけになったコートを指差して苦笑い。
「了解しました。しかし派手にやられましたね。とりあえず追跡はしますが……まあ、深追いする必要もないでしょうから、ほどほどで」
「そうですね。シュウのやられっぷりも見ちゃってるし……彼らも怪我しない程度で」
そのふたりのやり取りを聞いて、穏やかに笑っているシュウ。
ふいに私のほうへ視線を向けた。首を傾げると、微笑みながらゆっくり近寄ってくる。
「ごめん、心配させたね。もうちょっとやれると思ってた……過信は怖いね」
そっと私の肩に掌を乗せる――結晶の輝きが消えて、シュウの体温が伝わった瞬間、私は音を立てて瓦解した。
「ごめん、……。 シュウ、……私、……ごめんなさい、…………」
私をそっと抱きしめるとシュウは、 「ありがとう」 そう呟いた。
「あのー、そろそろむかついてきたので、他所でいちゃついてもらってもいいですかー」
その平坦な口調が聞こえると、シュウは私の背中をぽんぽん叩いて、
「だってさ。ほら、怖いオネーサンに刈られる前に帰ろうね……」
私の両腋に腕を突っ込んで、ひょいっと無理矢理立たせた。
「……ひ、……ひどい、……立たせかた、した、…………」
まだ涙が止まらない。声が途切れて恥ずかしい。
彼女はすっと近寄ると私の頭を優しく撫でながら、
「うん、こいつはひどい奴。ナナミちゃん、あとでぶん殴っていいからね」
「……うん、……ごめん、……ぶん殴る、……」
私の顔は、ようやく笑ったようだ。
シュウは笑いながら、 「これだけやって、殴られるのか」 そう言って優しく私の手を引く。
「じゃあ、またね!」
その声の方向に、泣き笑いのまま私は手を振った。
「……シュウがね、……殺される、って、……死んじゃう、って、……」
「あのさ、死ぬわけないだろ。だって、死ぬまで一緒……ん? ……まあ、そんな感じだったろ? ……」
(終わり)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回でナナコム目線のお話、一旦終了です。
筆者執筆中、正直本編よりも楽しんでいました。(シュウくん、ごめんなさい)
とりあえず今後の原作、映画、アニメでミトさんが退場されてしまうと……大変困る内容になってしまいました。
その際はご容赦ください。すいません。ごめんなさい。
劇場版SAOPを鑑賞後、ミトさんとシュウくんを組ませたいなーと思いまして……こうなりました。
最後にSAOアンリーシュ・ブレイディングの2周年PVが素敵すぎて再生が止められず、困っています(笑)。
たかてつ