ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ 作:たかてつ
新生アインクラッド編Ⅱです。
二〇二五年十二月のお話。
究極の選択――
何かを決めなければいけない場合、ひとそれぞれ様々な考え方、いろいろな理由や方法があるだろう。
俺の場合はいつも 《面白そうな方》 そんな子供のような、とてもシンプルな選び方をしてしまう。
ただし、それはあくまで俺自身の主観に基いたものであって、他者からすればまったくもって理解不能――これまでずっと、いつだって、そんなことばかりだった。
そんなわけで、今こうして瑞希の姿を見つけたわけだが……俺はどうするべきなのか、非常に悩んでいる。
女性……というより他者の考えを理解することが出来たとしても、他者が俺に何を望んでいるのかが分かったとしても、俺の選択しがちな行動はいつも相手の望まない方へ真っ直ぐに突き進む、ことが多い。
だから、この現状も、これから起こることも、瑞希にとって……
「何も言わないのは、卑怯」
美しい街並みと輝く水路が一望出来る 《ロービア》 の北東エリアの高台広場。
そこにぽつんとひとりベンチに座っている瑞希を見つけるまで、それほど時間は掛からなかった。
「そうだね……でも、それ以前の問題……」
彼女が何故こんな場所にひとりでいるのか――憶測がどうであれ、俺がここに来るべきだったのかは、分からない。
だが、もうここにいる以上、それを考えても意味は無い。
「まあ……来ちゃったよ」
それは、あまりに残念すぎる、本当にどうしようもない言葉だった。
瑞希は少し右にずれると、掌でぽんぽんとベンチと叩く。
俺はその左の空いた場所に座った――瞬間、肩に寄り掛られ、こつんと頭がぶつかる。
「ふふっ、勢い良すぎたね」
「ああ、別にいいけど……」
そのままふたりとも無言でぼんやりと景色を眺めた。
「あ、写真、見たよ」
ふいに、あの流出画像の話題――いやいや、それ今話す?
「楽しそうだなあって。それだけだった」
さすが、瑞希。そして、俺。
「俺も瑞希の写真、楽しいそうだな、と。でも、あれのおかげで何となく……分かった気がする……」
瑞希は溜息をひとつ。
「ほんと、さすがシュウ……嫌なほど分かってる」
ふふっと笑うと、瑞希はぎゅっと握り締める。
「女の子だから。すごく大変だった。話せないことばっかりで」
やっぱり……俺以上にそれは大変なのだろう。気を使うのだろう。
これまで、ずっと――そして、これからも。
人間の好奇心、それに集団的幻想との乖離。それがもたらすもの。
女性である瑞希は、こちらの世界で生きていく以上、ずっとその呪縛から抜け出すことは出来ない。
いつかは上手い方法を見つけるしかない。そして時間が解決する、ということもあるだろう。
――まあ、ここがしんどいところ、かもな。
「全部忘れちゃうのも、違う。けど、思い出、ってものにもしたくない……どうしたらいいんだろうね? 私」
……めんどくさい。が、さらに俺はめんどくさいことを言い出す。
「それの答えは、俺には言えない……けど瑞希……多分ヒントくらいは出してもいい気がするから……」
うわー、言ってる自分がめんどくさい――だが、俺は、
「おそらくだけど……茅場晶彦が創りたかったもの、何となく分かる気がするんだ……」
瑞希は身体を起こして首を傾げた。
――それは当然だ。俺も何故ここでそんな話をするのか……全然理解不能だもの。
「変化と永続。邪魔なものを排除した世界……」
きょとん……だった。そして笑う。
「全然わかんない……でも、それでいい」
俺は瑞希の美しい黒髪を撫でると、ゆっくりと立ち上がる。
「じゃあ、帰るから……ごゆっくり」
そう言って瑞希に背を向けようと――
「シュウ、……元カレの話って聞きたいひと?」
……まじで、やめてくれ。絶対掘り起こしちゃうだろ。
俺は首だけをちょっと捻って、
「いや、いいっす……俺の性格、分かってて聞いてるでしょ? 瑞希」
ふふっと笑う。
「うん……明後日帰るから」
ひゅーんと飛んで南西の宿屋街。
適当な場所でログアウトしようと、あんまり高級そうではない二階建のホテルの入り口に足を踏み入れようとした瞬間――脚で止められる。
「生き残っていても――またこっちに来るとは思わなかった」
懐かしい声。俺はその美脚の持ち主に視線を合わせず、
「生きているなら、絶対来ると思っていたよ……」
「……だから、あいつらは来てないらしい……まあ、フロッガーもあっちで忙しいみたいだから正確なことは言えないらしいけど……」
俺の見解を聞き終えた彼女はティーカップを置いて、
「でも 《GGO》 の事件は完全にやられたって感じ……こっちでも可能性あると思う?」
……めんどくさいな。俺には分からないよ。
「まあ、無いこともないだろうけれど……俺たちで防ぐのはかなり無理があるだろうね……」
俺はコップを置いて頬杖をついた。それに合わせるように……顔、近いよ。
「だろうね……しかし、本当に結婚しちゃうとはねえ。可哀想、ナナミちゃん」
……おい、ひどいだろ。それ。
「吊橋効果――しかもシュウは口だけは上手いからなあ」
――はい、すいません。そうかもしれませんね。
「あ、でも試合見たよ。思ったより上手だった。あれって別人?」
くすくす笑う。ひどい女子だ。相変わらず。
俺は苦笑いを浮かべながら、
「ああ、あれはきっと別人だよ……」
そんな卑屈な発言にさらに笑う。
「ごめんごめん。でも面白い試みだね。あれにシュウもかなり関わっていたんでしょ? すっかり偉くなって――」
ふいに疑問が沸く。
「お前は何やってんの?」
きょとん……だった。
「学生――」
……それはそうだ。どう見たって未成年だもの。
「まあ、そうだよな……あの学校?」
窓の方に視線を向けると、
「いいえ……別の学校だよ」
余計な質問……これこそまさに無意味な好奇心、と反省。
「ただいま……」
アミュスフィアを外す。
電話が光っている――瑞希だった。
【ありがとう】
どうやら俺の選択は瑞希にとって、それほどひどいものではなかったらしい。
「シャワー、だな……」
ベッドに電話をそっと置いた。
鳴り続ける振動音――それに無理矢理起こされた。
ぱかっとして耳に当て、
「……はい、寝てますけろ……誰っすか?」
「私」
うん、間違い電話だろう、きっと。
「……おかけになった電話番号は、」
「いいから、着替えて表に出ろ。すぐ近くに来てるから――」
……こわっ、なんですか、それ。
俺は全く聞き覚えの無い気がする声の主に問う。
「……誰?」
「名前、聞いても分かんないから――すぐに出てこい」
めんどくさいな……どうしようか……でも、面白いか。
「了解っす。今から出まーす……」
ぶちっと切られる……なんか怒ってるっぽいなあ。
俺は無理矢理身体を動かして、クローゼットから適当な服を取り出し着替えると、玄関に落ちていたダウンを羽織って外に出た。
……寒い。
とりあえず、電話を掛けてみる――速攻で出た。
「あのー、どこ行ったらいいっすか?」
「公園」
また、ぶちっと。ひどい。
まだ朝方の薄暗い路地をとぼとぼ歩いて公園を目指した。
街頭が照らす角を曲がった瞬間、公園の入り口に人影――こいつ、誰?
俺はそこにゆっくりと近づく。
「遅いよ」
……そう言われても困るんですけど。でも、分かったよ。
俺を早朝の公園に呼び出した 《困り者》 は、深く被ったフードを脱ぐと、
「約束、守ってもらいに来た――」
とのこと。
……まじか。しまったな。
「……えっ、何のことか、」
がつんと公園の車止めに足を乗せる。
――こらこら、やめなさい。怒られるよ。
俺はがっくりと肩を落とした。これからきっとめんどくさいことになるのだから。
「分かったよ……でも、こんなに早く来ることないだろ……ミト」
(終わり)