ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ 作:たかてつ
新生アインクラッド編Ⅱです。
二〇二五年十二月のお話。
瑞希は予定通りに、帰ってきた。
世の中はクリスマスイブということもあって、どこもかしこも幸せに満ち溢れているようだ。
間違ってもこの瞬間、必死で 《バケモノ熊》 を狩りまくっている奴なんていないはず。
とはいえ、若者達はマイホーム購入の為、必死になって戦っているらしい。
【参加しませんかー!】 とのことだったので、 【しない】 とだけ伝えた。
「うん。おうちが一番」
荷物を降ろすと笑顔で言う。
――まあ、そうだろうね。
瑞希が帰ってきたことが、とにかく俺は嬉しかった。
それが最高のプレゼント――心の底からそう思った。
だが、瑞希が求めたプレゼント、それは俺の想像を遥かに超えたものだった。
いつもより少し豪華な夕食を終えると、唐突に彼女は切り出す――
「秀……昔の話、しない?」
自分で入れたお茶をすすりながら首を傾げる。
「さすがにもう、聞いておこうと思って」
……意味が分からない。
逆に傾げた。それを見るなり、瑞希は溜息をひとつ。それから顔を上げて、
「シュウ――ミトさんって、彼女だったの?」
俺は、傾いたまま、硬直した。
瑞希は定義や境界線の話などは聞いていない。
ただ、事実を問われている――そう判断した。
「付き合ってはいない……が、何度かそういうこともあった…………」
素直すぎるほど、分かりやすく事実を伝えた。
もう、ここで嘘をつくのは愚策だろう。おそらく知ったうえで、覚悟のうえで聞いてきたのだから。
瑞希は特に表情を変えることもなく、小さな溜息をひとつ。
「ふーん……で、まだ続いてるわけ?」
「続いてない」
「そう。じゃあ、何で昨日こっちで会ったの?」
……なるほど。おおよそ分かった。まあ、あいつらしいな。
俺はもう、瑞希に全て話すことにした――というより、ずっと俺は話したかったのだろう。
そして、瑞希も俺の口から直接それを聞きたい、事実を確かめたいのだ。
「向こうでの約束……それだけだよ……」
「約束?」
――変わったな、瑞希。
目から光が消えない。それが瑞希にとって、どれだけ……
――ミトはあの世界において、最も信頼できる人物だった。
彼女の対人戦闘技術は素晴らしかった。
それなのに何故、彼女は 《攻略集団》 を避けるのか――それが不思議でしょうがなかった俺は、二十六層攻略直後、何気なく彼女に尋ねた。
その資格がないから――それを聞いた瞬間、最悪な好奇心を止められなかった俺は、さらにその理由を尋ねてしまった。
彼女が語った 《過去の過ち》 を聞いた俺は、それを何とか解決しようと……
「……だから、言ったんだよ。アスナを一緒に守ろうって……その後は、お互い精神的に厳しかったし……依存し合ってただけ、かもしれない……」
瑞希は無言……まあ、そうだろう。
「とはいえ、あの少年がいるわけだから……俺にもあいつにも出来ることなんて、それほど無いわけでさ……」
ふいに立ち上がると、キッチンに行ってお湯を急須に注ぎながら、
「そうだったんだ。まあ、秀らしいね」
テーブルに戻ると俺の茶碗と自分の茶碗に注ぐ。
「で、私に会う前まで、そういう関係だった、ということですか……」
「……………」
知ったうえでの話なので、とりあえず、黙っておこう。
「じゃあ、何で昨日、来たの?」
茶碗を両手で握り締める瑞希。
――それだよね。一番聞きたいこと。
「今後、どうするか……その話だよ。学校が始まる前に終わらせるつもりだったらしい」
「どうするの? 秀」
俺は溜息をひとつ――そして、
「当然、無理……ミトとアスナには悪いけどね……あいつもそれは分かってたよ」
じっと俺の目を見つめる……もう、しょうがない。
「瑞希、それにもうひとり……それが現在の俺が護るべきひと、だから……」
ぱっと目を見開いた――よほど驚いたのだろう。
瑞希はがっくりと肩を落とすと、吐息をひとつ、そして微笑みながら、
「どうして、分かっちゃうのかな……プレゼントだったのに」
瞼を開けると、無表情で俺の顔をじーっと見つめている瑞希。
――こわいっす。まあ、いいけど。
ちらっと輝いた小指を見せると、
「おはよ。これ、ありがと」
そのまま俺の上に倒れこむ。若干潰れた俺は、
「おはよう……どういたしまして……」
そのままぎゅっと抱きしめた。
俺の耳元でそっと囁く――
「ねえ、なんで瑞希なの?」
……めんどくさい。ということで、
「……好きになったから……ふっ、あはは……」
じたばたしながら、ぐんぐんと頭を押し付けてくる。
「もう……懐かしいけど、それ、駄目でしょ」
すっと身体を起こしたタイミング――
「愛してる」 「愛してる」
しばし、静寂……の後、ふたり同時に笑った。
(終わり)