ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ    作:たかてつ

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SAOです。
新生アインクラッド編Ⅱです。
二〇二五年十二月のお話。



046 ふたりだけ

二〇二五年、最後の日。

 

 

「おはよ。大丈夫? 頭、痛い?」

ほんのりと険しさを感じさせる優しい表情を、くんっと抱き寄せると、俺は眼前の柔らかな唇を押さえ込む。

――何だろう、この気持ち? これが幸せなのか? 分からんけど、それがいい。

「ん――――っん、お酒臭いよ、ちょっと、」

半笑いで面白い動き――脱出しようと頑張ってじたばたするので、俺はさらに強く抱き締めた、が、ぽんと頭突きを喰らう。

「ふふっ。心配して、損した」

「ありがとう……大丈夫だよ……」

 

 

パンを焼く瑞希をぼんやり眺めつつ、腕を伸ばしてパソコンを起動させる。

珈琲カップを片手に、くりくりしていると、

「あっ! ……へええ…………あっ、……ああ…………」

変な声を聞きつけた瑞希は、 「何?」 と首を傾げた。

「いや……知ってるひと、ふたり、載ってるから……」

ぱたぱた走る瑞希は俺の肩に両手を置くと、 「見せて」 とせがむ。

俺は無言で……くりくりした。

「……あっ! キリト君……ふーん……は、? ……見なきゃよかった――」

すっとキッチンに向かう。

俺は苦笑いで、そのぷんぷんして、若干うなだれた背中に、

「まあ、広告は大事……でも、な……」

瑞希を慰めながら、サッカー情報サイトをクリックした。

 

 

昨夜は瑞希の父をこちらに誘い、三人でささやかな忘年会を開いた。

終始穏やかに、楽しく、ほどほどに酒を飲み交わしたわけだが……やはり酒豪。

実家土産の日本酒は、あっさり空になった。

そうなることが分かりきっていた俺達は、大晦日の本日、何も決めていない。

予定を立てずに思いつきで――その時の気分にまかせることにしていた。

 

 

瑞希が入れてくれた、二日酔いに効果覿面らしい変な風味のお茶をすすりながら、

「昼はカフェに行くとして……どこか行きたい? ひと、いっぱいは……俺はあんまり……」

「うん、お昼はカフェがいい……あっちってどこまで行けるの?」

「ああ、確か二十五、六層くらい……そうコムが言ってた気がする。でも、二十五層か……あの辺は、あんまりなあ……」

「あれ? 秀は思い出、いっぱいあるんじゃないの? ふふっ……」

……めんどくさい。余計なことを言ったなあ、これは失敗。

「えっと、俺はシャワーしますので、」

「駄目だよ、私もー」

頬杖をついて、にこにこの瑞希は……俺を逃がしてくれなかった。

 

 

ちょっと遅めの昼食――瑞希はくるくるしながら、

「でも、明日行くから、今日は行かなくてもいいかな……おうちにいたい、かも」

俺も今年最後のくるくるをしながら、

「ああ……それでもいいよ。最近は忙しかったから……」

 

 

カフェを出たとたん、瑞希は明らかに今思いついた風に、

「あっ! 秀、にゃあが欲しい――」

くるりと振り返り、俺の顔をみるなり、

「……うん、ばれてるね」

俺は無言で頷いた。

 

 

「これがそっくり、かも!」

初めての雑貨屋――とはいえ、瑞希は下見を済ませていたのだろう。

灰色と白の小さな猫のぬいぐるみを手にとって、ぐいっと俺の顔面に近づける。

「……じゃあ、これ、連れて帰りましょうか」

「うん。ありがと」

すたすたとレジに向かった。

 

 

「そういえば、秀? あの時、 《拾ってきた所に返してこい》 って言ったよね……あれ、ほんとにむかついた」

紙袋を抱きしめ、かわいいふくれっ面を見せる瑞希。

「ああ、そういえば、そんなことも言ったな……ふふっ、ほんとにひどいな、俺 ……ふふ、あはは」

直後、膝でお尻をキック――全然痛くないけれど。

「ほんとだよ。何てことを言うんだ、こいつ、って。それで頭にきて斬りつけたら、あれだし……もう最悪って」

「まあ……ごめん、だけど……面白かったっす……ふっふふ、」

ぐんぐんと肘打ち――痛くないけど、正確に急所に入る。それが怖い。

「でも、あれにはちゃんと理由があって……確か、コムが 《オレは動物に好かれるから》 とか言ってさ、モンスターをペットにしようとかなんとか……それで 《聖龍連合》 連れて帰ってきちゃうから、俺、笑っちゃって……本当に馬鹿なことばかりしてたな、俺達……」

じっとりと睨む瑞希。

「それって、私がモンスター、ってことだよね?」

「まあ、猫とか犬とか……引っ掻かれたり、噛まれたりすることもあるじゃないですか。でも、大人しくしてるなら、それだけで可愛いし、それならいいかって、思ったり。ふっ、あはは、」

ぱしんと、ちょっと強めに叩かれる。面白い。

「もう、ほんと秀、嫌い」

 

 

来客用の椅子にスポーツタオルを敷いて、にゃあの居場所を新設すると、俺たちはかなり適当 (瑞希はしっかりと) に部屋を大掃除――それを終えると、母から貰った謎のお茶の楽しんだ。

「なんだろう? やっぱり、地方によって好みがあるのかな? あんまり飲んだことない、この風味……」

「うーん……俺は何でもいいけれど。瑞希が選んだやつなら……」

うんうんと頷く。それから、

「そういえば、さっきの話。あれって、コム君は秀に女の子に興味を持ってもらおうって考えがあった、とか、言っていた気がする」

……はい?

「なんか、リーテンさんと不倫はマズイだろう、って。当然勘違いなんだけど……優しいよね、コム君」

――うん、優しいかもしれないが、伝わるわけがない。

「ああ、だからか……ロリコン。でも、それってリッちゃんが可哀想だな。あの人、幼く見えるだけだよ。正しいけれど、根っからの変人……そう思うけどね、俺は……」

ふいに振動する俺の電話――

瑞希が手に取り、無表情で俺に渡す。

ぱかっと……嘘、でしょ?

「うわあ、まじか…………瑞希さん、また応援してくれますか?」

俺は右腕をいっぱいに伸ばして、電話の画面を瑞希に見せる。

【GEOキックオフゲーム2026、出場決定! スケジュール、入れとくぞ】

きらっきらした目で……うなだれた俺を慰めた。

 

 

ふたりでベットに横になりながら、よくわからない映画を見ていたのだが、いつの間にか俺は眠ってしまったようだった。

「あ、おはよ。今夜はお刺身だから、特にやること無いよ」

あわてて起こした身体を、またベッドに倒す。

「だからって、寝てもいいって、言ってないけど」

ベッドサイドの椅子から立ち上がり、そのまま俺の隣に倒れ込む瑞希。

「……そう言って、あなたも寝てるじゃないすか……まあ、それがいいんだけど」

その細く柔らかい身体を抱きしめる。

「怖い夢でも、見たの?」

俺の頭頂部に温かい掌が……滑るように行ったり、来たり。

「懐かしい……怪我する前の、まあ、もうよく分からなくなって……」

ふわふわした感じで説明する俺に、ふふっと笑う瑞希。

「やっぱり……凄いプレッシャーなんだね。でも、いつでも隣にいるから。大丈夫……大丈夫……」

 

 

瑞希の入れてくれた今年最後のお茶をすすっていると、

「秀ってこういう時、夜更かしするひと、だった?」

首を傾げながら、それを問う。

「うーん……あんまり。朝練したかったし……どうだったかな? 興味無かったからなあ……」

瑞希は笑いながら、

「秀らしいね。私も実家の頃は道場開きがあって、こっちでは……朝から大宴会の片付け作業。今年は参加者のみなさんがやってくれるみたいだけど」

――それは大変だったろうに。可哀想に。

「……普通に風呂入って寝てもいいかも。明日、大変だし……さ」

「そうだね……ほんと嫌。めんどくさい」

 

 

髪を乾かし終えると、俺の隣にころんと転がりこんだ。

「ねえ? なんか……こういう普通がいいよね? 毎年……ずっと続けばいいなって、思う」

俺は美しい黒髪を撫でながら、

「そうだね……もう病院とか、明け方まで、へんてこな生き物やっつけるとか……こりごりですよ」

ふふっと笑う瑞希。

「それは秀とコム君だけでしょ、あっちでもみんな、普通にパーティーとか楽しんでたよ?」

……でしょうねえ。そうらしいですもんねえ、皆様は。

「もう、それはないだろうから……懐かしいけれど、まじで嫌だな……本当に、瑞希がいれば、それでいいよ……」

……眠気は危険だ。素直になりすぎる。

きょとん、と俺の顔を見つめる。

「変わったね、秀。でも、……私も、ほんとは……ずっと、こうしたかった……秀に、こうしてほしかった……ありがとう、秀……」

胸に顔を埋めると、静かに泣き出す――ああ、スウェットが、ぐちゃぐちゃに。

それもかまわず、黙って俺は瑞希を抱きしめた。

 

 

(終わり)

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