ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ    作:たかてつ

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SAOです。
新生アインクラッド編Ⅱです。
二〇二六年一月のお話。



047 絶剣前夜

ひとだかり――この広大な中央広場に出現した、眼前のめんどくさすぎる数の人の群れに加わる気など、全くもって皆無な俺は、死人のような表情で正座する瑞希を遠くから見守ること以外、出来ることなど何ひとつ無いだろう。

というか、こんなものに絶対、死んでも絡みたくない。めんどくさい。

 

 

二〇二六年、元旦。

ついに 《七瀬剣心流》 は仮想の世界に本格進出――この思い出深い 《はじまりの街》 に立派な道場を構えてしまった。

 

 

なにせ、がちの剣術道場だ……いくら剣と魔法の世界とはいえ、本格的な居合を学ぶことが簡単に、しかもリアルでどこに住んでいようとも本物の稽古に参加することが容易なわけだから……これだけ注目されるというのも理解できる。

 

 

さらに 【OSS】 である――よく知らないが、自らソードスキルを作成出来るようになったらしいALOにおいて、瑞希の父は、とてつもなく難しいらしいそれを……あっさりと幾つも生み出してしまった。

――当然である。何故なら、がち、だもの。ギネス持ち、だもの。

とにかく、カタナスキルの 【OSS】 はもちろん、七瀬の流派の作法、型、立会い……それを身に着けることが出来れば、おそらくこのゲームがますます楽しくなるのであろう……知らないけど。俺はやる気、全く無いけれど。

 

 

「凄い人気だな。お前のお父さん――」

ふいに背中からお友達の声が聞こえた。

「……まあ、あっちでも人気者だしね。それに、あれ以降も内緒で、ちょこちょこ頑張っていたみたいだから……ずっとお母様がご立腹で、俺たちは大変なんだけど……」

背後に立つ黒ずくめの少年は小さく笑う。それから、

「それは、大変だな……リズが出来たって。後で取りこいってさ」

それを伝えると、少年の気配はふっと消えた。

「了解……瑞希、頑張って……」

ゆっくり背を向けると、俺は感嘆の声が上がる円舞会場の人の輪を抜け出した。

 

 

「おかえり。お疲れ様……」

瞼を開ける瑞希の目の前で 《にゃあ》 を動かす。

そっとアミュスフィアを外すと、ぬいぐるみにキスをさせた。

「ただいま。疲れた」

ぽんぽんと隣を叩くので、俺は 《にゃあ》 を瑞希に渡して、ごろんと横になる。

「マスコットになった気分……こっちでも、そんな感じだけど」

がしっと俺にしがみついて、ぐいぐいして、じたばたする――かわいい俺の妻。

「まあ……しょうがないけど……しんどいよね……」

その美しい黒髪をそっと撫でる。

「うん。でも、これであっちは終わりだから、もういい」

ぐいっと身体を起こすと、 「シャワー、する」 俺の上を乗り越えてすたっと立ち上がった。

「いってらっしゃい……」

次の瞬間、ぐいっと右腕を引っ張られた。

 

 

慌しかった三箇日も終わり――協会の細々した仕事を終えて、お茶でも飲もうと椅子から立ちあがる。

ふるふる震える電話――

【ちょっとアインクラッド来てー!】

時計に視線を向けた……まだまだ瑞希は帰ってこない。

俺は電話を置くと、冷蔵庫からペットボトルを取り出した。

 

 

「もう、あの剣、使ってみたー?」

相変わらず、ぴょこぴょこさせながら、俺の前を飛ぶ化け猫。

「いや、元旦以来、忙しくて全然こっち来てなかったから……」

どうしても沸いてしまう笑いを、何とか堪えながら答える。

「あれねー、サッキンがドロップしちゃったんだけど、使わないからシュウにあげようってなってさー。俺もあんまり趣味じゃなかったしー」

……確かに。コムロンはどちらかといえば 《キリトくん派》 だからなあ。

「へえー……そうだったのか。とりあえずリズに強化してもらったけど……まあ、いい感じ、じゃないかな?」

「せっかくだからー、今日試してみたらいいよ……………あっ! あれじゃないかなー?」

 

 

――ああ、なるほど。これは、絶対に無理だ。

「うわあっ、……こうさーん! ごめんなさい。負けましたー!」

化け猫はほんわかした声と共に両手を高く上げた。

相手はすっと細い直剣を下げると、にこっと笑う。

面白いアレは、見事にしなっとしおれて、首を傾げながらてくてくとこちらに戻ってくるコムロン。

「すっごい強いよー……次元が違いすぎるよー……」

がっくりと肩を落としたコムロンの頭をぽんっと叩いて、

「お疲れ。まあ、しょうがないよ……で、俺もやらなきゃ駄目なの……あんなのと?」

「うん! だって、シュウが勝ったら 【OSS】 オレにくれるでしょ?」

「いや……無理だな。一応頑張るけどさ……」

背中をぽんっと叩かれ、俺はそれに向かって嫌々歩き出す。

 

 

「……じゃあ、地上戦ね。よろしく!」

にこにこしながら、戦闘狂の 《ちびっ娘》 は剣を構える。

……ほんと、何で少女に剣を向けなきゃいけないんだ? 俺、大人なんだけど。

苦笑いしながら頭を下げて、強化したばかりの 《ムーン・ライトソード》 を抜いた。

 

 

【DUEL】 の閃光が消え去っても動かない。

――隙がないなあ。とりあえずで、いってみるか。

俺は突進して下段から振り上げる、が、予定通りあっさり捌かれ、驚異的高速の突き。

かろうじて捻りで交わすと、また薙ぎ払い気味に剣先が迫る。

……うわあ、めんどくせー。速いし正確だし。

肩口まで柄を上げ剣身を盾にした。瞬間、彼女は肘を引いて高速の突き――剣尖が胸に触れ、俺の斜め後方に跳びながら放った 《バーチカル》 は彼女の小手をかすめた。

「いやー、お兄さん、速いねー! 今までで、一番早いかも!」

……絶対、嘘。全然本気じゃねえだろ、あんた。

愛剣 《ヴェノムファング》 で勝負をつけたい気もするが、そういうことではないだろう。 

「なんか、すいません……いや、ありがとう。では、いきますよ……でも、しんどいなあ……」

俺の全くやる気を感じさせない発言に苦笑いを浮かべると、すっと眼に光が宿る。

――瑞希の強化版、そんな感じか。

瞬間、跳ねるように迫った。

――やはり、待ちか。

俺はソードスキルが発動しないように 《バーチカル・スクエア》 を放つ――が、あっさり。

四撃目が終わると、狙い通りの如く、驚異的な速度で振り下ろされる剣先。

後方に跳ぶ。地を蹴り追撃。

「――はいっ」

彼女の突きの直撃を受けるとほぼ同時に、最高速で振りぬいた俺の剣尖は髪を飛ばし、首をかすめた。

――次がヤバイんだろ?

反転と共に閃光。俺はそれに向かってさらに加速。

眩い光と激しい硬音。

真剣な面持ちで彼女が振るった剣が俺の胴を斬り、俺の剣先は肩を貫く。

「よいしょ、――」

マヌケな掛け声と共に全力で後ろに跳んだ。

迫り来る連撃を適当に受けながら、全力で後方に跳んで、かなりの距離をとった。

「はい! 降参。もういいっす……」

めんどくさいので、俺は剣先を下げて左手を上げた。

「えー!! ずるいよー、お兄さん。せっかく面白くなってきたのにー!」

唇をとがらせて、明らかに不満そうな 《ちびっ娘》 に、俺はにやにやしながら、

「ごめん、ごめん。おじさん、忙しいから。帰ってお風呂掃除しないとさ、こわーい奥さんに叱られちゃうから……」

その適当すぎる言い訳に、彼女はくすっと笑うと、

「そっかー。それじゃあ、しょうがないか……また暇な時に遊びにきてね!」

 

 

「やっぱり、シュウでも無理かー……凄いなー、あの娘」

俺の前をひょこひょこ、ぷるんぷるんさせながら歩くコムロン。まじで、アバター変えて欲しい。

「ああ、あれは普通にやったら絶対に無理だよ……バケモノだな」

「そうだよねー、さすがゼッケンさん、だよなー」

……意味が分からない。

「あの娘……ゼッケンっていう名前じゃなかっただろ? なんだよ、ゼッケンって……あだ名か、それ?」

コムロンはくるりとこちらを振り向く――すっと人差し指を上に向けて、

「ほら、ずっと勝ちっぱなしだから。今、絶好調の剣士でしょー。だから絶剣! カッコいいでしょ?」

……言葉を失う。

とにかく、こいつのセンスを何とかしてくれ。サッキン……

 

 

(終わり)

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