ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ 作:たかてつ
新生アインクラッド編Ⅱです。
二〇二六年一月のお話。
懐かしくもウンザリな迷宮区を、懸命にひた走る――
「ああ、いたいた……みんな、暇なんだなあ……学生って、まだ冬休みなのか?」
「でも、おじさんもいるよー。ニートさんなのかなー?」
お互い、これから戦場へ、死地へ赴く気負いは……全く無かった。
遠くから様子を伺う俺達――
「あっ! 飛び出しちゃったよ、少年…………ああ、何かカッコつけてるぞ。多分あれは……」
「クラインさんも後ろから斬る気まんまんだねー。なんか武士道っぽくないなー」
「ああ……むかつかれて……おいおい、それ斬ったら……ああ、あれじゃあ、かえって怒らせちゃうだろ……それが狙いなのか?」
「あちゃー……珍しい剣だからって、見せびらかしちゃ駄目だよねー。みんな、羨ましくてぷんぷんしちゃうよー」
「まあ……俺もちょっと……最近、そういうことしちゃう気持ちも理解出来るようになったけど……」
「あれ? シュウもみっちゃんの前でいいところ見せたいとか思うようになったの?」
「うーん……やっぱりさ、浮気とかされたくないしさ……夫が魅力的であり続けるって大事、なんて言われたりもするわけで……人生の先輩方にさ……」
「なるほどねー。変わったね、シュウ。昔はだらしないところばっかりさー、みっちゃんに見せ続けるから……オレはひやひやしたんだよー?」
「まあなあ……結婚って凄いよな……あれは、人間、変えちゃうよ……」
「そうなんだ……不安になっちゃうなー、オレ」
「大丈夫だろ? 沙希はしっかり者だから……コムは尻に敷かれて生きていけばいいんだよ……多分」
「でもさー、亭主関白的なものにもちょっと憧れちゃうところもあるんだよねー……時代遅れなのは分かってるけどさー」
「やめときなさい……女の子には黙って優しくしといたほうが、絶対得だから……」
「シュウ、全く説得力無いよ……それ」
「ああ、そうだな……ごめん」
魔法やら弓矢やら、なにやらかにやら飛び交う最前線。
「じゃあ、俺は前のほうに突っ込むから、コムはクラインさんをよろしく……」
「りょうかーい! 頑張ってねー!」
ボス部屋の大扉にアスナが飛び込んだのを確認すると同時に、コムロンの背中を……くすくす笑いながら追いかけた。
きらきらした鎧を纏う騎士風のプレイヤーにコムロンが斬りかかる瞬間、一気に加速して壁に跳ぶ。
そのまま、すたたたっと壁を走るとすぐに先頭集団が見えた。
――悪いな、コム。
フルジャンプ。そして、剣を抜いてを構える。
轟音をともなう血色の閃光――久々の加速感。ちょっと快感。
一瞬で眼前に黒ずくめの少年。俺は叫んだ――
「おりゃあああ、積年の恨みいいい!」
「ええっ!? おいっ――」
驚愕の表情、目を見開くキリト。
それでも、さすが最強の二刀流――不意打ちにもかかわらず、瞬時に後方に退いた。
立派で偉そうな剣を俺に向けて突きつけると、
「何のつもりだよ、シュウ」
にこっと笑い、立ち上がって剣を構えた俺は、
「風説の流布、その犯人を成敗してやろうと思ってね……」
ひとときの静寂。周囲のプレイヤーも驚きすぎて固まっている。
キリトは俺の言葉に怪訝な表情を浮かべていたが、小さな溜息をひとつ吐くと、一気に引き締まった。
「なるほど。だけど、あれはお前がシノンにあることないこと、適当な事ばかり言うから……その報復だ」
……あれ? そうだったかな……全く記憶が無いんだけど。
「いや……事実だ。おまえがハッキリしないから、前のアインクラッドで俺、すげえ怒られたんだぞ……アスナとか、コムとか、ナナミとか……特にアスナに」
――うん、言ってて全然関係ない気がする。ごめんね、キリトくん。
「はあ? それは関係ないだろ……シュウ、お前、さては覚えてないな?」
……察しがいいなあ。もう今さら後には引けないし、どうでもいいけど。
「まあ、いいよ……たまには剣で遊ぼう、キリトくん……」
にやっと笑うと、キリトも不適な笑みを浮かべる。
「ああ、そうだな。お前とデュエルか。面白いかもな――」
その声の残響が消えると同時に、ふたりとも地を蹴る――刹那、弾けるような硬質の剣戟音。
だが、 「あっ」 キリトは視線を俺から逸らす。
「えっ?」
そちらに顔を向けた瞬間、とてつもない衝撃が俺たちを襲った……ようだ。
吹き飛ばされて……うわあ、矢が嵐のように……燃えちゃうし、めった斬りっすか……おお、これはすごい……あ、無理だ。死んだな、俺……
「ねえ、キリトくん……俺って、まだ嫌われてるのかな……?」
「まあ、な……ほら、お前がナナミの夫っていう情報、もう漏れてるから……」
「えー、そうなの? ……嫉妬とか妬みってことですか……」
「もうファン的な……ああ、見ないほうがいい。気になっても、調べないほうがいいぞ……」
「そうだね……まあ、キリトくんの奥様ほどではないだろうけれど……ネットって、こわいね」
「…………」
「……あー、楽しかった……のかな?」
そっとアミュスフィアを外す。
枕元の光る電話をぱかっと……
【何やってんだよー(怒)】
……そうですよね。ごめんなさい。
電話をベッドにぽんと放り投げて、俺はシャワーに向かった。
「ふふっ、あはは。何やってるの、秀、ふふっ」
くるくるしながら声を上げて笑う瑞希。
「……すいません。何か面白くなっちゃってさ……まあ、面白かったよ」
俺は窓の外に視線を逃がしながら、くるくるくるくると……
「でも、それはちょっと見たかったな。キリト君とデュエルしてるとこ、見たことないし」
フォークを置いて頬杖をつくと、にやにやにやにや……
「前はそんなことして遊ぶ意味が無かったから……まあ、今だから、そんなことも楽しめるってことですよ……」
俺もフォークを置いて瑞希に右手を差し出す。
そっと俺の掌に重ねると、
「そうだね……今だから、だね」
にこっと笑う。
「いい時代になりましたなあ……」
適当に答えてみる。
すっと掌を離すと、 「おじさんみたい」 と苦笑いして、フォークを手にする瑞希。
俺は溜息をひとつ。
「まあ……おじさんに向かっているのかもねえ……」
【アスナさんちでバーベキューするよー!】
そんな魅力的なお誘いを 【めんどくさいから嫌】 と丁重にお断りして、電話をデスクに置くと、ごろんと俺は横になった。
髪を乾かし終えた瑞希は、軽やかにベッドへ滑り込む。
「せっかく時間、空いてるのに行かないの?」
俺の頬を人差し指で突付きながら、悪戯な笑顔を浮かべた。
「ああ、何かね……うん、まあ、めんどくさいなあ、と……」
すっと瑞希の右手を捕まえると、そっと唇を合わせた。
しばらくして、瑞希の目を見つめながら俺は、
「いや、あの人達さあ……前の俺たち、みたいな……ちょっと違うけど、何か……変なんだよねえ……分からないけど」
首を傾げ、枕がへこむ。
「どういう意味か分かんないけど……何かある人達なの?」
俺はくるっと仰向けになって、天井を見つめながら、
「うーん……分からないけどゲームが、ただ好きって感じ、ではない……何か妙に真剣というか……考えすぎかもしれないけど」
瑞希も仰向けになると、俺の右手を握る。
「秀のそういうの……当たっちゃうから、ちょっと不安」
静寂――ふいに、
「秀は、何かしたいって、思ってるの?」
「いや、全く……というか、無理な気がする……むしろ、ほっとくしかない、気がする」
ふふっと笑う瑞希。
「何か中途半端。珍しいね」
……そうかな? いつも曖昧な気がするけど。
「ああ、ごめん……久々にあっちに行ったからかも。余計なことまで考えてしまっているのかも、ね……」
(終わり)