ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ    作:たかてつ

49 / 50
SAOです。
新生アインクラッド編Ⅱです。
二〇二六年春~夏のお話。


049 父母になる

「……辛いのは、これから、か」

珈琲カップをテーブルに置くと、背もたれに体重を預けた。

「そういうこと――だから、心配はないけれど、辛い思いをすることになる、ね……」

組んだ両手に顎を乗せたまま俯いた。

 

 

喫茶店を出ると、 「ありがとう」 珍しいお礼の言葉――

「いえ、どういたしまして……」

俺は、細い背中にそんな言葉を掛けた。

 

 

二月――予定通り、瑞希の母が上京。

俺たちはとりあえず、何も言わずに状況を見守ることにした。

瑞希も道場に出勤する回数を減らし、母親勉強会みたいなセミナーに通うことになったので、毎日楽しそうだ。

俺は相変わらず協会の仕事をこなしつつ、GEOのトレーニングと平行してイチから身体を作り直す日々。

 

 

そして、三月。ついにその日を迎える。

「それじゃ、行ってきます……」

「頑張って」

《GEOキックオフゲーム2026》 俺は、後半三十分から出場し、前年の雪辱を果たした。

「ただいま……疲れたっす」

「おかえり。格好良かった」

 

 

四月になり、春を迎えると激務に追われる日々。

協会絡みのVR関係の仕事が倍増する。

俺は肉体的・精神的にへとへとになりつつも、瑞希と生まれてくる子供によって、人生が豊かになるのを少しずつ感じられるようになっていた。

お父さんの為の勉強会――これが、思いのほか、楽しい。

 

 

五月。

父親、母親になる実感がどんどん増していく。

「そろそろ名前、決めないとね」

「ああ、どちらでもいいような名前……とか、卑怯かな?」

「それでも、いいかも」

 

 

六月――

何もかもが順調で、そして毎日が忙しく、俺たちは幸せを謳歌していた。

俺、そして瑞希――互いに嬉しそうな顔を見る度、ようやく手に入れた普通の日常を確認し合う日々。

他愛もない会話で笑い、どうしようもないことで怒り、しかたがない出来事で悲しむ。

それが、ふたりの願いであって、心の底から欲したもの……だったようだ。

 

 

もう、ふたりとも、あの頃の事を懐かしく思い返すこともなくなった。

それが、心地良くもあり、切なくもあった。

 

 

そんなある日……

「……秀、何かずっと震えてるよ」

俺は、ゆっくりと瞼を開けた。

眼前に光る電話――ゆらゆらと揺れている。

「ぽいって、して……」

瑞希をぎゅっと引き寄せた。

「わっ、ちょっと。ふふっ」

細く柔らかい身体、そのぬくもりが伝わると同時に、穏やかな睡魔に襲われる。

「でも、さっきからずっとだから」

瑞希はぽんぽんと俺の頭を優しく叩いた。

「ほら、起きて。めんどくさいけど」

「ふあぁ……めんどくさい……まだ、寝てますよって、ことにしようよ……」

 

 

(終わり)




次回、最終話。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。