ソードアート・オンライン アナザーゲート・プログレッシブ    作:たかてつ

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SAOです。
アインクラッド編です。
二〇二四年八月のお話。


009 真夏の夢物語

この世界に来て、おおよそ一年半が過ぎた。

約七千人――今もそれだけの人間がこの世界で暮らしているらしい。

その中の何十人ものプレイヤーが通り過ぎていった。

いつもの珈琲も、すっかり飽きてしまった。

それにしても、待ち人は遅い――嫌な方の予想が当たってしまった。

だから、俺は言ったのに。

 

 

この一時間、 《トゲトゲ》 の代表と、 《ナイトさん》 の代表は、ずっと楽しそうに揉めている。きっと仲が良いのだろう。

――元気だな。羨ましい。

しかし、それを 《最強おじさん》 の代表は、腕を組んだまま何も言わず見守っている。何とも大人の組織らしい振る舞いだ。

――出来ればあの鬼も黙らせてもらいたい。

「……おいっ、そこのチンピラ、オマエらはどうするんだ! 今回の作戦、参加するのか?」

……俺っ? チンピラ?

「オマエっ、話聞いてなかったのか? ぼーっとしやがって……」

この場には四名しかいないので、どうやら俺らしい。とりあえず指名されたので、

「えー、チンピラとしては、今回の作戦、めんどくさいので参加しません」

場の空気が凍りついた。やはり俺の笑顔は他人を不快にさせる効果があるらしい。

その後は、なんかめっちゃ怒ってた。ごめんなさい。

ようやく不毛な会議が終わり、逃げ出すように部屋から出ると無表情のナナミが立っていた。

「どうなったの?」

質問する人を間違えている気がするが、

「俺たちは参加しないよ……」

彼女は目を逸らすと、 「そう、分かった」 と言って、すたすた俺の前を横切って通路の角を曲がり、あっという間にどこかに消えた。

出来ればこの無駄に立派な 《DDA本部》 の出入り口まで、俺を連れていってもらいたかったのだが……

 

 

この数十分、最近引っ越したばかりの 《コムナナ家》 では、全く終わりの見えない議論が続いている。

「でもさー、シュウの予想が当たったら、最悪だよねー」

コムロンもさすがに上司の命令には逆らえないようだ。

「とにかく、犠牲者を出さないようにする、ってことでしょ?」

ナナミもギルドの意向に賛同している。

「上手くいって数人……最悪は双方合わせて数十人、そんな感じだろ……」

二人同時に俺の方を見て固まった。俺は続ける。

「しかも、あいつは逃げるぞ。間違いなく…… 《レッドギルド》 を一掃しようなんて、その発想自体が終わってる……」

ナナミがいれてくれた新しい風味のお茶をすすりながら、俺は続ける。

「おじさん達に押しつけられた正義によって、少年少女は一生癒えない傷を負うことになる。あの白黒、絶対頑張るだろうからな……」

ナナミの眼から光が消えた。

「シュウは、それでいいの?」

俺は煎餅によく似た味のクッキーを割る。

「良いとか悪いとか……そういうことが気になるんだったら、この世界を作ったやつに聞いてくれ、としか、俺は言えないな……」

 

 

雨の向こう側から、待ち人ではないが 《待っていた情報》 を持っていそうな知人が、いつもの笑顔で手を振っている。

「……お疲れ様です。数十名、亡くなりました。あちらの幹部は牢獄に入りましたが、リーダーは逃亡。いやー、最悪ですね」

フロッガーは紅茶派のようだ。

「やっぱり。俺のお友達はみんな無事ですか?」

「はい、残念ながら」

その返答に苦笑いした。彼も笑う。

「もうよほどのことが無い限り、姿は現さないでしょうね。まあ、キリトさんのことは別でしょうけれど」

「ええ、とっくに飽きていたんでしょうね。わざわざ組織を公に、とか……その時点でやる気ないんだろうな、としか思えませんでしたから……」

ちょっと甘すぎる気がする紅茶を美味しそうに飲んでいる。そちらの感性は合わなそうだ。

「これによってさらに潜在化するでしょうね。本当にやり難くなります。シュウさんはどうするおつもりですか?」

またこのひとは……とにかく答え難いことばかり質問する。

「うーん……分かりませんけど、今まで通りじゃないですかね。現状維持、好きなので……」

 

 

《残党》 はかろうじて 《バーチカル》 をショートソードで受け流すと、押されるまま後方に下がった。小さく肘が曲がり手首がしなる。

――やはり 《投剣》 持ってるか。俺は急加速させた 《ヴェノムファング》 の刃でその赤い閃光を逸らすと、勢いそのまま一気に踏み込んで牽制気味に 《スラント》 を放つ。

「ぐふぁっ、」

蒼い閃光が背後から腹部を貫いた。尚も水平に伸びる光芒、 《三代目七香》 の切先が止まる。すかさず俺は、左足で思いっきり地を蹴って反転、 《ヴォーパル・ストライク》 ――。

「後は、お願いします」 「後は、よろしく」

目の前の戦闘に圧倒され、呆然としている群青や深緑の金属鎧達の横を通り過ぎると、俺達ふたりに向けられた小さな拍手、

「いやいや、ナナミさん、お見事。あれから鍛錬を積まれたのでしょう、立派に成長されましたね」

そんな笑顔からの賛辞を無視して、彼女は俯いたまま、 「帰ろう」 と俺に囁いた。

 

 

(終わり)

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