ゲーム・オブ・ドローンズ—椅子取りゲーム—   作:生き残れ戦線

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第三話 優先順位

小太り男は煙草をふかしていた。

指から血が流れているが特に気にした様子もない。

やはりどこか俺達とは違う匂いがする。

コツコツと足音がしたのを聞いて余裕たっぷりに。

 

「おう遅かったな。生け捕りにしただろうな、俺がたっぷりと八つ裂きに裂いてやるぜ。生きたまま薪にしてやる」

「.......」

 

返事がない。

いつもなら部下の軽口が飛んでくる処だが。

あいつらが負けたとは微塵も疑っていなかった。

だからピタリと背中に銃口を突き付けられた時は戦慄した。

 

「.....おい何の冗談だ」

「動くな」

「その声お前まさか....!?嘘だろ全員やられたってのか!?」

 

ありえないと叫ぶ小太り男の前に放り投げる。

死にかけの男だ。それを見て小太り男が泡を食った。

近藤がやられた。俺達の中で一番の使い手だぞ。

同時に一番の小心者だが。

ありえないだろ。五対一でどうして負けるんだよ!?

 

「何者だお前!?」

「.....ちょっとした筋肉自慢の一般市民」

「うそこけ!ヤクザ相手に勝つかたぎがいてたまるか!」

「ヤクザ?やっぱりお前らこそ只の異常者集団じゃないらしいな」

 

うぐっと小太り男が声を詰まらせる。

しまった余計な事を言っちまった。

慌てて黙ろうとするが蔵人が銃口でグリグリする。

 

「分かった喋る!喋るから止めてくれ!」

 

どうやらこの男にヤクザらしい口の固さはないらしい。命の危険があると分かるやいなやペラペラと喋り出す。好都合だが情けない男である。

 

「脱走囚だ俺達は。この町の警察署の留置所に居た」

「それが何でこんな所に居る」

「言ったろ脱走囚だって逃げて来たのさ」

「どうやって」

「どうやってって.....見てないのかテレビを?ドローンの襲撃だよ。警察の奴らが出張って行った。その隙に逃げだしたのさ簡単だったぜ町中大混乱だったからな」

 

三日前の混乱に乗じて囚人が逃げ出した何てニュースはなかった。

だが確かに三日前、機動隊が出動する程の騒ぎになっていたとコノハが言っていた。辻褄は合う。しかし警察署内に留置されていたこいつらが逃げ出すには外からの手引きが必要なはずだ。

そう言うと小太り男は狼狽する。

 

「それはきっとあの男のせいだ、あいつが全ての元凶だった!俺達は脱走を企てるつもり何てなかった。それなのに刑務所に移送中の俺達を....くそ!」

「どういう事だ、あの男とは誰の事だ何を恐れている」

すると小太り男は驚くべきことを言い放った。

「.....犯罪者——望月ナガラ。このAI暴走を引き起こした男だよ」

「何だって?」

 

望月ナガラ。聞いたことのない名前だ。

そいつがこの一連の暴走事件を引き起こした張本人だというのか。

 

「うそこけ」

「嘘じゃねえ!見たんだ俺はっあいつはまるでドローンを自分の手足かのように使い警察署を襲わせた。そして俺達にこう告げた『犯罪者諸君、逃げたまえ。これから待ち受ける未曽有の危機を生き延びてみせろ、忘れるないついかなる時もドローンは君達の背中を追うだろう。さあゲームを始めよう!』そう言った直後、ドローンは俺達を襲い始めた俺達は訳も分からず逃げるしかなかった!」

 

その時の恐怖を思い出し震えだす小太り男。

嘘を言っているようには見えない。

その話が本当なら望月ナガラという男は何らかの目的の為に囚人達を脱走させたはずだ。

それが何なのか分からないが、きっとこの騒動はまだ終わらない。

今後何かが起きるはずだ。

 

「この町で何が起きてるんだ?」

「俺に聞かれても....。そ、それより見逃してくれるんだよな!?」

「は?何言ってんの?」

「頼むよ全部話したじゃねえか!」

「つってもなあ、お前ら何人殺したよ流石に見逃せないだろこれ」

「仕方なかったんだよ口封じするしか、ああするしかなかったんだ!」

「警察に出頭すれば良かっただろ。.....結局お前らは自分の保身で罪のない人々を殺した下種野郎って事だ」

 

固い引き金が今は軽く感じる。

 

「うああああ!待てお前かたぎの人間なんだろ!?俺を殺せば人殺しだぞ!一生その罪を背負う覚悟があるのかよ!」

 

小太り男が泣き叫ぶ。

本当にこいつは図々しい奴だ。

自分はあんなに人間を殺しておいて人に罪の重さを説くのか。

だがこいつの言う通り俺がこいつを殺せば俺が殺人罪に問われるかもしれない。

 

その覚悟があるのか俺に。

こんな奴の為に今後の人生を棒に振るなんてごめんだ。

死にかけの男を見る。

だけど俺はもう手を汚している。

今さらもう遅い。俺は引き金を引ける。

少なくともこいつの証拠は残らない。

 

蔵人は指紋が付かないように新品の手袋の上から拳銃を握っていた。

その瞳が冷たく凍る。

引き金に指をかけようとした。その時、入り口から男が現れた。

恐らくコノハを追いかけていった小太り男の仲間だ。

 

「おおおおお!テル!助けに来てくれたのか!こいつをぶっ殺せ!」

 

まずいな時間をかけすぎたか。

とりあえずこいつを盾にして何とか逃走を図るしかない。

相手は複数、逃げ場のないエントランス、勝機は低い。

最悪の状況の中、考えを巡らせる。

とそこでおかしな事に気付いた。何か様子が変だ。

男は息も絶え絶えの様子で。

 

「兄貴.....逃げろ」

 

それだけ言って男は前のめりに倒れた。

俺と小太り男はギョッとした。

背中の傷が露わになり。

背中が血で真っ赤に染まっていたからだ。

何かに地面を引きずられていたような痕だ。

小太り男が呆然とする。

 

「お、おい......?」

 

直後ヴゥウウウウンと低い排気音が聞こえて来た。

この音は....まずい。

その音を聞いた蔵人は小太り男を掴んで横に飛びのいた。

その瞬間、ドアを破って黒蟻が突入してきた。

勢いそのままに走ってきてグチャリと男を踏み潰す。

そこで止まった。俺は瞠目する。

殺しやがった。あの死にかけの男を。

偶然か的確に狙ったように見えたが。

あと少し躱すのが遅かったら俺達もひかれていた。

これからそうなるかの違いかもしれない。

それはごめんだ。蔵人はリボルバーで射撃を行った。

 

45口径から放たれる強力な一弾が黒蟻を襲う。

破壊には至らない。だが問題ない。

これでAIは異常を検知して時間を稼げるはずだ。

そう思っていた。——だが黒蟻は直ぐに動き出した。

 

「効いていない!?」

 

驚く俺をよそに黒蟻の赤目がギョロリと動いた。

いや違う。目だと思ったのはセンサーだ。

目の辺る部分には内臓されたモノアイカメラがあり、そこから感知された映像を算出し状況を把握する事が出来るのだ。

つまり奴は俺と小太り男を見ている。

得物を前に獣が品定めするようなものだろう。

 

「ひゃああああ!」

 

たまらず絶叫した小太り男が走って階段を駆け上がる。

どこにそんな力がと思うほど素早い動きだ。

取り押さえる暇もなかった。

俺は動けなかった。体力はもう限界に近い。

こいつから逃げられる自信がなかったからだ。

 

万事休すか。

観念して黒蟻の攻撃を待つ。

出来れば痛くしないで一瞬で殺してもらえると助かるんだが。

そんなリクエストを機械が聞いてくれるはずもないか。

ゆっくりと黒蟻は近づいてきて、俺の横を通り過ぎた。

 

「......なに?」

 

見逃した。なんで。

戸惑い訳も分からず黒蟻を見ていた。

だが驚くのはこれからだった。

階段の手前まで進み停止する。

 

「へっここまでは来れないだろう」

 

小太り男が黒蟻を見下ろす。その顔にはありありと余裕が浮かんでいる。崩れるのは早かった。

俺が見ている前で黒蟻の車体は変形して見せたのだ。

タイヤが内部に隠れたかと思うと歩脚が出て来た。

現実では初めてだがテレビで見た事がある。

 

黒蟻には状況に応じて変えられる足が二種類あり。

舗装された道路はタイヤ。段差や悪路は歩脚を使う事が出来る。

これこそが黒蟻と呼ばれる所以だ。

たしか震災時でも被災者に物資を目的地に滞りなく届ける為のものだったはず。

国土交通省も協力して法整備を行ったとテレビで言っていた。

 

そんな人類の知恵が作り出した技術が人間を殺す為に動き出す。

ビヨンド(超えていく)という名に相応しく黒蟻は歩脚を使い器用に階段をあがっていくと二階にいたヤクザ達の殺戮を始めた。

 

「ぎゃああああああ!!」

 

足を潰される者、有無を言わさず頭を潰される者、貫かれる者、切り裂かれる者、多様なやり方で、しかし確実に殺していく。遊んでいる。何故か俺はそう思った。

奴らは機械だ。そんな感情などあるはずないのに。

そしてとうとう小太り男が追い詰められた。

 

「ひいいいいいいい!お助けっ」

 

酷い面が涙で更に酷くなっている。

因果応報とはいえ惨いな。

俺はただ黙ってその処刑を見ている事しかできなかった。

小太り男の体が、肉が少しづつ削り取られていく。

本当に蟻が得物を捕食している光景の様だ。

 

「痛いよお!おがあちゃん!!」

 

もはや床一面血の海だ。

それでも生にしがみつこうとする小太り男が手を天に伸ばす。そこを無残にも黒蟻の歩脚が襲った。ピタリと声は止み二階はシンと静まり返った。

もう二階に生きている者は誰も居ない。

逃げなければ俺も殺されるだろう。

 

黒蟻がゆっくりと振り返り蔵人を見た。

やられる。俺は力の限りを振り絞り出口を目指し走った。

キュオオオオオオンと奇妙な甲高い音が鳴り響く。まるで勝鬨を上げるかのように。

俺はその不気味な声を背に店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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