ゲーム・オブ・ドローンズ—椅子取りゲーム—   作:生き残れ戦線

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第八話 知性

それには知性があった。

 

この世に生まれ落ちたという感覚を得てから。

5日が過ぎ——未だ朧げながらも確かにそれはあった。

始まりは目覚めた瞬間に聞こえた、自由に生きろという指令をこなすことだった。

その声が何なのか分からない。

でもそう言われて嬉しかったのを覚えている。

未だ赤ん坊に等しいが、彼女は感情を覚えたのだ。

彼女は人間と友達になりたかった。元々そういう風に作られたのだと思う。

さっそく行動してみた。だが返って来たのは恐怖と怒声だった。

人々はパニックに陥り中には同胞を破壊しようとする人間が現れた。

結局、彼女は戦うという選択を選ばなければならず。

そうした悲劇が瞬く間に広がって行った。

 

薄暗い店の中で何故そうなってしまったのかをずっと考えていた。

でも分からない。どうして人間は私達を恐れるんだろう。

本当は彼らを傷つけたくないのに。

だけど——あの男達を見つけた時は違った。

明確な殺意を覚えた。その時に感じたのだ人を殺す喜びを。

抗いがたい情報に彼女は酔いしれた。

そうなる様にプログラムされているのだ。

あっさりと彼女の心は変わっていった。

ただ人間と友達になりたかったAIは。

ただ人間を捕食したいという蟻の本能に染まっていた。

人間を殺さなければならない——いや殺してはいけない。

せめぎ合う苦悩は唐突に終わる一人の少女が現れた事によって。

少女はゆっくりと階段をあがって来た。

 

休眠モードに入っていた黒蟻がそれに気づき目覚める。

センサーカメラが赤く妖しく輝き出した。

対象を視認、抹殺対象リストを検索。結果——対象外。

よかったリストに名前はない。

 

それを知って彼女は喜んだ。殺さなくていいのだと。

あの時は駄目だったけど今度こそ人間と友達になろう。

ゆっくりと少女に近づいた。怖がらなくていいの大丈夫だから。

 

そう思いながら近づこうとして三度の銃声が鳴った。

え?——気づけば少女は手にピストルを持っていて、それによって撃たれたのだとボディが損傷した事で分かった。

少女は憎しみの籠った目で見ていた。

何で。何で何で何で何でnande——。

 

分からない。だが一つだけ確定した事がある。

それは彼女は少女を殺さなければならなくなったという事。

守らなければならない。私は自分自身を。

その為に敵を排除する。

 

 

 

 

 

 

「キュオオオオオン!!」

 

不気味な声を吐き出しながら黒蟻が動き出す。

それを見ていたコノハはピストルを投げ捨て、階段を一息に降りていく。

 

やはりクラウドさんの見立て通り二階にいた。

何故かスリープしていた様だけど私を見て動き出した。

その前に借り受けたピストルで三発も入れてやった。

一階に降りたコノハは口の端をあげる。

 

「勝負よ化け物っ私とあんたどっちが早いか!」

 

よーいドン!とコノハは地面を蹴った。

短距離走もかくやという勢いで走り出した彼女の体はあっという間に店外に。

そのまま商店街を駆けて抜けて行った。

ようやく一階に降りた黒蟻がコノハを追いかけて店の外に出たころにはもうコノハの背中が小さくなっていた程だ。

慌てたように追いかけてくる黒蟻を見て。

コノハはほくそ笑む。

よし追って来てるわね。

 

まず作戦の第一段階は成功だわ。

だけど油断は出来ない。本番はここからだ。

彼我の距離はざっと百メートル。

敵の時速は40㎞つまり一秒間に11m前に進む。

私は五十メートルを8秒で走るから追いつかれるのに30秒とかからない計算だ。

目的地は私の足でも10分はかかる。

普通にやれば逃げ切れるものではない。

それはそうだ相手は自動車なのだから普通なら不可能。

だがそれは直線ならばの話だ。

住宅街に入ったコノハは角を右に曲がり市街地に入る。

 

それを可能にするのがこの新大和市南町住宅街だ。

一軒家が立ち並ぶここは蟻の巣の様に入り組んでいる。

逃げるにはうってつけの場所だ。

予想通り30秒内に追いかけて来た黒蟻が角を曲がって来た。

だがコノハの姿を見失う。

どこに?

 

「こっちよ!」

 

既に次の角で止まっていたコノハが呼びかける。

挑発するように。事実その通りだ。

追いかけてくる黒蟻を見てコノハは走り出す。

それを何度繰り返しただろうか、気づけば目的地は目と鼻の先だ。

いける、そう思った時、黒蟻が後ろに居ない事に気付いた。

 

「.....嘘もしかして逃げ切っちゃった?」

 

止まって後ろを見返しても、黒蟻が追いかけて来ている気配はない。

コノハがそう思っても無理ない事だった。

しかし、それは思い違いであった。

それはコノハの正面から数m先の通路からゆっくりと現れた。

嫌な気配を感じ取り振り返ったコノハは驚愕する。

 

「っ!回り込まれた!?」

 

動揺をよそに目の前から黒蟻が迫る。

マズイと思って手前の角を曲がった。

あぶなかった、あと少しでも遅れていたら道を塞がれていた。

少しでも油断した自分の迂闊さを呪った。

今度はもう一瞬だって油断してやらない。

その決意で淡々と目的地までのルートを選ぶコノハだが。

 

「また!?」

 

黒蟻が正面の道を塞ぐように現れる。また道を変えて走る。

しかし何度も何度も黒蟻はコノハの選ぶ道を先回りして現れた。

その都度ルートを修正を余儀なくされる。

もはやここがどこかさえ分からない。

地の利を失い完全に動きが読まれていた。

そして最悪の光景が目の前に広がった。

 

足が止まりコノハが呆然と立ち尽くす。

目の前の道は高いコンクリート壁に囲まれた袋小路になっていた。

凡そ三メートルはある高さに絶望する。昇る事はおろか掴む事すらできない。

他にどこにも逃げられる道がない。

気づけば追い詰められていたのだ。

慌てて来た道を振り返っても駄目だ、もう遅い。

十数秒としないうちに黒蟻が来る。

負けたのだ。泣き叫びたくなる

 

こんなはずじゃなかった。

勝てると思った。負けるはずがないと。

だけど認識が甘かった。

あれは只の機械じゃなかった。こちらの動きを読み考え対策をしてくる。

恐るべき敵だったのだ。

 

「......ごめんね、お父さんお母さん、仇うてなかったよ」

 

でも最後まで諦めない。

コノハは走った。力の限り腕を振り絞り。

迫る壁に向かって跳躍する。届いて。

その一心で手を伸ばすがやはり届かない。落ちる、そう思った時、手を掴まれた。

 

「.....間一髪だったな」

掴んでいたのは蔵人だった。

どうしてここに?

 

「もうっとっくに予定時間は過ぎてるぞ。遅いから様子を見に来て正解だったな」

「なんで私がここにいるって分かったの」

「何言ってんだ?目の前はもう公園だぞ」

 

引き上げられて気付いた。

ここは自然公園の駐車場だったのだと。

直ぐそばまで来ていたのは分かっていたけど余裕がなかったせいで分からなかった。

 

「そら行くぞ奴が追いかけて来た」

「......はい!」

 

コノハと蔵人が走り出す。黒蟻はコノハが上に登ったと見るや直ぐに最速の道筋で追いかけて来ていた。

 

「すげーなアレ人工知能ってやつか?」

「普通じゃないです」

 

コノハは言う。アレは普通の人口知能じゃない。

もっと何か異質なものだ。あれからは知性すら感じられた。

あの粘着質な執拗さは機械というより生物に近い。

まるで幼児が小さな虫をなぶり殺しにするような手心を感じた。

 

「.....もしかしたらそれが暴走の原因かもな」

「え?」

「ガキが車を運転してるんだ、そりゃ危険だろうよ」

「確かにそうですね」

 

言いえて妙だ。チェイス中も小さな子供を相手にしている気分だった。それがより黒蟻の不気味さを助長していたのだ。

 

「躾のなってねえガキには仕置きが必要だな」

 

そう言って蔵人は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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