『書籍化!』自分の事を主人公だと信じてやまない踏み台が、主人公を踏み台だと勘違いして、優勝してしまうお話です   作:流石ユユシタ

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第一章 仮入団編
1話 覚醒イベントは常識だよ


 俺は主人公に憧れている少年である。幼い頃から、本などに出てくる主人公に勇気を貰い、夢を貰い、情熱、努力の大切さ、色んな物を教わった。カッコいい、俺もあんな風になりたい。

 

 そう幼い時から思って行動してきた。厨二過ぎて、周りから引かれることは多数。修学旅行では女子が俺の隣に座る罰ゲームとか言って遊ぶこともしばしば……。まぁ、仕方ないとあきらめていた……。だが、心の中ではどうしようもなく焦がれていたのだ。

 

 ハーレムとか、ファンタジーとか。そう言ったものに。あぁ、そんな風な世界に転生したい。

 

 そういつも、俺は思っていた。

 

 

 そんな時だ。高校一年生の朝の登校。赤信号を無視して、横断歩道に入る小学生を庇って俺は死んでしまった。どうしてなのか、よく覚えていない。もしかしたら、主人公っぽいことやりたいと言う厨二心かもしれない。

 

 鈍い音がして、これで人生が終わりだと感じる。だが、それで終わりではなかった。神が俺を転生させてくれると言うのだ。

 

「はい。貴方を円卓英雄記と言うノベルゲー世界の主人公に転生させてあげます(本当は噛ませ犬のフェイってキャラだけど)」

「ほ、本当ですか!?」

 

 

円卓英雄記と言うノベルゲーは聞いたことがある。友人が薦めてくれたけど、結局プレイできてないんだよな。人気投票1位のキャラだけは知ってるんだけど。でも、主人公ならそれでいい! だって、大抵の子と上手く行くもん!

 

 

「はい、子供を庇う姿に神である私の心は打たれました」

「おっしゃぁぁぁぁ!! 勝ち組だぁぁぁ!」

「思う存分、夢の主人公ロールプレイを楽しんでくださいね。因みに転生先はフェイと言う名前の男の子、記憶は13歳くらいになったら戻ります」

「な、なるほど。フェイって人気投票1位ですよね? ノベルゲーはやったことないんですがそのキャラの名前だけは知っているんです」

「あー、その通りです」

「1位キャラって、ことは」

「はい。勿論、フェイと言うキャラクターは主人公です。だって人気投票1位ですから!」

「おぉぉぉ!」

 

 

 

 どうやら、俺は勝ち組らしい。何という素晴らしい女神さまに会う事が出来たのだろうか。俺はただ、幸運に打ちひしがれた。そして……あたりが眩くなって……

 

◆◆

 

 私の名は女神アテナ。死者を導き新たなる生を与える仕事をしつつ、暇つぶしにニヤニヤしながら観察するのが仕事だ。と言うわけで次の魂は……ふーん、物語出てくる主人公が好きな男子高校生……それが車に引かれて死亡。ふーん

 

 まぁ、子供を庇って死ぬ当たり、善人かぁ……。

 

 

 そして、その少年が私の目の前に現れる。その時、あることを思いついた。

 

『こいつ、主人公キャラに転生させるとか嘘ついて、噛ませキャラに転生させたてやろう笑』

 

 どういう風に泳ぐのか、見てみたい。そう思った、神は娯楽に飢えているから仕方ない。

 

「はい。貴方を円卓英雄記と言うノベルゲー世界の主人公に転生させてあげます」

「ほ、本当ですか!?」

 

 本当はフェイって言う鬱ノベルゲーの噛ませキャラだけどね笑

 

 

「はい、子供を庇う姿に神である私の心は打たれました」

 

まぁ、嘘じゃないけど……そんなに心は打たれてない笑

 

「おっしゃぁぁぁぁ!! 勝ち組だぁぁぁ!」

「思う存分、夢の主人公ロールプレイを楽しんでくださいね。因みに転生先はフェイと言う名前の男の子、記憶は13歳くらいになったら戻ります」

「な、なるほど。フェイって人気投票1位ですよね? ノベルゲーはやったことないんですがそのキャラの名前だけは知っているんです」

「あー、その通りです」

 

変な所だけ知ってるんだな。まぁ、そのランキングはスレ民が原作ファン泣かそうぜって言って共謀した結果だけどね笑

 

こいつ、いきなり面白い笑 嘘ついて正解だった!!

 

 

「1位キャラって、ことは」

「はい。勿論、フェイと言うキャラクターは主人公です。だって人気投票1位ですから!」

「おぉぉぉ!」

 

 クツクツと私は笑ってしまう。この子はさぞや愉快に踊ってくれるだろう。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 高熱に打ちひしがれた。そう、それは俺がフェイと言うキャラに憑依をした証であるように、神様の言う通り、俺はフェイと言うキャラ13歳になっていた。黒い髪に黒い眼、顔立ちはまぁまぁ、主人公にしてはちょっと悪者顔と言うか、目つきが悪いと言うか、まぁ、こういう主人公も居るだろう。

 

 ノベルゲーの主人公。その言葉だけでなんだかワクワクする。だが、取りあえず現状を確認するために、転生先で数日過ごした。そこで分かった事は沢山ある。

 

 先ず、俺の話す言葉。これが、妙にとげとげしく変換されてしまうのだ。『ねぇ』と言ったら『おい』とか、『おはよう』が『何をしている?』みたいな勝手に翻訳機能みたいなのがついている。どうして、こんな感じになるのか?

 

 

フェイと言うキャラはクール系の主人公なのだろうか? それが主人公補正のようなものになっているのかもしれない。だったら問題ない。クール系の上から目線は基本だからだ。

 

 

 そして、俺が住んでいる場所は孤児院であるらしい。つまり俺は孤児であり、俺以外にも沢山の子はいるようだ。まぁ、主人公が孤児って割とあるある展開だよね。あとシスターのマリアと言う若い金髪巨乳美女がヤバいほどに可愛い。本当に可愛い。25歳らしけど。エグイ位可愛い。

 

 

 

 さて、ノベルゲーであると言う事はどこかで原作が開始されると言う事だ。一体、いつになるのかは分からない。だが、予想は出来るし、今の時期から戦える準備をしておいた方が良い。

 

 ここは剣と魔法の中世ファンタジー世界らしいからな。この世界には聖騎士と言われる者達が居て、彼らの最優先事項は孤児院があるこのブリタニア王国領土を逢魔生体(アビス)と言う化け物から人々を守る事らしい。

 

 そして、騎士団には15歳から入団テストを受けることが出来るらしい。ここでピーンと来たよね! ありとあらゆる物語を網羅している俺からすれば、15歳になった時に、騎士団に入団!! そこから閃光のような活躍を見せて、民を魅了、ヒロインに囲まれて素晴らしい余生を送る!

 

 

 大体頭の中で計画は出来た。なら、することは一つだ。13歳、つまり2年後に向けて、先ずは剣の修行をする! 孤児院には木剣があるから、これを使って今の内から剣を振って鍛錬をしよう! 

 

 

 そう思い、剣を振り始めた。元々、フェイと言うキャラは孤児院では浮いていたようで、誰も俺に話しかけてはこない。思う存分、俺は未来への投資を出来るのだ。

 

「フェイ、あまり無茶はダメですよ」

「あぁ、無論だ」

 

 

 勝手に刺々しい言葉になる。クール系主人公は上から目線は基本だから仕方ない。心配してくれたマリアには申し訳ないが、こればかりは止められない。何故なら、俺は主人公、俺がやられたら一体だれがこの世界を救うのか。一応、その責任もある。

 

 

 だが、剣を振る。強くなる。そう決めているのだ。

 

 

 だって、主人公だから!

 

 

 そう思って転生してから毎日、剣を振る。その姿をジッと見ているマリア。もしかして、マリア……俺のヒロインなのか? 疑ってしまうがマリアヒロイン説は後々、分かる事だろう。それよりも……

 

「おい! 何を企んでいるんだ!!」

「俺に何か用か?」

 

 

 俺と同じ年齢、孤児院で過ごしており、訓練の邪魔をする金髪に碧眼のイケメン男。トゥルー。こいつは毎日、毎日、俺の邪魔をする。何故だかは分からないが、絶対邪魔をしてくるのだ。俺の推測だが、こいつは絶対噛ませ犬だな。間違いない。

 

 

「ふざけるな! お前が真面目に訓練なんてするはずがない! 今までの行いを忘れたのか!」

 

 申し訳ないが、憑依前の記憶は殆どない。トゥルーがいくら言っても俺はそうか、とかそんな事しか答えられないのだ。それに俺には他にやることがある。主人公として、やることが。そんな冷めて相手をしない俺にトゥルーが木剣を突きつける。

 

「勝負だ。俺が勝ったら、全部話して貰う!」

 

 

そんなことを言われてもな……。だが、良いだろう。世界が俺を知る前に、お前に俺を凄さを教えてやろう。こいつも俺より前から訓練とか我流でしているらしいが、主人公の俺の才能の前には無力だろう。

 

 

「構わん。世界を教えてやろう」

「んだと!!」

 

 

俺とトゥルーが互いに距離と取る。そして、目の前に木の葉一つ舞った。互いに何も言わずとも理解する。あれが、おちたとk

 

「どらぁぁ!」

「――がはぁ!」

 

 

落ちる前に、トゥルーが俺に斬りかかる。それがクリティカルヒット。俺は腹部に直撃した斬撃に耐える。とんでもなく痛いんだが……、しかも、滅茶苦茶こいつ、速いんだけど……

 

 

主人公の俺よりも、速いんだが……一体全体どうなっているんだ? 俺、主人公だよね?

 

 

よし、落ち着け。今のはまぐれ。そうに決まっている……。ならば!! 俺は立ち上がり、トゥルーに向かう。風を切るような速さで向かったはずなんだが……あっさり避けられ、もう一度、腹部に斬撃を当てられる。

 

もう一度、もう一度。そう思って立ち向かっても敵わなかった。どうしてだ? 

 

 

 地面に倒れながら、勝った事を周りの孤児たちにアピールをするトゥルー……、それを称える孤児院たち。

 

 俺は主人公……のはず……。だが、こいつにはどうあがいても勝ってこない……ん? 勝てる訳が無い……そう、どうやっても勝てるわけがないのだ。

 

 

 

 

その時、俺の頭に稲妻が走る。あ、これ覚醒イベントじゃね? 良くあるやつだ。序盤は力なしで特別な力を知らない主人公が、危機に扮して覚醒を果たす、あれだ!

 

そうか。そう言う事か。どうりで勝てないはずだよ。これは、覚醒が来るまで、耐え忍ぶ、そして諦めるなと言うイベントだったのか。盲点だったぜ。原作は2年後、聖騎士として活躍する前から始まっていたのか。

 

 

そうと決まれば……

 

「まだ……だ……勝負は、終わってねぇ……終わってねぇぞ!」

「――ッ!」

 

 

そこからは戦いとは言えなかった。トゥルーの戦闘技術にはどうあがいても勝てない。だが、覚醒を信じて、只管に俺は立ち続けた。

 

まだか? ワクワクするな……まだか? ワクワクし続けているぜ、覚醒に期待しているぜ。……さぁ、さぁさぁさぁ、と願い続けた。

 

だが、あまりに激しくなり過ぎたのか

 

「そこまで! 何をしているの!!」

 

マリアが俺とトゥルーを止めた。傷だらけの俺と無傷のトゥルー。ボロボロの俺は覚醒をすることなく深い意識の底に沈んだ。

 

 

◆◆

 

 

トゥルーと言う少年にとって、フェイは気に入らない男であった。誰もが孤児院では他者を気遣い、敬っているのにも関わらず、彼だけは我を通し、他者を貶める発言をする。

 

 

 

それ故に彼だけでなく、他の孤児院にも嫌われておりシスターマリア、彼女にも手に負えない少年であった。いや、手には負えたのかもしれない。トゥルーは何かあるたびに彼の蛮行を止め、孤児院でも絶大な信頼を得ていた。

 

 

そう、手には負えていたのだ。

 

 

 

あの、13歳の高熱を彼が出すまでは……。

 

 

今まで他者に構い、散々好き勝手してきた奴を何を思ったのか、急に自分のように剣を振り始めたのだ。トゥルーは己の両親が化け物に襲われ、死んでしまった事を他の誰かにも味合わせない為に、聖騎士となり全てを守るために幼い頃から研鑽を積んでいた。

 

その才能も凄まじく、原石と言えるような物だ。

 

 

そう、自分は特別な人間であると彼は感じ、自身を彼は疑わなかった。だからこそ、彼はフェイと言う人間が今度はどんな悪行を考えているのかを確かめる為に、決闘を申し込む。

 

日々鍛錬を続ける俺と毛の生えた彼。こんなもの、結果は言うまでも無い。孤児院の子供も、トゥルーも勝利を疑わなかった。

 

 

「勝負だ。俺が勝ったら、全部話して貰う!」

 

 

決闘が始まる。そう、誰もが分かっていたようにそれは圧倒的な差であった。1と10。どちらが凄いか、言うまでもない。

 

木剣で彼の体に軽くあてる。優しさがトゥルーと言う少年の強さであった。どんな相手にも、施しを与え、非道に徹しきれない。だが、それは彼の甘さ、いや、傲慢と言うべきもの。

 

 

「――も、もう、いいだろう」

「まだだ……」

 

 

何かを求めている男の眼であった。何度も何度もフェイは倒され、ボコボコにされ、優しく剣はあてているがそれでも痛い事には変わりないはずなのに。

 

 

「俺は……こんなところで」

「なんだよ!」

 

自然と、力みが入る。それは恐怖であった。トゥルーにとって目の前の何かは許容し難い、何か。

 

――人、否、力を求める餓狼に近しい眼。

 

その目の奥に、どろどろした深淵のような何かを感じた。

 

 

周りの孤児たちも、戦慄をしていく。あれは、今までの自分たちの知るフェイなのかと。全く違う、異質な物なのではないかと。

 

 

「――まだ……だ……勝負は、終わってねぇ……終わってねぇぞ!」

「――ッ! う、うわあぁぁぁあ!!」

 

 

恐怖。漠然とした大きな恐怖。自分の理解の及ばない存在に、初めてトゥルーは、いや、円卓英雄記、メイン主人公(トゥルー)は恐怖を知った。

 

化け物。

 

 

ただ、それを目の前から消したくて、強く強く、剣を振ろうとした。だが、それを

 

「そこまで! 何をしているの!」

 

シスターマリアが止めた。自身にとって、姉のように、家族のように慕っている彼女が来た事によって、彼は正気を取り戻す。あまりに行き過ぎた行為であったと自身を恥じる。

 

見れば、目の前にいるフェイが傷だらけ。

 

「トゥルー、どうして!」

「ご、ごめんなさい……」

「フェイ! 貴方は……」

「――ッ 嘘だろ、立ったまま気絶してる……」

 

 

シスターもトゥルーも言葉を失った。気絶をしていた。最早、限界だったのだろう。だが、それでもその男は立っていた。限界の更に先。それを越しても、魂の意地で彼は立っていた。

 

これほどまでに、力を求める者が今まで居ただろうか。

 

この日の事を、主人公であるトゥルーは忘れない。彼の記憶の深くに恐怖が刻まれた。

 

 

 

 




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