『書籍化!』自分の事を主人公だと信じてやまない踏み台が、主人公を踏み台だと勘違いして、優勝してしまうお話です   作:流石ユユシタ

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11話 鬱対お花畑 後編

 古い古い記憶、綺麗な豪邸。鮮やかな花が咲き誇る庭。そこに小さい少女が剣を振っていた。彼女は銀髪で、必死に剣を振っている。

 

「そうじゃないよ。貸してごらん」

「うん」

 

 

 彼女と同じ、銀の髪を持つ男性が声をかける。顔立ちはどこか似ていて、だが少女以上に凛々しさがあって少女とはまた違う顔立ち。

 

「波風は、そうだな……もっと、こう、型があるんだけど、それにこだわり過ぎない順軟性と言うか」

「……?」

「あぁ、難しかったね。僕が一緒にやってあげるから」

 

 

 そう言って、男性は少女にもう一度、剣を手渡す。そして、今度は少女の手を握って、一緒に体に教え込むように振るう。

 

「わたし、とおさまみたいになる!」

「そうかい?」

「まじゅつてきせいなくても、とうさまいじょうのせいきしになる!」

「……たのしみにしているよ」

「うん、やくそく!」

「ユルルなら、きっと僕以上の騎士になれる。だから――」

 

 

「父さん! 僕、聖騎士に成れたよ!」

「やったな。ガへリス」

「父さんの部隊で僕を……ユルル?」

「わたしもはやくなりたい!」

「十五になってからだな。それにしてもアグラ兄さんはもう、九等級か」

「あの子は、才能があるからね」

「それに引き換え、ユルルは魔術適正ないからな」

「わたし、なくてもりっぱなきしになる!」

 

 

 全てを覚えている。優しかった兄達を。背中が大きかった父を。厳しかった母を。

 

 

 もう、戻ってはこない

 

 

 

 ■◆

 

 

 

 

 一晩明けた。ユルルは昨日は自身を痛めるのみにとどまった。大量の出血、そして訓練の疲れ、それで寝てしまった。だが、朝起きると血液の不足による体への倦怠感がない、出血多量による死亡になってもおかしくなかったのに。

 

 だが、そんな純粋な疑問は湧かなかった。ただ、衝動がまた湧いてしまう。

 

 自然と、剣を持って、外に出てしまう。

 

 視界が歪む。衝動が止まらない。持っている剣であの、いつも自身を馬鹿にし、父と母をけなす狼藉者を殺したいと彼女は考えていた。

 

 

(あ、ああ、だ、め……もう、これを、し、たら、とう、さま、と、かあ、さまのことを、だれも、しんじて、くれなく、なる……)

 

 

 朝、道行く人。

 

 

(ころ、したい……あの、ひとも、あのひとも、わたしを、わ、らって、る)

 

 

 誰も彼もが敵に見えた。体が疼いてしょうがない。早く、剣をあの、首にあてて刃で切り裂いて真っ赤な、自身が昨日出したような血を見たいと。

 

 

 恨みだった。怨讐、怨念。それらが彼女を満たしていた。だが、僅かに彼女に残っている。優しかった父と母の記憶が。それが何とか、彼女を留まらせる。

 

 だが、その記憶も徐々に真っ黒になっていく。ただの記憶になっていく。グラグラと彼女の芯が揺れ始める。

 

 

 私怨が満たされたら、彼女は崩壊する。復讐を肯定する存在が現れたら彼女は、一瞬で殺人鬼になる。それでなくても、時間が経てばたつほどに、彼女の衝動が高まる。

 

 舌を、噛む。血の味がする。それでなんとか、理性を保ち、円卓の騎士団本部ではなく、誰も居ない三本の木が生えているいつもの場所に行った。幸い、今日は剣術の訓練ではない。

 

 だから、あの子達も来ないだろうと彼女は踏んでいた。

 

 

(あぁ……きょう、ふぇい、く、んの、あさ、れん、いけ、なかった……)

 

 

 木に寄りかかり、彼女はふと思い出した。虚ろになって行く記憶の中で、黒髪の少年の背中が見えた。波風を教えて、少しだけ、成長をさせてあげられたと、思うと、喜びが湧いてきた。

 

 

(いやだぁ……もっと、ほんとうは、おしえて、あげた、かった……)

 

 

 これから、もう、自分は戻れなくなる。兄たちのように人の道を外れてしまうことを彼女は察した。涙が零れる。ガムシャラに教えを乞う少年が、私の無残な最期を聞いたら、きっと……と彼女はそれが悲しくなる。

 

 

(かれを、にい、さま、みたいに、しない、よう、に、みまもる、つもり、だったのに……、わた、しが、さきに。みちを、ふ、みはずす、なんて)

 

 

 一体、いくら時間が経ったか。ただ、後悔が湧いてくる。だが、それもいつしか、憎しみに呑まれる。呑まれて、()()無くなった。

 

 

(……そうだ。私は、悪くない。私は、全然悪くない。悪くない、悪くない、悪くない、悪くない、悪くない、悪くない)

 

 

(馬鹿にしたアイツらが悪いんだ。全然私は悪くないんだ)

 

 

「ア、ハハハハハ! 悪くない、私は、悪くない!」

 

 

 そう言うと、彼女は立ち上がる。足を向ける。だが、そこに……

 

 

「あれ! 先生じゃん!」

「先生、こんにちわ」

「……」

 

 

 ボウラン、トゥルー、アーサーがそこに居た。どうして、と言う疑問は既にない。三人は魔術訓練の後に自主的にこの場所を訪れているのだが、それを知る由は彼女にはない。

 

 ついでに言うと、フェイは魔術の先生に嫌味を言われながらも、頼んで魔術の本を借りていた。適正は無いのだが、自身の可能性を諦めずに。

 

 

(私より、才能も有って、適正属性もあって……見下してる。こいつらも私を馬鹿にしている。殺そう、殺そう、殺す)

 

 

「誰?」

 

 

 アーサーが聞いた。その眼は疑惑だった。直感で彼女は感じ取った。眼の前の存在が自身の知るユルル・ガレスティーアではないことに。

 

「あ? 何言ってんだ?」

「アーサーさん?」

「この人、先生じゃない……」

 

 

 そう言って、アーサーは付与魔術(エンチャント)の練習の為に借りて来た。鉄の剣を抜いた。

 

 何も答えず、ユルルも鉄の剣を抜いた。

 

 

 次の瞬間、両者は風になり激突する、その突風でボウランの長い髪が揺れる。

 

 

「……あぁ、良いなぁ、そんなに才能あって」

「……もう一度聞く。誰?」

「どうでもいいじゃないですか。私は、もう、殺したいだけですよ!」

 

 

 会話にならない、そうアーサーは感じた。自身の事を完全に棚に上げているが。

 

 

 星元(アート)による身体強化、それをどちらも行っている、これは無属性で出来る事で純粋で単純な力でもある。互いに、いや、その精度はアーサーに軍配が上がる。

 

 

 徐々にアーサーの剣の速度が増していく。精度の才能、星元(アート)の量は比べ物にならない程にアーサーは持っている。無属性の身体強化はやり過ぎると体が壊れてしまうために塩梅が大事だ。だから、アーサーは

 

 アーサーも全てをマスターしていると言うわけではない。

 

 長年の訓練。そして、積み上げてきた物。それはユルルの方が上であった。

 

「……手抜いてる?」

「……は?」

 

 アーサーはそうつぶやいた。彼女には分かっていた、ユルルが僅かに、手を緩めて、実力を抑制していることに。

 

 星元(アート)の量はアーサーの上。だが、その精度と剣術の腕はユルルの方が格段に上であった。

 

 それをアーサーは知っている。偶に訓練で軽く打ち合って貰っているアーサーには、それが分かっていた。

 

 

「……馬鹿にしてるんですか?」

「……違う」

 

 打ち合いが強くなる。だが、それでもアーサーが優勢であった。

 

 

「おい、アーサーどうするんだ!?」

「取りあえず、ボウランは他の聖騎士に応援を」

「お、おう! わかった」

「トゥルーはワタシの援護。魔術プリーズ」

「わ、分かったよ」

 

 ボウランが去り、トゥルーが詠唱を開始。水の弾丸が複数形成される。手加減がかなりされており、当たっても死にはしない。多少のダメージはあるが。

 

「っち……」

 

 

 ユルルは舌打ちをした。徐々に二人のコンビで体力が星元(アート)が削られていく。だが、そこに僅かな安堵もあったの事実。

 

 そして、アーサーの光の魔術が……

 

 黄金の風。それが彼女を吹き飛ばす。闇の星元が、少しづつ、削がれていく。削られていく。

 

 彼女は少しづつ、正気を取り戻しつつあった。だが、それでも止まることのない。根源的な怒り。

 

 

 それを覚えて、忘れられなくて、彼女は最後。アーサーにもう一度、光の魔術を喰らって、終わる。

 

 

 その後は、ただ、一人の聖騎士が王都を去るだけの話だ。

 

 

 彼女は騎士団からの除名処分を宣告され、王都ブリタニアを去ることになる。居場所が消え、周りからの視線が失望で埋まる。元々、善良であったために、僅かな期待をした者が大きく落胆する。

 

 彼女の様子が可笑しかったことも説明はされる。アーサーもトゥルーも、ボウランも色々と説明をするが、周りはあの忌まわしき事件が頭をよぎる。

 

 あの子も可笑しかったのだと。

 

 どちらにしても、無駄なあがきであった。何故なら、もう、ユルル・ガレスティーアがここに留まることを、父と母の汚名を晴らすことを、諦めたのであるのだから。

 

 

 彼女自らが、この場所を去ったのだ。

 

 

 それが、彼女の選んだ結末。救われない。そして、この場を去った彼女は自身の兄によって……陵辱されて、殺される。

 

 最後の、アーサーの魔術が……彼女に向かって。アーサーの手に光が集まるのを感じて、彼女は、涙が溢れた。

 

 

 終わった。全てが……

 

 

「待て」

 

 

 その声はそこに響いた。アーサーが魔術の構築をやめる。手から光が霧散していき、何事も無いように消えた。

 

 

「フェイ……どうして」

「ボウランから、色々聞いた。アーサー、その剣を渡せ」

「……」

「二度言わせるな。渡せ。これは、俺の物語(たたかい)だ」

 

 

 無理やり、アーサーから剣を受けとる。彼の目の前には満身創痍のユルルが、アーサー達に削がれて、体力はかなり無い。だが……フェイとどちらが勝負になって勝つことになるのか、それは考える間もなくユルルである。

 

 

「……」

「……フェイ君が今度は私と戦うと?」

「あぁ、アーサー、トゥルー。お前たちは手を出すな」

「……ふふ、可笑しなことを言いますね。貴方では私には敵いませんよ? それに、フェイ君は鉄製の剣を使って戦った事はないでしょ?」

「だから?」

「死にますよ。私とやったら? そんな事も分からないお馬鹿さんでしたっけ?」

「ふっ。俺は……」

 

 

 クスクスと笑うアルルに、フェイも鼻で笑って返す。

 

「確かに、バカだな。あぁそうだ。馬鹿だからこそ、やってみないと、分からないのさ」

「……いいでしょう。死んで後悔しても遅いですよ」

「来い」

 

 

 互いに大地を蹴る。鉄の剣と鉄の剣。いつもの木剣とはわけが違う。鳴り響く重厚な金属の音。

 

 互いに、筋の通った美しい太刀筋。全く同じと言っても過言ではない。

 

 清流のような、ユルルの太刀、それを無表情で受け止める。フェイには星元(アート)が使えない。まだまだ、未熟であり星元操作が全くできないと言っても過言ではない。だから、先ほどのアーサーとユルルのような高速には及ばない。

 

 だが、ユルルも、アーサーとトゥルーによって星元(アート)がそがれている。殆ど、残りは無い。

 

 そして、彼女もそれを無意識のうちに使う選択肢を放置していた、それは彼女の僅かに残る良心か、それとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは誰も知る由がない。

 

 

 何度も金属音が鳴る。

 

 

 綺麗な三日月を思わせる太刀、それによって僅かにフェイの右肩に切れ目が入る。だが、それを気にせず、フェイはなぞるような三日月の剣筋。

 

 フェイとは対照的に、それを難なく彼女ははじいた。

 

 二人の決闘は拮抗をしている……ように見えた。だが、徐々に差が開き始める。

 

「もう、止めた方が良いと思いますよ?」

「まだだ」

 

 

 上からの圧倒的な騎士の言葉。勝利を確定させる予言のような物言いをフェイは否定する。だが、肯定をするように、フェイの左肩に剣が刺さる。

 

 ぐさり、っと音がしたわけではない。だが、そんな音が聞こえるようであった。肩から血が溢れ、フェイは舌打ちをしながら、距離と一旦取った。

 

 

「フェイ、もうやめろ。死ぬぞ、僕達と一緒に――」

「黙れ。お前は手を出すな」

「フェイ……ワタシ」

「俺の話を聞いていたのか? 手を出すなと言っている」

「でも、このままだと、その……それに肩、痛くないの?」

「こんなもの、当然だ。これくらいを背負えない様では俺に道はない」

 

 

(傷が当然? かなり深く入ってるぞ。血がかなり溢れている)

 

 トゥルーも流石に目の前で人が死んでしまうのは許容できない。全員で戦って勝てると言うなら。

 

(フェイ……もう)

 

 アーサーもフェイが気がかりだ。二人して、止めようとしたら

 

「なんだ? その眼は? ()()()()()()

 

 ゾクりと、背筋が凍るような、本当に氷河に居るのではと感じるほどの覇気。あり得ない程に研ぎ澄まされたその視線。

 

 

 眼力が二人の口を閉じさせた。

 

 

「ふふ、フェイ君は本当におバカさんですね」

「……」

「だって、もう、貴方の負けは決まったも当然。これ以上何をすると言うんですか?」

「……ふっ、茶番だな」

「……はい?」

「なぜ、あの時に俺の頭を砕かなかった。肩ではなく頭を狙えたはずだ」

「……」

「気に入らない。全てをかけて、殺す気で来い。俺が、全てを受け入れてやる。そして、ここで超えてやる」

「っ……何なんですか、貴方は。一体、私の何を知っているって言うんですか!?」

 

 

 激昂を飛ばし、彼女が襲い掛かる。だが、フェイも負けじと応戦をする。力を込めた肩からは血が溢れる。

 

「ほら、痛いでしょう? もう、やめましょう?」

「やめない。それに、そこまでの痛みはない」

「……あぁ、そうですか。なら、もういいですよ! 貴方みたいな愚者なら何の慈悲もなく殺せます!」

「それでいい」

 

 

 ユルルが剣を振る。それを、捌く。攻防は変わらず、只管に防戦一方。

 

 

「前から、思ってましたけど、貴方才能ないですよ? 魔術適正もない。剣術だって、出来る人は大勢います。貴方の上位互換なんて沢山います」

「だろうな」

「聖騎士は、魔術の方が凡庸性が高いって実は言われているんですよ。そうですよね。剣を一回振るより、魔術一回でそれ以上の成果が出るんですから。これ以上やっても誰にも認められず、落ちぶれて、年を取るだけかもです」

「ふっ、かもな」

 

 

 それは一体、誰に言っているのだろうか。フェイか、それとも自分自身にか。彼女は徐々に分からなくなっていった。

 

 

「貴方はそれでもいいんですか? 聖騎士として貴方が輝く未来は――」

「ククククッ」

「なにが可笑しいんですか……」

「いや、なに……さっきから何を当たり前のことを言っているのか思ってな」

「……」

 

 

 一度、互いに距離をとる。ユルルは眼を鋭くして、フェイを睨む。

 

「どこでも輝く者など居ない。だが、どこでも輝かない人間も居ない。それだけだ。お前がいくら言おうと俺は変わらない。お前をここで叩き潰すだけだ」

「そんなに私が嫌いですか?」

「あぁ、見ていられない。俺はお前の剣が自身の強さに必要であると感じた。だが、今のお前はその価値はない」

「……」

 

 そこから、フェイが僅かに声を荒げた。別に怒声ではない。だが、いつも譫言のような声。そこに確かな重みがあった。

 

「ふざけるなよ。俺が認めた剣がこんなざまなど、断じて許さん。だから、俺が教えてやる。俺が認めた剣をな」

「――ッ」

 

 

 右手で剣を持ち、剣先を向けて、言い切った。そして、再び両手で握った構える。

 

「語り過ぎた。もう、終わりにしよう」

「……」

 

(……私は、私は……。いや、違う。この人も私の事を馬鹿にして、笑って……笑って……)

 

 

 否定をする材料を探そうとした。だが、彼女の中の彼はいつも真剣な目を向けていた。四六時中一緒に居るようなものであったのに。一度も笑う事は無くて、いつもいつも。一生懸命であった。

 

 だから、そこから先の言葉は無かった。

 

 この時点で彼女は負けていたのかもしれない。

 

「くっ、私はまだ……」

 

 互いに走る。そして、彼女は彼の肩に目を向ける、血が出ている。あれ以上の出血は命取りであると言う事を感じていた。

 

 

 

(もう、感覚だってないはず……動きも先ほどより散漫している)

 

 

 彼の走りが僅かに遅くなっている。と彼女は感じた。だが、それは自身もである。

 

 

(もう、両手が……足も……)

 

 

 条件は互いに同じだった。だが、フェイの気迫、そして、その眼力が彼女にプレッシャーをかける。

 

 

「これで、終わり!」

 

 

 だが、彼女の方が僅かに早かった。フェイの左下から、上に向かって一閃を放つ。勝ったと彼女は確信した、

 

(さようなら。フェイ(わたし)

 

 

 そう、思いかけた。それはただあの思い込みであった。剣が届く寸前。彼は体制を低くした。それによって、剣は空に呼び寄せられるように空を切る。

 

 それはフェイが彼女と一緒にずっと鍛えてきたからこそ、分かった間合い。極限の中でプレッシャーをかけ続けた事での相手の視野を狭くし、そして、最後まで勝利を諦めなかった者が掴んだ極限の王手。

 

 

(しまった……ッ!)

 

 

 だが、直ぐに軌道を修正し、斜め上にある剣をそのまま振り下ろす。それをフェイは横の刃で受け止め、そして、次の瞬間には縦に変えた。

 

 

 滝のように彼女の剣が下に流される。そして、そのままフェイはカウンターをする。

 

 波風清真流(なみかぜせいしんりゅう)初伝(しょでん)波風(なみかぜ)

 

 

(あぁ……私の……)

 

 

 彼女の記憶が蘇る。フェイがカウンターの剣技を叩きこむ刃をこちらに向ける。その姿が過去の自分に重なる。何も知らない時。全部があった時のことを。

 

 

(そうか……私は戻りたかっただけなんだ……才能とか、しがらみとか、そんなものに囲まれていた今じゃなくて)

 

 

(父が居て、母が居て、兄が居て、何も考えずに楽しく剣を振っていたあの頃に……)

 

 

 フェイが剣を振る。だが、それは彼女の首に届かず直前で止まっていた。

 

「俺の勝ちだ。文句は?」

「ないです……私の、完敗です……」

 

 

 彼女はただ、笑っていた。これから先、自分はここに居られない事は分かっていたのに。それなのに、その笑顔はとびきりのものであった

 

 

 ■◆

 

 

 

 あれ? 今日先生朝練来ないな?

 

 どうしたんだろう? ポンポン痛かったのかな?

 

 今日は魔術の訓練先生は滅茶苦茶意地悪な爺さんだけど俺はめげないぜ。あ、爺さん、本かしてよ。覚醒したときの為にさ!

 

 

 そんな感じで過ごしてると

 

 

「あ! フェイ!」

「なんだ?」

「大変なんだ。実はカクカクシカじーか!」

 

 

 な、なんだってぇぇ!? 先生が暴走!? これは明らかに俺のイベントだな! しかも、昨日波風習ったばかりだし!!

 

 

「よし、分かった」

 

 

 俺は風になった。これは闇落ちした師匠が弟子から救われるあるある展開だな! いぜいかん! イベントへ!

 

 

 いや、熱い展開だな! 闇落ちした師匠から最初に伝授された技で止めを刺す。そして、救うとか胸が()すぎて、()焼き豆腐ね!!

 

 

 ダッシュで向かうと、アーサーが止めを刺す所だった。危ないなぁ? それは俺のイベントですからね?

 

 

 いやー、本当にこいつは油断ならないな。アーサーとトゥルー俺の出番を取ろうとしてるわぁ。

 

 

 よくさ、マンガとかでも主人公じゃない奴が、人気投票で一位獲っちゃうみたいな。主人公より、主人公してるか、そう言う感じになってしまうんだよね。そう言うのあんまり好きじゃない。

 

 主人公第一主義だよ。

 

 やっぱり、俺が活躍しないと!!

 

 先生やっぱり強い。闇落ちしてもこれって、しかもアーサーとトゥルーにある程度削られてるんでしょ?

 

 いや、強いなぁ。鉄の剣初めて使うけど……まぁ、主人公だからこれくらいの覚悟はありますよ。俺は主人公なのでダイヤメンタルです。

 

 

「フェイ、もうやめろ。死ぬぞ、僕達と一緒に――」

「黙れ。お前は手を出すな」

「フェイ……ワタシ」

「俺の話を聞いていたのか? 手を出すなと言っている」

「でも、このままだと、その……それに肩、痛くないの?」

「こんなもの、当然だ。これくらいを背負えない様では俺に道はない」

 

 

 努力系主人公の怪我は基本。

 

 

 だから、まぁ、別に。気にならん。それに、傷もそんなにね? 

 

 

 主人公は痛みに耐えるの基本だし?

 

「なんだ? その眼は? ()()()()()()

 

 

 俺の出番を取るな。これは弟子イベントだ。

 

 

 あー、先生。ちょっと剣が変だな。いや、弟子として言うけど、いつもよりキレがないね……上から目線で申し訳ないけど

 

 

 まぁ、なんやかんやしてと……最後は波風は実はずっとどうやったら、カッコよく決まるか、頭の中で考えた事したら上手く行った。

 

 

先生と戦いながら、これ絶対、波風で勝負つけないといけない使命感を感じていた。

 

 

絶対に波風で決めた方がカッコいいし、先生も感動で闇落ち救われるだろうし。

 

 

 

最後は、三か月の訓練とか、色々頭の中に浮かんで何となくでやったらうまく言ったぁ。これが主人公補正か……。

 

「俺の勝ちだ。文句は?」

「ないです……私の、完敗です……」

 

 

先生は笑っていた。ありがとう先生。今日の俺、まさしく主人公だったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




モチベになりますので面白かったら、感想と高評価よろしくお願いいたします!!

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