『書籍化!』自分の事を主人公だと信じてやまない踏み台が、主人公を踏み台だと勘違いして、優勝してしまうお話です   作:流石ユユシタ

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18話 レタス畑

「えー、今日は急遽君たちに集まってもらったわけだけど……」

 

 

のんびりとした話し方でマルマルが訓練場で若手聖騎士数名に要件を伝えていた。フェイ、ボウラン、アーサー、トゥルー、エセ、カマセ。なぜこのようなメンバーで訓練が再び始まったのか。

 

それは、今期の騎士団団員が次々と死んでいっているからだ。既に死んだ数は六名。仮入団期間を終わった聖騎士がここまで速く死んでいくのは異例と言う事で、何らからの措置をしなくてはならないと言う事で再び訓練をすることになる。

 

任務も行いながらの訓練。これはかなり体に負担がかかる。

 

 

「じゃ、取りあえず走り込みからね」

 

 

マルマルが始めと、手を叩く。そうすると全員が荒野を走り出す。一番に飛び出したのはフェイであった。グングンと他の者達と差をつけていく。星元なしの走り込みでは彼に勝る同期はほぼいないのだ。

 

 

そこへ、無理にペースを上げたエセがやってくる。

 

 

「フェイ、久しぶりやな」

「……エセか」

「せやせや、まぁ、別に挨拶をしたいわけやないねん……あの金髪の女の子、同じ部隊やったんやろ? 紹介してくれへん?」

 

 

走りながらエセがフェイに話しかける。エセの眼にはチラチラとフェイを見るアーサーの姿があった。フェイに話しかけたいが、エセが邪魔だなと思っていることを彼は知らない。

 

 

 

「アイツとはそれほどの仲ではない」

「え? でも、さっき話しとったやろ?」

「……レタス」

「レタス?」

「レタスの感想を聞かれた」

「は? どういう意味なん」

「俺が知るか。もう行く」

 

 

フェイが更にグイッと一段階スピードを上げる。星元なしの純粋な力。それによってエセは突き放された。すると、待って居たと言わんばかりにアーサーがフェイに追いついた。

 

 

「フェイ」

「……」

「さっきの人、知り合い? 友達?」

「……アイツとはそれほどの仲ではない」

「え? でも、結構楽しそうだった」

「……アーサー」

「ワタシ?」

「お前の事を聞かれた?」

「え? どうして?」

「……さぁな。俺はもう行く」

 

 

グイッと更にスピードを上げるが、アーサーは振りきれず。

 

 

「レタスが美味しく食べられるドレッシング欲しい?」

「……無駄口を叩くな。黙って走れ」

 

 

デジャブとレタス推しの謎のアーサーを気にせず彼は訓練に取り組む。フェイは真面目なのである。そのままフェイは一位で訓練を終える。

 

 

 

そして、純粋な筋力的なトレーニングの後は星元を使用してのダッシュ訓練が行われた。

 

一番、遅かった者には罰ゲームがあると言う。純粋な筋力であるならフェイだが、星元操作をするとなると結果は異なる。

 

先程とは打って変わり、最下位はフェイであった。

 

 

「じゃ、フェイ。君には罰ゲームとして……そうだな。かなり疲れて限界だろうから、素振り百回してもらおうかな?」

「む……」

 

 

 

マルマルの言葉にアーサーが反応する。

 

(この先生、フェイの事を舐めすぎ……フェイはもっと頑張り屋さんで、たかが百回程度で限界じゃないのに。それが限界みたいに言うの、本当にダメ)

 

 

(えっと、こういうのって、どういう感じで言えば……あんまり強く言うと豆腐の角が立つし……)

 

 

「先生」

「ん?」

 

(フェイには、素振り回数をもっとやらせても良いって言おう。ポテンシャルが高くて、一生懸命で、集中力のあって、意識の高いフェイなら素振り回数そんなんじゃ満足しないはずだしね)

 

「フェイには、素振り回数、0が1個足りないと思う。それくらいやらせるべき」

「E?」

 

 

周りからは煽っているのかこの子? と言う視線を向けられるが彼女はそれに気づかない。

 

それを聞いていたフェイも僅かに怒る。

 

(――流石、ジャイアントパンダライバル枠……的確に嫌味を主人公である俺に言ってくるな……ひじょーに、ムカつくが……良いだろう。乗ってやるよ!!!! そして予想を超えてやるよ!!)

 

 

「元より増やすつもりだった。そして、0は2つの間違いじゃないか? アーサー」

「……フェイ」

 

 

(流石、フェイ……ワタシの考えの上を行くだなんて……でも、ワタシと考えは近かった。やっぱりフェイの事をワタシが一番理解してる)

(こいつ、俺が10000回素振りするって言ってるのに……驚かない。お前程度に出来るのか? って煽ってるのか? 絶対やってやるよ)

(頑張れ。フェイ)

(こいつ、無表情で俺のこと見やがって……滑稽だなって思ってるのか? いずれ、主人公の俺の踏み台にしてやるから覚悟してろよ)

 

 

 

「えっと……じゃあ、訓練はここら辺にしておこうかな?」

 

 

マルマルが居た堪れなくなって、訓練を終わらせた。

 

 

■◆

 

 

 素振りを終わらせ、既に辺りは真っ暗に。いつもの通りユルルが夜練をしに三本の木の元を訪れる。

 

「えっと、フェイ君。汗びっしょりですが……」

「問題ない」

「今日は訓練止めておきませんか?」

「やる」

「でも、皆さんフェイ君を待っているみたいですよ?」

 

彼女の目線の先には今日フェイと一緒に訓練をこなした聖騎士たちの姿が。フェイが来るのを待って居るのだろう。訓練終わりに騎士団の浴場で汗を流そうと全員で話している。

 

だが、フェイがなかなか来ないので待って居るのだ。

 

「なぁ、フェイ。ワイ達と風呂行こうや」

「――だが断る」

「即答かいな!?」

「フェイ君、今日は同期と親睦を深めてください! 師匠としての助言です!」

「――そうか。お前が言うなら何か意味があるのだろう」

「なんや、お前。その女の子の言う事は聞くんかい」

 

 

 

ユルル師匠の言う事には意味があると言わんばかりにフェイは浴場に向かう。だが、ユルルは行きにくいと言う表情だ。彼女はあまり騎士団の浴場や施設を使いたがらない。

 

ボウランがそれに気づいて声をかける。

 

 

「なんだ? 先生は行かないのか?」

「えっと、私は」

「アタシたちが一緒だから、一人じゃないぜ! 一緒に行こうぜ!」

「……そう、ですね。アーサーさんも一緒みたいですし……一人じゃないなら行っても良いかな」

 

 

 僅かに乾いた笑みであったが、一人ではないならと彼女は浴場に向かった。

 

(……行っても良いのかな)

 

 

何かを言われたり、ひそひそと言われたりしないかなと心配になる。だが、そんなことは全く無かった、確かに何か言われたりはしていた。

 

だが、隣にはフェイが居て、それが気にならなかったから。腕を組み仏頂面な彼が隣に居るだけで何となく心強かった。

 

 

アーサーやボウランも彼女にとって心強くて、良い生徒に恵まれたと感じる。フェイと彼女は男女で別れて入ってしまうが近くに居ると思うだけで心強かった。

 

一通り、体を洗うとユルル達3人は湯船に浸かる。

 

 

「はぁ効くぜー」

「ん、気持ちいいね」

 

 

ボウランとアーサーの湯船に浸かる姿にどこか色気を感じたユルル。自分より年下なのに、自分よりも色気を感じて複雑な心境になる。

 

「ボウランさんもアーサーさんもお綺麗ですよね」

「え? まぁね。でも、先生も可愛いと思うぜ」

「確かに、先生も可愛い」

「そ、そうですかね?」

「なんかこう、子供みたいで可愛い!」

「こ、子供……」

 

年下に子供と言われたと彼女は少し落ち込む。そこへ、隣の男風呂から声が聞こえる。

 

 

「ふぇ、フェイ! お前、なんやそれ!? でっか!? こっちが恥ずかしいわ! カマセ、お前まじで隠した方がええぞ。フェイを竜とするなら、お前は土竜(もぐら)や!」

「か、格が違う……」

「ぼ、僕様も下半身に血流が流れればそれくらい!」

 

 

エセ、トゥルー、カマセの驚く声が聞こえてくる。かなりの大きな声なので女風呂にもその声が響いた。アーサーとボウランには何の話か分からないが、ユルルには分かった。

 

 

(フェイ君……そんなに大きいんだ……)

 

「何の話だろうね?」

「さぁ、アタシには分かんねぇ。先生わかる?」

「さ、さぁ? な、なんでしょうねぇ?」

 

適当に分からないふりを彼女はしておいた。だが、分からないアーサーとボウランは話を続ける。

 

 

「フェイのナニが大きいんだろう」

「鼻じゃね?」

「フェイ言う程大きくないよ。スッとして高い鼻だし」

「あーそっか。アイツ、顔のパーツ良い感じだしな。結構イケメンだよなー。目つき悪いけど」

「フェイは、目つき悪いけど悪い子じゃないよ」

「え? 何お前。分かってるよ感だすじゃん」

「実際、ワタシが一番フェイの事分かってる気がする」

「へぇ、好きな食べ物って分かるのか?」

「フェイはね、レタスが大好きだよ」

「なんで?」

「フェイは偶にパン屋さんに行く。ワタシも買いに行くから偶に会う。そこでフェイはいつもハムレタスサンドを買ってるから……ワタシは確信した。フェイはレタスが好きだって」

「ふむふむ、そう言われるとそんな気もするな!」

 

 

 アーサーの迷推理。そして、あまりにピュアになってしまっているボウランを横で見ていたユルルは乾いた笑みを浮かべる。

 

(――フェイ君、ハムが好きだから買ってるんじゃ……あと、ボウランさん、ピュアすぎです……)

 

 

「だから、この間色々お礼したい事あったからレタス3つ袋に入れてプレゼントした」

「どうなったんだ?」

「あぁ、って言いながら受け取ってくれたよ。眼三回くらいパチパチしてたから、びっくりするくらいよっぽど嬉しかったんだと思う」

 

 

(――それ、プレゼントがトリッキー過ぎてフェイ君驚いてたんじゃ……鵜吞みにし過ぎです……ボウランさんも)

 

 

 ――迷探偵アーサー。

 

彼女の推理に理解などない。理解などできない。彼女の推理は理論的に紐解くのではなく、ただ感じるのみ。

 

 

「おお! 確かにそうかもな! しっかし、アイツレタスが好きだったのか!」

「今度、レタスに合うドレッシングもあげようと思ってる」

「ドレッシングかぁ!」

「きっとフェイの頭の中には妄想のレタス畑があるくらい好きなんだと思う」

「そうなんだ! アタシも覚えておくぜ!」

 

フェイがレタス好きと言う謎の個性が付与されていく。

 

 

「そっかー、アタシも今度からアイツに何か渡すときはレタスにしておくぜ!」

 

 

(ボウランさん……ピュアすぎです。私もちょっと見習わないと……いけないかも)

 

 

――ピュアボウラン爆誕!!

 

 最初の刺々しい感じはどこへやら。彼女は大分丸くなっていた。ボウランはピュアボウランに進化した。

 

 

そして、フェイの誕生日には大量のレタスが送られる事だろう。ユルルはフェイのプレゼントにはハムをプレゼントしようと決めた。

 

 

 

■◆

 

 

 

 

 

 虫食いのように、記憶が所々空いている。思い出せない。でも、恐怖であると言う事は分かる。それが、■リアを殺しかけた記憶であると言うのを覚えている。

 

 母は金髪……であったような気がする。でも、実際私の母は赤髪で……。

 

 私は村娘。普通に育って、魔術適正があって剣術の才能があったから、母を殺されてその恨みを晴らすために……。

 

 

 自分を見失う事がある。記憶に疑惑を持ってしまう事がある。私は、だれ、だっけ?

 

 

 私は■リア……? それとも■リア……?

 

 

 

 

 

 

 

 




https://kakuyomu.jp/works/16816700427392241098


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