『書籍化!』自分の事を主人公だと信じてやまない踏み台が、主人公を踏み台だと勘違いして、優勝してしまうお話です   作:流石ユユシタ

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第三章 灰色開花編
20話 フェイの隣は誰だ!?


 王都ブリタニアにはいくつもの料理の名店が存在する。お昼や夕食の時間には人でそこはいっぱいとなる。

 

 その中でもスパゲティが美味しい『グランド』と言う店がある。味よし、内装よし、店員よしと言う人気が出て当たり前の店と評価される。

 

 男女ともに人気であるが、特に店員が美人であることで有名で特に男性に支持されているのだ。

 

「ねぇ、フェイ。偶には一緒にお昼に行かない?」

「……なぜだ?」

「なぜって……フェイって大抵ハムレタスサンドしか、お昼食べてないでしょ? 偶には趣向を変えて、名店のご飯食べたりしなきゃ」

「……ハムレタスサンドの事を言ったつもりはないが」

「フェイはちょっとした有名人よ。パン屋のハムレタスサンド絶対買うマンって言われているんだから」

 

 

 赤い花の髪飾りをしたマリアが朝食のハムレタスサンドを食べているフェイの前でくすくすと笑う。

 

「せっかく、だしさ。私と一緒に、どうかな? いや、なら別にその、やめるけど」

「……俺は昼食を嗜むより、剣を振るのが合っている」

「そっか……じゃあ、やめようかな」

 

 

 マリアが少し悲しそうに笑いながら昼食をフェイと共にするのを諦める。すると、マリアの隣に座っていたレレが声を上げる。

 

「え! いっしょにいってくればいいじゃん! ふぇいもはむれたすさんどしかたべないと、はむれたすおばけになるよ!」

「……そうか、俺はそれで構わん。お前が一緒に行くといい」

「ぼくはけんのくんれんがあるから!!」

「奇遇だな。俺もだ」

「むむ、でもー! まりあ、ふぇいといっしょにごはんいきたいってまえからいってたからいってあげて! いきぬきしないとしゅぎょうもしゅうちゅうもできないとおもう!」

「……一理あるな……修行の合間であるなら。考えておこう」

「ふふ、ありがとう。レレ」

 

 

レレの必死の説得により、フェイが一緒にご飯に行けるようになったマリアは嬉しそうだった。マリアはレレが一緒に行けなくて寂しそうな自身の声に反応をしてくれたと思っている。

 

だが、実はレレはフェイをお父さん、マリアをお母さんのようだと勝手に思っており、出来れば二人に結ばれて欲しいと思っているとは誰も知らない。

 

レレの中では右手をフェイに、左手をマリアに握ってピクニックに行くイメージまで勝手に進んでいる。

 

 

無垢な少年の気遣いによってマリアは食事を勝ち取ったのだ。

 

 

■◆

 

 

 

ユルルとの午前の訓練を終えたフェイ。彼はマリアとの昼食の為に聖騎士の銅像の前で待ち合わせをしていた。

 

 

仏頂面のフェイ、赤い花の髪飾りを付けた笑顔のマリア。二人が並んで歩き、とある店に足を進める。そこはグランドと言う名の人気店だ。

 

「ここなの。凄い美味しいんだって」

「そうか」

「そうなの。だから、一緒に――」

 

 

マリアがそう言いかけた時、

 

 

「あれ? フェイ君……?」

 

 

 

同じくして、その店に立ち寄ろうとしていた者が居た。先ほどまでフェイと一緒に訓練をして、午後も一緒にしようと約束をした剣の師。その名を、ユルル・ガレスティーア。

 

 

「奇遇ですね。このお店に来る……な、んて……」

 

 

ユルルがフェイの隣に居る女性に気付く。

 

 

「え? あ、え? あ、あの、その、人は……」

「あぁ、孤児院のシスターのマリアだ」

「あー、そういう。えっと、彼女さんとかでは」

「ない」

「そ、そうでしたか……」

 

ユルルはフェイに悟られないようにホッと一息ついた。

 

ユルルがガールフレンドではないと知り、安心感で体が包まれていた時、マリアはユルルを見て、複雑な心境だった。

 

 

(ユルル・ガレスティーアさん……名前も姿も勿論知っていたけど……フェイと師弟関係……って、それだけだと思っていたけど、違うみたい)

 

 

今の反応を見て、マリアは察した。この人も自身と同じようにフェイの事を特別な異性として見ていると言う事を。

 

 

「お前もここで食べるつもりだったのか?」

「そうですね。ここ凄く美味しいみたいで一回食べてみたくて……でも、なんか、お二人のお邪魔のような……」

「俺は気にしないが……どう思う」

「そうね。私も気にはしないかな……」

 

 

 

少しだけ歯切れが悪そうに言ってしまうマリア。本当は二人きりの時間を過ごしたいと思っていたが、フェイがいつもお世話になっている恩師の手前そんな言い分を通すことも出来ない。

 

だが、ユルルもマリアを見て何かを察する。

 

 

(あ、この人、もしかして……私と同じ……)

 

「えっと、私、やっぱりやめようかな……ハムレタスサンドの気分になってきたかもしれません」

「気を遣うな。入れ。お前はここで食べたかったのだろう?」

「え、えっと」

「早くしろ。くどい」

「す、すいません。お邪魔しますね……」

「い、いえ、気にしないで……」

 

 

マリアとユルルは互いによそよそしくなってしまうがフェイは気にせず入店し、席に着く。丁度、三人が座り席は満席。一応、全く知らない人と相席をすれば座れない事もないがそう言う事をする者は稀だろう。

 

 

木の大きめの四角テーブル。ユルルとマリアが何故か隣に。反対にフェイは一人で座る。

 

 

「あ、え、えっと、私は何にしようかな……マリア先輩はどうしますか?」

「え? あぁ、そうね。私は……」

 

 

互いに互いの状況を知っている。マリアはガレスティーア家の事、ユルルは孤児院のシスターだが、元復讐者で年上の元聖騎士の先輩。凄い実は気まずい。

 

だが、そんな女性二人のよそよそしさを知らずフェイは通常運転であった。

 

 

(あそこの人の食べてるナポリタン旨そうだな。あれにしようかな……二人は何だか、よそよそしいな。ははーん、さては、メニューが魅力的過ぎて決められないな?  

急かすのも悪いから決まるまで()()()()()()。俺は気遣いのできる主人公だからな!!)

 

 

(ふぇ、フェイ君何か話してください……私、マリア先輩とは一度も話したことは無いんです……そ、それに互いにフェイ君を……)

 

 

(き、気まずいなぁ……互いにフェイを意識してるのを勘付いているから尚更……)

 

 

「わ、わぁぁ、ここのスパゲッティ凄く美味しそう! そ、そう思いませんか? マリア先輩」

「そ、そうね。凄く美味しそう……」

「「……」」

 

 

無理にテンションを上げようとしても、上手く行かない。互いにフェイを意識しているのを感じ取ってしまっている。同じ人を好きで、三角関係状態、これは気まずくてしょうがないのだ。

 

(フェイ君話してください! お願いします!)

(お願いフェイ。何か言って!)

 

 

二人の願いは通じず、フェイは腕を組んで遠くを眺めている。

 

(二人とも迷ってるなぁ。意外と食いしん坊なんだな……お、あそこの人が食べてるエビピラフも美味しそう)

 

 

「わ、私はこのミートスパゲッティしますね!」

「それじゃあ、私は……ナポリタンにしようかな」

「ふむ、では俺はエビピラフにしよう」

 

 

フェイが手を上げると、店員が寄って来る。フェイが代表をして注文をオーダー、再び沈黙に。

 

 

「え、えっと、ユルル、さん? フェイはいつもどんな感じなの?」

「フェイ、君は凄い頑張ってます……」

 

 

気まずい感じが強まって行く。

 

 

(どうしよう、凄く気まずい。フェイ君は普段から寡黙だから余り話したりしないだろうし……それにこのマリアさん、凄く美人。私みたいな幼児体型と違って、大人の色気のある肉体美。こんな人が相手とか……自信無くなるなぁ)

 

 

(そっか……フェイの師匠さんはこんなに可愛い人だったのね……私なんて、もう、行き遅れみたいに思えてきちゃうな……優しそうで顔立ちも整って、フェイのこととか誰よりも理解してそう……)

 

 

((自信無くなるなぁ……))

 

 

 

互いにため息をつく。隣の芝生は青く見えるどころではなく、金色に見えているのかもしれない。

 

 

フェイの事が好きだけどだからと言って強気に出れない二人。沈黙の時間が徐々に大きくなっていくその時!

 

 

「えー! 満席かよ!」

「……残念。ボウラン、店変える?」

「いや、アタシはここで食べたいんだよ! でも、知らない人と相席もなぁ……あ!  フェイと先生じゃん!」

「……フェイ」

 

 

まさかのボウラン&アーサー参戦!!

 

 

「なぁなぁ、席一緒に座って良いか? アタシたちもここで食べたいんだけど……」

「俺はあまり騒がしいのが――」

「フェイはあんまり大勢の感じ好きじゃないから、ダメかもよ?」

 

 

――知ったかアーサー爆誕!!

 

 

フェイが言い切る前にアーサーが知ったかをする。しかもそれが当たっていると言う奇跡。フェイもつい口を閉じた。

 

 

「ええー? アタシパスタ食べたい!」

 

 

駄々をこねる子供のようにボウランはやだやだと首を振る。

 

 

――駄々っ子ボウランが爆誕した!!

 

 

「……迷惑かも」

「私は構わないわ。フェイの友達なら」

「マジ!? ありがと、金髪姉さん!」

 

 

聖女マリア、まさかの受け入れを宣言。

 

「じゃあ、ワタシ……フェイの隣で」

 

 

さらっとフェイの空いていた隣に座るアーサー。そして、アーサーのもう片方の隣にボウランが座った。

 

 

「えっと、アタシはー、このナポリタンで」

「ワタシは……エビピラフにしようかな?」

 

 

二人は注文をして、何でも無いように座る。

 

「えっと、そっちの姉さんは……」

「フェイが住んでる孤児院のシスターよ。よろしくね」

「おお、アタシはボウランだ! よろしくな!」

「ワタシ、アーサー」

「ボウランさんもアーサーさんも今後ともフェイをよろしくね?」

「任せておけ!」

「勿論……言われるまでも無い」

 

 

 

ボウランとアーサーがフェイの事は任せろと胸を張る。フェイからすれば面倒などかけているつもりもない。

 

 

ボウランがマリアに質問とかをしていると

 

「お待たせしました! エビピラフです!」

「あ、フェイの来たみたいね」

「そのようだな」

 

 

ずっと黙っていたフェイの注文品が真っ先に届く。

 

「フェイもエビピラフ?」

「そうだ」

「ワタシも、そう。気があうね」

「偶々だろう」

 

 

仏頂面でフェイは腕を組んだまま折角来たのに食べない。それを見てアーサーが不思議そうに首を傾げる。

 

 

「フェイ、食べないの?」

「……」

「フェイ君はきっと待って居てくれてるんですよ」

「そうね、フェイは優しいから」

「む……ワタシだって、それくらい分かってた」

 

 

ユルルとマリアに対抗するようにワタシも本当は分かっていた感を出すアーサー。

 

ユルル、マリア、アーサー、ボウラン。この美人四人、厳密には五人だが誰もが羨ましがるほどの美人。それを周りでは疎ましく思う者も居た。そして、その中でも一際殺気を立てる者が一人。

 

 

 

(っち、アーサーを監視してたらこんな不快な物を見る羽目になるとはな!!)

 

 

 

過労死と恋人であるサジントである。

 

 

 

(あ? おいおい、何だよアイツ! 前から気に喰わなかったけど! 余計に気に喰わんわ!!)

 

 

 

アーサーの監視。その名目で全然知らないおじさんと相席をしていたサジント。服装、髪型を変え何処にでも居る一般人のように振る舞う。

 

まさか、彼が三等級の聖騎士だとは誰も思わないだろう。

 

 

「え? エビピラフ旨そうだな! アタシ一口くれよ!」

「断る」

「んだよ、ケチだな。お前って意外と器小さいんだな」

「っち……ほら」

 

 

眼の前では舌打ちをして面白くなさそうにフェイがボウランに皿を差し出す。ボウランは大きなエビの所をガッツリと食べる。

 

「おー、美味いな! あとでアタシのもやるよ」

「いらん」

「もう、フェイ。お友達にそんな冷たい対応はダメよ」

「アタシは大丈夫だ!」

「フェイはいつもこんな感じ。でもワタシはこれが良いと思う」

 

 

(ワタシはフェイの良さを分かっている……この中で分かっているのはきっとワタシだけ)

 

 

 まさか、この中の全員が良さを分かっているだなんて夢にも思っていない知ったかアーサーであった。

 

 

「フェイ君、私がこの間作ったマフラーは使い心地どうですか?」

「普通だな」

「もう、フェイ。そう言う言い方はダメよ」

「あ、私は大丈夫です」

「――フェイはいつもこんな感じだからね」

 

またしてもアーサーは知ったかをした。

 

(ワタシは分かってる、フェイのこと)

 

知ったかをする自己完結美女、それがアーサーである。

 

そして、美女たちに囲まれているにもかかわらず、まるで大したことは無いように振る舞うフェイ。

 

 

(クソがぁかか!!? 人生悔い改めろよ!! 本当に羨ましい……あれってマリアだっけ? そして、ユルル、アーサー、ボウラン、全員可愛いじゃん! なんでスカシてるんだよ!)

 

 

「あ、あの、フェイ君、もしよかったら私のスパゲッティ、一口……あ、あーんしてください」

 

 

 いつまでたってもあそこの席は不愉快だとその店に居る客たちは全員思った。ユルルが恥ずかしそうにフェイにスパゲッティをあーんしようとするところなんか、全員が舌打ちをしてオーケストラと化す。

 

「っち」

「っち」

「っち」

「っち」

「っち」

 

 

勿論、フェイはそんなあーんなどで食べたりはしない。だが、それがどれほどの夢であろうか。どれほど崇高な願いであろうか。彼は知らない。余計に周りは鬱陶しい。

 

「スカしてるなぁ」

「あれがカッコいいと思ってる?」

「女とか居てもねぇ? 別にさ、男だけの方が気楽だしさ?」

 

 

男性客が血涙をこぼしながらフェイを見る。そして周りの美女を見て、精神に大きな負担をかける。

 

 

「……フェイ」

 

ユルルにあーんをされかけたフェイを見て、マリアは少し悲しくなる。やはり、自身では釣り合わないように感じた。

 

 

(ふぇいは私のだから!!)

 

 

「――ッ」

 

 

 

ぽとりと、彼女の赤い髪飾りが膝に落ちる。そして、それをしまって、青い花の髪飾りを付ける。その直後、彼女もスパゲティをフォークに巻き付ける。

 

 

「ふぇい、あーんして? このスパゲティ凄く美味しいから」

「いらん」

「ふぇ、フェイ君、せ、折角ですから」

「いらん」

 

 

(クール系は、あーんとかして貰わないのは基本)

 

 

美女二人のあーんを断るフェイ。それがさも当然のようで周りは激怒。リリアとユルルからすれば少しだけ恋人のようなことをしてみたいと言う願望が見え透いているため、周りは更に嫉妬する。

 

しかし、嫉妬の対象はクールに冷めている。

 

 

(この状況……二人の女性にあーんをして貰うか……勿論、俺はそれに乗ることはしない。だが、仮に乗るとしても俺の口は本来一つしかない。それなのに、二人揃ってスパゲティを差し出す。ユルル師匠がこれをすると言う事、即ち、これは……)

 

 

(一つの口に、両方向からのスパゲティ。自身一人では対処できない何かが来ると言う伏線とも考えられる)

 

 

(俺はクール系主人公、あまり協力をし過ぎるのは適切ではない感じもする。だが、先日のエセとカマセの件もある。偶にほどほどになら協力をするのもありか……もし、俺が組むとしたら誰だ)

 

 

考えているとアーサーがスプーンにエビピラフを乗せていた。これで三方向からあーん状態となる。

 

 

「フェイ、ワタシのエビピラフ……」

「一番いらん。俺もエビピラフだ」

 

 

(アーサーのエビピラフを断るのは基本)

 

 

「アタシのやるよ。皿によそっておくからな!」

 

 

(ボウランは、まぁいいや)

 

 

 

ボウランがさっさと勝手にフェイの皿にスパゲティを置いた。結局、フェイはボウラン以外からのスパゲティ、エビピラフは貰わなかった。

 

 

尚、フェイが華麗に全員分の食事代を払って、周りがさらに激怒することになったのは言うまでもない。

 

 

(ふぇ、フェイ君、まるで私はエスコートを受けている気分で幸せです!)

 

()()()、やっぱり好き!……()()()、ありがとう……)

 

(フェイ、やっぱり紳士的……ワタシは知ってたけど)

 

(コイツと一緒に飯食えば基本タダになるのか……最高じゃん!)

 

 

 

■◆

 

 

 さて、昼は色々騒がしかったが……午後も剣の訓練をしなくてはならない。それにあれが伏線ならどこかでパートナーとか探したりする必要があるのか?

 

 

 ユルル先生より、一足先に三本の木の所で食後の軽い運動をしつつ剣を振る。すると誰かが歩いてくる。

 

「フェイ……またお前は剣を振っているのか」

「……トゥルーか」

「……お前に言いたいことがある」

「なんだ?」

「シスターの事だ。お前が守ったと聞いた」

「そんなことか」

「……僕にとっては重要な事なんだ」

「そうか。あれは俺にとっては大したことではない」

「だとしても……一応、礼を言っておく。もし、シスターに何かあったらあの孤児院は終わりだった」

「それを言うためだけにここに来たのか」

「そうだ。僕はその為だけにここに来た」

「そうか」

 

 

 普段は全然話語りしない癖に。この状況でトゥルー登場……まさか、俺のパートナーはお前か? トゥルーよ……

 

 一瞬、ボウランとかアーサー、ユルル師匠、大穴でマリアとの共闘が頭を過っていたが……そうか、トゥルーが居たか。

 

 

 思えば俺の鳩尾で元気になったからな。それで俺の事を尊敬して相棒ポジになる可能性もあったのかもしれん。

 

 

 ――トゥルー俺のパートナー説を提唱したい。

 

 

 

 

 

 

 


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