『書籍化!』自分の事を主人公だと信じてやまない踏み台が、主人公を踏み台だと勘違いして、優勝してしまうお話です   作:流石ユユシタ

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3話 主人公、その名はアーサー

 なんやかんやで二年が経った。ラスボスを見据えて、剣を必死に振り、常に高みを目指す俺。向上心の塊である主人公である俺。これには孤児院の奴らもビビってたなぁ。尊敬の眼差しって言うかさ。トゥルーは決闘の後からは、あれっきり全然かまってこないし。ビビってんだなぁ。

 

 それとも、もう出番がない? モブキャラだから、出番が終わったらもう、関わるイベントももうない感じなのか、どうなのか、知らないが。まぁ、俺は俺の事を考えよう。

 

 俺は聖騎士として活躍するために、ブリタニア王国、王都の円卓の騎士団と言う騎士団の入団試験に馳せ参じていた。

 

 孤児院からそこまで距離も無いので、いつでも帰れると言う状況。だが、騎士団には宿泊できる寮みたいな感じのがあるらしい。

 

 うーん、主人公として直ぐに実家に帰るのは、なんかな……と思った俺は、英雄になるまで俺は帰ってこないみたいな感じでマリアに

 

「俺は、成すべきことを成すまで帰ってこない……それまで、さよならだ、マリア」

 

と言っておいた。そしたら、マリアが泣き始めて、もう、会えないとか、そんな嘘つかないでとか言い始めるので、ちょっと困った。マリアって心配症でいい奴なんだなと改めて実感。

 

 

 そのまま俺は円卓の騎士団の入団テストを受けに、王都ブリタニア、騎士団本部に訪れていた。大きな建物だ。近くにブリタニア城があるが流石にそれには及ばない。ただ、何と言えば良いのか、横に大きく、縦に大きいアパートのような感じだ

 

 四階建てくらいかな? 入団テストを受ける受験者は受付を済ませて外で待てと言われているので俺は待ちながら周りを見る。

 

 

俺のほかにも同年代のやつらが居るなぁ。

 

 どう考えても、俺の踏み台ですね。ありがとうございます。俺は自身の事を過大評価も過小評価もしない。だが、評価をするならば常に最高。だって主人公だからね。こいつらに負けるはずないよね?

 

 そして、驚くことにトゥルーが騎士団に入団するためにテストを受けるらしい。あれま、マジか? 全然知らなかった。まぁ、放っておこう。

 

 さーてと、他の受験者にちょっかいを出してもいいが、この二年間で俺がクール系主人公であると言う生き方が染みついているので何もしない。ただ、じっと試験が始まるを俺は待つ。

 

 

 クールに近くの木に寄りかかり、腕を組み目を閉じる。これぞ、主人公的カッコいいスタイリッシュな待ちの姿勢。

 

 まぁ、そんなに待たないだろうなぁと思っていると……誰かが俺のポジションに近づいてきたので眼を開ける。金色の綺麗な髪、それが腰まで伸びている。眼は右が菫、左が蒼。体の凹凸もしっかりしていて美しい少女。

 

 うわぁ、ガチガチの美人……。

 

 何で、この子、俺の元に来たのだろう? もしかして、一目ぼれか!? あー、その説アリだな。主人公だし、この子、ヒロインの可能性も出てきたな。となるとマリアはヒロインではなかった?

 

 

うーんと考えていると……騎士団本部の建物中から誰かが出てきた。

 

「はーい、未来の英雄たちこんにちわー。僕の名前はマルマル、五等級聖騎士をしているものだー」

 

 気の抜けたような声。青い髪に青い眼のイケメン男性。前世の俺なら絶対嫉妬をしていた。ああいう奴はモテるからだ。だが、しかし、今の俺は主人公、可愛いヒロインが寄って来るので嫉妬などしないのである。

 

 それにしても五等級聖騎士から。このブリタニア王国の聖騎士は誰もが十二から一までの等級を言う概念を持ち、数字が少ない程に優れた騎士であるとされているらしい。五か……まぁ、ぼちぼちだな。俺はどうせ未来の一、いや零くらいの器だからな。

 

「さて、そんなわけで入団テストをするんだけどー。まぁ、騎士はいつの時代も不足してるからー、ここに居る君たちはもう、合格と言ってもいいくらいなんだよねー。仮入団からの訓練が大事って言うか……」

 

 

あー、試験官がそう言うことを言っても良いのだろか? 確かにこの世界の聖騎士はいつもいつも、危機的状況に身を乗り出す。だからこそ、成りたくない者が大多数なのだ。

 

 

だが、給料はそれなり。だから、少数でもこうやって集まるのだ。まぁ、俺はそんなスケールの小さい事は言わないがな。

 

「てなわけだから、気楽でいいからー。と言うわけで、まぁ、一応適正テストみたいな? そんな感じのをするからさ。二人組を作ってくれるかな?」

 

 

「え、どうする?」

「俺と組もうぜー!」

「しょうがねぇなぁ!」

「私と組んでくれる人!」

 

 

先程の既に合格と言う言葉を聞いたからだろう。一気に同年代の踏み台たちが気の抜けた声をあげる。何と意識の低い事か。まぁ、俺は主人公なので、常に全力である。気を引き締めて……あ、二人組どうしよう……

 

「ねぇ」

「……」

「貴方に話しかけてる……」

「俺か」

「そう……逆にあなた以外に誰が居るの?」

「そうか……それでどうした?」

「どうして、そんな顔してるの?」

 

 

……もしかして、この子俺の事をブスと言っているのか? 先ほどの金髪美人が俺に話しかける。ちょっと嬉しい気持ちあったのだが……そんな顔してるってなに? 

 

「どういう意味だ?」

「そのまんま……ほかの子は皆気を抜いてる。でも、貴方だけ、抜いてない……どうして?」

 

あ、そう言う意味ね。馬鹿にしているかと思った。なんか、感情の読み取りにくい子だな。美人だけど、人形みたいに冷めていると言うか……。まあ、顔がイチバンだけどさ……

 

「お前は何を当たり前のことを聞いている? 常に己を超さねば成長はない。ただ、それだけだ」

 

いや、どうしてこうも名言がどんどん飛び出してしまうかね? いやー、俺は流石だな。

 

「……なるほど。そう言う事か……気付いてたんだ」

「……んん?」

「あの人、合格にするとは言った。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これから命を懸けて聖騎士として活動するのに、試験が何も無いなんてあり得ない。これは、いかにぬるま湯でも己を律することが出来るか、そう言うのを見られている。その裏の評価項目に最初から気付いてたんでしょ?」

「……フッ、当然だ」

 

 

全然気づいていなかった。そんな意図があったのね。知りませんでした。だが、やはり俺は主人公、大抵のことは上手く行くのである、流石俺。

 

「……私と組んで」

「……構わん」

 

 

やはり、こんな美人の子と組めるなんて……俺は主人公だ。世界が味方している。

 

「さぁて、皆、組めたみたいだね。試験は簡単、そして必ず合格すると言う事を先に言っておこう。さて、試験だが、ここに僕が用意した訓練用の木剣がある。それを持ってペアと打ち込んでくれ……こちらが止めと言うまで。続けるんだ。いいね?」

 

 

フッ、俺が二年間どれほどの訓練を積んだか。見せてやろうじゃないか。目の前の子の金髪女子、そいつに俺の強さを見せつけて、どうしてそんなに強いの!? 貴方に勝つまで私は貴方の奴隷! とか、そんなことを言わせてやろう

 

 

「あ、そう言えば……あなたの名前は?」

「フェイだ」

「そう、私はね……()()()()

 

なんか、主人公みたいな、名前だな。アーサーってあの歴史上の人物だろ? そう言えばこのノベルゲームの名前は円卓英雄記だっけ? あー、てことはコイツが主人公か……?

 

 

いや、それは無いだろう。主人公は俺だ。それに歴史上の人物って著作権フリーだったから色んな所に出張してる感じだし。もう飽和状態って言うか。主人公としてはもう、時代遅れって言うか。

 

だが、まぁ、アーサーと言う名前からすると……ヒロインとか、それなりのポジションだろうなぁ。主人公である俺には劣るポジだろうけど。

 

 

「じゃあ、始めてくれるかなー」

 

「よろしく、フェイ」

 

マルマルの合図でアーサーが木剣の剣先をこちらに向ける。俺もアーサーに剣を向ける。

 

「あぁ、始めよう……アーサー。俺とお前の……闘争を」

 

 

きまった……。これ、絶対MADとかで使われるわ。それは名言集、フェイ語録とか、そう言う感じだろうなぁ。感傷に浸る俺。

 

 

「うん」

 

 

次の瞬間、アーサーの動きが光のように速くなった。

 

 

「え!?」

 

 

■◆

 

 

 アーサー。円卓英雄記と言うノベルゲームを知っているなら誰もが知っている。トゥルーと言う主人公と並ぶ、メイン主人公の一角だ。このノベルゲームは円卓、つまりは誰もが平等であり主人公であると言うメインテーマが隠されている。

 

 無論、だからと言って全てのキャラに途轍もない程のエピソードを用意することは出来ないので、あくまでアーサーとトゥルーがメイン主人公、その他にサブ主人公が存在する。

 

 そして、サブ主人公にはdlcで補填などをしてさらに深堀をすると言う感じで物語は更に深みを増すと言う感じである。

 

 シスターマリアもヒロインであるのと同時にサブの主人公でもあると言うわけだ。dlcで彼女視点で物語も展開されるなど、様々な醍醐味がこのゲームにはある。

 

 だからこそ人気を博したのだ。その中でも永遠に人気投票で()()と言う不動のポジションを獲得しているのが、アーサーと言う少女である。

 

 だが、このアーサー……色々鬱な過去を抱えており、あまり人との接触に慣れてはいない。なので、この円卓の騎士団、入団テストと言う最初の試験では誰に話しかけて良いか、迷ってしまうのだ。

 

(どうしよう……入団会場、ココで良いのかな?)

 

 

 キョロキョロと辺りを見渡して、同年代のような子達が集まっているのを確認。盗み聞ぎをして、ここが会場であると把握したアーサーはホッと一息をつく。

 

 だが、どうしたものか。周りでは楽しそうに笑って居る同年代。試験を前にして緊張を互いに解こうとしているようだ。それを見て、少し、悲しい過去を思い出す。だが、頭を振って気持ちを切り替える。この場は落ち着かない。

 

 どこか、静かな場所を……

 

 その時、アーサーの眼はとある場所へ釘付けになった。近くにある一本の木。そこには一人の少年が腕を組み、木に寄りかかって眼を静かに閉じていた。

 

 たった一人……静かに静かに、そこに佇んでいる。そこだけ、まるで異界であるようにアーサーは感じた。誰も彼もが誰かと話している中、たった一人で風を感じている。

 

 アーサーはなぜだが、分からないが自然とその場所に惹きつけられた。特に何かを話すことなく、木の葉から漏れる僅かの陽光。周りの音が隔絶する。自然と、アーサーは心を許してしまった。

 

 

(この人、何だか不思議……ワタシと同じ……異端な気がする……)

 

 

 チラチラと話した事もない少年をアーサーは見る。だが、少年は一度こちらに気づいてチラリと目が合うがその後は再び、眼を閉じた。

 

 不動、この中でただ一人、孤高であると言う事を貫いていた。誰もが試験に不安を感じ、他者との交流を求める仲、この少年だけは一人、佇む。その姿を見て、アーサーは凄いと素直に感じた。

 

 

(凄い……ワタシにも、これくらいの精神力が欲しい)

 

 

 アーサーにとって、一番の欠点、最大の弱点と言えるのは精神のもろさであった。ありとあらゆる才能を持っているアーサーであるが精神力だけはどうしても持ち合わせない。

 

 

(どうすれば、こんな風に孤高になれるんだろう……秘密を聞きたい)

 

 

 名前をなんていうのだろう。自然と疑問が浮かんでいく。そして、結局話しかけられないまま、時間は過ぎていき、試験責任の聖騎士が現れる。そこで試験の概要を聞く受験者たちは一気に気が抜けた。なぜなら、絶対合格と言われたからだ

 

 

(なんだ……そんな簡単なんだ)

 

 

アーサーも最初は気の抜けた、考えであった。だが、目の前の少年は一切、そのような事はなく、顔を先ほど以上に引き締め、眼を細めた。

 

 

(どうして? 試験は絶対合格のはずなのに……)

 

 

そうだ、話す話題が出来たと。アーサーは少年に語りかける。

 

「ねぇ」

「……」

 

(聞こえていない? 他どうでもよくなるくらい集中しているのかな? それとも無視してるのかな?)

 

「貴方に話しかけてる……」

「俺か」

「そう……逆にあなた以外に誰が居るの?」

「そうか……それでどうした?」

 

 

(えっと、えっと……必ず合格で、そんな集中する必要ないのに、どうして、そんなに強張った顔をして、眼を細めて、集中しているのですか……? ちょっと長いかな?)

 

(いきなり、あんまり長く話しかけたら変な風に思われるかも)

 

(えっと、端的に換言すると……)

 

悩み悩んで、彼女は言葉足らずの結論を出した。

 

「どうして、そんな顔してるの?」

「どういう意味だ?」

 

(あ、伝わらなかった。だから、もっとちゃんと言わないと)

 

 

そう思い、今度は長めの説明をする。すると、少年は極自然に、それが当たり前であると言わんばかりに結論を語った。

 

 

「お前は何を当たり前のことを聞いている? 常に己を超さねば成長はない。ただ、それだけだ」

 

(……凄い。そんな風に日頃から考えられるなんて……でも、その考えはきっと異端。ワタシと同じで一人ぼっちなんだろうなぁ……)

 

(もしかしたら……ワタシと彼なら……友達に……)

 

 

淡い想いが、同族に対して湧いた。一人を寂しく思う少女(アーサー)と孤高で誰も寄せ付けない少年。

 

 

(これほどの高尚な考えを持っている人がこんなに真剣になるなんて……何かわけがあるはず……あ……)

 

そうだと彼女は思い返す。あのマルマルとか言う男は全員合格であるが優劣が無いとは言っていない。

 

(凄い、あの僅かな言葉からここまでの結論をはじき出すなんて……)

 

 アーサーは素直に彼に気づいていたのかと問いをした

 

「その裏の評価項目に最初から気付いてたんでしょ?」

「……フッ、当然だ」

 

 

当然であると。彼は答える。そこに嘘はなく、過大も過小もない。ただただ、これは普通の事であると心の底から思っているようであった。

 

(きっと、普通の人とは、成功とかの基準が違う……周りから見れば及第点をこの人は許さない。常にその上を及第点としているんだ)

 

 

(名前、なんて言うんだろう)

 

 

(フェイ……良い名前……)

 

 

(ワタシと組んでくれるかな?)

 

 

(やった)

 

 

 

この日、本来ならばメイン主人公格であるトゥルーとアーサーが邂逅を果たす試験であった。一人きりのアーサーに噛ませキャラのフェイが声をかけ、それを見たトゥルーがそれを止める。

 

そして、アーサーとトゥルーが二人組となるはずだったのだ。

 

だが、トゥルーはフェイを恐怖しており、近づきたくない。そして、分岐としてアーサー自らフェイに近づくと言う特異な事となってしまった。これは後々、大きな波紋を呼ぶことになる。

 

この日は大きなターニングポイントなる。

 

そして、ここでトゥルーがアーサーに話しかけない事により、トゥルーのアーサールートが消えた日でもあった。




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