『書籍化!』自分の事を主人公だと信じてやまない踏み台が、主人公を踏み台だと勘違いして、優勝してしまうお話です   作:流石ユユシタ

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感想高評価、ありがとうございます。マリアの言動について可笑しいと沢山のご指摘ありがとうございます。

いや、すいません。粗くて……そう言うのは直ぐに説明をするべき事でした。今回補足をしておきましたが

また、ご指摘が多く上がった場合は修正の場合もあるので、その時はご了承をお願いします。


5話 マルマル

 聖騎士マルマル。五等級聖騎士である彼は入団試験の責任者である。今回大役と言う役職を任された彼であるが、彼の口調と顔つきは緩い。だが、それと相反するように心中では注意深く受験者を見るように心掛けていた。

 

 

 いつもと同じ、いつもと同じように真剣にやるべきことを自身はやるのだと。ただ、それだけ。それが世界をよくすることに繋がると信じているから。裏の評価項目。どれだけ、緩い試験でも己を律するのかと言う項目を特に注意深く見ていた。

 

 試験の内容を伝えて、数秒。

 

 

(……どうやら、今期の中ではこの項目に気づいた者はいないみたいだね)

 

 

 周りでは既に談笑を始めている聖騎士の卵が見受けられ僅かに期待外れである気がした。

 

 

(僕たちの世代では気付いていた奴も、それなりに居たんだけど……あとは、聖騎士の心構えがしっかりしている者は気付かなくてもそれなりに振る舞うが……)

 

 だが、別にそこまでその項目を気遣うつもりもなかった。気付いた者が居ないのであれば、あとはラフな感じであるが単純な剣の打ち合いなどを注意深く見て、順位を付けるだけ。

 

 聖騎士団は人員が不足している。使える者を選別するのではなく、使えるように育成すると言う方に方針を定めている。だからこそ、全員合格。仮入団させ、そこから厳しい育成をすれば問題は無い。

 

 そう、例外はあるにしろ、実力はあとから嫌と言う程つけさせれば問題は無い。この試験で重要なのは。

 

 

(注意深く物事を認識する観察力、そして、周りに流されない判断力……強靭な精神力を持っていると言う事。まぁ、精神論だからかなり難しい議題ではあるんだけど)

 

 

 鉄を叩けば伸びるように、体も鍛えれば伸びる。だが、精神面は叩き過ぎれば折れてしまう事もある。精神だけはそう簡単に鍛えられない。

 

 完全なアウェーの空間。この中でそれに気づけた者だけが、どんぐりの背比べの評価の上の行くことが出来る。

 

 入団してから、誰も彼もが嫌になるほどの訓練をする。その中でも、さらに上、公表はしないが特別部隊として訓練を受けることになる。あまりに想像を絶するのでそう簡単に騎士の卵を入隊させ潰すことはできない。

 

 だが、強靭な者達。彼らだけには期待と言う名の地獄を味わうことになる。

 

 

(今期は居ないか……しょうがない、星元(アート)とか、剣術を見て判断を……あらら、いるね、気づいている奴が)

 

 

 一人だけ、一切表情を崩さずに自身の話を聞く男。その男に感化され金髪の少女、そして、金髪の少年、そしてもう一人の少女が何かに勘付いたようだ。

 

 

(あの子は……確か、フェイだったか? マリアの孤児院の……)

 

 

マルマルの頭には嘗ての記憶がフラッシュバックした。マリアとの入団試験、ここで交戦をしたことを。

 

 

復讐者(アベンジャー)と言われたマリアに、あの子は重なる)

 

 

何度も何度も、喰らい付く。そのフェイの姿に幼い時のマリアを重ねていた。自分と彼女はまさしく死闘を繰り広げたのだ。何となくで合格と言われたのに、マリアはそれを許さず、自身に剣戟を繰り返す。

 

 

マリアとフェイ、その二つ知るマルマルにとって、二人は同郷の人間に近い感覚を得た。ほぼ同じ、唯一違うのは、剣戟にキレがないと言う事だけ。

 

 

闘争は進み、結局アーサーが必死の一撃をも凌ぐ。

 

 

(優れた精神を持っているが、それを生かす技能がない……。独学? マリアが教えたりはしなかったのか?)

 

 

フェイのアンバランスさを見て、疑問を掲げるマルマル。だが、その後のアーサーとトゥルーの話を聞いて、納得をした。あのマリアが独学を許すはずがない。一人にさせることはない。

 

 

だとするなら。

 

 

(なるほど……マリアらしい。完全な独学をさせることで……()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 騎士団も受験に合格を出したからと言って、いきなり前線に引きずり出すことはしない。ある程度の実力を仮入団で付けさせ、そこから初めて十二等級を授け、その実力にあった任務をだす。

 

 

 

(実力の無い者は多大な育成期間を過ごすことになる。マリアは少しでも前線に送るのを遅らせたかったと言う所か)

 

 

(そして、独学で学ぶ者は高確率で妙な癖がつく。その癖を改善するとなれば更なる時間もかかるだろう)

 

 

 フェイはなんかカッコいい剣術をしようと適当に剣を振っていたので、妙な癖がついてしまっている。それを知らないマルマルだが、フェイの剣術が癖だらけと言うのを見ていて感じていた。

 

 

(そして、あの子は引くことが出来ない。引き下がれない、嘗ての自分(マリア)と同じで死ぬか、倒すかそれしかない)

 

 

(細い糸を渡るような生き方をしたマリアには分かったのだろう。()は自身よりも深いのだから。道を変えるよりも、道を遠ざけることにした。無論、彼女は変えることも諦めるつもりは無いだろう)

 

 

取り返しのつかないことになる前に、道を変える為の時間稼ぎの一環として、マリアは指南書を隠し、人としての接する時間を多くしてきた。そして、それを嘗ての同期であったマルマルは簡単に推理できた。

 

 

(マリアには分かった、このままではあの子の行く末は二つに一つ。無様にくたばるか、喰い下がり一人の道を歩き続けるか)

 

 

 マルマルもさて、どうするかと頭を悩ます。マリアの意図を汲んで、彼の特別部隊入りを無しにするか。それともあの魂の輝きを信じるか。

 

 特別部隊に入れるような精神力は持っている。あそこで耐えることができる精神も持っている。どの程度の時間かかるか分からないが、あそこから出ればフェイと言う聖騎士は前線を駆け回り、危険な任務に身を投じる確率も高くなる。

 

 それとも普通の仮入団部隊に入れるか。こちらでも彼はきっと耐えるだろう。無論、特別部隊よりは育成も遅くなる。こちらはマリアの意思を汲む。マリアも何とか、仮入団の間にフェイの気持ちを改善させたいと感じている。

 

 

 

(後者はない……すまないマリア。僕は見てみたいんだ。あの子がどんな聖騎士になるのか)

 

 

 意を決し、マルマルはフェイを特別部隊に推薦することに決めた。

 

 

(アーサー、トゥルーこの二人も素晴らしい実力と才能を持っている。正統派の騎士。この二人からも僕は何かを感じた。だが、僕は……フェイにもそれ以上に何かを感じてしまった)

 

(この世界は、昔から変わっていない。僕は変えて欲しいんだ)

 

人が当たり前のように死んでいく。マルマルと言う聖騎士もかつては家族を失い、その悔しさをバネに聖騎士の道を進んできた。

 

だが、自分と言う力はちっぽけで世界は変わらない。どうか、変えて欲しいと願っていた。

 

 

(この世界を変えるのは、正統か、狂気か……見せてもらう)

 

 

 

◆◆

 

 

 何やら、梟が俺に手紙を届けてくれた。おー、嬉しいなぁ。この世界では特殊な訓練をされた梟が郵便配達物を届けてくれるらしい。

 

 凄い、どういう仕組みかは全く分からないが……。手紙を開けていくぅ!

 

『フェイ殿。この度、貴殿を円卓の騎士団、仮入団聖騎士として任命をされたことを通達致します。よろしくお願いします……』

 

 

 ふむふむ、まぁ、合格か、当然だが。逆に俺が不合格だったら物語終わってしまうからな。

 

 でも、実は普通に嬉しかったりする! 勝利のダンスでも踊りたいが、クール系の主人公はそんな事しない。偉そうに淡々とするのが基本。

 

 俺は孤児院の一室、いつも孤児たちと一緒に食事をする場所で手紙を開けて読んでいた。すると、ドアが開いて、マリアと眼を閉じている子が入ってくる。

 

「あら、フェイ。それ合格通知?」

「あぁ」

「ふぇい、すげぇぇぇ!」

「フンッ、この程度、騒ぐほどではない」

 

 この眼を閉じている。いや、眼が見えない男の子。レレと言う子だが、何故か懐かれている。基本的に孤児院とはあまり接する機会がないが、この子とマリアだけは例外であり、ちょくちょく話しかけてくる。

 

 二年間経って、この二人しか話す人居ないって……クール系主人公は無口だからな。

 

「ふぇい、てがみよんで!」

「仕方ない……フェイ殿。この度……」

 

 

仕方ないから、読んであげた。こういう時、流石の翻訳機能も働かない。

 

「すげぇな! おれにも、なれるかな?」

「……俺に聞くな。お前次第だ。それを掴めるかはお前の覚悟にかかっている」

「うん! がんばる!」

 

 

眼が見えないらしいが、俺からすればそれは別に聖騎士を否定する材料ではない。俺は常に客観的な評価を下す。

 

そうすると嬉しそうにきゃっきゃと騒ぎ出す。子供の無邪気な所は嫌いじゃない。

 

「ありがとう、フェイ」

「なにがだ?」

「あの子は眼が見えなくて、自分に諦めている子だったから」

「……俺は何もしていない。同情も、手助けも。ただ、俺は思ったことを言っただけだ」

「そう……聖騎士……大変だから……頑張ってね」

「あぁ」

「帰って来てね。ここに」

「出来る限りだ。約束は出来ん」

「うん……今はそれで」

 

 

 まぁ、俺は主人公だから遠征とか、特別任務とか発注されて色んな所行くだろうしな。約束はできない。俺はあまり虚言を吐かないのだ!

 

 マリアに言われ改めて実感する。聖騎士になるのか。俺。本当は円卓の騎士団の宿を使わせてもらおうと思ったんだけど、マリアが帰って来て欲しいと言うから、ここで過ごすことにした。

 

 

「ふぇい!」

「ん?」

「さきにいってて! おれもきしになって、おいつくから! そして、おれがふぇいをこえるきしになって、ふぇいもまもる!」

「……出来るなら、やってみろ、先に高みで俺は待つ」

 

 

 もしかして、フラグか!? いつか、あの時の約束を果たしに来たぞ。みたいな展開になるのかな? レレ良い奴だからそうなったらそうなったで面白い

 

 

■◆

 

 

 レレと言う少年にとって、孤児院は優しい孤児とシスターに囲まれた最高の場所であった。親を山賊によって殺され、だがその姿を見ることも出来ず、聖騎士に保護され、孤児に預けられた。

 

 真っ暗で何も見えない生活だが、満足をしていた。シスターの声は優しくて、誰もが手を取って導いてくれる。

 

 不満はない。でも、少しだけ寂しくもあった。皆優しくて、過保護に育てられる。自分は人の手を借りて、生きていくことが定められていると幼い心ながらも感じていたからだ。

 

 レレの夢は聖騎士になる事。だが、それを言ったら危ないからやめた方が良いと他の孤児に言われ、料理も危ない。あれも危ない、これも危ない。と言われる。そこに悪意はない。

 

 遠回しに全てを無理と言われている気がした。

 

 そこには善意しかない。だが、どこか苦しかった。

 

 そんなとき、あることに気づいた。この中で自分に一切手を貸さない人が居ると。

 

 フェイ、孤児院での嫌われ者。姿は分からないが、声は少し知っている。相当悪い奴だ。

 

 昔はあくどい事を沢山してたけど、話によると、最近はいつもいつも剣を振っているらしい。そう聞いた。

 

 ずっと、フェイに聞いてみたいことがあった。以前から聞きたかったけど、フェイは危ないから近寄らない方が良いと他の孤児に言われ、近づけなかった。

 

 だが、最近は大人しいらしいのでレレは好奇心に任せて足を運ぶ。

 

 

おぼつかない足取りで彼の元に向かう、彼が剣を振る庭の一角。近づくほどに剣を振る音が鼓膜に響いて、大体この辺かな? と思う所で足を止めた。

 

 

「あ、あの」

 

 

 声を出すと、剣を振る音が止んだ。そして、鋭い声が聞こえる。

 

「なんだ?」

「えっと……」

「……」

「どうして、」

「……」

「どうして、どうしてぼくにやさしくしないんですか?」

 

 

それは、子供だから聞いてしまった純粋な疑問。不満とかではなく、ただ、純粋にどうして、この人は皆と違うかを知りたかったからだ。

 

 

「なぜ……か(え? そんな事言われてもな……常に周りに人が居て、俺は主人公オーラで避けられてるから近づきにくいから、そもそも優しくするも何も無いんだが)」

「……」

「……する必要がないからだ(常に誰かと支え合ってるし、俺はオーラが強いからな。無理に入ることでそれを壊す必要はないだろう)」

「……!」

 

 

それは新鮮であった。別に卑下をしているわけではない。だが、不思議な感覚で会った。

 

レレは何かが変わる気がした。守る対象で保護をすべき対象でなく対等な関係として見られている気がしたからだ。孤児院の子達が嫌いなったわけじゃない。

 

ただ単に新鮮だったのだ。

 

だから、この人は何て言うのか気になった。他の孤児院の子達が無理と言った事に対して。

 

 

「ぼく、ゆめがあるの……」

「そうか」

「でも、ぼくはめがみえないから」

「……だから?」

「むり、かな?」

「さぁな。そんなこと俺は知らん。ただ、夢は逃げない……逃げるのはいつも己だ。それを覚えておけ」

 

 

そう言って、彼はもう、何も語らなかった。話は終わりだと言わんばかりに仏頂面で剣を振る。

 

レレの耳にはまた、剣を振る音が聞こえる。

 

僅かに、レレは彼の小さな小さな優しさを感じた。きっと、普通だったら気付くはずのない程に砂粒のような優しさ。だが、レレはそれに気づくことが出来た。

 

それはずっと暗闇に居たからこそ、その僅かな小さい(やさしさ)に気づくことが出来たのだろう。

 

 

この時から、レレにとってフェイは何とも言えない兄のような、何かを感じることなる。

 

そこから、話す機会が多くなったわけではない。だが、レレは偶にフェイに話しかけるようになった。

 

ただ、それだけの話だ。

 




モチベになるので、感想、高評価、よろしくお願いいたします!!

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