自分の事を主人公だと信じてやまない踏み台が、主人公を踏み台だと勘違いして、優勝してしまうお話です   作:流石ユユシタ

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ssバレンタイン

 円卓英雄記と言うノベルゲーは鬱ゲーと言われている。仲間が死に、大切な人が死に、あらゆるものが死んでいく。

 

 だが、それだけというわけでもない。偶には息を抜く場面やホッコリするようなイベントが用意されている。

 

 そんな数少ないイベントの一つが……バレンタインである。

 

 バレンタインとは女性が男性にチョコをあげると言われている催しだ。当然のことながら主人公であるトゥルーがチョコを大量に貰う事になる。

 

 騎士団の同期は殆ど死んでいるが、孤児院に一緒に住んでいる二人の女性がいる。トゥルーと一緒の村出身で幼馴染のレイと元貴族令嬢のアイリスだ。

 

「トゥルーこれ、あげるわ。思いっきり義理よ」

「あ、ありがとレイ」

「トゥルーさん、これをどうぞ。愛の気持ちです」

「ど、どうも」

 

 トゥルーは苦笑いしながら二人からのチョコレートを受け取った。二人はトゥルーを挟んでにらみ合い、いがみ合い、嫉妬をしあいながら互いにチョコを渡すのだから反応に困るのも当然だった。

 

 

「トゥルー先輩」

「トゥルー君、チョコ受け取ってぇ!」

 

 

 トゥルーの周りには他にも聖騎士の同期や後輩が集まっていた。本来のストーリーでは同期は殆ど残っていないのだが、フェイのせいでなんやかんや生き残っている。必然的にトゥルーの集客が増えていた。

 

 

(そう言えばアイツもチョコ貰っているのか……?)

 

 

 トゥルーの頭の中には黒髪黒目の目つきの悪い同期の頭が思いだされる。チョコを貰いながらアイツも何だかんだ、貰ってそうだなと彼は思ったのだ。

 

 

◆◆

 

 

 うおおおおおおお、修行だなぁぁ。

 

 主人公である俺は只管に剣を振っていた。最近、ますます強い奴らが現れてきたから気合が入っている。トリスタンとか言う一等級聖騎士、一撃は与えられたがそれだけだ。

 

 

『ふむ、十分とは思うがの』

 

 おや、バラギが話しかけてきた。

 

『わらわ的にはお主の体が既にほしい。身体能力は天下一品じゃろうて。聖騎士最強に一撃を与えたのだからもう良いじゃろ』

 

 俺は聖騎士最強に一発殴れればいいだなんて低い目標は持っていない。何よりも俺以外は全力で叩き潰したいだけだ。

 

 俺が主人公なのだと、俺が世界で最強になりたいと。目指してるのは最強を殴るのではなく。最強を超えた究極の最強なのだ。

 

『……無駄に目標が高いの』

 

 それより、お前は俺の体を乗っ取ろうとかしてくれよ。内側からも攻められるのは主人公として熱い展開な感じもするから。

 

『既にやっておるわ。それが中々うまくいかないから困っておる。じゃが、お主の弱点は少しわかってきた』

 

 ほぉ、では聞かせて貰おうか。この俺の弱点とやらを……

 

『星元操作が全くできない、マリアが好き』

 

 最低辺って事は星元は伸びしろしかないって事だろ。マリアはヒロインで相思相愛だから弱点って訳でもない。何かあれば絶対守ればいいだけだしな。

 

 

「久しぶりね、先輩」

「む」

 

 後ろを振りまいたら美女が立っていた。はて、この子は誰であったか……。

 

「まさかとは思うけど、この私を忘れたとは言わせないわよ」

「ふむ。無論だ」

「そう……」

 

 

 黒い髪が腰位まで伸びている。眼は赤い、美人だが棘がありそうなこの感じ。どっかで会った気はするが……

 

 

「エミリアよ。後輩の聖騎士の……絶対忘れてたから一応言っておくわ」

「ふっ、この俺が忘れるわけがあるまい」

「そ、そう。忘れたって言われたら悲しかったから良かったわ」

 

 

 あー、居たなぁ。そんな後輩も……すっかり忘れていた。しかし、忘れていたって言うとカッコ悪いからな。覚えていたって事にしておこう。

 

 

「これ、あげるわ。先輩って怖そうだからもてない感じして、可哀そうだもの」

「なんだこれは」

「チョコレートよ。偶々、偶然作り過ぎてしまったから、特別に贈呈するわ」

「そうか」

「お返しとか期待してないから。本当に期待してないから。別にお返しとかいらないわ」

「そうか」

 

 

 あ、今日ってバレンタインなのか。マリアから貰えるかなぁ……それはそれとして、エミリアって俺と全然絡みなかったけどくれるのか……。

 

 お返し面倒だなぁ。でも、期待してないし、いらないって言うからあげなくてもいいのかね。

 

 そう思ったがバラギがそこは返すのが礼儀だと言ってきそうな雰囲気あるので返すことにしよう。

 

 

 でも、エミリア前々絡みないからなぁ。今後はあるのだろうか……とか思っていると

 

 

「久しぶり」

「ふむ」

 

 アルファが居た、ついでにベータとガンマも。モブ姉妹三人衆が俺に何の用なのか。と思ったがバレンタインだろうな。

 

 

「チョコあげる、私達に十倍返しで頼むわよ」

「何故俺が」

「いいわね」

 

 

 三人共渡すと去って行った。モブだから、ファンレター的な位置づけのチョコだろうな。試しに食べてみると、美味しかった。エミリアのも美味しい。

 

 やっぱり主人公だから沢山貰えるのだろう。そう言うイベントってあるあるだしな。

 

 という事はマリアにも貰えるよな。

 

 

 よっしゃ!

 

 

「フェイ君ー!」

 

 

 おや、どうやらユルル師匠も俺にチョコをくれるようだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 私は途轍もなく緊張をしていた。弟子である彼にチョコレートを渡すからだ。好意を持っていることは以前伝えた。

 

 だから、きっと私が渡すことは想定しているだろう。

 

 きっと緊張をしているのは私だけだし、フェイ君はそんなに緊張をしてないんだろうなぁ。

 

 

 彼を外で見つけたので騎士団の寮に呼んだ。前までは肩身が狭くて使用できなかった騎士団の寮。今ではそんなことは無くなっている。

 

 私の事を認めてくれる人が増えているのだ。フェイ君の活躍を見た人たちが彼を認めて、彼の師匠である私を認め始めている。

 

 メイドのメイちゃんと一緒に寮を使っているが嫌味を言う人も殆どいない。

 

 

 本当に人生が変わってしまったなぁと思う。そんな彼に感謝もしないといけない。でも、それよりも自身の好意を受け取って欲しいと思うのだから我儘だなと我ながら呆れる。

 

 

 彼を騎士団の部屋に招いて、ベッドの上に座って貰った。

 

 

 

 

「ど、どうぞ。これ、チョコレートです」

「貰っておく」

「ありがとう、ございます……今、食べて貰ってもいいですか?」

「お前がそう言うならそうしてやる」

 

 

 フェイ君がラッピングを器用にほどいて、仲のチョコレートを取り出す。それを彼は口の中に入れる。

 

 

「どうですか……?」

「悪くはない」

 

 

 思えば彼が甘いものを好きなのか知らなかった。もしかしたら気を使っているのかも、ハムレタスサンドを大人しく渡しておけばよかった……

 

 

「――旨い」

「ほ、本当ですか?」

「お前が悪くないだと、納得しないから言ってやった」

 

 

 わ、私の心の中が読まれている……流石は弟子。分かってしまうのでしょうか。

 

「旨いから慌てることはない」

「あ、ありがとうございます」

 

 察しが良い。本当に察しが良い。そして、カッコいい。これはモテるだろうなぁ。手にチョコが入っていた袋持ってたし。

 

 

 ……このままだと誰かに盗られちゃう……?

 

 凄く嫌だ。フェイ君は私の弟子で、私が最初にフェイ君に眼をつけて、誰よりも信じて、愛しているのに

 

 このまま。盗られたら嫌だな……

 

 いけない、ネガティブな考えってよくない。フェイ君と結婚してやるくらいの気持ちじゃないと!!

 

 私だって大胆になってフェイ君にアピールして、好意を向けて貰うんだもん!

 

 

「フェイ君! 私があーんをして食べさせてあげます!」

「……」

「ほい、あーんしてください!」

 

 

 無理やり口を開けさせて、彼の口にチョコを突っ込んだ。相変わらずの無表情で彼は食べている。

 

 そ、そう言えばフェイ君の笑った所って、照れている所って見たことがない……。

 

 

「く、くくく、口移し! で、食べましょ!!」

 

 

 私はムキになってしまう悪い癖がある。だから、もう止まれなかった。チョコを口に咥えて彼に迫った。

 

 

「……」

「……ッ! ほぇ、たべぇてぉ」

 

 

 あんまり無言で無表情で見つめてくるので、照れ臭くなってしまった。というか私は一体全体弟子に何をしているのだろうか。

 

 弟子に、何をしている!?

 

 あ、やばい、恥ずかしい。でも、ここで止まらない方が良い。絶対に。少しは大胆な私にならないといけない。

 

 

 彼の口にチョコを……

 

 

 

「ん……」

 

 

 

 

 甘い……こんな味だった。味見をして作ったけど、全然違う味になった気がする。フェイ君は私とキスをしたのに、どこ吹く風だった。

 

 

 でも、私は顔が噴火したように熱かった。

 

 

「も、もう一回、しましょ!」

「いや、もう無い」

「そ、そうですか」

「……お前の気持ちには気づいている。だが、それに応える時ではない」

「は、はい」

「まだまだ、俺の強さは至っていない。俺の物語も終わっていない。だが、もし、俺の歩みが終わった時、答えを出す。だから、焦るな。焦ったところで答えはでない」

 

 

 ……か、カッコいい……。

 

 

「は、はぁい」

 

 

 自分でも自分が今、だらしない顔をしているのが分かった。

 

 

 

◆◆

 

 

 

「フェイ」

「マリアか」

「これ……チョコレートよ」

「……味が違うのがあるな」

「うん! そうなの! 二つの味を入れているの!」

「そうか」

 

 

 マリア(リリア)がフェイにチョコをあげた。いつもと変わらぬようにフェイはそれを食べる。

 

 

「……悪くはない」

「美味しいって言って欲しいわ」

「……美味しい」

「ありがと、そう言ってくれたらまた作りたくなるわ」

「……」

「また、作るからその時は食べてね」

「……そうだな」

 

 

 

◆◆

 

 

 ユルル師匠とマリアにチョコ貰っちまったぁ。あの二人はヒロインだからくれるとは思ってたけど。

 

 そう言えばアーサーもくれたな。普通に美味しかった。アイツはチョコじゃなくて、ハムレタスサンドだったけど。

 

 

 

「フェイ様ー!!!」

 

 

 あ、久しぶりのモードレッドだ。

 

「フェイ様フェイ様! 今日は愛する異性にチョコを渡す人言う事で指名手配されているブリタニア王国にわざわざ来ましたわ! ささ、この惚れ薬入りのチョコを受け取ってくださいまし!」

「……」

 

 

 異物混入をしていると自ら言ってくるとは……食いたくねぇ。不味かったらいやだな。

 

 

「……まぁ、構わないが」

 

 

 逆に惚れ薬程度に主人公である俺の意志が負けるって言うのが正直想像つかない。だから、食べてやるよ

 

 

「わくわく! わくわく!」

 

 

 惚れ薬入りでも俺は惚れないからな。試しに食べてみる。うん、普通。チョコって感じのチョコだな。

 

 あ、あれ、モードレッドの事が……俺――

 

 

――特に好きになっていない

 

 

「変わらんな」

「ですわよねー! たかが惚れ薬に効果があるとは思ってはおりませんが……」

「その程度で俺の魂は揺らがん」

「えぇ、寧ろ揺れ動いていたら冷めていたところでした。ですが、全く意に返さず、殴りかかろうとしてくるフェイ様素敵ですわ♪」

 

 

 あ、殴ろうとしてたのバレた? モードレッドはずっと俺をボコボコにしてるから一発いいかなって思ったんだけど

 

 

「でしたら、チョコよりも模擬戦を送った方がよろしかったかしら?」

「面白い」

「えぇ、かかっていらして? また、ワタクシに貴方を感じさせてくださいまし!」

 

 

◆◆

 

 

 

 ボコボコに負けた。モードレッドは満足げに俺の額にキスをして去って行った。腹立つなぁ。

 

 

『中々の奴じゃの』

 

 

 バラギもモードレッドには一目置いているようだ。

 

 

『自由都市で一目見た時から分かってはいたが、アヤツは相当の使い手じゃの』

 

 

 バラギの全盛期とどっちが強い?

 

 

『……ふむ……戦ってみないと少しわからない気もするが……わらわじゃろうな』

 

 

 ほぇえええええ。

 

 

 

『なんじゃ?』

 

 

 お前強いんだなぁって思ったらさ。ワクワクしてくる。俺は主人公だからさ。全員超えるのは確定してるし。

 

 どこまで俺が強くなるのか、わくわくする。お前とも戦って見てぇ。

 

 

『いずれ、体を奪って再現してやるから安心しろ……』

 

 

 そう言えばお前はくれないの? 一応バレンタインだけど

 

 

『いや、どうやってあげるんじゃ? わらわ普通に魂だけなんじゃけど』

 

 

 あ、そっか。魂オンリーにはバレンタインは厳しいよな!!

 

 

『お前の体を奪って作ってやるから、楽しみにしておくことじゃ……』

 

 

 おう、楽しみにしてるわ

 

 

 

 

 

 

 

 




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