自分の事を主人公だと信じてやまない踏み台が、主人公を踏み台だと勘違いして、優勝してしまうお話です   作:流石ユユシタ

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小話 フェイ君の内側のお話

「気持ちが悪いデす」

 

 

 アーサーが溜息を吐くように告げた。フェイの内側に住み込んでいる彼女は目を細めていた。

 

 同じく精神世界にいる元退魔士であり、人を捨てて鬼になってしまったバラギ。彼女は何を今さらと言わんばかりに鼻で笑った。

 

 

「今さらかのぉ」

「この男はやばいでしょう」

「わらわは慣れたのぉ」

「それに気になることはそれだけではありません。この、格好です!」

 

 

 アーサーはセーラー服を着ていた。彼女は自身を指差して、声を荒げながらバラギに言い放つ。言われたバラギもセーラー服を着ていた。

 

 更に言うならば彼女達が居る場所は高等学校の教室に酷似していた。席がたくさんあり、窓側の一番後ろの席に二人がたむろしていた。

 

 

「それにこんな場所も」

「フェイの精神世界、精神と記憶は同一的な扱いとも言えるからのぉ。フェイは以前このような場所で過ごしていたのかもしれん」

「こんな格好でこんな場所でですか? ブリタニアや妖精国、獣人の里、どこにもない気がしますが」

「さぁのぉ、わらわもお主も屍人当然。知らぬ間にこのような場所ができていたのかもしれん」

「今の所、建築技術で告示をしている場所は見られませんガ……」

 

 

 日本の高校教室などという場所を知っているはずがない。フェイという男が日本人で一度死んでいるとまでは流石の彼女達でも予想はできなかった。

 

 

「文化形態があまりに離れていると思わレます」

「いちいちフェイを気にしても仕方あるまいて。しかし、この格好、なかなか憂い格好ではないか? わらわはかなり気に入っておる」

「まぁ、オシャレでカッコいいですが」

 

 

 二人で制服を見せ合っていると教室の扉が勢いよく開いた。その音に二人の視線が注目する。そこには制服姿のフェイがいた。

 

 黒髪に黒い目、鋭い眼光、そんな彼には黒い制服がよく似合う。

 

 

「フェイか」

「バラギじゃん。ついでにアーサーも」

「私をついで見たいに言ウのはやめてください。聖剣ですよ、私は」

「こっちは主人公だから」

 

 

 

 フェイは堂々と教室に入ると辺りを懐かしむように見渡した。

 

「なつかしー。でもなんで教室?」

「お主の夢の中、とでも言っておこうかの」

「あぁ、夢を見ているのか。過去の夢をね。それで俺の中にいる二人にも影響があるのか」

「だろうな。しかし、フェイよ。お主にしては良い服の趣味じゃノォ。わらわはこの服が気に入った」

「セーラー服? 確かに俺も嫌いじゃないけど」

 

 

 

 教室の隅っこの席に彼は座った。

 

 

「本当に懐かしい。記憶のスタンプラリーでもしたいくらいだ」

「ここがお主の昔、過ごした場所か?」

「あぁ。そうそう」

「お主の魂が触れようとするとこっちが呑まれるのからのぉ、あまり不用意に触れないようにしていたが」

「夢の中で起きていることなら、見られるんだ。なんだか難しいシステム。ただ、夢って寝ている間に記憶が頭の中に呼び起こされるってことだよね。だったら、ちょっと思い出してみるよ。見てみ、俺の、主人公が主人公になる前の記憶ってやつをさ」

 

 

 

 

■■

 

 

 

「ねぇ、起きてる?『○○君』」

「起きてるよ。どうした」

 

 

 

 とある男子高校生が軽快に答えた。彼に話しかけたのは同じ高校に通っている女子高生だ。

 

 

「テスト、0点だったって本当?」

「まぁね。ほら」

「嘘、まじで?」

「橘さんは?」

「薫は百点だよー! 薫はね、塾に行って、毎日勉強してるから」

 

 

 橘薫、と言う名前の少女はとある男子高校生のテストのテンスを見て絶句をする。

 

「それにしても0点って、補習じゃん」

「いやー」

「やばいね」

「補修って、一昔前の漫画主人公みたいでかっこいいよね、やばいよねー」

「やばいなー、先にその発想が来るのがやばいなー」

 

 

 ヘラヘラしている男子高校生君。仮に名前を高校生君としておこう。彼は何者でもない。どこにでも居る普通の高校生君なのだ。

 

 そんな彼を橘薫(たちばなかおる)は純粋にやばいやつであると評価する。0点をテストでとってヘラヘラしているのだ。

 

 

「あれ? このテスト用紙、消しゴムで消した跡がある……ねぇ、なんで一回解いた問題消してるの? 消さなきゃ98点くらいは取れてそう」

「あぁ、知ってる」

「は?」

「だって、主人公だったら極端な方がいいからさ。100点か0点の方がかっこいいじゃん。1問わからないのがあったからさ、このままだと中途半端な点数になるって思って全部消した」

「バカじゃないの? いや、一周回って逆に天才……でもないか」

 

 

 背伸びをしながら高校生君は欠伸をしている

 

 

「まぁ、次は100点取るさ」

「取れるの? 訳わからないことをして0点取るのに」

「俺主人公が同じ敵に何度もやられるのって嫌いなんだよね」

「ちょっと待って、何の話? テストの話だよね?」

「そうそう、あってる。主人公は負けたとしても一回までだよ、許されるのはね。何度も同じ敵を見逃したりする展開も嫌いだよね」

「あってないじゃん」

「だから、次は100点とるよ」

 

 

橘薫と高校生君は軽快なリズムで話を繰り広げていく。変わっているなぁと薫は思った。

 

 

「校内放送ですー! 校内放送ですー! 台風が近づいているので午後の授業はお休みとなります。ホームルームが終わり次第、生徒の皆さんはすぐに帰宅をしてください!」

 

 

二人の間に入るように校内放送が響いた。その直後担任の先生が教室に入り、話す時間は消えた。

 

そして、ホームルームが終わり続々と生徒達は帰宅し始めた。

 

高校生君と橘薫も同じように帰る。二人は帰る場所が途中まで一緒なので、一緒に歩いている。

 

 

「雨すごいね。傘飛ばされそう」

「そうだね。雨って避けられないから悔しい」

「うわ、川の勢いすごいよ。ほら、あそこ」

「……あ」

 

 

 高校生君は遠くから見えた川を見て傘を投げ捨てて走り出した。

 

 

「え!? ちょ、ちょっと!?」

 

 

 彼女も走り出した彼を追った。彼は信じられないくらいの速さで走っていた。男女の体格差もあるが、そういえばと彼女は思い出す。彼はいつも体育を全力でやっていた。

 

 足の速さなら陸上部にだって負けていないのだ。

 

 

 ぐんぐんと加速をしていく高校生君。彼は川の上にかかっている橋の上から迷いなく川に飛び込んだ。

 

 

「ななな!! なにしてるのぉお!!」

 

 

 大声を上げながら彼女は橋の上から見下ろす。見てみると、ダンボールの中に猫が入っており、それが川に流されていたのだ。

 

 

 それを彼は救おうとして飛び込んだのがわかった。高校生君は急いで川の岸辺に寄って川から上がる。

 

 

「猫かと思ったら、猫の人形かよ!!」

 

 

 彼が大声で呟いた。ずぶ濡れの彼の手には猫……ではなく、猫の人形が握られていた。猫ではなかったのだ。彼が飛び込む必要性もなかった。

 

 

「まぁ、川で修行をしたと思えば」

「いいわけないでしょ!! バカ! 心配したじゃん!」

「俺は死なないよ」

「なんでそう言い切れるの!」

「だって、俺は……あぁ、俺ってただの高校生か。死ぬこともあるな」

「ふぇ?」

 

 

 大層なことを言おうとしたのだろうが、結局自分がただの高校生だと分かった彼は何事もないかのように大雨の中を歩き出し、帰路についた。

 

 

 寧ろ、何の危険もなかった彼女の方が慌てていることに展開の不一致が起こる。橘薫はフリーズを終了したがすぐさま再起動をして彼を追った。

 

 

「ねぇ。危なかったよ。気をつけて」

「心配ありがとう」

「その返しも、なんか……」

 

 

 

 大雨の中で二人は歩き続ける。薫は彼にも雨に当たらないように傘を分けるが高校生君は気にせず、雨に当たり続ける。

 

 軽い談笑をしつつ、住宅街を歩く。

 

 

「ねぇ」

「なに?」

 

 

 珍しく彼が話しかけてきたなと彼女は感じた。

 

 

「さっきから後ろにいるのは友達?」

「え?」

 

 

 彼に言われて振り返ると見覚えのある大男が立っていた、それを見た瞬間に彼女の顔が青くなる。

 

 

「あれ……最近、つけられてて」

「あ、そうなんだ」

「その、この間までアイドルしてた時もストーカーされてて」

「アイドルしてたんだ」

「皆んな知ってるよ。それであの人その時もいて、だから、怖くてアイドルとかはやめたの」

「へぇ。言ってこようか? もうやめてって。あと、今度から警察に行った方がいいよ」

「あ、え、うん」

 

 

 

 高校生君は堂々と雨の中、歩き、ストーカーの前に行った。そして、色々と話しているようだった。

 

 これで終わるのかと思ったが唐突に展開が変わる。

 

 高校生君が唐突に殴られたのだ。それだけでなく、そこから数人の男が現れて彼を殴ったり蹴ったり虐殺のように痛ぶっていた。

 

 高校生君を共同で暴行をしたのは全部で四人。彼女は恐怖心が多大に湧いた。そして、自分のために動いてくれた彼を置いて走り出した。

 

 

 

(ご、ごめん。わたし……)

 

 

 走った。雨が自分に当たってずぶ濡れになろうが走った。後ろを振り返ると彼らが追ってくる。

 

 

 ゾッとして、背筋が凍りそうだった。

 

 もしかして、このまま家に帰っても誰か待ち受けているかもしれない。唐突にそう思った彼女は行く場所を変えた。

 

 

 普段なら通らない道を走って。気づいたら工事現場のような場所に入っていた。建設が行われている場所に着くと、そっと隠れる。

 

 

 だが、ここに来るのが分かっていたかのように彼らもやってきたのだ。

 

 

「いるのは分かっているヨォー。子猫ちゃんー!」

「僕達がこんなにも愛しているのに君は逃げるのか」

「金払ったんだ、借金してまで!! 握手券買ったんだぞ!!」

「引退とか急にふざけるな!」

 

 

 気持ち悪いと心の底から、腹の奥から思った。グシャグシャと泥を踏みつける音が聞こえる。

 

 建物の一部に隠れながら少しだけのぞいた。逃げられないかと思ったが彼らの包囲網に隙がない。微かにあるようにも見えるが女の足では抜けられそうになかった。

 

 

「さーてと、手分けして猫を探そうか」

 

 

 雷鳴が鳴った。どこかしらに落ちたのではないか思うほどに大きな音が鼓膜に響いた。目がチカチカするほどに煌ていた。

 

 

「よぉ」

 

 

 ぐしゃぐしゃと再び足音が聞こえた、他の四人と同じような音のはずなのにその音だけは妙に大きいた。雷鳴を超えるほどに印象的だった。

 

 

 血だらけで高校生君が立っていた。

 

 

「やってくれたな」

「……お前、スメルちゃんの彼氏なのか?」

「あ? 誰だよ」

「とぼけるのか? いつも一緒に」

「知らねぇ。とりあえずお前ら全員ぼこる」

「俺はなぁ、黒帯だぞ」

「ラスボスじゃねぇなら、大したことないな。全員で来いよ」

 

 

 高校生君はギラギラとした笑みを浮かべながら近寄った。大男が最初に向かってくるが彼は目元に泥を投げた。

 

 

 そして、一瞬の隙を作ると股間を雷が昇るように蹴り上げた。

 

 

「……ッ!!R?!!??」

 

 

 悶絶をする彼を見て、泥を踏みつける。

 

 

「一度負けた奴には負けねぇ。残りはどうした。アイドルの尻追っかけてねぇで、俺と遊ぼうぜぇッ」

 

 

 頭に血が昇っていた。寧ろ血が流れて、冷静な判断力ができていないのではと思うほどだった。

 

 

 

(あ、あれ、○○君なの……)

 

 

 ぐしゃぐしゃになりながら、大雨の雨粒と一緒に殴る。喧嘩が好きなのかと錯覚するほどに綺麗な笑みを浮かべていた。

 

 数分で全員殴られた。血だらけになっていた彼の体は雨で流れていく。

 

 

「いるの?」

「……あ、うん」

「やっぱりいたんだ」

「何で分かったの?」

「勘」

 

 

 

 その後、警察を呼ぶ、事情聴取などで時間が過ぎると台風は過ぎ去っていた。橘薫と一緒に高校生君は外に出た。

 

 

「ねぇ、喧嘩はよくするの?」

「クマと戦ったりはしてた」

「嘘でしょ」

「対人は初めてだね、あと俺の真似してクマと戦うとかやっちゃだめだよ。クマは危ないから」

「するわけない。喧嘩が好きなの?」

「好きじゃないさ。ただの野蛮って訳じゃないから。結局あの四人はなんだったの?」

「アイドル時代からのストーカーらしい……一人は黒帯、一人はボクシング経験者、他は特筆すべきところはないらしい……ネットで知り合ったらしくて。私が引退したのが許せなかったんだって」

「あぁ、なるほど。それで一緒にいた俺をね……まぁ、いいか」

「ねぇ」

「なに?」

「助けられたら、好きになったんだけど」

「ヒロイン枠にしては(つら)がもうちょっと良くないと」

「アイドルだったんだけど」

「アイドルね。あぁ、確かに言われてみたら可愛い」

「でしょ。毎日、訳わからなくて気づいたらあなたのをこと考えてた。怖くて苦しくなって、助けてくれたのに逃げて、申し訳なくなって、戦っている姿を見て(オス)を感じて、感情がめちゃくちゃに振られて好きになりました」

「うん、ごめん。いずれ好きな人ができるから」

「今いるんじゃないんだ」

「いないよ、ただ俺はいずれ出来る」

 

 

 高校生君は夜風に吹かれながら淡々と歩き続けた。橘薫は人生で初めて告白して初めて振られた。それが悔しくて悲しい。だが、同時に納得もしていた。

 

 

「ねぇ、何を目指しているの?」

「……主人公。努力友情勝利とか、ヤンキーとか車レースとか、料理系とか」

「……相変わらず変なの」

 

 

 

■■

 

 

 

「あの女はどうなったのかのぉ?」

「デートとか行ったような……でも、何もなかった。記憶はほぼ忘れた。それよりもネカフェで漫画読んでたし」

「ネカフェ……?」

「主人公を学んでた」

「なんじゃそりゃ」

「まぁ、今の俺には関係が──」

 

 

 

 ──ふと、フェイの目が覚めた。昔を思い出すかのような夢だった。しかし、すぐさま気持ちを切り替えて彼は着替えて部屋を出た。

 

 

 

「さぁ、修行の時間だ」

 

 

 

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