『書籍化!』自分の事を主人公だと信じてやまない踏み台が、主人公を踏み台だと勘違いして、優勝してしまうお話です 作:流石ユユシタ
木剣がはじかれる音がする。筋肉に太刀をいれる鈍い音が響く。男が咳をする音が響いている、膝をつき、太刀を当てられた場所を手で押さえている
それを見下ろし、ボウランは勝者の笑みを浮かべていた。反対に見下ろされているフェイが見上げる。悔しさが浮かんでいない、ただ、虚空を見るように。だが、その眼は彼女を通して、遠くを見ていた、
遥か、遠くを……
これが、何度何度も繰り返される。只管にフェイは負ける、ボウランに、トゥルーに、アーサーに。何度も何度も完膚無きままに負ける。
ボウランはいつも、いつも、いつも、フェイに勝利をしてきた。
これがいつまでもずっと続くと思っていた。そして、価値観が変わるはずはないと思っていた、
■◆
さて、ユルル先生と個別ワンツーマンレッスンが開始してから、大分時間が経過した。仮入団の時から、約三か月。
そう、この俺、フェイはある変化を迎えていた。剣術がそれなりに強くなっていたのだ。前までは拮抗しなかったアーサーやトゥルーとも渡り合い、ボウランともまぁまぁの勝負をするほどに。
成長がかなり速い、とユルル先生は何とも言えないような表情で言う。あー、分かってるよ、先生。
やっぱり……驚きが隠せないよな。ここまで急激に強くなったらさ、それにかなりのハードワークだから先生としても生徒の体調が心配なんだろう。流石師匠ポジ!
「えっと、では、また模擬戦を」
「あぁ」
何度も俺と先生は打ち合う。彼女はまさにプロフェッショナルで滅茶苦茶教えるのが上手い。いや、俺がここまで成長をしているのはこの人のおかげであると素直に思う。
同時に俺の才能もあるけどね。
あ、そう言えば先生の剣って流派とかあるのかな? 滅茶苦茶剣術とかに詳しいからな。
「おい、お前には特定の流派があるのか?」
「え? あ、まぁ……ありますけど……」
「……そうか」
「その、ただ、なんて言うか。この剣術はあまり広まっていない言うか……広めてはいけないような、気がしたり」
禁断の剣術と言うやつか!?
興味が湧いてくる
「それで、どのような剣術なんだ?」
「あー、その、フェイ君はガレスティーア家と言う家名はご存じですか?」
「……お前の家名と言う事しか」
「ですよね。数年前に没落をしてしまった貴族です……そのガレスティーア家に代々受け継がれてきたのが、波風清真流、私の流派です」
「そうだったのか」
「えぇ、ただこの剣術はあまり良く思われていないようで……その、人には教えないようにしています……」
「……」
そう言われると、無理に聞くべきか迷ってしまうなぁ。俺もそれが使えたらカッコいいような気もするんだが。
「……」
「あの、もしかして、気になってます? 波風清真流……」
「あぁ、興味がある」
「……えぇ……どうしましょう。その、この剣術は本当に好かれていないんです……だから、その、教えてしまうとフェイ君の等級も上がりにくく……評判も」
「俺は名声や等級を上げたくて、仮入団をしたのではない。強くなるためだ」
「……そう、ですか」
彼女はうーんと悩んでいる。そんなに教えたくないのか。呪われているのか? その剣術。
「私は聖騎士の中でかなり嫌われています。本音の言うなら、皆さんを担当することすら、奇跡と言うか……周りからは出世を奪われたとか、思ってる人が居て」
「……そうか」
「私は十二等級と言う最下層のランクなんです。本来なら
この人、事情かなり重そうだな……。でも、俺は教わりたい。
「剣術だけは取り柄があるので、あくまで妙な癖があったら修正。あとは実戦経験を積ませながら近接戦闘を仕上げると言うのが与えられた仕事です」
「……」
「波風清真流は特異剣術と言うわけではないのですが、私からそれを教わったと知られれば面倒な事になるかもしれません。それでも良いのですか?」
「構わん、早速教えろ」
あ、俺的にはよろしくお願いしますと言ったつもりだったんけど。翻訳機能で…‥まぁ、上から目線は基本だから。先生も気にしてないみたいだし。
「……そこまで言われては……教師として拒むわけには行きませんね」
「……あぁ、頼む」
「では、私が最初に覚えた、
「……頼む」
ふっ、どうやら弟子のやる気を試していたような展開になってテンション上がるな。
「これは、私が父さま、父親から最初の技です。フェイ君は私に向かって真っすぐ剣を下ろしてください」
「分かった」
俺は風、いや、光のような速さで正面から剣を叩き落す。すると、先生は刃を横にして、俺の剣と先生の剣が十字のように交わる、だが、次の瞬間には先生は剣先を下に向け、刃を縦にしていた。
縦にした先生の刃が、俺の上からの剣を下に滝のように流し、そのまま剣先は地面についてしまった。そして、そのまま流れるように先生は俺の首元に剣を向ける。
「これが波風です。相手の上からの剣戟を流し、そしてそのままカウンターを叩きこむ。ざっくりいうとこんな感じです」
「……大体わかった」
「思っているほどに簡単ではないですよ?」
「無論、そのつもりだ。だが、俺はお前の腕を買っている。だから、俺が自身を追い込めばできなくはないだろう」
「……もう、フェイ君って偶に口説きみたいなこと言いますよね」
「そんなつもりはない」
「分かってます。では、始めましょう」
「あぁ」
「……フェイ君」
「……?」
「強さを求めるのは良いと思います。私は貴方の素直な所が好ましいです。今まで私を毛嫌いする人とか、沢山いました。でも、貴方は三か月、毎日私の元に来て剣を教えさせてくれた」
「……」
「ちょっと、嬉しかったです。こうして、誰かに教えられるのが……だから、私は……。フェイ君、強くなることを目的にしないでくださいね。そうすると、きっと大事な物が見えなくなります。失っても痛くなくなりますから」
「……あぁ、覚えておこう」
凄い良い事言ってくれた。これは心の底に置いておこう。それにしても、この先生本当に良い人だな。マリアと並ぶくらい良い人かもしれない。
◆◆
ボウランと言う少女にとって、弱者は嫌いだった。強くなろうとしない者、強くても意地汚い者、それに群がる弱者。それが全部嫌いだった。
彼女は、嘗てとある里の住人だった。
彼女は生まれた時から、強かった。魔術適正も、純粋な力も、格闘センスも。里の中では明らかに強者であった。だが、人族と言う事で差別され、長の争いで彼女が長になることを恐れた、者達。
彼女の腹違いの者達によって、卑劣な罠にかかった。薬を盛られて、先に潰された。彼女は元からその争いをするつもりはなかったが、周りはそれを信じる気はなく、大けがを負った。
この時から、彼女は弱者が嫌いだった。
――私は、本当の強者になってやる
嫌悪、弱者への嫌悪が彼女の全てだった。
何とか生きながらえ、里を飛び出し、冒険者をやったり、色々しながら聖騎士として活動するのが本当の強者への近道であると彼女は考える。
そして、出会った。フェイと言う強者と思わしき者に。試験の中で明らかに浮いている存在。
強者であると感じた、期待をした。だが、実際はただの雑魚であった。
魔術適正も、剣術も。全てが雑魚であった。期待外れであった。彼女が嫌いな弱者であった。
もう、興味はアーサーやトゥルーに移っていた。この二人は明らかな強者であった。自身よりも、強く、才能も桁違い。もう、フェイに目を向けることは無かった。
だが、その眼は無理に惹かれる
彼女は気付かなかった。すぐそばに迫っている餓狼に。
「えっと、ボウランさんとフェイ君の実践訓練を始めてください」
「あーい」
「…‥」
フェイとボウラン。二人が互いに剣を構える。一瞬で二人は距離を詰める。剣舞、互いに剣を振り、激突。
木剣の音が聞こえる。只管に、ぶつかり合う音が
(あ? こいつ……前より)
僅かに以前とは違う違和感。だが、それだけで彼女は負けない。勝った。剣を飛ばして。
次の日。
(……また、アタシの勝ち)
次の日。
(っち、めんどい所に剣を……)
徐々に、迫ってくる強烈な何か。眼力、異様な覇気。それがどんどん迫ってくる、迫ってきていることに気が付いていた。
(……なんでだよ、互角だと)
着実に、それは近づいていた。興味すらなかった対象は気付けば……
剣と剣がぶつかる。だが、流れるような連撃をフェイは繰り出す。それを只管に流す。僅かに、焦りが出始める。
(弱者に、負ける? アタシが)
焦り、焦り、手汗が滲んでいき、剣が滑り始める。一定のリズムで、打ち込まれる。剣戟、だがそれを必死に受け流す。
雨のように何度も、何度も。
――お前を倒すまで、この雨はやまんぞ
そう言いたげな眼と連撃。つい、彼女は、心が折れそうになる。だが、何とか立て直す。だが、次の瞬間、強烈な連撃、汗、そして、焦り、それによってボウランの剣が彼方に飛ばされる。
「フェイ君の勝利です!」
「……」
「アタシが……」
フェイの初勝利。今まで一度も、誰にも勝った事がない、彼が初めて白星を挙げた。
フェイがボウランを見る、眼が合う。その眼は虚空で、もう、
「ッ、お前」
「……ボウランさん」
「ッチ」
トゥルーが止めに入り、ボウランはそこで舌打ちをして止まる。
「マグレに決まっている。あんな雑魚に、弱者に……」
譫言のように彼女は呟く。それをトゥルーは眺めていた。だが、何も言わず。そして、その日の訓練が終わり、一度しか勝てなかったフェイが結局、逆立ちで一周をすることになる。
「ちくしょう! アタシが、あんな、あんな、弱者に!」
とある、空き地の一角。訓練が終わり、日が落ち始めている時間帯に彼女は剣を振っていた。いつもなら、訓練を終えたら寮に帰るが、今日だけは追加で訓練をしていた。
「ボウランさん」
「あぁ!? なんだよ、トゥルー!?」
「いや、その……勘違いをしてるなってずっと思ってたから。言おうと思って」
「……あ!?」
突如現れたトゥルーに、不満の視線を見せるボウラン。
「付いて来て欲しいんだ、僕に」
「……ッち。なんだよ」
ぶっきら棒に言いながらも、彼について行くボウラン。暫くすると、いつもの訓練の三本の木が生えている場所に到着した。
「あれ、見えるかな?」
「……フェイと、ユルルか」
「うん」
日が沈んだ夜。涼しい風が吹き抜ける。だが、彼らが見るその場所はまるで煉獄のようであった。只管に高める、自身を高める者が居た。
「十周、まだやってないのか?」
罰ゲームの逆立ち十周の事を彼女は言った。だが、その疑問をトゥルーは否定で返す。
「いや、既に終わっているよ」
「……は?」
「あれは毎日、十周終わった後にやってるんだ」
「……毎日。あんなに訓練を――」
「関係ないんだ。アイツには……俺はアイツが嫌いだ。孤児院でも昔から素行はかなり悪かったし、俺も他の孤児も酷い事は沢山言われた」
「……」
「だけど、アイツは急に変わったんだ。恐ろしい何かに……僕はアイツが怖い。でも、一つだけ言えることがある」
トゥルーが無表情で言葉を発する。
「あいつは
「……」
「孤独を力に変えて、只管に走っている。二年前、あいつは唐突にそうなった。ずっと僕は怖くて、アイツを意識していた。だから、僕には分かる。あいつはずっと走り続けていたんだ。最初は色々、泥沼にはまっていたけどね」
「……」
「でも、アイツは今日、ボウランさんに勝ったのはマグレジャないよ。只管に突き詰めて来たんだ。それが、ボウランさんの背中を掠めた……だと思う」
「なんで、一々そんな事言うんだ?」
ボウランがそう言うと、トゥルーは苦笑いをした。いや、乾いた笑みに近いかもしれない。それは同情に近い警告であった。
「何でだろう。ボウランさんが、アイツを……
嘘偽りのない、恐怖。それを味わったトゥルーにはそれが分かった。この子もいずれ、味わうかもしれない。
蛇だと思って踏んでいたら、それは龍の尾であった恐怖を。
「僕みたいに」
「……お前も見たのかよ?」
「あぁ、恥ずかしいんだけど、僕はもう、トラウマだよ……あんな恐怖体験は二度としたくない。だから、模擬戦でも直ぐに剣を飛ばすでしょ?」
「……模擬戦だからな」
「実戦だったら、アイツは蛇のようにしつこいさ。そのしつこさは、痛みを伴う程に、しれんが厳しくあるほどに、強くなっていく」
「……」
「まぁ、それだけかな。僕は移動するよ。ここに居たらバレそうだし」
「……おい、お前はいつも見てたのか?」
「……まぁね。シスターにも頼まれてるし、僕個人も眼を離しておきたくないんだ」
逃げるように、トゥルーは去った。風が吹いて、そこには彼女だけになる。弱者。そう思っていたが……と彼女はもう一度、考え直す。
魔術を使えば、間違いなく彼女は勝利する。だが、それでは最早、勝負を捨てたも当然だ。
あの、何もない対等の剣戟の勝負で……
「認めてやるよ。
宿敵を定め、彼女も去る。そこにはもう、強者しかいなかった。
■◆
よっ! 俺初勝利!! 1200戦、1199敗、1勝! いや、ここまでくるとね。俺も察するわ。
努力系主人公だね。俺は、間違いない。2年以上の歳月でやっと確信したわ。クール系でありつつも努力家と言うね。そりゃ、試練も大きいはずだよね。
まぁ、未だに実はとんでもない覚醒イベントがあると言うも期待をしているが。
恐らくだが、ボウラン→トゥルー→アーサー、みたいな順で倒していけ、みたいな感じかね?
段階を踏んで、強くなっていかないとね、やっぱり。
さて、次はお前だー! トゥルー! ボウランは一回倒したから、それほどまでに興味なし。一回倒した敵が、また出てきてもね。
次々とステップアップしていかないと。
そして、アーサーが強すぎる。マジでコイツやべぇわ。今はまだ勝てる気しないけど。
だが、勝つぜ。俺は。
頑張りますかね?
アーサー 1200戦 1200勝 無敗
トゥルー 1200戦 750勝 450敗
ボウラン 1200戦 449勝 751敗
フェイ 1200戦 1勝 1199敗
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