ふと渚がE組に落ちて、その時の周りの反応が嫌だったというのをみて、E組に落ちてもなお親交のあるE組以外の存在っていうのを妄想した結果。
暗殺生活の中にフッと現れサッと消えていくようなそんな彼のお話。
ーーー
E組での授業と烏間先生の放課後の特訓が終わった後、カルマ君と杉野と僕との三人で帰路についている時だった。
「な〜ぎさっ!」
バッと僕らの後ろから現れ、僕に肩を組んできた僕らよりも少し年上の青年。
唐突な出来事に僕らはただ単に驚くことしかできなかった。
「聞いたよ、渚くんE組に落ちちゃったんだって?
あそこって確かエンドのE組とか言われてる落ちこぼれクラスとかなんとか」
ニヤニヤと笑みを浮かべるその青年に対して、それを聞いていたカルマ君と杉野はムッと少し不機嫌な顔をした。
僕も、もし二人の立場だったらその見知らぬ人に対して同じ顔をするだろう。
僕らを落ちこぼれ扱いするなと。
実際努力が足りず落ちてしまったのだが、僕らは今では標的を殺すための暗殺者として、そして今回のテストでは色々なことが重なってダメだったが、クラス最下位ですら総合順位では真ん中を取れるほどに成長している。
でもまぁこの人にはその言葉に対して怒る理由などないのだ。
「だから言ったろ?
あんな頭のおかしい中学に入るなって。
まぁ渚の意思じゃねぇってのは知ってるけどさ」
進学校と名高い椚ヶ丘中学を"頭のおかしい中学"と街中で口に出して言えるような人は、特にこの椚ヶ丘市にはなかなかいない。
「久しぶりですね、姫木さん」
そう、彼は僕の知り合いの姫木珠音さん。
知り合いというのも家が近くて小さい頃から仲良くしてもらっていて、勉強や様々なことを教えてもらっているが、親の都合が本人の意思なのかはわからないがしょっちゅう外国に行っていて、会うのは去年の二月以来だ。
「なんだよ渚ぁ、前みたいに珠にぃって呼んでもいいんだぞ」
そういって姫木さんは……珠にぃは…珠音さんは頬をグリグリと押し付けてくる。
僕もいつの間にかに苦笑していたのが笑顔に変わっていた。
「で、えっと渚くんのお知り合い?」
と、カルマ君が珠音さんを指差して聞いてくる。
「そうだよ。
姫木珠音さん、小さい頃からよくしてもらってるんだ」
「渚の新しい友達かな?
あぁいや、赤い髪の君は渚からたまに話聞いてたかな。
赤羽業君だよね?」
肩を組んできていた手をするりと離して、珠音さんはカルマ君と杉野の前に立つ。
僕と比べると明らかだが、僕よりも背の高いカルマ君ですら少し見上げている。
いつもの見下す顎を突き出した顔つきが意味をなしていない。
「そだけど。
渚くん、俺のことなんて言ってた?」
「煮物のオレを飲む悪戯するときに生き生きしてる子って」
「しゅ、珠音さん!
そんな言い方してないよ!」
慌ててフォローを入れるが時すでに遅し、僕と珠音さんの間にカルマ君が入ってきた。
「へぇ、渚くんって俺のことそんな変な風に見てたんだぁ」
ニタニタと笑みを浮かべるカルマ君の両手にはカラシとワサビ。
珠音さんに助けを求めるが、珠音さんは杉野の方に話しかけていた。
「君はなんていうの?」
「杉野友人って言いますけど」
「へぇそうなんだ。
もしかして友人くんって野球やってる?」
「え、なんで分かったんですか?」
「んー、筋肉のつき方とか野球やってる人みたいだったしね」
「こ、殺せんせーと同じことを…」
「ん?
殺せんせーって?」
「あぁいや!
なんでもないです!」
「ふーん」
と、そんな会話をずっと見ていたのは単に目の前のカルマ君と目を合わせたくなかったからで、でもまぁそんなことしても意味はないわけで。
「渚く〜ん。
よそ見してていいの?」
まずい…
「ぼ、僕飲み物買ってくるね!」
取り敢えず僕はその場から逃げ出した。
ーーー
必死に探してカルマ君の怒りを収めるためにイチゴ煮オレと、杉野と珠音さんと僕の分のジュースを買って戻ると、珠音さんは見事に二人と仲良くなっていた。
「あぁソニックニンジャね見た見た。
もちろんアメリカで上映初日にね、あそこの作画は信頼できるから安定してるよね」
と、カルマ君と話しつつも杉野ともちゃんと会話を続けられる。
「メジャーも何度か球場で見てるよ。
日本人選手が出る試合とかがほとんどだね。
同じ日本人としてはやっぱ見てみたいしさ」
外国にしょっちゅう行っているだけあり、珠音さんのコミュニケーション能力はとても高い。
実際今も、同時に二人と別々の話を成立させている。
外国語も日常会話の類ならばかなりの言葉を話せるはずだ。
ふと後ろから驚かしてみようと思い、背中を見せている珠音さんに向かって足を進める。
その珠音さんの背中に少し隠れていることと、話に夢中になっているカルマ君と杉野も僕には気づいていない。
右手と右足を同時に出すナンバ歩きでそっと気配を殺して近付く。
「おかえり渚」
「た、ただいま」
振り返って見せるのは満面の笑み。
本当に良い人としか形容できない笑みだが、僕は見破られたことに対しての驚愕で戸惑うことしかできなかったが、それを消し去るような光景を見せ付けられる。
「へへっ、これ待ち受けにしちゃった」
そう言って見せ付けられた携帯の画面には、夏休み沖縄で女装させられていた僕の写真が映されていた。
「か、カルマ君!」
その写真を撮ったのは紛れもなくカルマ君のはずだ。
責める気持ちで睨んだ先のカルマ君も同じように携帯の画面を見せ付けてきた。
「等価交換ってやつ」
映されていたのは中学に入ったばっかの頃の僕の写真。
珠音さんにボーイッシュの意味を誤った教え方をされ、言われるがままにボーイッシュ着こなしというファッション誌のモデルと同じ服を着されられた時の写真だった。
「珠音さん!」
今度は珠音さんにも責める視線を向けるが、どこを吹く風とばかりに彼は受け流した。
「まぁまぁいいじゃん。
それよりも帰るんじゃなかったの?」
「うぅ…」
小さい頃からこの人には敵わないことは承知の上だが、それでも悔しいものは悔しかった。
ーーー
「あれ?
電車乗らないの?」
「あー悪いね渚。
まだこっちで野暮用があるんだ。
明日も同じ場所にいてくれたら会いに行くからさ」
駅に着き、カルマ君と杉野と別れた後、改札まで一緒だった珠音さんは唐突に別れを切り出した。
家が変わっていなければすぐ近くまで一緒に帰れると思っていた僕としては、正直少しだけショックだった。
だが明日も会えるならと諦め別れを告げ、改札を通ろうとしたら珠音さんに呼び止められた。
「あぁごめん渚くん。
あれって君の知り合い?
ずっと着いてきてるみたいなんだけど」
「あーうん。
僕らの担任の先生…」
そう言って珠音さんが駅の入り口を指差す。
入り口から少し見えるのは高い人影ーいやタコ影といってもいいのかもしれない。
紛れもなく変装した殺せんせーだった。
殺せんせーも僕らの視線に気付いたようで少しギョッと驚いたのち、こちらに近寄ってきた。
「どうもこんばんは渚くん。
そして渚くんのお知り合いの方」
珠音さんは一般の人なのに接触しても大丈夫かとヒヤヒヤしつつも、僕らは一旦場所を変えた。
「こちらは僕の小さい頃からよくしてもらった姫木珠音さん。
で、こっちが僕らの担任の……先生」
まさか殺せんせーとは呼べまい。
不自然な紹介となってしまったが、珠音さんはそれに疑問を持つことはせず、いつもの笑顔で挨拶した。
「渚がお世話になってます。
どうぞよろしく」
ぺこりと小さくお辞儀をする珠音さんに対し、殺せんせーもお辞儀を返す。
改めて思うと殺せんせーと一般の人とが接触するのを見ることはあまりない。
「こちらこそよろしくお願いします。
ところで、どこかで会いませんでしたかねぇ」
と、突然に殺せんせーがそう珠音さんに話し始めた。
「ちょっ殺せんせー!
珠音さんは男性だし、先生の好みの巨乳じゃないよ!」
「な、渚くん!
これは確かにナンパの文句ですが、先生はそういう意味で言ったわけじゃありません!
それにさらっと先生の好みを暴露しないでください!」
どうやらナンパではなかったらしい、とこんなやり取りに珠音さんは笑みをこぼした。
「いや、愉快そうな先生でよかった。
エンドのE組とか言われているもんだから少し心配していましたが、先生があなたのような方でよかったです」
唐突に言われる素直な心配と賞賛に、僕と殺せんせーは揃って少し俯く。
人たらしは殺せんせーにも通じるようだった。
「確かに何度か会っているはずですよ。
中国の四川省で相席になったり、アメリカの野球の試合で前後の席になったり…
あとハワイでもあったはずですよ、ほらあのドリンクのお店で」
本当に会っていた以上に思ったより会っていたらしい。
珠音さんの言葉を聞いて殺せんせーも思い当たることがあったようで、ピンと来たような顔をした。
「あぁ確かにそうでしたねぇ。
あの時はどうも」
「いえいえ。
そうだ、この後時間ありますかね?
渚が学校生活でどんな感じかとか聞いてみたいんですよね」
そう言って珠音さんは僕の頭をくしゃくしゃ撫でる。
「ほ、保護者じゃないんだから」
「いいだろ渚?
ほとんど兄貴みたいなものじゃないか」
「まぁそうだけど…
僕は付き合わないからね?」
殺せんせーが僕をどう評価しているのか、それを聞くのは少し気恥ずかしく思い、僕は撫でてくる珠音さんの手から逃げるようにして離れる。
「それじゃぁ珠音さんも先生もまた明日」
「おう、じゃぁな渚」
「えぇまた明日お会いしましょう渚くん」
僕は珠音さんと殺せんせーを二人で残すことに少し後ろ髪を引かれる気はしたが、それでも改札を通った。
ーーー
「渚、体つきがかなり違ってた」
「ほう、運動に目覚めたのではないのでしょうかね?」
渚の背中を見送りながら、珠音は視線を向けず殺せんせーにそう言う。
殺せんせーもあくまでシラを切る口調で返す。
「E組は部活に参加できない。
かといってさっきの杉野君と一緒に野球を始めたようにも思えない」
踵を返して、近くのカフェを指差す珠音。
「あそこで少し話しましょうか」
「えぇいいですよ」
会話に先ほどの親しさはない。
が殺伐としているわけでもなく、珠音は先ほどの明るさを取り戻してこう言いだす。
「知ってます?
あそこのマスターの方と仲良くなると裏メニューのチーズケーキを頂けるんですよ?
甘いものはお好きですか?」
「にゅやっ!?
う、裏メニューですか?
えぇ好きです大好物です」
そんな会話を混ぜてカフェへ歩く雰囲気は仲の良い二人組のように見えた。
カフェの席に座り、件の裏メニューを頼むと、珠音から話し始めた。
「さっきの続きですけど、渚の筋肉のつき方…まぁあいつ細いからそう極端には出てませんが。
何かを振るのに適した筋肉のつき方、そしてそれは恐らくバットのような長いものではなく、また手首にスナップを効かせるもの」
テーブルの端に置いてあったケーキ用のナイフを手に持ってそれを振って見せる。
「………」
殺せんせーは何も言わない。
その反応を見た珠音も何も言わずに、話を再開した。
「そして、何度かあなたを見かけた時にいつもそばにはいかにもって雰囲気の怪しい人間が何人も隠れている」
珠音は手に持っているナイフに反射させて、頃せんせーに店の外を見せる。
そこには黒い服を着た男が数人、景色に紛れて存在していた。
「にゅふふふ。
もう素直に言ったらどうですかね?
渚くんの筋肉のつき方から何を想像して、私の正体がなんだと思ったのかと、ね」
珠音はナイフを置く。
「あれは暗殺者の雰囲気に一番似ている。
後ろから驚かそうとした時、わざわざナンバ歩きをして服の擦れまで隠そうとする一般人は中々いない。
あんたの正体については想像もつかないけどね」
「今更シラを切っても遅いですよ。
問題は、何故あなたはその渚くんの行為に気が付いたのか。
また彼らと接触するときどうして、彼らに察せられずに驚かせたのか。
そして景色に紛れたあの男性に気付けたのか」
「………」
今度は珠音の方が口を閉ざした。
「彼らよりも気配を殺せて、なおかつ彼らよりも気配を読むことが出来る。
答えは簡単、彼らよりも手練の暗殺者だから。
ここにきたのも私の暗殺を防衛省から依頼されたからでしょう?」
にゅふふふと舐めた笑いを零す殺せんせーを見て珠音も笑みをこぼす。
「そうです。
その通りですよ殺せんせー」
「あなたの暗殺者としての技能が、渚くんにも無意識下で受け継がれて言ったのかもしれませんね」
「あぁそこはどうだろう。
確かにしょっちゅう驚かしたり目の前で喧嘩を止めてたりもするけど、それ以外にも要因はあるかもね。
まぁ詳しくはわかりませんけど」
「ヌルフフフ、そうですか。
ところで依頼の方はどうしますかね?
あなたにこの私が殺せるとお思いですか」
普通のカフェにいる以上緑の縞模様の顔にはできないが、舐めきった口調で珠音にそう問う。
「いや殺す気はないよ。
渚も随分も楽しんでいるようだし、暗殺者の素質が出たってことはよくわかったしね。
この依頼からは手を引くよ」
「そうですか」
「ただね、あなたには先生としてこれからも渚のことをちゃんと見ていてほしい。
そして三月までに渚に暗殺されて貰えると助かるかな」
そう言う珠音の顔はいつもの満面の笑みだった。
「えぇもちろん。
"先生"として、彼らを導くことに関しては任せてください。
ただ、"標的"として彼らに殺されるかは保証しませんがねヌルフフフ」
殺せんせーもまた笑顔でそう応じる。
一種の信頼が成り立った二人の元に注文の品を持ってきたマスターがやってきた。
「…どうぞ」
優雅な手つきでチーズケーキの乗る皿を珠音の前に置き、その側にコーヒーを置く。
チーズケーキはシンプルな見た目だが、品の良い光沢や鼻に香る深いチーズの香りがその味の良さやマスターのこだわりを窺わせる。
それを見ただけでもよだれを零す殺せんせーがマスターの方を見て自身の分を待ち構えるが、マスターは殺せんせーに一瞥向けるだけで去っていった。
「にゃゆっ!
わ、私の分は!?」
期待が大きかった分、渡されなかった時の驚愕は大きく、取り乱して珠音に聞くも、珠音はフォークの先端を口に含みながら、当然とばかりに答えた。
「え?
最初に言ったよね、マスターの方の仲良くなるとチーズケーキを頂けると。
殺せんせーの分はないですよこれ」
あっけからんと答える珠音に殺せんせーは呆然と口を開いて惚けるも、次の行動は早かった。
「一口ください!」
土下座である。
マッハ20で行われた土下座はしかし、殺せんせーの気遣いにより風圧で埃を立てぬように行われた。
「やだよ美味しいし」
そんなもの御構い無しに珠音はチーズケーキを食べきった。
「にゃんと!?」
絶望する殺せんせーを見ながらコーヒーを飲み干す珠音は笑いながら、マスターに声をかけた。
「ごちそうさま、マスター。
会計置いとくねー」
「……おう…またこい」
「はーい」
そんな会話をしたのち、床に打ちひしがれる殺せんせーの肩を叩いて、珠音は勝ちほこる顔をする。
「それじゃぁまたどこかでね殺せんせー」
そう言って珠音は殺せんせーを置いてカフェから出て行った。
姫木珠音。
日メ木殳(しゅ)音→暗殺
渚くんは兄キャラでも弟キャラでもいける(断言)
どうも変態です。
書いていくうちに暴走するのが私の癖です。
気づいたら暗殺者になってた!?っていう笑。
続きの書く予定のないお話だったので名前はネタ志向でやってみました。
パクるなりオマージュなりどんどんしちゃってください、そして暗殺教室の作品を増やしましょう!
リクやコメントは気軽に書いてくださいな。