アズラエルの野望 難易度VeryHard アークエンジェル隊ルート 作:うNこChiんChiん丸
赤色の光条が
ヘリオポリスで衝撃の再開を果たしたかつての親友、アスラン・ザラ。彼が乗っているかもしれないザフトの艦に対して
殺さなければ殺される。そんな状況の中で、キラはジンを破壊した。その中には当然パイロットがいただろう。アスランと同じ部隊にいる戦友であろうパイロットを、キラはアスランの目の前で殺した。
アスランは果たしてそんな自分を許してくれるだろうか。そう考えた時、そんな筈がないと否定してくる己に気付いた。アスランがアークエンジェルを破壊したら、自分はアスランを許せるかと、友を殺した男を許す者が何処にいるものかと、
そして追い打ちを掛けるアークエンジェルの戦力不足問題。ヘリオポリスが崩壊し、軍の機密に触れて離れようにも離れられない身分となった今、キラがストライクに乗って戦わなければ、アークエンジェルに乗る多数の民間人や友達が殺されることになる。軍人でも何でもないからと逃げる事など、もう出来ないのだ。
だから、アスランが――"
「しかた、ないんだ……」
操縦桿を強く握り締めて、掠れた声を絞り出す。そうでもしなければ、友達を殺してしまったかもしれないという罪悪感に飲み込まれて、二度と動けなくなってしまいそうだった。
『おい、坊主!』
しかし現実は感傷に浸る暇を与えない。
スピーカーから鳴らされたムウ・ラ・フラガの切羽詰まった声に意識が引き戻され、キラは現実という暗い牢獄に帰還する。
「な、なんですか?」
『ボケっとするな! ローラシア級がいた座標からデュエルとブリッツ、バスターが飛んで来た! 野郎ども、最後に厄介な置き土産を!!』
イージスがいない。
その報告にドクリと心臓を跳ねさせながら、キラは宇宙を映すモニターをジッと睨み付ける。すると、ほんの数秒もしない内にストライクのセンサーが熱紋を探知し、モニターに枠を表示した。
拡大して見れば、砲撃のエネルギーで損傷したのであろう、あちこちが融解した三機のGが映る。腕と頭部のブレードを失ったデュエル、片脚のないブリッツ、そして肩部のフレームが完全に露出したバスター……ほぼ満身創痍と言っても良い彼らは、それでもなお武器を手に一矢報いようとしている。
「貴様らァッ!! よくもガモフをォォォッッ!!!」
「逃がしません……仇は討ちます!」
デュエルを駆るパイロット、イザーク・ジュールが、コーディネーター故の端正な容貌を憎悪に歪めながら、最大までスロットルを押し込んだ。ギュンと加速するデュエルに続き、ブリッツに乗るニコル・アマルフィも、甘いマスクの眉間に皺を寄せながら加速する。
「ッ……そんな、そんな機体で……ッ!!」
元々が五体満足で動かす事を想定されたモビルスーツ、それも奪取したばかりの敵軍の新型だ。いくら頭を含めた基礎能力が高いコーディネーターとはいえ、違和感も操縦難度も凄まじいはず。
それなのに武器を手放さず、逃げる事もせず、ただひたすらに向かって来る。その行動に強い殺意を感じて、キラの肌が粟立つ。
「そんな機体で、一体何が出来るって言うんだッ!!」
背後に懸架された巨大な刃――シュベルトゲ―ベルと名付けられた対艦刀を構え、ストライクもまた加速した。
殺したから殺される。殺されるから殺す。戦争がモニターの向こう側の世界だった頃は馬鹿馬鹿しい、間違っていると思っていた暴力的な倫理は、実の所正鵠を射ているとキラは思った。突出した二機の後ろから的確に放たれる緑色の"死"が掠める度に込められた殺意を感じ取って、その思いは確実に深まっていく。
逃げればいいのに。放っておいてくれれば殺さないのに。そうやって僕たちを追いかけて、何が何でも襲おうとしてくるから。だから僕は……僕たちは。
「でぇぇェェやアアアァァァァッッッ!!!」
ビームサーベルを引き抜き、デュエルがストライクに飛び掛かる。振り回されるサーベルが胸部を掠め、装甲が溶断された事を赤く染まったステータスが示す。続け様の斬撃が腰部の脚部保護装甲を切り飛ばして……今度はそれが、コックピット目掛けて向かって来る。
その瞬間、キラの中で何かが弾けた。
「もうッッ!! 僕たちを放っておいてくれェェェェッッッ!!!!」
ぐるり、と視界が回転する。
四肢が動く事で生じる慣性を活かし切ったフルスイングは、デュエルの下半身を確実にとらえた。ビームの刃が腰から僅かに下、両足の根元を上下に別ち、次いで実体部分がデュエルの胴体を弾き飛ばす。
「なっ、うわッ!?」
強烈な衝撃とアラート、そしてコックピット内に弾ける火花。乖離した破片がノーマルスーツのガラス面を強かに打ち、それによって割れた破片が顔面を深く抉る。
イザークがその痛みに戸惑う前に、ストライクはデュエルの上半身を蹴り飛ばし、その反動でブリッツに急接近した。
「このォ!」
ニコルはZAFTの精鋭たる赤を纏う者。イザークが撃破された瞬間の動揺を抑え、向かってきたストライクにブリッツの左腕を向ける。放たれたのは有線式のピアサーロック・グレイプニール。艦をも沈める威力を持つクロ―はストライクの右肩を捉え、PS装甲に阻まれながらも確実にストライクを吹き飛ばす――はずだった。
キラは超人的な集中力で吹き飛ばされる威力を計算し、その影響が最小限になるようにストライクを操作した。与えられる衝撃に逆らわず、スラスターと機体の姿勢を調節し、回転運動へと変換する。モニターに映る視界は大きく変化し、自分が今どこを向いているのか、どう動いているかの判別が大きく難しくなる。
が、それすらも完全に見切って、キラは完璧なタイミングで引き抜いたマイダスメッサーを投擲した。
「うっ……!? そんな体勢からっ!」
咄嗟に構えたトリケロスの表面をビームブーメランの熱が舐める。同時にコックピットにアラートが鳴り、装備された
しかし、まだビームライフルとビームサーベルは残っている。即座に思考を切り替えて、ニコルはライフルを乱射した。
「このっ……なんで、なんで当たらない!?」
「クッ、後ろに目でも付いてんのか!」
一発、二発、囮を挟んで本命の四発。ストライクを捉える筈だったビームは、まるで未来を予測されているかのように回避される。それどころか、別角度から放たれたバスターの攻撃すら、左肩部の装甲を破壊するだけに抑えられた。ディアッカがバスターに構えを取らせた瞬間、ストライクは不自然に体を回転させて装甲のある部分を向けたのだ。
明らかに狙った挙動。常軌を逸した対応力。たかがナチュラルの作った、ナチュラルの操るモビルスーツ。出撃前は仲間と共に馬鹿にしていたソレに対して、恐怖心が沸き上がる。
「この敵はッ……だめだ! ディアッカ、逃げてッ!!」
目前に迫る死神の刃。ニコルは敵の能力と自分たちの戦力を天秤にかけて、自分たちが劣ると判断した。そして同時に己が既にストライクの射程圏内に入っていると判断し、ビームサーベルを起動しながら残されるであろうバスターのパイロットに向けて叫ぶ。
「ッ……う、わあああぁぁぁッ!!!」
「……ッ!」
大声を上げて自らを鼓舞し、ニコルはブリッツを全力で進ませる。
地球連合が開発したこのビームの刃はコロイド粒子に包まれて形作られているだけで、ただのエネルギー光線である事は分析済み。故にこそ、同じサーベル同士で反発しない事も理解している。
だから差し違える。これ以上犠牲を増やさないために――目を大きく見開いて、モニターの中で巨大になるストライクを見続けて。
「あッ、グ」
全身が揺さぶられる感覚。モニターに表示された新たなアラート、右腕の喪失。それを理解する前に再びの衝撃が奔り、ニコルは意識を失う。
「ッふ、ハァ、ハァ……!」
ストライクに急制動をかけ、ブリッツのビームサーベルをかわしながら右腕を切り飛ばす――離れ業を成し遂げて、キラは詰まった息を吐き出す。呼吸を忘れるほどの極限の集中状態と、鍛えられていない体にかかる強大なG。キラの身体は弛緩と休息を求めて悲鳴を上げている。
しかしまだ、キラに休息の時は訪れない。
「あと、一機……」
ストライクがツインアイを向けた先で、バスターのパイロット、ディアッカ・エルスマンは迷っていた。このまま戦闘を続行すべきか、それともニコルの忠告通り逃げるべきか。
「イザーク、ニコル……冗談、きッついぜ……!」
ナチュラルに背を向けて逃げるのは癪に障るが、支援射撃に徹していた分、ストライクの異常な戦闘能力の全てをディアッカは目撃していた。故にこそ、射撃に偏重したバスターでは、例え万全な状態でも一機では太刀打ちできないと判断している。
だが、何発かは命中弾を与えたのだ。散弾砲はPS装甲によって防がれてはいるが、高速な質量弾の直撃は
「……勝ちの目があるならさぁ」
そしてディアッカは、戦闘を続けるという判断を下した。両腕に持つビーム砲とガンランチャーを連結させ、実体弾ではあるがより高い命中率が見込める対装甲散弾砲へと形態を変える。関節部や露出した胸部、肩部に命中する事を期待して。
「やるしかないっしょッ!!」
発射、そして直撃。ストライクは大きく体勢を崩し、ディアッカは小さく「よしっ」と快哉を叫ぶ。続けざまに二、三撃目を与えようと操縦桿を握り直して。
アラート。警告の強調表示。衝撃、そして急接近するストライク。
「そうやって……撃って来るから……ッ!!」
パンツァーアイゼンに捕捉されたバスターに逃れる術はなく、シュベルトゲ―ベルの刃が妖しく煌めき――
「もう、やめるんだ」
――両腕と二つの砲を破壊されたバスターの中で、ディアッカは呆然とその言葉を聞いていた。