FGORTA―配られし切り札― 作:雨乞い
一瞬の出来事だった。
遠くに見えた黒い鎧は、気付けばマシュの目の前で。
割り込むように入ってきた別の黒は、しかし弾き飛ばされるように、岩壁へ叩きつけられていた。
【「日彩君!!!!」】
通信越しにロマニが悲鳴を上げる。
マシュは動かない。動けない。下手に動くわけにはいかない。
アーサー――否、ここではアルトリア・ペンドラゴン。
聖剣の担い手。円卓を率いし、騎士の王。その
その黄金色の瞳は――
「では、次は貴様だ」
奇妙に揺れていた。
それは、黒い嵐だった。
幾度となく振り下ろされる剣を、全霊をもって耐え凌ぐ。
転じることなど夢のまた夢。
蹂躙劇と言っても過言ではない中にあって、しかし、マシュはまだ立っていた。
「よく耐える。だが――」
抜け落ちた表情のままに、黒の騎士王は剣を大きく振る。
手にした盾もろとも弾き飛ばされたマシュは、その体勢を整えて――
「『光を呑め――』」
【「魔力反応増大!!」】
「――ッ、マシュ!!!!」
「『
聖剣から放たれた膨大な魔力が、マシュに襲い掛かった。
空が見えていた。
黒の騎士王が放った一撃は、岩壁を貫き、そこから地上の風景を垣間見せていた。赤黒く染まった空は、地上の炎だけが原因では、きっと、ない。
「マシュ!!」
立香は地面に叩きつけられた、自身のサーヴァントへと駆け寄る。
空中で咄嗟に身を捻り、直撃を避けてなお、その威力は凄まじいモノだった。
「せ、んぱいっ……来ちゃ、ダメです……!!!!」
ボロボロになり、助け起こされながらも、マシュは
「『光を呑め――』」
次が来ることを予期していたからだ。
2発目のそれが放たれようとしたその時、マシュは一歩前に出た。
避ける余裕などありはしなかった。だから彼女は、立香の前に立ち、盾を構えた。
魔力の奔流が身を襲う。盾を持つ両手も、自身を支える両脚も、限界を訴えるように震える。
それでも、耐えて、耐えて、耐えて――
誰かの手が、肩に回された。
誰かの手が、盾を持つ自身の手の横に伸びた。
「俺には、こんなことしか出来ないけどっ――――!!!!」
「大丈夫だ……!きっと、マシュなら!!!!」
立香が、隣に立っていた。
彼女を励まし、彼女を支えるようにして立っていた。
未だ何を成し遂げたわけでもない、
だからこそ――
マシュは、そんな自分を信じるマスターを、何より信じた。
黒の騎士王は、自身の『宝具』がもたらした結果を見て嘆息した。
2発目、放たれたそれはマシュと立香を吞み込み、しかし2人は健在だった。
マシュの『宝具』、そしてマスターである立香の『令呪』2画は、確かにその役目を全うした。
剣身に魔力が渦を巻く。
黒く染まった聖剣が、膨れ上がる様を幻視する。
こちらの様子に気付き、膝をついた
それは、先ほどとはまるで鏡写し。
絶望、希望、絶望と、『宝具』は三度反転させる。
そうして聖剣を解放しようとした時、黒の騎士王はソレに気付いた。
誰かが歩いてくる。
頭から、背中から、そこかしこから血を流しながら、しかし確かな足取りで。
膝をついたマシュの頭を撫で、手を伸ばして立香の肩を叩き、ソレは最前に立った。
御剣日彩は、黒の騎士王の眼前に立った。
懐から取り出したのはトランプ、そしておもちゃのベルト。
バックルに一枚――スペードのエースを滑り込ませると、残りのカードが宙を舞う。
【「魔力が増大!いや待て……何だ、この反応は!!??」】
『宵闇の星』――黒の騎士王が持つスキルの一つ。
戦場にあって最適解をもたらす、黒の騎士王の直感。
その星の如き黄金色の瞳が、来訪者たちを初めて捉えたとき、黒の騎士王は感じた。
とびきりの
――――ソレは何としても止めなくてはならないと。
「くっ――!!??」
だからこその本気だった。
一つの口上すらなく、不意を打った。
魔力に飽かせて蹂躙した。
――しかし、彼らは止まらなかった。
最初に感じたソレ、その根源を目の当たりにし、黒の騎士王の顔に焦燥の色が浮かぶ。
魔力が解き放たれ、3人へ――最前の日彩へと襲い掛かる。
黒い瞳が相手を見据える。
ゆらりと右腕を掲げ、その唇が紡ぐ。
音はなかった。だが、その場の誰もが聞えた。
《――――変身ッ》
【TURN UP!】