FGORTA―配られし切り札―   作:雨乞い

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11 Round 4

聖剣の放った奔流が収まると、それは静かに立っていた。

小柄な若者の姿は消え、替わりに、それが立っていた。

その光景の意味を最も理解していたのは――恐らく、藤丸立香だった。

 

 

 

藤丸立香の人生は、それほど特筆するモノではない。

世界の片隅で生まれ、時に笑い、時に泣き、そうして育ってきた。

誰かに愛され、何かを愛してきた。

 

何処にでも居る、ただの一般人(普通の男の子)だったから。

 

 

彼には、それが何なのか分からなかった。

しかし彼は、それが()()()()()()()()()知っていた。

 

いつかのあの頃、彼も焦がれた――

 

 

 

 

 

 

 

「――仮面、ライダー……?」

 

 

お伽噺(英雄)の似姿が、そこにあった。

 

 

 

黒と青、2人の騎士が激突する。

黒い聖剣と青い醒剣(せいけん)が火花を散らす。

 

【「信じられない……ボクは夢でも見ているのか?」】

 

ロマニは目の前の光景に呆然と呟く。

アーサー王、その名も高き騎士の王。

剣の軌跡は先ほどより更に激しさを増し――しかしそれは、今や2振りによって描かれている。

 

御剣日彩。

ただの一般人だったはずの若者は――

今確かに、英雄と渡り合っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幾度、交わらせたか。

その剣をかち合わせ、両者の動きがしばし止まる。

頬に走る血筋もそのままに、黒の騎士王は、眼前の相手を睨みつける。

 

 

青の衣に銀の鎧、それはまるで――

 

「――フッ、ザけるなァァ!!!!」

 

咆哮と共に魔力が噴出する。

莫大な推進力を得た剣に弾かれた青い騎士は、しかし一瞬で体勢を立て直し、黒の騎士王へと駆ける。

黒の聖剣が虚空で振るわれる。

放たれた魔力が青い騎士を襲う。

その鎧に幾つもの傷が散る。

 

 

――それでも、青い騎士は止まらない。

 

 

 

 

突進、その勢いのままに振るわれた一撃は、先ほどのお返しとばかりに、黒の騎士王を吹き飛ばした。

 

クリーンヒット。

激昂が隙を生み、この戦いが始まって初めて、目に見えるほどに黒の騎士王が体勢を崩した。

 

その瞬間――

 

 

 

 

灼き尽くす炎の檻(よくやった)!!!!』

 

 

 

 

現れた炎の巨人の拳が、黒の騎士王へと振り下ろされる。

爆炎が視界を覆いつくした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖剣が宙を舞い、地面に突き立つ。

白煙と土煙の先を見ながら、キャスターは手にした杖で肩を叩いた。

タイミングは完璧。

灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』、今の自身が持ち得る、最高の一撃を叩きこんだ自信があった。

 

立香とマシュ、そして青い騎士の方を見る。

青い騎士から感じる気配は、確かにあの小柄な若者のモノだ。

誰も彼もボロボロで、だが生きていた。

そのことに、短い付き合いではあったが少し安堵して――

 

 

 

 

 

立ち込める煙の中から、黒い影が弾丸のように飛び出すのを見た。

 

 

 

 

 

背後から迫る影に、青い騎士が振り返る。

だが、遅い。

 

短剣を手に、ひび割れた鎧で黒の騎士王が跳ぶ。

セクエンス。騎士王が持つ武器の一つ。

死闘で――()()()()()()()()()振るわれるそれが、そこに現界していた。

 

 

キャスターが気付いた。

――杖を構えども、目の前には立香とマシュが居る。射線を確保出来ない。

 

 

マシュが気付いた。

――積み重なった疲労と傷は、彼女の足を鈍らせる。

 

 

立香が気付いた。

――駆け出す足は、しかし速度が足りない。

 

 

三者三様、そのどれもが間に合わない。

でも。

しかし。

さりとて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで止まりなさい、騎士王(ガンド)!!!!」

 

()()()()()()()とは、限らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルガマリー・アニムスフィアは、思考する。

自分に出来ることは何か、それだけを、必死に。

 

 

サーヴァント。

その実体は、使い魔(サーヴァント)などという生易しいモノではない。

それを彼女は、良く知っている。

 

騎士王、アーサー・ペンドラゴン。

その名も高き英雄中の英雄。

キャスターの言う通りであれば、目の前の人物はそれであり、つまり()()()()()()ということだ。

 

 

彼女は、心の内で唱える。

自分に出来ることは何か、その答えを。

 

 

 

 

 

ガンド――この世界における、ルーン魔術の一種。

相手を指さし、放たれる呪いの一撃。

一工程(シングル・アクション)、指をさすだけで即座に起動することが出来る、その簡単さこそを特長とされ、多くの魔術師が習得する術。

 

その呪いは、果たしてサーヴァントに効くのだろうか?

たかだか一工程で編まれた魔術が、英雄の影法師に。

 

 

黒の騎士王、三騎士の一角に座る資格を持つ彼女は、特に高い魔術への耐性を持つ。

多くの魔術を無効化するその抵抗力は、無論、一工程の魔術など歯牙にもかけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが本当に()()()ならば。

 

 

 

 

オルガマリーは心の内で唱えた。

呪いの魔術を、()()()()()()()()

 

友人(日彩)が壁に叩きつけられ、残り少ない自分の部下(マシュと立香)が聖剣の脅威に晒されても、()()()()()()()

 

 

オルガマリー・アニムスフィアはカルデアの所長である。

オルガマリー・アニムスフィアは時計塔(現代魔術師の総本山)を統べる、12の盟主(ロード)の1人である。

ロードとして、その場でただ一人の魔術師として、何より、カルデアの所長として――

 

彼女はやるべきことを見失ってはいなかった。

 

 

現代魔術界に君臨する者、その全霊。

幾重にも重ね掛けされた呪いの一撃は、しかしそれでも、効かなかった。

たとえどれだけ編み上げようと、所詮はガンド(誰にでも出来る)

 

 

 

 

 

 

 

――()()()()()()、効かなかった。

 

 

その一瞬で、青い騎士は振り返り、黒の騎士王の霊核を両断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

地に横たわる黒の騎士王の傍らに、青い騎士がしゃがみ込む。

駆け寄ってくる面々を背に、緋色(ヒイロ)の瞳が、騎士王を見つめていた。

 

黒の騎士王は悔悟する。

何故、どうして、止められなかったのかと。

 

 

「――()()()()()、……そして()()

 

 

突然呼ばれた名前。

「どうして知っているのか」と立香は顔を覗き込み、そして、止まった。

 

 

黒の騎士王の瞳には、涙が浮かんでいた。

 

 

 

「グランド・オーダー――聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだ」

 

黒の騎士王は語りかける。

 

「貴様たちの前にあるのは苦難の道だ」

 

その黄金色の瞳は、何故か温かく。

 

「それでもきっと、成し遂げようとするだろう」

 

「だが――」と、黄金色の瞳が揺れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――絶対に失敗しろ、この馬鹿者どもめが」

 

 

それは、祈りのように。

黒の騎士王は虚空に溶けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

退去の予兆に頭を搔きつつ、キャスターは来訪者たちに声を掛けた。

 

「今回は助けられたな。いつかこの借りは返してやる」

 

「その時はランサーとしてな」と笑うと、彼は一人一人に顔を向ける。

 

「盾の嬢ちゃん。お前は立派な、一人前のサーヴァントだ。その盾に相応しい、な」

 

「坊主、お前も頑張ったな。お前は良い航海者(マスター)になれる。この光の御子のお墨付きだ」

 

 

キャスターに声を掛けられる2人の少し後ろで、オルガマリーは黒の騎士王の言葉について考えていた。

だから、少し反応が遅れた。

 

 

「白髪の嬢ちゃん」

 

声を掛けられて、慌ててキャスターの顔を見る。

 

 

 

 

 

 

「見事なルーン魔術(ガンド)だった。お前さんがどれだけの研鑽を積んできたか、あの一撃だけでも分かったぜ」

 

 

呼吸が止まった。

 

 

 

 

 

ずっと、ずっと、ずっと――

 

盟主の後継者に恥じない姿を願い。

だからこそ、足りなくて。

 

 

咄嗟に顔を伏せる。

 

当たり前だと思っていた。

だって、自分はまだ、何も成していない。

()()()()()()()()()を、成せていない。

 

 

足下に転がる石が目に入る。

或いは、それが自分の本当の姿なのではと思う日々で。

 

 

足りていなくて、足りていなくて。

だから、そんな資格は――

 

 

 

 

「所長は魔術以外だって凄いんですよ!」

 

「はい。ここまで来れたのは、所長のおかげです」

 

立香とマシュの言葉に、思わず顔を上げた。

 

 

 

幾多の英雄譚を綴ったキャスター(偉大なる先達)が。

今この時、誰より前で戦い続けた部下(勇敢なる者)たちが。

後ろで震え、言葉を重ねるだけだった自分に、それを贈る。

 

 

オルガマリーは、自分の視界が滲むのを感じた。

 

 

 

彼女は、彼女だって――

 

 

認めて欲しかったのだ。誉めて欲しかったのだ。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

傍らの青い騎士を見た。

仮面で表情は伺えない。

それでも、あの黒瞳が、何時ものように、自分へ微笑んでいるように感じた。

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