FGORTA―配られし切り札― 作:雨乞い
聖剣の放った奔流が収まると、それは静かに立っていた。
小柄な若者の姿は消え、替わりに、それが立っていた。
その光景の意味を最も理解していたのは――恐らく、藤丸立香だった。
藤丸立香の人生は、それほど特筆するモノではない。
世界の片隅で生まれ、時に笑い、時に泣き、そうして育ってきた。
誰かに愛され、何かを愛してきた。
何処にでも居る、
彼には、それが何なのか分からなかった。
しかし彼は、それが
いつかのあの頃、彼も焦がれた――
「――仮面、ライダー……?」
黒と青、2人の騎士が激突する。
黒い聖剣と青い
【「信じられない……ボクは夢でも見ているのか?」】
ロマニは目の前の光景に呆然と呟く。
アーサー王、その名も高き騎士の王。
剣の軌跡は先ほどより更に激しさを増し――しかしそれは、今や2振りによって描かれている。
御剣日彩。
ただの一般人だったはずの若者は――
今確かに、英雄と渡り合っている。
幾度、交わらせたか。
その剣をかち合わせ、両者の動きがしばし止まる。
頬に走る血筋もそのままに、黒の騎士王は、眼前の相手を睨みつける。
青の衣に銀の鎧、それはまるで――
「――フッ、ザけるなァァ!!!!」
咆哮と共に魔力が噴出する。
莫大な推進力を得た剣に弾かれた青い騎士は、しかし一瞬で体勢を立て直し、黒の騎士王へと駆ける。
黒の聖剣が虚空で振るわれる。
放たれた魔力が青い騎士を襲う。
その鎧に幾つもの傷が散る。
――それでも、青い騎士は止まらない。
突進、その勢いのままに振るわれた一撃は、先ほどのお返しとばかりに、黒の騎士王を吹き飛ばした。
クリーンヒット。
激昂が隙を生み、この戦いが始まって初めて、目に見えるほどに黒の騎士王が体勢を崩した。
その瞬間――
『
現れた炎の巨人の拳が、黒の騎士王へと振り下ろされる。
爆炎が視界を覆いつくした。
聖剣が宙を舞い、地面に突き立つ。
白煙と土煙の先を見ながら、キャスターは手にした杖で肩を叩いた。
タイミングは完璧。
『
立香とマシュ、そして青い騎士の方を見る。
青い騎士から感じる気配は、確かにあの小柄な若者のモノだ。
誰も彼もボロボロで、だが生きていた。
そのことに、短い付き合いではあったが少し安堵して――
立ち込める煙の中から、黒い影が弾丸のように飛び出すのを見た。
背後から迫る影に、青い騎士が振り返る。
だが、遅い。
短剣を手に、ひび割れた鎧で黒の騎士王が跳ぶ。
セクエンス。騎士王が持つ武器の一つ。
死闘で――
キャスターが気付いた。
――杖を構えども、目の前には立香とマシュが居る。射線を確保出来ない。
マシュが気付いた。
――積み重なった疲労と傷は、彼女の足を鈍らせる。
立香が気付いた。
――駆け出す足は、しかし速度が足りない。
三者三様、そのどれもが間に合わない。
でも。
しかし。
さりとて。
「
オルガマリー・アニムスフィアは、思考する。
自分に出来ることは何か、それだけを、必死に。
サーヴァント。
その実体は、
それを彼女は、良く知っている。
騎士王、アーサー・ペンドラゴン。
その名も高き英雄中の英雄。
キャスターの言う通りであれば、目の前の人物はそれであり、つまり
彼女は、心の内で唱える。
自分に出来ることは何か、その答えを。
ガンド――この世界における、ルーン魔術の一種。
相手を指さし、放たれる呪いの一撃。
その呪いは、果たしてサーヴァントに効くのだろうか?
たかだか一工程で編まれた魔術が、英雄の影法師に。
黒の騎士王、三騎士の一角に座る資格を持つ彼女は、特に高い魔術への耐性を持つ。
多くの魔術を無効化するその抵抗力は、無論、一工程の魔術など歯牙にもかけない。
それが本当に
オルガマリーは心の内で唱えた。
呪いの魔術を、
オルガマリー・アニムスフィアはカルデアの所長である。
オルガマリー・アニムスフィアは
ロードとして、その場でただ一人の魔術師として、何より、カルデアの所長として――
彼女はやるべきことを見失ってはいなかった。
現代魔術界に君臨する者、その全霊。
幾重にも重ね掛けされた呪いの一撃は、しかしそれでも、効かなかった。
たとえどれだけ編み上げようと、所詮は
――
その一瞬で、青い騎士は振り返り、黒の騎士王の霊核を両断した。
地に横たわる黒の騎士王の傍らに、青い騎士がしゃがみ込む。
駆け寄ってくる面々を背に、
黒の騎士王は悔悟する。
何故、どうして、止められなかったのかと。
「――
突然呼ばれた名前。
「どうして知っているのか」と立香は顔を覗き込み、そして、止まった。
黒の騎士王の瞳には、涙が浮かんでいた。
「グランド・オーダー――聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだ」
黒の騎士王は語りかける。
「貴様たちの前にあるのは苦難の道だ」
その黄金色の瞳は、何故か温かく。
「それでもきっと、成し遂げようとするだろう」
「だが――」と、黄金色の瞳が揺れる。
「――――絶対に失敗しろ、この馬鹿者どもめが」
それは、祈りのように。
黒の騎士王は虚空に溶けた。
退去の予兆に頭を搔きつつ、キャスターは来訪者たちに声を掛けた。
「今回は助けられたな。いつかこの借りは返してやる」
「その時はランサーとしてな」と笑うと、彼は一人一人に顔を向ける。
「盾の嬢ちゃん。お前は立派な、一人前のサーヴァントだ。その盾に相応しい、な」
「坊主、お前も頑張ったな。お前は良い
キャスターに声を掛けられる2人の少し後ろで、オルガマリーは黒の騎士王の言葉について考えていた。
だから、少し反応が遅れた。
「白髪の嬢ちゃん」
声を掛けられて、慌ててキャスターの顔を見る。
「見事な
呼吸が止まった。
ずっと、ずっと、ずっと――
盟主の後継者に恥じない姿を願い。
だからこそ、足りなくて。
咄嗟に顔を伏せる。
当たり前だと思っていた。
だって、自分はまだ、何も成していない。
足下に転がる石が目に入る。
或いは、それが自分の本当の姿なのではと思う日々で。
足りていなくて、足りていなくて。
だから、そんな資格は――
「所長は魔術以外だって凄いんですよ!」
「はい。ここまで来れたのは、所長のおかげです」
立香とマシュの言葉に、思わず顔を上げた。
幾多の英雄譚を綴った
今この時、誰より前で戦い続けた
後ろで震え、言葉を重ねるだけだった自分に、それを贈る。
オルガマリーは、自分の視界が滲むのを感じた。
彼女は、彼女だって――
認めて欲しかったのだ。誉めて欲しかったのだ。
傍らの青い騎士を見た。
仮面で表情は伺えない。
それでも、あの黒瞳が、何時ものように、自分へ微笑んでいるように感じた。