FGORTA―配られし切り札― 作:雨乞い
拍手が鳴り響いた。
黒の騎士王とキャスターが帰還し、これで一安心と。
光の根元で浮かぶ、
その場の全員に緊張が走る。
音の方に目を向けると、それは水晶体のすぐ傍らで。
「いや、まさか君たちがここまでやるとはね」
緑のシルクハットと揃いのスーツ。
水晶体を拾い上げながら、カルデアの顧問、レフ・ライノールが微笑んだ。
誰よりも先に駆け出し、辿り着いたのはオルガマリーだった。
自身の右腕にして恩師との再会を喜び合おうと。
これまでの大冒険を語ろうと。
「レフ……ああ、レフ、生きていたのね!!」
「無事で良かった……。ここまで本当に大変だったの!あのね私、ううん、
これまでも、これからも。
頼りにしてきたその姿に語りかける。
【「レフ――!?彼がそこにいるのか!?」】
「その声はロマニ君かな?まったく――」
ロマニのその問いかけに、彼は微笑んだまま――
「前所長の置き土産、出来損ないの
「48人目、見込みがないと見逃した
「ひとの指示は聞けないくせに小賢しい
「どいつもこいつも統率の取れていないクズばかりで吐き気が止まらないな」
悪意を吐き出した。
瞬間、オルガマリーが止まる。
「……レ、フ?」
レフ・ライノールは語る。
自身が管制室を爆破し、レイシフトを妨害したことを。
そして――
「それにしても、哀れな哀れなオルガマリー」
「まさか残留思念――死ぬことで、切望したレイシフト適性を手に入れるとはね」
眼前のオルガマリーに、その肉体的な死を。
オルガマリーの目から光が失われたのを見ながら、レフは手を虚空へとかざす。
彼は手にした水晶体――聖杯の力で、カルデアの様子を公開した。
真っ赤に染まったカルデアスを。
人の光のなくなった地球儀を。
「さて――」
レフが腕を振ると、オルガマリーが宙へと浮く。
否――
「君の
カルデアスへと、その身体が引っ張られていく。
地球環境モデル・カルデアス。それは高密度の情報体で――
「人間が触れれば、分子レベルで分解されるだろうが」
オルガマリーは吸い寄せられる。
天体が持つ引力に引かれるがごとく。
その先はブラックホールか、或いは太陽か。
「……い、や――」
宙に浮く彼女に、成す術はなく。
目の前に近づく
「いやよ……!だって、私……やっと――!」
あの時は喜びだった。
「やっと、私のことを――――!!!!」
しかし今は。
――――誰かが、腕を掴んだ。
紫色のグローブの左腕と、手の甲に紋様の浮かんだ右腕が。
彼女の腕を掴み、思い切り引っ張っている。
彼女を繋ぎ留めようと、必死で引っ張っている。
その光景が視界に入り、そして――
――その片隅で、青い騎士が、緑色の影に突っ込むのを見た。
咄嗟に張った盾を挟んで、レフは青い騎士と向かい合う。
突進に気を取られ、手にしていた聖杯を取り落としてしまった。
カルデアとの繋がりが途絶したことで引力は失われ、
「ああ、そうだ。貴様が一番のイレギュラーだ、
眼前の異貌を観察しながら、言い放つ。
黒の騎士王とすら渡り合ってみせた青い騎士。
それはしかし、目の前にしてなお――
得体が知れない存在だった。
「まあ、良い」
盾を以て弾き飛ばし、彼は距離を取ると告げた。
自身の名を。
この現状の意味を。
そう――
「お前たちは、何の価値もない紙屑のように跡形もなく燃え尽きるのさ!」
レフ・ライノール・フラウロス。
2015年の担当者を名乗る男は、崩壊が始まった特異点から姿を消した。
地面が揺れる中で、マシュ、立香と順に立ち上がる。
「――あの、所長」
「――ええ、ありがとう」
立香は、未だ地面に座り込んでいた所長に手を差し伸べた。
受ける彼女の顔は、伏せられていて見えない。
埃を払い、一呼吸置くと、オルガマリーが口を開く。
「藤丸立香、マシュ・キリエライト」
呼ばれた2人が、オルガマリーに注目する。
「ここまでの働きぶり、見事でした」
「貴方たちの功績、カルデアの所長として認めます」
「ありがとう。そして」
「――あとをお願いするわ」
顔を上げたオルガマリーは、笑っていた。
目に涙をいっぱいに溜めながら、それでも。
悔いがないとは言えない。
それでも最後に、欲しかったモノが手に入ったから。
立香とマシュの顔が歪む。
「――ロマニ!」
【「……何でしょうか、オルガマリー所長」】
「私に代わって成し遂げなさい。偉業を。そこに居るスタッフたちと」
【「ッ!……確かに承りました」】
そして――
「日彩」
自分の方へと歩いてくる影に、オルガマリーは顔を向けた。
「貴方も、ありがとう」
その姿は、平時の小柄なものに戻っていた。
血塗れで、片手に聖杯を持ちながら、その黒瞳がオルガマリーを見つめる。
「私は居ないけど、そこの2人を、ロマニたちと一緒に支えなさい」
分かった!?と問うと、少しだけ困ったような顔で、メモを渡してきた。
それはまるで、あの日の、初対面の時のようで。
《それは出来ません》
「――――え?」
持っていた聖杯が、その手を離れ宙に浮かぶ。
懐から取り出したカードケースに、それは吸い込まれていった。
ケースから一枚――空白のカードが取り出される。
目の前のオルガマリーの手を取ると、それを乗せた。
揺れが強くなる中で、カードが淡く光る。
【「ゴメン、そっちの崩壊の方が早いかもだ!」】
【「意識を強くもってくれ!」】
「先輩、日彩さん……!」
「マシュ!日彩!!」
「フォーウ!!」
いつの間にか現れたフォウが、立香の頭上に陣取っていて。
それを見ながら、伸ばされた手を取って。
四人、手を繋いで。
そこで、暗転した。