FGORTA―配られし切り札―   作:雨乞い

17 / 32
17 Liber 1

――気付けば、刃を向けていた。

 

自身のマスターであろう少年、その傍らに居た若者。

その喉元に、切っ先を走らせていた。

 

何故そんなことをしたのか、自分でも分からなかった。

――邪気は、感じられないのに。

 

薄皮を裂き、赤い線が描かれるのを目にして。

そこで手を止めた。止めることに、成功した。

 

 

何故そんなことをしたのか、自分でも分からなかった。

――剣を下ろし、額に手を当てて。

 

非礼を詫びる自分に、手が差し出された。

 

 

何故そんなことをしたのか、自分でも分からなかった。

――半ば無意識に、その手を取った。

 

 

 

何故そんなことをしたのか、自分でも分からなかった。

――改めて、目の前の人物に向き合う。

 

 

 

こちらを見上げるその瞳の色は――

 

 

 

 

 

深い、深い(くろ)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし日彩には驚いたよ。アレ、『仮面ライダー』だよな?」

 

正面に座ったスタッフの一人、ムニエルが口にする。

時刻は昼過ぎ。トレーニングを終えた藤丸立香は、食堂で彼と相席になった。

 

焼き鮭の身をほぐし、米と一緒に頬張っていた立香は、取り敢えず頷くことで同意する。

 

「――確かあの時、先輩もその名前を呟いていましたが……お2人は日彩さんのあの姿について、何かご存知なのですか?」

 

隣に座ったマシュが首を傾げる。

鎧、なのだろうか。

騎士をイメージさせるそれは良いとして、あの仮面は、かなり特徴的だった。

 

「日本で有名なテレビドラマがあるんだけど、それの主役によく似てるんだよ」

「アメコミのスーパーヒーローが、イメージ近いか」

 

フォークの先にミニトマトを突き刺しながら、ムニエルは思いついたように尋ねる。

 

「――日本人は、実は皆変身出来たり?」

「いやいやいや」

 

両手を振って否定する立香を見て、「なーんだ」と、彼はミニトマトを口に放り込んだ。

 

「俺はてっきり、アレも魔術?の一種だと思ってたんだけど。カルデアの秘密兵器的な」

「いやいやいや」

 

今度はムニエルが両手を振って否定する番だった。

確かに、計器は魔力反応を検知していたが、彼の知る限り、アレはカルデアが編み出したモノではない。

 

「そっか。……マシュは、どう思う?」

「そうですね……」

 

立香に話を振られ、マシュは顎に手を当てる。暫し「うーん」と唸って、考えをまとめていく。

 

 

 

「ムニエルさんの言う通り、アレはカルデア由来のモノではないと思います。私はともかく、オルガマリー所長ですら把握していなかったようですから」

 

実際のところ、数年前に所長の座を引き継いだオルガマリーが、全容をどの程度把握しているかは分からないのだが。

それほどまでに、カルデアには謎が多い。

 

しかし今この時、それよりもマシュが気になったのは――

 

 

「……純粋なカルデア由来、ではないと思うんです。しかし()()()()()()()と聞かれると、そうでもなくて」

 

「アレは、何というか――」

 

 

 

 

 

【システムチェックを行う。スタッフは管制室に集合】

 

 

「おっと、それじゃ行かないと」

 

流れ出した放送を聴きムニエルが席を立つ。

食堂での考察は、そこで打ち切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つ息をつき、オルガマリーは書類から目を上げた。

 

少しばかり苦戦しながら、大きな紙切れを山の天辺に置く。

否、書類が、紙切れが大きいのではない。()()()()()()のだ。

 

 

傍らに置かれた鏡を見る。

身長およそ30cm、デフォルメされたぬいぐるみのような、自身の姿が映っていた。

「丁度良い素体が用意出来るまでは、それで我慢してほしい」とカルデアの誇る技術顧問は言ったが――

 

 

 

 

(ぜっっっっっっったい面白がってるでしょ!!??)

 

 

 

物凄くニヤニヤしていたことを、彼女は忘れていなかった。

 

 

 

 

 

「――どうぞ」

 

所長室のドアをノックする音に応えると、ヒトが入ってくる。

 

 

「し、失礼しまーす……」

 

見慣れた小柄な人影と、その後ろに隠れるようにもう一つ。まあ、隠れられていないのだが。

 

机の前で立ち止まると、いつものようにメモを差し出してくる。

 

《所長、お時間がありましたら、勉強会にお付き合いいただけませんか?》

 

「勉強会?」

 

オルガマリーが首を傾げて訊ね返せば。

 

「カルデアについてもっと知りたいんですが、日彩に相談したらここに……」

 

と、立香が答える。

 

 

 

ふと、額に手を当てる。

そこにある――否、あったモノ。

アニムスフィアの当主として受け継いだモノ。

肉体と共に失ってしまったモノ。

 

 

 

黒瞳を見つめ返す。

失ったモノはあって、それでも――

 

 

「――良いわ。貴方にも、カルデアの何たるかを教え込んであげるわ!!」

 

 

自分は、必要とされているのかもしれないと。

そんなことを思いながら、彼女は立香の方に向き直った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは早速ブリーフィングを開始しようか」

 

管制室に集まったメンバーを見回し、ロマニはそう告げた。

 

「まずは確認」

「特異点の調査と修正。その原因であろう、()()の回収、或いは破壊」

「以上、二点がこの作戦の主目的だ」

 

 

立香とマシュが頷くのを見て、ロマニは言葉を続ける。

 

「作戦遂行のために、現地で召喚サークルを作って欲しい。物資を転送したり、サーヴァントを召喚するためだね」

 

「ベースキャンプ、ですね」と返すマシュに微笑む。

 

 

「それじゃあボクからは以上だ」

 

 

「所長」と、上司に呼びかける。

日彩の持つバスケットの中から、オルガマリーが声を掛ける。

 

「藤丸、マシュ、日彩。――準備は良い?」

 

3人が頷くのを確認し、傍らに立つ赤い外套の男を見る。

 

「今回、私は行けません」

「――アーチャー、3人を頼みます」

 

「任された」と、アーチャーは手を挙げて応えた。

 

 

 

 

 

 

「――全コフィンの起動を確認、問題ありません」

 

モニターを睨みながら、ムニエルが告げる。

 

 

「では、始めましょう」

 

 

 

 

 

 

【アンサモンプログラム、スタート】

 

 

【全行程、完了】

 

 

 

 

 

「――健闘を祈ります!!」

 

 

 

 

 

【グランドオーダー、実証を開始します】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


燃え上がる炎の中に、女が一人、立っている。

燃え尽きる最中のような、黒い衣で。

 

右手に持つのは旗。

白地に黒く染めあげられたのは、幻想の怪物。

 

 

燃え上がる炎の中に、女が一人、立っている。

怪しく光る瞳を率いて。

 

 

雄叫びが上がる。

大地が震え、炎が巻き上がる。

 

赤く染まった空にも、幾多の影が躍る。

 

 

 

燃え上がる炎の中に、女が一人、立っている。

その表情は、分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃え上がる炎の中を、沢山の人々が、逃げ惑う。

破壊され、蹂躙されていく。

 

 

燃え上がる炎の中を、沢山の人々が、逃げ惑う。

 

ヒトとヒトの争いでなく。

異形の、怪物の蹂躙によって。

 

 

 

――――命が、失われていく。

 

 

 

過程が違う。本当にこうだっただろうか。

結末は同じ。或いは、より凄惨に。

 

 

 

 

どちらにせよ、やっぱり我慢出来なくて。

 

 

 

 

だから――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。