FGORTA―配られし切り札― 作:雨乞い
――気付けば、刃を向けていた。
自身のマスターであろう少年、その傍らに居た若者。
その喉元に、切っ先を走らせていた。
何故そんなことをしたのか、自分でも分からなかった。
――邪気は、感じられないのに。
薄皮を裂き、赤い線が描かれるのを目にして。
そこで手を止めた。止めることに、成功した。
何故そんなことをしたのか、自分でも分からなかった。
――剣を下ろし、額に手を当てて。
非礼を詫びる自分に、手が差し出された。
何故そんなことをしたのか、自分でも分からなかった。
――半ば無意識に、その手を取った。
何故そんなことをしたのか、自分でも分からなかった。
――改めて、目の前の人物に向き合う。
こちらを見上げるその瞳の色は――
深い、深い
「しかし日彩には驚いたよ。アレ、『仮面ライダー』だよな?」
正面に座ったスタッフの一人、ムニエルが口にする。
時刻は昼過ぎ。トレーニングを終えた藤丸立香は、食堂で彼と相席になった。
焼き鮭の身をほぐし、米と一緒に頬張っていた立香は、取り敢えず頷くことで同意する。
「――確かあの時、先輩もその名前を呟いていましたが……お2人は日彩さんのあの姿について、何かご存知なのですか?」
隣に座ったマシュが首を傾げる。
鎧、なのだろうか。
騎士をイメージさせるそれは良いとして、あの仮面は、かなり特徴的だった。
「日本で有名なテレビドラマがあるんだけど、それの主役によく似てるんだよ」
「アメコミのスーパーヒーローが、イメージ近いか」
フォークの先にミニトマトを突き刺しながら、ムニエルは思いついたように尋ねる。
「――日本人は、実は皆変身出来たり?」
「いやいやいや」
両手を振って否定する立香を見て、「なーんだ」と、彼はミニトマトを口に放り込んだ。
「俺はてっきり、アレも魔術?の一種だと思ってたんだけど。カルデアの秘密兵器的な」
「いやいやいや」
今度はムニエルが両手を振って否定する番だった。
確かに、計器は魔力反応を検知していたが、彼の知る限り、アレはカルデアが編み出したモノではない。
「そっか。……マシュは、どう思う?」
「そうですね……」
立香に話を振られ、マシュは顎に手を当てる。暫し「うーん」と唸って、考えをまとめていく。
「ムニエルさんの言う通り、アレはカルデア由来のモノではないと思います。私はともかく、オルガマリー所長ですら把握していなかったようですから」
実際のところ、数年前に所長の座を引き継いだオルガマリーが、全容をどの程度把握しているかは分からないのだが。
それほどまでに、カルデアには謎が多い。
しかし今この時、それよりもマシュが気になったのは――
「……純粋なカルデア由来、ではないと思うんです。しかし
「アレは、何というか――」
【システムチェックを行う。スタッフは管制室に集合】
「おっと、それじゃ行かないと」
流れ出した放送を聴きムニエルが席を立つ。
食堂での考察は、そこで打ち切られた。
一つ息をつき、オルガマリーは書類から目を上げた。
少しばかり苦戦しながら、大きな紙切れを山の天辺に置く。
否、書類が、紙切れが大きいのではない。
傍らに置かれた鏡を見る。
身長およそ30cm、デフォルメされたぬいぐるみのような、自身の姿が映っていた。
「丁度良い素体が用意出来るまでは、それで我慢してほしい」とカルデアの誇る技術顧問は言ったが――
(ぜっっっっっっったい面白がってるでしょ!!??)
物凄くニヤニヤしていたことを、彼女は忘れていなかった。
「――どうぞ」
所長室のドアをノックする音に応えると、ヒトが入ってくる。
「し、失礼しまーす……」
見慣れた小柄な人影と、その後ろに隠れるようにもう一つ。まあ、隠れられていないのだが。
机の前で立ち止まると、いつものようにメモを差し出してくる。
《所長、お時間がありましたら、勉強会にお付き合いいただけませんか?》
「勉強会?」
オルガマリーが首を傾げて訊ね返せば。
「カルデアについてもっと知りたいんですが、日彩に相談したらここに……」
と、立香が答える。
ふと、額に手を当てる。
そこにある――否、あったモノ。
アニムスフィアの当主として受け継いだモノ。
肉体と共に失ってしまったモノ。
黒瞳を見つめ返す。
失ったモノはあって、それでも――
「――良いわ。貴方にも、カルデアの何たるかを教え込んであげるわ!!」
自分は、必要とされているのかもしれないと。
そんなことを思いながら、彼女は立香の方に向き直った。
「それでは早速ブリーフィングを開始しようか」
管制室に集まったメンバーを見回し、ロマニはそう告げた。
「まずは確認」
「特異点の調査と修正。その原因であろう、
「以上、二点がこの作戦の主目的だ」
立香とマシュが頷くのを見て、ロマニは言葉を続ける。
「作戦遂行のために、現地で召喚サークルを作って欲しい。物資を転送したり、サーヴァントを召喚するためだね」
「ベースキャンプ、ですね」と返すマシュに微笑む。
「それじゃあボクからは以上だ」
「所長」と、上司に呼びかける。
日彩の持つバスケットの中から、オルガマリーが声を掛ける。
「藤丸、マシュ、日彩。――準備は良い?」
3人が頷くのを確認し、傍らに立つ赤い外套の男を見る。
「今回、私は行けません」
「――アーチャー、3人を頼みます」
「任された」と、アーチャーは手を挙げて応えた。
「――全コフィンの起動を確認、問題ありません」
モニターを睨みながら、ムニエルが告げる。
「では、始めましょう」
【アンサモンプログラム、スタート】
【全行程、完了】
「――健闘を祈ります!!」
【グランドオーダー、実証を開始します】
燃え上がる炎の中に、女が一人、立っている。
燃え尽きる最中のような、黒い衣で。
右手に持つのは旗。
白地に黒く染めあげられたのは、幻想の怪物。
燃え上がる炎の中に、女が一人、立っている。
怪しく光る瞳を率いて。
雄叫びが上がる。
大地が震え、炎が巻き上がる。
赤く染まった空にも、幾多の影が躍る。
燃え上がる炎の中に、女が一人、立っている。
その表情は、分からない。
燃え上がる炎の中を、沢山の人々が、逃げ惑う。
破壊され、蹂躙されていく。
燃え上がる炎の中を、沢山の人々が、逃げ惑う。
ヒトとヒトの争いでなく。
異形の、怪物の蹂躙によって。
――――命が、失われていく。
過程が違う。本当にこうだっただろうか。
結末は同じ。或いは、より凄惨に。
どちらにせよ、やっぱり我慢出来なくて。
だから――