FGORTA―配られし切り札― 作:雨乞い
モニターの映像を睨む。
視線の先には、飛来した巨大な影を、寸ででかわした少年たちが映し出されていた。
木々をなぎ倒し、停止したそれが再起動する。
「拡大して」
オルガマリーの言葉に、モニターの映像が切り替わっていく。
太く、丸太のような脚が3対。後端の一対で、それはゆっくりと身をもたげる。
目を惹くのは、背を覆う巨大な甲羅。
獅子のような頭部には、大きな角が鎮座する。
「パターン解析……竜種、のようです」
緊張か、はたまた、イメージからの乖離に伴う困惑か。
敵性体の解析を行っていたスタッフが、少しだけ口ごもりながら報告する。
「十字架、白を基調とした衣服……」
「色は関係ないかもしれないけど」と言いつつ、オルガマリーは傍らの男に問う。
「ロマニ、竜と関係のある
口元に手を当て、考え込んでいた男が、視線を上げる。
「――思い当たるのは、一人」
【「『聖女マルタ』――かの救世主の知己だった女」】
【「暴れまわる悪竜を、その祈りだけで屈服させた逸話を持つ聖女」】
【「その彼女がサーヴァントということはつまり――」】
女は立ち上がった竜に寄り添うと、その足をそっと撫で、相手の方を見る。
女の虚ろな瞳は何も映さず、しかしその頬には、一筋の跡があった。
悪竜の瞳は赤く光り、しかしその表情は、何かを堪えるようだった。
【「
1人と一匹、それを囲むように
夜の森に、咆哮が響き渡った。
旗を振るい、目の前の白を砕く。
幾度となく繰り返し、しかしそれでも、骸骨の群れは未だ健在。
虚ろな眼窩が並ぶ光景から少し目をそらし、その向こう側、佇む女の方を見る。
その瞳が虚ろなワケを、ジャンヌは知っていた。
『狂化』――理性を捧げ、戦闘能力を増幅させるスキル。
本来それは、その属性、伝説に「狂操」の痕跡を持つモノが、「バーサーカー」のサーヴァントとして召喚されるときに与えられる。
しかし、今回の場合は異なる。
聖女マルタ。竜を鎮めた聖女に、そのような逸話は存在しない。
有り得ざる状態、それは――
「やはり……聖杯の力、でしょうか」
仲間たちと行った推測、その結論はつまるところ。
――ふと、女の手が動く。
手にしていた杖、十字架の先端が自身の方へ向く。
嫌な予感がして――
「――――ッ!!」
悪竜の炎が、ジャンヌへと放たれた。
「ジャンヌっ!!」
「……大丈夫です、何とか」
寸前、包囲網から抜け出した彼女を見て、立香は安堵のため息をつく。
前方、岩のような巨体を見る。
悪竜の顎から放たれた炎は、彼女が先ほどまで立っていた場所を――
「味方もお構いなしかっ……!!」
取り囲んでいた骸骨たち諸共に、焼き尽くしていた。
悪竜の傍ら、杖を掲げた女を見る。
聖女マルタ。残念ながら立香は、彼女のことを知らない。
しかし。
「これが、聖杯……」
そこまでさせるのか、と。
悪竜の炎によって、場が膠着したその時。
弾丸のように飛び出す、青い姿があった。
「日彩さん!!」
マシュの声を置いて、青い騎士が加速する。
炎で焼かれ、ぽっかりと広場めいた空間が出来た森を駆ける。
一閃。女へと大上段から振るわれた剣は、しかし――
【「うぇえ!?白刃取り!!??」】
手甲を嵌めた両の手で絡め取られる。
一瞬、硬直した青い騎士の胴に、左膝が叩き込まれた。
くの字に曲がり、弾き飛ばされた体勢を立て直し、騎士が女を見れば。
杖を投げ捨て、両手を肩の高さに構える姿が目に映った。
剣と拳が、激しく打ち交わされる。
剣先を横殴りに弾き、喉元へと一撃を伸ばせば。
鎬で受け流し、そのまま胴へと刃が迫る。
一進一退の攻防が繰り広げられる中、悪竜が首をもたげて――
「あなたはこっちよ?」
桃色の光線が、その顔面に直撃した。
悪竜がその声の主を見れば。
3人の女が、彼を見上げていた。
光線と打撃が森を飛び交う。
マシュが、ジャンヌが、マリーが、悪竜の三方から攻撃を仕掛ける。
その攻撃は、しかし、致命には至らない。
「ッ、硬い……!!」
その身が、何より背の甲羅が、攻撃の悉くを弾く。
彼女たちは元より、戦闘を得意とする英霊たちではない。
相手の身のこなしもさることながら、そもそもの火力という点において、一歩及ばぬ面があった。
悪竜の脚、或いは腕が振るわれる。
歯噛みしていたマシュが、その一撃で弾き飛ばされる。
「マシュさ――――!!」
思わず気を取られたジャンヌも同様に。
悪竜は残る一人――マリーを見る。
「うーん……やっぱり、私たちだけじゃ難しいわね」
人差し指をおとがいに当てながら、彼女は呟く。
悪竜の爪が、月光と炎に照らされ鈍く光る。
その腕が振り下ろされようとした瞬間――
「だからお願い、アマデウス!!」
「『
それは呪わしき葬送曲。
かつて作曲家本人を送り出した、死出を彩る曲。
奏でられる旋律は、聴いたモノの変調をきたす。
悪竜の動きが止まる。
茂みの中、
「では続けて――」
アマデウスが呟く。
悪竜が気付き、視線を向け直せば。
そこには、ガラスの馬に腰掛ける麗しき王妃の姿があった。
「『
周囲が、そして悪竜が、結晶に覆われる。
宝具二連発。デバフからの高威力攻撃というコンボを叩き込まれた悪竜は――
それでも、止まらない。
瞳を赤く光らせて。
身を覆う結晶を砕き、首をもたげる。
じりじりと、再び腕を振り上げる。
牙の隙間から、炎が揺らめく。
一息、それを放とうとして――
首筋に、一撃が突き刺さった。
「――伝説によれば」
旗を持った女が告げる。
「水辺の街で暴れまわる悪竜は、
「ええ、それは貴方の、直接の
ゆっくりと、旗が引き抜かれる。
「しかし貴方にとって、
悪竜はゆっくりと、その場に倒れ伏した。
悪竜が倒れ、地面が揺れる。
女の動きが一瞬止まる。
その隙を見逃さないとばかりに、切り上げるように迫る斬撃を。
身体を後ろに反らすことで回避し、その勢いのまま、相手の胴に再びの蹴りを見舞う。
サマーソルトキックにも似たその動きで、女が身を翻す。
「『
空中で回転した女へと、黒く刺々しい矢が襲い掛かる。
無論、崩れた姿勢でそれを回避することは、容易ではない。
だから女は、避けなかった。
回転しながら、自身へと飛来するそれを
後方へと吹っ飛ぶ矢を他所に、そのままもう一度、二度とバク転を続け、体勢を整える。
そうして、駆け寄る青い騎士を迎撃しようとして――
――後方から、
森の中、聖女と竜が横たわる。
「――ありがとうよ」
響いた声に、立香が顔を上げる。
竜――タラスクが、こちらに目を向けていた。
「おかげで姐さん、やっと止まれたよ」
「ワシじゃどうしようもなくてなあ」と、困ったような顔をして、傍らの聖女の顔を見る。
頬には一筋、跡があれど。
瞼を閉じたその顔は、幾分か安らかに見えた。
「―― 少しだけ、教えてやる」
一つは答え合わせ。
推測の通り、聖杯が竜の魔女の手にあること。
一つは配下について。
竜の魔女。彼女が操る、強大な竜の存在を。
「あの竜はとても強い。或いは、ワシよりもずっと」
だから――
「かの有名な、
そう言い残すと。
偉大な聖女とその守護竜は、朝焼けの空に消えた。