FGORTA―配られし切り札― 作:雨乞い
――1つ、丘を越えた先に村があった
――2つ、小川を渡った先に街があった。
東に地にスケルトン。
西の空にワイバーン。
街が、村が、営みが。
崩され燃やされ失われていく。
想いが、消えてゆく。
日が暮れる頃、家に戻って横たわり。
微睡みの中、
夜闇を閃光が舞い、3つ、4つと骸骨を砕いていく。
辺りを見回し、異形の姿が無いのを確認して。
マリーとアマデウスは一つ、息を吐いた。
「この辺りは片付いたようだね」
「ええ。……あの子は、大丈夫かしら」
マリーがもう一人の同行者を案じる。
骸骨が村中を徘徊していたこともあり、あの若者とは途中で逸れてしまっていた。
「大きい魔力は感じないし、大丈夫だとは思うけどね」
「確かこっちの方に走っていったっけ」と、アマデウスがそちらに目を向けようとしたとき――
悲鳴が聞こえた。
2人が駆けつけたその場には。
青い騎士と女の子、そしてコートの少女が立っていた。
3人の周囲に、骸骨は居ない。
マリーは、ほっと一息ついて――
少女の持つピッチフォークに、魔力が集まるのを感じた。
指先に魔力を集中させる。
何故か剣を地面に置き、少女と対峙する騎士へと駆け寄ろうとして。
「やめて、マリア!!」
青い騎士の頬を掠めるように。
少女の光線は、背後――民家の影に隠れていた骸骨に直撃した。
「――これで最後、かしらね」
くるりとピッチフォークを回して、少女は呟き。
「僕の耳によれば、ね」
くるりと指揮棒を回して、アマデウスは笑った。
森の中。
大木と一体となったような家に、彼らは居た。
「私はマリア――
胸を張り、大きな丸い耳飾りを揺らしながら、少女がそう名乗ると。
「あら、あなたも
「私もマリアって呼ばれてたの。お揃いね!」と、次の瞬間にはマリーに両手を取られていた。
【「速い!?」】
【「これは天性のアイドル。陽キャが過ぎて目がやられる」】
【「天性通り越して最早魔性。あまりの距離の近さにクラスメイトだったら勘違いするヤツ」】
【「そこ、静かにしなさい」】
通信機向こうから漏れる声に、持ち主と共に苦笑して。
アタフタしているマリアと、やたら嬉しそうなマリーの方へ、アマデウスは声を掛ける。
「マリア、取り敢えず手を放して。――失礼、
「マドモワゼルはやめて、背中が痒くなりそう」
「オエェー」と、マリアは大袈裟に顔を歪める。
「分かった、それじゃ魔女マリア。説明はカルデアの所長殿からしてもらうから」
そう告げて視線を向ければ、隣に立っていた小柄な影が一歩前に出る。
【「ありがとう、アマデウス。では魔女マリア、我々についてですが――」】
夜明けまで幾ばくか。
屋根の上には、空を眺めるマリアと梟が居る。
「どうするの?」
眠そうに梟――彼女の使い魔、アルテミスが問う。
「――どうするって?」
「さっきの話。気になるんでしょう?」
体育座りの姿勢のまま顔を埋める。
燃え尽きた人理の修正。
遥か未来から来た魔術師たち。
聖杯、万能の願望器。
竜の魔女、有り得ざる世界の歪み。
ぐるぐると、単語が頭の中を回る。
訳の分からないことばかりで。
でも、分かることもある。
「――恥知らずな教会の奴らは、
「フランスのために戦った女の子を、縛り付けて火あぶりにした」
「だから当然の結果かもしれない。あいつらがどれだけ惨たらしい目に遭ったとして」
「……でもこれは違う」
膝の上で組まれた手に、力がこもり。
握りこまれた紙片が、くしゃりと音をたてる。
「それは、あの街の、あの村の、男や女や子供たちが死んで良い理由にはならない」
「
思う。
あの村を、あの街を。
男たちを、女たちを、子どもたちを。
――あの場所にあった筈の、営みを。
「彼女を裏切った教会も」
「その果てに堕ちた彼女も」
「何より、彼女を救わない神様ってヤツも」
「どいつもこいつも……!!」
手袋の中、痛いほどに握り締める。
サク、サクと。
屋根材を踏む音に、少しだけ力を抜く。
「ホー」と、傍らで
音が、彼女の真後ろで止まった。
「“竜の魔女は本来のジャンヌじゃない”――そう言ったわね?」
顔は埋めたままに。
マリアは背後の気配に声を掛ける。
言葉は返ってこない。
表情も分からない。
しかし視線を、気配を感じる。
それはじっと、彼女の言葉を待っている。
「――最近、
ゆっくりと、腰を上げる。
森の向こう、東の地平線が橙に染まる。
その様子を少し眺め、振り向いて。
魔女は人影――日彩と向かい合う。
「そろそろ文句の一つも、言ってやらなきゃいけないと思ってたのよ」
朝焼けを背に、魔女は告げる。
その青い瞳には。
強い、意志の光があった。