FGORTA―配られし切り札―   作:雨乞い

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「……ハッ、ァ――!」

 

路地裏。

月明かりの届かない暗がりに、3人分の影がある。

 

 

 

 

 

 

視界を染めた赤は、一瞬しか――否、()()()()()()()()()鮮烈に。

鼻腔を染めた臭いは、だからこそ粘りつくように。

深く、少年を冒していた。

 

 

「う゛、ぇ……」

 

 

 

 

こみ上げる嘔吐感に、少年はその場にうずくまる。

そんな少年の傍らに、少女は跪き背を擦る。

 

 

 

 

 

 

少年と少女、そしてこの場にもう一人。

2人を見下ろす男が居る。

 

 

 

 

 

男は気付いている。

少女の手もまた、酷く震え、常でも白い肌から一層色が抜けていることに。

 

 

男は気付いている。

彼らの感性に。

()()()()()()()()()()に。

 

 

 

 

「良いか、マスター、マシュ」

 

声を掛けられ、藤丸立香は顔を上げる。

隣のマシュもまた、同様に

 

 

「慣れろとは言わない。慣れるべきではない」

 

「だが――」

 

弓兵(アーチャー)を名乗る男の眼光が2人を射る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「憶えておけ。ここは戦場(そういう場所)だと」

 

 

 

 

 

 

 

 

少年少女、加えて男。

路地裏に、3人分の影がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そして、それを見下ろす瞳がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月明かりが、赤く染まった地を照らす。

モニターが映し出した光景に、管制室のスタッフたちは息を吞んだ。

 

「――っ、ロマニ!」

 

後方、聞こえる呻き声をよそに、オルガマリーが声を上げる。

 

「脈拍、血圧共に急上昇……あぁ大丈夫、錯乱までは行っていない」

 

口元を覆い、眉間に皺を満たしながら、所長の言葉にロマニは答えた。

 

目の前にあるのは、3人分のバイタルを映し出したモニター。

赤く染まり、極度のストレス状態を知らせる画面を睨んでも、それが好転することはないが。

映し出された3人の内、立香とマシュは、アーチャーによってその場(地獄)から退避している。

 

そして――

 

 

 

「……日彩君」

 

ただ一人。

その場に残った若者が、正面のモニターに映し出されている。

 

 

 

ヴラド三世、そしてカーミラ。

伝承の怪物、その血に彩られた像を形作ったモノたち。

 

 

 

一歩、並び立つ彼らの方へと、若者は踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月明かりが、赤く染まった地を照らす。

広場の端に立ち、ジークフリートは青い騎士へと目をやる。

 

 

(極東の剣術、だろうか)

 

 

中段を基本とした構え。それが動作の端々で見える。

ヒト型相手であれば、その剣先は恐らく、眉間へと定められていることだろう。

飾り気はなく、しかしだからこそ。

その剣術が、()()()()であることを感じさせる。

 

 

 

「ボーっと、してんじゃ、ないわよっ!!」

 

湧き出る杭を後ろ跳びで避けた少女が、着地際にそう声を掛けてくる。

 

 

「……すまない、集中せねばな」

 

 

愛剣を握る手に力を込め直し、散漫になってしまっていた意識をリセットする。

身を焦がす呪いを引きずりながら、彼は再び跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【「――ごめん、皆!悪いニュースだ!!」】

 

斬撃音と打撃音と破砕音と。

静けさが失われて久しい広場。

 

上空に陣取ったマリアにも、その声は届いていた。

 

戦場は地だけではない。

空から襲い来るワイバーンを迎撃する役目を担いながら、彼女も耳を傾ける。

 

 

【「西の方角にある街に、大量の魔力反応を感知した。恐らくこれは――」】

 

()()()、でしょうね」と。

屋根上にふわりと着地した清姫が、そう呟くのが聞こえる。

 

 

ワイバーンへと向けていた視線を、広場へ移す。

地上、大剣を構える灰髪の青年へと目を向けた。

 

その剣さばきは、成程、巧みと言ってよい。

少なくとも自分のような素人には、十分すぎるとすら思えるほどで。

 

――だが顔色を見れば、認識が間違っていることが分かる。

 

 

 

 

彼は呪いに侵されている。

その身を蝕む呪いは強力で。

 

(私じゃ、駄目だった)

 

彼女――力ある魔女であっても、彼を解き放つことは出来なかった。

 

 

そうして彼らは考えたのだ。

彼を救うにはやはり聖人――清姫の言う「あの人」が必要だと。

 

 

 

【「防衛戦を得意とした英霊であっても、これじゃそんなに保たないぞ!」】

 

声は伝える。

事態の深刻さを。

その猶予が僅かしかないことを。

 

 

 

 

 

視線を、また移す。

そこに居たのは青い騎士。

この場に残った、もう一人の未来からの旅人(マスター)

 

 

 

その仮面に覆われた顔が、こちらを見上げ――

 

 

 

 

 

 

 

視線が合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこもまた、戦場だった。

 

「老人と子供を先に!急げ!!」

 

長髪の騎士が声を張り上げる。

 

 

 

未明、闇に包まれた街の中。

彼の声に押されるように、民衆が逃げ惑う。

 

 

その最後方、気配を感じて彼は振り返った。

 

 

 

手にした大剣で、襲い来るワイバーンの首元を斬りつける。

 

2、3、4と。

続けざま、斬撃を浴びせられた飛竜が沈黙する。

 

 

 

 

 

 

 

悲鳴が聞こえたのは、それを見届け、一息ついた時だった。

 

 

親子なのか、赤子を抱えた女と男の子。

地に伏した3人の許に、骸骨が迫る。

 

 

駆け出す彼の前に、ぽっかりと空いた眼窩が並び立つ。

異形たちの壁の向こう、振り上げられた剣が、月明かりで怪しく光り――

 

 

 

 

 

爆音と共に、鋼鉄の騎馬(バイク)がそこへ飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成程、事情は分かりました」

 

 

 

骸骨の群れを屠り、親子を逃がし。

長髪の騎士、ライダー――ゲオルギウスは、来訪者たちへと向き合う。

 

目の前に居るのは、青い騎士、王族、そして魔女。

三者三葉、生きた時代もバラバラで。

正に奇妙な世界の在り様を示しているようにも思える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――残念ですが、私は行けません」

 

 

ゲオルギウスは一言、そう告げる。

 

 

 

【「――っ、何故です!?人理を救うために、聖人(あなた)の力が必要なのに!!」】

 

 

彼方からの声が、彼にそう問いかける。

聖人とまで呼ばれた者が、この危機を前に何故、と。

 

 

ゲオルギウスは、視線を来訪者たちの後方へと移す。

 

 

 

「市民の避難が終わっていません」

 

 

その瞳には映っているのは、先ほどの親子。

彼は知っている。

彼女たちの行く先にあるのは、長蛇の列。

未だ多くの民衆が、この街に残されていることを。

 

 

「私はここの市長から、彼らの守護を任されています。その願いを全うすることは――」

 

 

 

 

ゲオルギウス、英雄の影法師。

信仰を、人の想いを以て現界せしその男は――

 

 

 

 

「私が聖人()であるために、必要なことなのです」

 

 

 

 

きっぱりと、そう言い切った。

 

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