FGORTA―配られし切り札―   作:雨乞い

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※修正[2022/7/16]


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一つ。

 

二つ。

 

三つ。

 

 

爪を、牙を、尾の一撃を。

躱して剣を走らせる。

 

襲い来る飛竜たちを下し、ゲオルギウスは前方、地に走る爪痕を見る。

 

「……厄介ですね」

草木を枯らし、地面を変色させたそれは、只の爪撃ではない。

 

竜とは、“毒”と縁深い生物だ。その身に毒性を持つモノも多い。

そう、例えば――

 

「かの竜のように」

 

その名を彩る逸話を思い返し、独り言つ。

 

ゲオルギウスは戦場の中心を見る。

見下ろし、立ちはだかるは飛竜の王。

見上げ、立ち向かうは1人の騎士。

 

 

青の衣に銀の鎧。

戦場の中心に立つ騎士の表情は、仮面に覆われ窺うことは出来ない。

しかしその緋色の両眼は、しっかりと、宙に浮かぶ飛竜の王を見据えている。

 

地を睥睨していた飛竜の王は、一度宙返りし――

 

1人と一匹は、また激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騎士と竜、繰り広げられる対決を王道活劇とするならば。

傍らで行われるこの攻防は、悲劇と表現すべきだろうか。

 

「――あなたとは、あんまり戦いたくないのだけれど」

 

デオン、と。

マリーは彼、或いは彼女に語りかける。

記憶に残る優しい微笑みは、今はなく。

能面のような顔に一筋、跡が走る。

シュヴァリエ・デオン、フランス王家の剣が一振り。

自身にとって、見知った間柄だ。

 

「――――」

 

騎士(デオン)の唇が動き、小さく、何かを呟く。

喧騒の中で、しかし王妃(マリー)だけは、それを聞き逃さなかった。

主従は見つめ合い、そして――

 

同時に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

足りない。

 

二人の英霊、一人の魔女、そして、一人の騎士。

その力をもってしても。

 

 

「計測数値が異常だ、ほかの個体に対してあまりにも強大すぎる……」

 

あの飛竜は一体、と。

訝しむ優男を傍らに置いて、オルガマリーはモニターを睨む。

 

およそ拮抗している、と言えば、聞こえは良いだろう。

4人は仕事を全うし、相手を抑え続けている。

 

――()()()()()()()のだ。

 

 

「ジャンヌ・ダルクたちは!?」

 

「依然、敵性体と戦闘中!!」

 

悲鳴にも似た報告が、モニタールームを飛び交う。

映し出されている戦場は、一つではない。

吸血の怪物を相手取る彼らもまた、攻防の只中にある。

 

足りない。

 

その拮抗は、いつまで続けられるのか?

このままでは、足りない。

 

「っ、新たに敵性体の反応!!」

 

「ワイバーンの増援ですっ!!!!」

 

 

足りない。

 

息を呑む音が聞こえる。

一瞬、静寂が訪れた。

そして。

 

 

 

 

 

 

「――日彩、聖晶石はあるわね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

放つ。

 

放つ。

 

放つ。

 

夜空を舞うように飛びながら、魔女マリアは光弾を放つ。

 

地を行く骸骨の群れを、一つでも多く屠るために。

 

果たしてどれだけの時間を費やしただろうか。

 

無限に感じられるほどに。

 

 

 

【「魔女マリア!!」】

 

「――っ!?何よ!」

 

 

 

 

突然の呼び掛けに答える。

とはいえ、声に集中する余裕はなかった。

だから、最初、聞き間違えたかと思った。

 

 

 

 

 

【『今から儀式を行うので、陣の作製をお願いします!』】

 

「――ッ、アンタ状況分かって言ってんの!!??」

 

 

 

 

 

 

 

「無茶ですよ、所長!!」

 

 

3頭身のオルガマリーを掴み上げ、思わずロマニは叫んだ。

「“システム・フェイト”は不安定だ!マシュの、()()()を中核に据えなくちゃ満足な機能は――」

 

()()()()()()()()()()、でしょ!!」

 

ぎゅむ、と。

顔を押しのけ、机へと飛び降りる。

 

「無茶なことなんて百も承知です。それでも、この状況を打開するには――」

 

 

 

 

「――これは、カルデア所長たる私(オルガマリー・アニムスフィア)の決定です」

 

 

 

 

ビシリ、と。

指を突き付けたあと、オルガマリーが通信回線を開く。

 

「――ああっ、もう!!」

 

その様子を見て、ロマニが手元のマイクを掴む。

コンソールを操作し、()()を繋ぐ。

 

「やあ、どうかしたかい?」

 

スピーカーから聞こえてくるのは、どこか楽しそうにも聞こえる声。

部屋中で鳴り響くアラートをBGMに、ロマニは声を張り上げた。

 

 

 

 

「君にも手伝ってもらうぞ、レオナルド!!」

 

 

 

 

 

 

 

夜空を、魔女が昇っていく。

 

「大きさは!?」

【「こちらからの観測精度を上げます、出来るだけ大きく!!」】

 

轟々と鳴る風切り音を負けじと、声を張り上げる。

 

 

ぐるぐると、円を描くように。

夜闇を魔女が切り裂いていく。

 

速く。

 

速く。

 

速く。

 

完成図を頭に描きながら、縦横無尽に飛び回る。

 

「――ッ!チィッ!!」

 

正面、その爪を広げた飛竜を躱す。

僅かにズレた位置を修正し、再び空に軌跡を描く。

 

 

手がふるふる震える。

目がちかちかする。

こめかみの奥がずきずき痛む。

 

未だかつて出したことのない速度に、悲鳴を上げる身体。

それでも。

 

 

やるべきことがある。

聞くべきことがある。

確かめるべきことがある。

 

ならば、と。

 

前後左右上下、あらゆる角度から飛竜が襲い掛かる。

バレルロール。

インメルマンターン。

インサイドループ。

 

後の世であれば、そんな風に呼ばれるであろう空中機動(マニューバ)の数々。

迫りくる飛竜を時に避け、時に撃ち落としながら、彼女は飛び続け――

 

 

 

 

 

 

 

――そして最後は、横合いからの突進が直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔女は地へと落ちていく。

 

 

 

夜空に浮かぶ光を、視界一杯に収めながら。

 

 

 

魔女は地へと落ちていく。

 

 

 

その光に向けて手を伸ばす。

 

 

 

魔女は地へと落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一本、人差し指を立てて。

 

 

 

「注文通りよコノヤロー!!」

 

 

 

星にも、月明かりにも負けぬほどに。

夜空をキャンパスに、光り輝く魔法陣が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《――素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公》

 

仮面の向こう、若者は声なき声で唱える。

 

 

 

 

《四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。》

 

執り行われるのは、一つの大魔術。

 

 

 

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

いつかのあの日、教えてもらったのだ。

 

 

 

 

 

《ただ、満たされる刻を破却する》

 

オルガマリーに。

ロマニに。

マシュに。

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()

 

 

 

 

《――――告げる》

 

そう呟いた若者に囁くように。

 

【「――さあ、日彩。応えてみせなさい」】

 

通信機の向こうから、声が聞こえる。

 

 

《汝の身は我が下に》

【「貴方に掛けられた、期待に」】

 

 

《我が命運は汝の剣に》

【「果たしてみせなさい」】

 

一拍分の静寂。そして――

 

 

 

 

 

 

【「――マスターという(貴方に与えられた)、役割を」】

 

 

 

 

 

若者は、少しだけ知っている。

その言葉の重みを。

彼女の、重みを。

 

 

 

《誓いを此処に》

 

 

 

 

 

そうして、残り僅かとなった節を唱えようとしたとき。

若者は、それに気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜明けまであと少し。

突然揺さぶり起こされた少女は、弟を腕に抱く母の後ろで足を動かす。

 

良いなぁ、と目を擦りながら。

母の腕に抱かれ、眠り続ける弟を見やる。

 

 

怪物の咆哮が木霊するそれは、非現実的で。

未だ夢の中にあるような浮遊感が、彼女の中にあった。

 

 

 

 

 

だから、仕方なかったのだ。

 

 

「――ッ、わぁ……」

 

 

空に浮かび上がる魔法陣(大きな模様)の美しさに目を奪われ、足を止めてしまったことも。

 

 

「きれい……」

 

 

それが飛竜の目に留まったことも。

 

 

突き飛ばされて、尻餅をついたことも。

 

 

 

 

 

 

――突き飛ばした青い騎士が、飛竜の一撃で民家へと突っ込んだことも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瓦礫を掻き分けて、半身が浮かぶ。

そこにあったのは青い騎士でなく、血に汚れた小柄な若者。

 

立ち上がった拍子、破片と共に何かが落ちる。

彼方から声を届けてきた通信機(それ)は、今は沈黙していた。

 

 

白み始めた空の下、一歩、足を踏み出す。

それを取り囲むのは、飛竜と骸骨の群れ。

 

――距離が、離れている。

 

聖人の剣閃も。

王妃の持つ輝きも。

 

そこにはきっと、届かないだろう。

 

 

無数の影が、地で蠢く。

その中心で、若者は――

 

《――我は常世総ての善と成る者》

 

()()()()()()()()片腕を掲げ、唱える。

 

《我は常世総ての悪を敷く者》

 

未だ光を失わないのは、空に描かれた陣。

その姿はまるで、祈りのようで。

 

 

 

 

一つ、息を吸う音がした。

生じた一拍を見逃さないとばかりに、異形たちが殺到する。

 

爪を、牙を、剣を。

自らに振り下ろされようとしているそれらを視界に収め、若者の唇が再び、動き出す。

 

 

 

一匹の大蛇のように。

一塊となった黒い影が、若者を呑み込み――

 

 

 

 

 

 

 

 

《――汝()()の言霊を纏う七天》

 

()()の輪より来たれ、天秤の守り手よ》

 

 

 

 

 

 

 

 

――瞬間、掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

微塵に切り刻まれた飛竜と骸骨。

 

血風は色づき。

骨片は輝き。

 

陽の光を浴びて舞うそれは、桜の花びらのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

チンッ、と。

()()()()()()空気を震わせる。

 

その場にあった無数の影。

今は僅かに一つ、二つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っていましたよ、マスター」

 

 

 

 

その日また、若者は運命(カード)を引いた。

 

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