FGORTA―配られし切り札―   作:雨乞い

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「――回線……途絶、しました」

 

通信オペレーターの声が、管制室の空気に溶ける。

通信用魔術礼装。

通信機と呼ばれるそれは、レイシフト中の彼らに声を届ける、唯一の方法だ。

 

室内、そこかしこで鳴り響いていたはずのアラームの音が、とても遠く感じる。

 

 

錆びついた人形のように。

オペレーターの一人――茅昴昴(マオ マオマオ)は、手元のモニターから顔を上げて、2()()へと目を向ける。

 

橙髪の男は、声にならない呻き声を上げ。

白髪の女は、微動だにしない。

 

額を、頬を、背中を。

冷たい汗が滑り落ちていくのを感じる。

 

痛いほどの沈黙が管制室に流れ、そして――

 

 

 

 

「なに、大丈夫だよ」

 

モニターを覗き込みながら。

微笑みと共に、そう告げられた。

 

 

 

 

 

 

 

赤く染まった地の真ん中で。

人影が、一つ、二つ。

 

槍で貫かれた女と、貫いた女。

2人――或いは、1人。

過去と過去(過去と未来)が向かい合う。

 

「アンタを否定するって事は、自分の罪から目を背ける事と同じでしょう」

 

あの日の少女(エリザベート)が語り、いつかの女(カーミラ)が見つめる。

 

「どうせ過去の亡霊――そんなこと、百も承知よ」

 

「それでも、私は――」

 

女が光の粒子となって消えていく。

頬に付いた赤を拭いながら、少女は、青い瞳を逸らさずに告げる。

 

 

 

 

 

「――何度でも未来を否定するし、何度でも唄うのよ」

 

皮肉気に歪められた口元を、見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良くない状況だ。

アーチャーはそう結論付けた。

 

戦力は分断され、こちらは撃退にこそ成功したものの、1()()()()()()()()()()

手強い相手だったこともあり、少なからず消耗の色もある。

特に竜殺し(ジークフリート)は、無理を押して駆けたことが表れていた。

 

「(だが、本当の問題は――)」

 

激闘を潜り抜けた仲間たちから、視線をもう一方へと向ける。

 

 

 

 

貴方の仲間は貴方達が恐怖で震えている間も勇敢に立ち向かった末に、安否不明になりました。

 

 

 

 

 

少年と少女の顔色は、青を通り越して土気色/真っ白になっている。

どうしてこう、物事というのは悪い方向に転がるのか。

 

 

 

 

 

「ムードに合わせた曲とテンション上がるような曲、どっちが良いかな?」

「やめてくれ。本当にやめてくれ」

 

揶揄うように口にする稀代の作曲家に、割と心からの懇願を口にする。今そういうのは要らない。

というか――

 

「君は心配じゃないのか?アマデウス」

 

他人の心の機微を正確に推し量ることなど出来はしない。

それでも彼には、目の前の男が、()()()()()()()()()()ように見えた。

 

アマデウスはその問いかけに、少しだけ考えるような仕草をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピアノを聞かせて頂戴」と。

 

別れ際にかつて愛を告げた人(マリー)は言った。

それは男と女にとって、特別な意味を持つ言葉だ。

 

 

 

 

 

「――()()()()()()、そう思ったかもしれない」

 

そう、だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、ただの予感だ。

 

 

 

 

 

 

 

【「オルレアンに向かってもらいます」】

 

責めるでもなく、慰めるでもなく。

静かに、一言告げられた。

 

口を突いて出そうになった言葉を呑み込み、拳を握る。

――今の自分に、それを言う資格はない。

 

 

【「立香君、正直に言うなら、状況が良くない」】

【「僕たちは後手に回っている。……もう猶予がないんだ」】

 

かけられる言葉が、じくじくと疼く心に塗り込められる。

ただ、情けなくて。

 

 

 

 

【「――藤丸立香」】

 

 

名前を呼ばれ、顔を上げた。

 

 

【「カルデア所長として命じます、()()()()()()()()()()()()」】

 

通信機越し、告げるその顔は見えない。

 

だけど。

 

 

 

 

 

 

【「()()()()()、出来ます」】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っていましたよ、マスター」

 

血風舞う戦場の片隅で、2人が邂逅する。

片や赤に塗れた黒髪の。

片や桜に色づく白髪の。

 

黒と白、遠く離れた2人の姿。

 

――それでも、そこには縁がある。

 

 

 

白髪が黒髪の手を取り、握り込まれたそれを見る。

 

「成程」

 

鈍く光る木片。

汗と血で磨かれたそれは、木刀の欠片(研鑽の証)

 

嬉しそうに呟きながら、黒髪の顔を覗き込んで。

――不意に、その動きが止まる。

 

黒髪が首を傾げる。

そんな主の様子を余所に、ぎゅっと、何かを堪えるように瞼を閉じ――

 

 

 

――白髪はただ、微笑を浮かべた。

 

 

 

向き合う2人を異形が囲む。

 

 

「……お話は後で。なにぶん戦場ですから」

 

少しだけ、名残惜しそうに。

握っていた手を放し、白髪はそちらへ目を向ける。

 

 

柔らかな微笑は、今はなく。

 

 

そこに居たのは1人の()()

 

 

 

「――いざ、参る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の出来事だった。

人影が消え、現れるのと相対するように。

異形が消え、血風と骨片が舞う。

 

剣術、なのだろう。

頭の辺り。高く、地面と水平になるように構えた剣。

それが振るわれる度に、異形が屠られているのだろう。

 

――しかし、嗚呼、()()()()

 

目の前で行われるそれに、墜落地点からやっとの思いで戻ってきたマリアのこめかみが痛んだ。

 

自分とて、()()()()()()()の自覚がある。

しかし、だ。

 

「アレはヤバい」

 

少し離れた位置、「まあ!」と目を丸くしているマリーを見つつ、彼女はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

戦場の真ん中で火花が散る。

 

 

吹き飛ばされた青い騎士へ。

追撃を加えようとする飛竜の王を食い止めていたのは、名高き聖人の剣だった。

 

毒爪を躱し、振り下ろされたその足へと剣を叩きつける。

渾身の力を込めた一撃を、しかし飛竜の王は一顧だにしない。

 

三方から鉤爪が伸びる。

一つ空いた後方へと跳び、飛竜たちの包囲網から抜け出す。

 

王とその配下、飛竜の軍勢。

それを前に、聖ゲオルギウスは奮戦していた。

 

如何に男と言えど、それは簡単なことではなく。

吹き飛ばされた青い騎士の末に、注意を払えなかった。

だから――

 

 

 

「助太刀します」

 

 

宙を舞う無数の飛竜、その一角を消し飛ばし。

目の前に現れた人影に、思わず手を止める。

 

隙を逃さぬとばかりに、死角から襲い来る牙と爪。

しかしそれらは、ゲオルギウスに辿り着く前にまとめて断ち切られた。

 

「――っ、ありがとうございます」

「いえいえ」

 

尚も迫る飛竜たちを返す剣で切り刻む白髪に、男は一瞬遅れて返事をする。

飛竜たちが()()()()()()地に墜ちたのは、その数刻後のことだった。

 

 

 

 

 

 

構え直すゲオルギウスと白髪の剣士。

それを見下ろす飛竜の王。

 

まず動いたのは、飛竜の王だった。

急降下。迫りくる巨躯を、左右に分かれて2人が躱す。

 

擦れ違いざまにゲオルギウスが、飛竜の王の胴目掛けて剣を走らせる。

 

赤く血筋が走り――しかし浅い。

 

地に両脚をつけ、飛竜の王は横薙ぎに尾を振るう。

丸太のようなそれ。

ゲオルギウスが後方に跳んで躱したのとは対照的に、白髪の剣士は前方――眼前の、飛竜の王の背へと跳んだ。

 

ギャリギャリッ!と。

剣と鱗が擦り合わされ、火花と金属音が鳴り響く。

 

腹立たしい、と言わんばかりに。

飛竜の王は更に身を翻し、振り払った白髪の剣士へと視線を向ける。

 

顎の合間から火の粉が舞い散る。

 

辺りを焼き尽くすかのように。

 

膨大な量の火炎が、撒き散らされた。

 

 

 

 

飛竜の王は、目を細め、()()()()の様子を探る。

 

赤く染まった大地、炎の海を突っ切って。

飛竜の王へと影が駆ける。

 

一撃、伸びる鉤爪を剣の側面で受け。

反動を利用しながら、懐に飛び込む。

 

 

 

例え、硬い外殻に覆われた身体であっても。

腹部(そこ)の防御は薄いのが常である。

 

 

 

袈裟懸けに振るった剣で、鮮血が迸る。

もう一撃、と。

今一度剣を振るおうとするゲオルギウスを、飛竜の王の尾が襲う。

 

薙ぎ払うように振られたそれを剣で受け、飛ばされる彼の視界には。

こちらを睨む飛竜の王と、その後方から襲い掛かる白髪の剣士。

 

死角からの奇襲、必殺の一撃。

 

 

 

 

 

 

飛竜の王はそれに、対応してみせた。

 

 

 

 

飛翔、上空へと舞い上がろうとした。

 

――尾の先、突き立てられた()()が、飛竜の王を地へと繋ぎ留めた。

 

 

身を捻り、その翼で剣士を叩き落としにかかった。

 

――ピンクと緑、飛来した光球がぶち当たり、その動きを止めた。

 

 

ならばと、再び顎に火炎を宿し――

 

 

 

 

――開かれたそこへと、剣が差し込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消えゆく飛竜の王を眺めていた白髪の剣士が向き直る。

 

長髪の聖人。

大きな帽子の少女。

大ぶりのコートを着た少女。

 

 

――そして今再び、青い騎士の鎧を脱いだ若者。

 

 

 

「申し遅れました」

 

4人を視界に収め、()は一つ、礼をする。

 

 

 

 

 

風にたなびく羽織の紋は。

 

 

 

 

浅葱に白の、だんだら模様。

 

 

 

 

「サーヴァント、沖田総司。推参しました」

 

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