FGORTA―配られし切り札―   作:雨乞い

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首元へと、白刃が迫る。

 

頭を振り、身体を捻るだけでは追い付かず。

地面を蹴り、横に跳ぶようにして回避する。

 

浮き上がる身体、それを宙で立て直して。

 

ガリガリガリガリッ!!と。

 

 

ヒールで地面を削りながら、踏み止まる。

 

脚、胴、腕。

 

白い肌の上、至る所に赤い線が走っている。

一つ息を吐き、頬に――新たに増えた傷口に滲んだ血を拭う。

 

「アイドルの顔に、傷をつけたわね!」

 

 

眼前を睨みつけ、声を張れば。

立ち込める土煙の中から、それが姿を現す。

 

 

鱗に覆われた緑色の身体。

棘のついた銀の――先ほど咄嗟に振るった槍が、僅かばかりの傷を刻んだ鎧。

 

それは怪物、否、()()

しかし頭を過ぎるのは――

 

 

ゆらり、と。

両の手、そこに据え付けられた剣と斧が彼女――エリザベートへと向けられる。

その脚に備えた鉤爪が地面を掴み、僅かに砂煙が上がる。

 

頭の中、モヤモヤと漂っていた思考を、片隅に追いやる。

槍を握る両手に力を込め――

 

 

 

 

辺りに漂う土煙と緊張を、鋼鉄の騎馬が引き裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

頭上から、白刃が迫る。

 

風切り音と共に振り下ろされた槍を、双剣で弾きながら地面を蹴る。

一拍遅れて地面から襲い来る追撃を視界に収めながら、手の中の得物を投擲。

跳躍の最中であっても、狙いは過たず――

 

その一撃は、しかし相手を穿つことはなかった。

 

食い止められた夫婦剣は霧散すると同時に、担い手の――赤い外套の弓兵の手の中に、再び出現する。

 

戦場は様相を変えていた。

平原は最早なく、地面は幾本もの杭で覆いつくされていた。

 

確かめるように得物を握り直し、弓兵は乱立する杭の中心を見つめる。

そこに相手は立っていた。

 

ヴラド三世。

その名が轟くのは、伝承の怪物のモデルゆえか。

或いは。

 

 

 

 

 

 

「さて、マスター」

 

不意に、声が掛けられる。

 

「眼前の敵は、ああ成程。強く、とても()()()()

 

絶技の応酬。一進一退の攻防。

それを演じる男が、自分に問い掛ける。

 

「それはこの先も、きっと、変わらないだろう」

 

 

 

 

 

 

――何故か、重なった。

燃え盛る街。深い洞窟の底。

傷だらけの黒鎧を纏った、あの少女の姿が。

 

 

 

 

 

 

「私は戦おう。従う者(サーヴァント)として」

 

視線は寄越さない。眼前の敵を、そして、その先を見つめて。

それが自身の役目ならば、と。

では――

 

 

 

 

 

「――()()()()()()?」

 

背中越し、戦場の片隅に居る藤丸立香へと問い掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出す。

あの日、あの時、あの場所で。

 

 

「――背負って、歩み続ける。自分でそう決めたんだ」

 

 

だから。

 

 

「ここで立ち止まるわけにはいかないんだ……!」

 

ちっぽけなただの一般人(普通の男の子)であっても、()()()()()()()()()()と。

あの日、あの時、あの場所で。

 

 

自分に。

彼らに。

――彼女に。

 

そう誓ったのだ。

 

 

「だから、力を貸してくれ、アーチャー!!」

 

 

一度は身を竦ませた恐怖を踏破し、先に進むため。

少年は今、目を逸らさないことを自らに課したのだ。

 

 

 

その程度の試練と、他人は言うかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「――フ、よく言った」

だが、弓兵にとっては違った。

 

 

 

 

 

「魔力を回せ!決めに行くぞ、マスター!」

 

 

 

 

 

「令呪の使用を確認、宝具(Noble Phantasm)、展開します!」

 

放つ矢、呟くその名は“赤原猟犬”(北欧神話の魔剣)

手にした双剣、黒白のそれは太極の意匠(中華の装い)

 

チグハグなサーヴァント。

アーチャー、彼は不詳の英霊である。

 

スタッフの声を背に、オルガマリーとロマニはモニターへと視線を注ぐ。

その正体を見定めるために。

 

 

 

 

 

 

 

「『I am the bone of my sword.』」

 

 

弓兵が唱える。

 

 

「『Steel is my body, and fire is my blood.』」

 

 

襲い来る槍をいなし、杭を避ける。

 

 

「『I have created over a thousand blades.』」

 

 

双剣で弾き、そのまま投擲。

 

 

「『Unknown to Death.』」

 

 

「『Nor known to Life.』」

 

 

剣が杭に突き立ち、そして消える。

 

 

「『Have withstood pain to create many weapons.』」

 

 

 

 

 

 

「『Yet, those hands will never hold anything.』」

 

 

まるで、()()()()()()()()()()()

 

 

弓兵が足を止める。

何時の間にか、幾重にも突き出した杭が壁をつくり、彼を取り囲んでいた。

囲いの中の弓兵を指し示すように、相手が手にした槍を軽く振る。

 

四方八方から殺到する杭。弓兵はそれを視界に収めて――

 

 

 

「『So as I pray,

 

 

 

 

 

 

 

UNLIMITED BLADE WORKS.』」

 

 

瞬間、世界は塗り替えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

固有結界。

現代魔術協会において禁呪とされる、現実を侵食する秘術。

 

 

地面を覆っていた杭は、今はなく。

 

 

立香の目の前に広がる風景。

魔術師の到達点の一つである風景(そこ)は、無数の剣が突き立つ荒野だった。

 

 

その現出に通信機の向こうから、驚愕の声が漏れ聞こえる。

 

 

 

 

 

 

剣突き立つ荒野の中心で、男たちが相対する。

 

 

 

「いくぞワラキアの王――処刑杭の貯蔵は充分か」

 

 

 

足元から一振りを手に取り、赤い弓兵が指し示す。

受ける相手もまた、手にした槍で同様に。

 

そして、その動きに呼応するように。

 

虚空から現れた無限(夢幻)の剣が。

再び、地面から湧き出た無数の杭が。

 

眼前の標的を穿たんと、激突した。

 

 

 

 

 

 

 

粉塵が晴れ、世界が本来の姿を取り戻したとき。

 

戦場の真ん中には、串刺しにされた影と、首元に得物を突き付ける影があった。

 

 

「――終わったか」

 

 

()()()()()()()が呟く。

無数の剣で刺し貫かれた相手は、未だに立ってはいるが。

勝敗が決したことは、誰の目から見ても明らかだった。

 

背後から駆け寄ってくる足音を耳にしながら。

手にした剣を静かに下ろそうとして――

 

 

 

 

「――そう、だ……」

 

垂れていた頭が上がり。

碧い瞳と、目が合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――全くもって、不本意だった。

幾度の召喚、幾度の隷従。

何度も、何度も、何度も!!

まして、今回は――

 

だが、その中にあって。

男は自身の役割を見出した。

 

男は演じ切り、それは結実した。

そう、男は()()()()()()

 

あとはそう、何と言えば良いか……嗚呼、そうだ。

 

「ゆめゆめ、忘れるな……」

 

何時か何処かで、()()()()()()()()が口にしていた。

記憶を汚すその事実にも、今はしばし目を瞑ろう。

 

自身と弓兵の許へ駆け寄ってくる少年に。

自身という恐怖を踏破せしめた、親愛なる家臣(マスター)

先へと続く標として、この言葉を贈るのだ。

 

 

 

 

「化物を倒すのは、いつだって人間だ」

 

 

「人間でなくては、いけないのだ!!」

 

 

 

ヴラド三世――伝承の怪物の偶像を被せられた、護国の鬼将。

その英霊は自身の役回りに一握の満足を得て。

今、再びの眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

火花と鮮血が舞い散る。

 

 

捉えきれない敵の軌道。

増えていく傷と、目減りしていく精神力。

じりじりと削り取られていく。

 

 

手にした槍を振るいながら、打開の策を求めて。

視線の先、青い騎士の――若者の様子に、エリザベートは思わず、止まった。

 

仮面に覆われたその顔、表情を窺い知ることは出来ない。

それでも、感じる。

 

若者が放つ、不穏な気配を。

その、決断を。

 

 

 

 

 

 

緑、或いは銀色。

今また突撃してくる怪人。

幾度となく繰り返されてきた場面。

 

急接近する影、狙うは青い騎士。

それを察知して、ゆるりと、銀鎧に覆われた身体が動き出す。

これまでと同じなら、襲い来る刃を避けながら、反撃の糸口を探っていたことだろう。

 

増えていく傷と、目減りしていく精神力。

じりじりと削り取られていく。

それを感じながら、ただ、耐えていたことだろう。

 

 

 

 

 

――そんなバンクシーン(使い回し)を踏み砕くため。

青い騎士は、刃の方へと身を投げ出した。

 

 

 

 

 

火花と衝突音が辺りへ炸裂する。

激突の中心。そこには小さくはない傷を負った青い騎士。

そして勢いを削がれ、その場に止められた怪人が居た。

 

捉えきれなかった敵を、その身を挺して捕らえてみせて。

緋色の視線が、エリザベートへと向けられる。

声はない。けれど――

 

 

 

「良いわ、寄越しなさい子ジカァ!!」

 

 

 

声を受け、青い騎士が動く。

投げ飛ばされ、宙に浮かぶ怪人。

 

 

ただの的と化したそれに、渾身の咆哮(一声)を浴びせる。

 

 

 

 

 

「――ちょうど、ムシャクシャしてたところだったの」

 

ダメ押しとばかりに一閃を加える相方を見ながら。

少女は魅力的な笑顔で、そう言い放った。

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