FGORTA―配られし切り札― 作:雨乞い
前方から歩いてくる人物に気が付くと、ロマニ・アーキマンは声を掛けた。
「やあ!君は……御剣日彩君、で良いかな?」
声を掛けられた人物――御剣日彩は、少しだけ首を傾げながらロマニの方に歩み寄ってきた。
資料では10代だったと記憶しているが、近づいてくると、平均より更に華奢な体躯がよく分かった。
日彩は一つ会釈をすると、ロマニをじっと見つめてくる。
「ボクはロマニ・アーキマン、このカルデアで医療部門トップを担当している職員なんだ。何故か皆からDr.ロマンと呼ばれていてね。呼びやすいし、君もそう呼んでくれて構わないよ。それから何か分からないことがあったらいつでも聞いてくれ」
ロマニがそう言うと、日彩は手に持っていた包みを差し出した。差し出されたロマニがそれを受け取ると、空いた手でポケットから取り出したメモ帳に何かを書き込み、それも差し出した。
《はじめましてDr.ロマン、ヒイロと言います。これからよろしくお願いします。これはお近づきのしるしです》
渡されたメモに目を通し、顔を上げると、日彩はまたペコリと頭を下げた。
「ありがとう!――わぁ和菓子か!ボクこし餡好きなんだー!」
ひとしきり喜んだあと、ふと、手の中のメモ用紙を見る。
「……さっきも言ったけど、ここの医療部門のトップはボクだ。困ったことがあったら何でも言ってね?」
「それで、今は何を?……オルガマリー所長に会いに行く?それじゃあ――」
「――どうぞ」
書類に目を通していたオルガマリー・アニムスフィアの耳に、所長室のドアをノックする音が聞えたのは、夕暮れ時のことだ。といっても、このカルデアでは夕日など拝めたものではないのだが。
扉が開き、するりと誰かが入ってくる。机の前に立つ気配がしたところで、オルガマリーは顔を上げて来客を見た。
黒髪に黒瞳の若者だ。極東日本の――こけし、だったか。何だかアレに似ている。
目が合うと一つ会釈をし、メモ用紙を差し出してきた。
《初めまして、オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィア所長。本日からお世話になるミツルギ ヒイロです。お忙しいのではと思いましたが、挨拶に参りました》
視線を目の前の日本人に戻すと、少し微笑みながら手に持っていた包みを差し出される。
「ありがとう。礼儀は出来ているようね」
それはそうと何故――と、メモを振りながら言いかけて、思い出す。マスター候補者のリスト、その中の一枚にあった記述を。
「『発声障害』だったわね。全く、それじゃあ適性も持ち腐れよ……」
「一般人だし何でこんな子が……」と一頻りブツブツ言うと、もう一度視線を合わせた。
「最初に言っておくと、このカルデアで行われる偉業において、貴方は予備も予備、補欠、補充要員です。期待はしていない」
そう言うと、しかしその黒瞳は変わらず、こちらをじっと見つめていた。
威圧感はない。ただこちらを見つめているだけ。
それでも何だか、少しだけ心が揺れながら言葉を続ける。
「――ま、まぁとはいえ?貴方もカルデアの一員であることは確かです。つまり一員として恥ずかしくない振る舞いを望みます!」
分かった!?と問うと、少しだけ困ったような顔で、新たなメモを渡してくる。
「《カルデアについて詳しく知りたい》?適当に職員を捕まえて――っいや、ロマニとかは駄目よ!……ああっ、良いわ!もうっ!!」
暫く唸ると、持っていた書類を机に置いて、日彩を指さす。
「感謝しなさい!貴方にはこの所長自ら、カルデアの何たるかを教え込んであげるわ!!」
即席の生徒と教師の授業は、1時間ほど続いた。
レフ・ライノールがその若者に出会ったのは偶然だった。
「おや、君は確か……御剣日彩君だね? もうこちらに来ていたとは」
マスター候補者、その予備の予備。
その矮小さ故か
会釈し、メモ用紙を手渡してくる姿を眺める。
「《よろしくお願いします、レフ・ライノール・フラウロス教授》か。名前を覚えてくれているとはね」
魔力の流れはない、完全に一般人。
その手に運命を変える力などあるはずもない。
微笑み、手土産だというお菓子を受け取る。
ああ、そうとも――
――我らの事業は、誰にも止められはしない。