FGORTA―配られし切り札― 作:雨乞い
御剣日彩について、彼女――マシュ・キリエライトが分かることはそう多くはない。
1つ、小さい。
箱庭の住人であるマシュにとって、自分より身長の低い人物は、実はそれだけで珍しかった。日彩が旋毛の上に乗せたフォウと、自分の目が容易に合うのは、マシュにとってちょっと不思議な体験だった。
2つ、甘いものが好き。
初対面の時も、何処からか甘味を取り出してマシュに差し出してきた。廊下を歩いていると他の人に配っているところも見る。あれ?でも本人が食べているところは、見たことがないかもしれない。
3つ、黒が好き。
黒髪、黒瞳の日彩は、服装も黒っぽい。所々、白や灰色が混じっているが、おおよそ黒っぽい。モノトーンの姿は、目を離すと消えてしまいそうに思える。
4つ、社交的。
日彩は、よく他人と交流している。スタッフの手伝いをしていたと思っていたら、ペペロンチーノとおしゃべりをしていたり。キリシュタリアとパンを焼いていたと思ったら、医務室でそれをロマニと食べていたり。誰かが笑っているところに、よく居る気がする。あれ?でも本人は――
5つ、器用で世話好き。
日彩は、器用だ。書類仕事を手伝い、お茶を淹れ、草花を手入れし、パンを焼き、オセロをし……色々なことをしている。そして困っている人が居ると、何処からか現れる。まるで影のように。或いは幻のように。
御剣日彩について、マシュ・キリエライトが分かることはそう多くはない。
それでも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ……そして6つのことが分かる。
6つ。
日彩は、きっと、善性のヒトなのだ。
ドアをノックする音が聞える。
入室の許可を出せば、扉が開き、するりとヒトが入ってきた。
お盆の上にティーセットを用意した日彩が、こちらに微笑んでいた。
ティータイムは、2人の間で半ば習慣化していた。
15時過ぎ、日彩はお茶を両手に所長室を訪れる。窓の外の景色が変わり映えしない中で、それはある種の時報だった。
ティータイム中に、言葉は殆どない。
日彩は言葉を発せないし、オルガマリーは言葉を発しない。
時間にしておよそ40分。文字で、声で、絶え間なく
彼女を見つめる黒瞳は、未だに慣れないが、それは彼女に、重さを与えるモノではない。
着任初日、厳しい言葉を放った。
それは事実で、必要なことで、しかし八つ当たりじみた自分が居ることに気付かなかったワケでなく。
だからこそ、こうして黒瞳が目の前に並んでいることが、不思議だった。
「物好きね」
一言、オルガマリーがそう言うと、影法師のような人物は、少し首を傾げた。