緋月望は孤独であった   作:Feldelt

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第二話 実証結果と考察

「勇者の初陣は勝利か、やったな!」

 

と、鷲尾の声で研究チームは沸き立つ。自分たちの研究が勝利という結果に繋がったのだから。だが俺は解せない。さっき……ものの数十分前、俺は乃木若葉と会話していた。それからもう初陣だと?いくら物理学に疎い俺としても時間感覚くらいは正常だ。確か鷲尾は物理学に長けていたはず。

 

「おかしいと思わないか?どこで戦闘があった。あったとして、こんな短時間で終わるはずがない。」

「聞いていなかったのか緋月。勇者様たちの戦闘は神樹様が作り出される結界、『樹海』の中で行われる。その間、現実世界の時間は停止される。つまり、俺たちにとっては一瞬の出来事だということだ。」

「人類、いや、自然の摂理に反しているだろう、それは。物理学を専門とした研究者が言うことか、鷲尾!」

「落ち着け緋月。俺だって納得はしていない。時が止まっていたことによる勇者の肉体及び精神に及ぼす影響などは調べておきたい。俺達とは違う時間を生きているわけなのだから、彼女たちとこちらで時間の感覚がずれていることが考えられる。まぁ、1秒未満だとは思うが。」

「……わかった。戦闘の情報を聞きに行く。初陣のあとで昂ったままだとは思うが、勇者システムの改良のためにもデータはたくさんとっておきたい。願わくは自分で観測したいがな……」

「熱心だね、うちの主任は。少し待ってくれ勇者様への質問がある者に質問の内容を書かせて送る。」

「助かるよ鷲尾。なんせ本丸まで行くのにだいぶ時間がかかるからな、20分くらいあればいいか?」

「10分で全部送ってやるさ。誰かさんが報告書丸投げ常習犯なせいでタイピング早くなってるんだ。」

「けっ、そういうことかい。」

 

研究室の机からクリップボードと紙とペンを取り、足早に研究室を後にする。勇者5人と巫女1人が生活をする本丸には大社職員であってもそう簡単に出入りできる場所ではない。もっとも、本丸以外にも重要な設備はいくつかあり、先ほど使えなくなってしまった通信室、訓練用の道場などは本丸の外にある。

 

「研究部主任、緋月望。勇者様に戦闘時の……主に星屑と勇者システムに状態についての質疑のために来ました。お通しいただけないだろうか。」

 

とまぁ、本丸前で検問がある。鷲尾が一瞬でまとめてくれた質問票も見せつつ、無事に許可を取って進むことができた。……思えば俺は乃木若葉を数回見て話した程度で、残りの勇者に関しては第一印象と研究室に向かうときに見える訓練の様子しか知りはしない。中学生の少女たちに担わせるには過酷な訓練のようにも感じているが……実戦ともなるとそうも言えないはずだ。それに……

 

「にょわっ!?」

「っ……!」

 

と、思索を巡らせていたら食堂から出てきた少女と出合い頭に激突してしまった。とはいえ身長差によってお互いそんなダメージはないが……

 

「……すまない、大丈夫か?」

「タマっち先輩、大丈夫!?」

「あぁ、タマは全然平気だぞ!」

「そうか。……君は確か、土居球子……」

「お、タマのことを知ってるのか?大社の人か?タマたちのことを様付けしないなんて珍しいな!」

「様付け、か……」

 

馬鹿馬鹿しい。本来は大人が背負うべき責務だろう。たった5人の少女たちを戦場に駆り出す大人なんて、『大人』失格だ。それをわかっているから、せめて様付けで敬意を示している。薄っぺらだ。

 

「そんなことはどうでもいい。俺は研究主任の緋月望。食事の後ですまないが、今後の勇者システムの機能拡張のためにいくつか質問に答えてほしい。」

「構わない。できる限り答えよう。それが私たちのため、ひいては人類のためになるのなら。」

「尽力しよう。では早速一つ目の質問だが──」

 

 


 

 

「──以上が勇者五名への質問とその回答の結果である。これを基に研究の目標を再調整、まずは勇者システムの防御力アップを目標に研究を進めていってほしい。鷲尾、そっちは任せる。」

「物理なら任せろ、主任。」

「よし、我々は星屑の生体調査を引き続き行う。どのような攻撃が有効なのか。これらを考えられるようになるためにもまずは限られたサンプルの中でできる限り多くのデータを取ろう。考察は後からいくらでもできる。」

 

とは言ったものの……状況が変わった以上あまり手を広げて研究テーマを増やすわけにはいかない。……だとするなら、この再生能力についての研究を進める方が先決だろう。細胞の構造を突き止めないことにはどうしようもないのがこの研究班において一番の面倒な……

 

「ん……?」

 

おかしい。肉眼で確認できるほどに、サンプルは『星屑』としての形を成していた。嫌な予感がする。液体に浸して不活化はしているが……もしかすると、これは自己増殖ではなく自己相似。ロマネスコのようにフラクタル構造をもった生物だとしたら?

 

恐る恐る倍率を上げ、細胞単位の観測に移る。そこで目にしたのは、『星屑』の形をした細胞の集合体。

 

「そんなのありかよ……っ!」

 

頭を抱える。この再生能力も納得だ。

 

「主任、何かわかったんですか!?」

「フラクタル……自己相似……死が理論上定義されない生命体……人の摂理を超えてやがる……」

「主任……?」

「報告書のフォーマットをくれ。一つ分かったことがある。生半可な攻撃では奴らは無傷どころか増えるぞ。」

 

溜息しか出ない。だとするなら勇者に必要なのは確実に星屑を屠る攻撃力。

そして、当たれば即死級の攻撃を回避あるいは防御できる機動力と防御力の両立。

 

「せめて、どんな戦闘をしているのかさえ分かれば……」

 

それは届かぬ願いである。それに、研究のためといって死地に赴くのも違う。生き残らせるための研究だ。研究班で死人を出すなどもってのほかだろう。主任たる俺が許さない。

 

「……まぁいいか。重要なのは……」

 

再生が進むサンプルを特殊なメスで切りながら考える。この再生能力を何かに活かすことができないか、と。

 

「もう少し考えよう。酢酸オルセインに浸してみるか……」

 

もしかしたら、というか初歩的な段階に立ち返ってみるべきだ。核が観測できないのなら観測できるようにすればいい。

 

「次は、星屑の再生能力を人体の治療において活かせるかどうかの考察に入る。」

「わかりました、主任。」

「願わくは、こんな研究が役に立たないことを祈るよ。」

 

自嘲気味に笑いつつ、報告書を書き進めることにした。




次回、第三話「考慮すべき事象と関係性」

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