勇者と星屑の戦闘はここ数ヶ月でちょくちょく発生しているらしい。「らしい」というのは当然、樹海での戦闘状況をこちらでは感知できないからである。戦闘が起きたという報告が出るたびに勇者5人に聞き取りをするが、大して変わり映えはない。まぁ、変わり映えしたものと言えば、俺と勇者5人、巫女1人との距離感だろうか。
「……というわけだ鷲尾。研究部に杏が来る。その時間は俺が相手するけど……」
「待て待て、緋月。お前いつの間にそんな勇者様を呼び捨てするような間柄になってんだよ。」
「話を聞いていただけだ。その時に名前を呼ばないと話が進まないだろうが。第一、彼女たちは勇者である以前に子供だ。大人に祀り上げられて、矢面に立っている子供だ。そんな子供のためにできることは、話をすることからだろう。」
「……異端だな、お前は。」
「異端であるからこそ、こんなことをやってるんだろうて。」
報告書を見ながらぼやく。星屑の自己相似細胞による異常な再生速度の再現のための実験の報告書だ。怪我が絶えないのが勇者という役目だが、毎度毎度病院送りにされてはたまったものではない……ということで始めた研究だが難航している。
「発案はお前だろう?」
「あぁ。これはあの子たちには見せられないな。」
「当然だ。研究部の資料は秘匿レベルが高いだろう。主任であるお前が管理してないだけであって……」
「そこら辺はお前が得意分野だからだろ。」
「まぁな。」
軽口を叩きあいながら休憩できるこの環境はいい。研究に没頭もできる。
「時間だ。本丸へ行く。」
「おう、行ってこい主任。」
本丸で勇者たちの訓練やちょくちょく挟む会話、快活な友奈と球子と内向的な杏と千景。そして、リーダーたる乃木若葉。巫女である上里ひなたは別の場所で修練をしているという。
「ひじゅ、ひづきー」
「ん、どうした球子。」
「いや、なんかこう、ひじゅ……ひづきって言いにくくてな……」
「よく言われる。それはそれとして……動きが大仰すぎる。隙が大きいからもう少し遮蔽を使ってみるといい。」
「う……若葉にも同じようなことを言われたぞお……それより、さっき若葉と話してたんだが……骨付鶏はひなだよな!?」
「え?」
「いいや、間違いなくおやだ。異論は認めん。」
「ぬゎんだとぉー!?」
「いや、食べたことないからわからない……」
『なんだと!?』
とまぁこんな感じで適当に話をしていたわけだが……この後骨付鶏をおやとひな両方食べ比べをするはめになったのは言うまでもない。結論から言えば、両方うまいでいいだろうという逃げの回答をすることで難を逃れた。実はそんなに好きな味ではなかったというのがオチ。そもそも、あまり肉や魚が好きじゃないというのもある。というかほんとに食べられないまである。よく我慢したしよく吐かなかったな、俺。
「舞……」
あの日あの時あの場所で、俺は……ッ!
「……復讐、する気にもなれない……そんな自分が嫌だな。」
弾き飛ばされた自分、食べられる舞、血しぶき。忘れることなんでできない、地獄の光景。どんな表情をしていたんだ、舞。それがわかれば……こんなに苦しいこともないはずなのに。
「はぁ……」
どうしようもない過去、目の前で食われた友人、陽本舞。俺をかばって、死んだ少女。唯一の友人。
「さて、過去に引きずられてないで目の前の研究に集中しなきゃな……」
夜の丸亀城、二の丸の外で星のない空を眺めながらホットコーヒーを飲む。星屑の自己相似性の検証、酢酸オルセインに漬けたサンプルの解析、やることは山積みだ。だが、やらなければならない。
「前を向かないと、だな。生かしてくれた、舞のため、にも……」
次回、第四話「切り札の長所と短所」
感想、評価等、お待ちしております。