緋月望は孤独であった   作:Feldelt

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最終話 300年後の君へ

全ての戦いが終わった人歴2年、緋月昇は書史部の書架を点検していた。

バーテックスとの戦いは終わったが、大赦内部の改革や、本土の調査などやることは山積みだ。だから、今書史部の書架にある全ての資料を読み漁り、本土の情報に繋がりそうなものを集めていた。

 

「先輩、この作業いつまででしたっけ」

「あぁ、ゆとりを持った設定とはいえ情報は早めに欲しいからな……上がしびれを切らすまでもって二週間と読んでる」

「つまり、二週間でこの量の書架を全部見ろって言うんですか!?」

「そうなってしまうな……頑張るぞ楓花、こればかりは根性論だ」

 

大赦書史部部長、緋月昇とその後輩陽本楓花の二人で膨大な量の書架を点検するというのだから、無茶も甚だしいことだ。だが、二週間という時間がある以上手を付けないわけにもいかない。ため息しか出ないがもはや口よりも手を動かすに越したことはない。

幸い、書架に残されている資料は大半が検閲されておりまともな情報が残っているものは少ないわけだからある程度頁をめくるだけでいいという点は作業効率をわずかながら上げていた。

 

そんな点検作業で発見されたのは四国の外からやってきたという人間の故郷の記録であったり、神世紀100年ごろの世相の話であったりと、情報としては玉石混交と言わざるを得なかった。

 

点検作業も半分を越え、例に漏れず未明になるまで作業に没頭していた緋月昇は一つの資料を見つける。厚いハードカバーの本だが、内容はほぼ全て黒塗り。読み取れる部分としては、家系の監視を続ける、子孫に影響がないか……などといった文言だった。個人名が書かれていたらしき部分は全て黒塗りだから誰のことなのかはさっぱりわからない。だが、緋月昇はその本そのものに違和感を感じていた。

 

「仕掛けがあるな」

 

妙に厚いハードカバーを触って確かめる。表紙と裏表紙で厚みが違うようだ。振ってみるとほんのわずかにカタカタという音が聞こえる。未明の書架、外の音が全く入らない環境でこの小さな音だ。今の今まで気づかれることはなかっただろう。問題は、どのようにして取り出すかだ。資料を破損させては責任問題になる。黒塗りで検閲されているものを資料と呼べるのかという問題はさておき、壊すわけにはいかないのだ。

 

「これか」

 

どうしたものかと注意深く本を観察すると背表紙の意匠に違和感を感じた。この意匠、普通に触る分にはなにも起きないが強い力をかけると少し沈む……

そう思っていたらカチリという音が鳴り、裏表紙から紙が出てくる。おそらく、これは大赦には見つかっていないものだろう。

 

『緋月望という男は、俺にいつも面倒なことを残していく。研究の報告書の作成や、研究部の後始末、ましてや今度は自分が死んだ後だって言うのに家族を監視させてきやがる。お前はどれだけ面倒な男なんだ。そう思っていないとやってられない。この文章は、大赦のやり方に疑問を覚えた俺が、引き返せないところまで来てしまったことの後悔を長ったらしく書く一種の遺書みたいなものだ』

 

書き手の名前は、鷲尾海。鷲尾家の先祖だろう。だが、この文章に書かれている緋月望という人物は……苗字が同じとはいえ俺の先祖なのだろうか。

 

『緋月は研究者として立派だった。人間としても、研究と人道、倫理の天秤をしっかり持っていた人間だった。だから、緋月が星屑を自身に注射したと聞いたときは驚いた。そんなことをすれば、どうなるかわかったものじゃないと。俺はそう言った記憶がある』

 

頭を抱えた。いつか安芸さんは俺に『天の神の因子がある』と言っていたが、そのせいなのだろうか。

 

『お前がそんなことをしたせいで、俺はお前の遺した子供たちを監視しなくちゃならないんだぞ。どうするんだ、これで……お前のように天の神に感知されるからと殺されてしまうとしたら。俺はどんな気持ちでこの子たちを連れて行けばいい。この子たちの母親から、また奪わなくちゃならないのか。なんてことをしでかしてくれたんだ、緋月』

 

緋月望は、身体に星屑を注射したことで身体もまた星屑と化してしまうような状態にまでなってしまった。だからそうなる前に大赦が消したのか。だが、彼の子孫はいた。彼らもまた星屑になってしまう可能性があるのなら、同様に消さなければならない。その葛藤の文書だ。

 

『俺はささやかだが、薬を作った。勇者システムの研究データとお前が残した星屑のデータを組み合わせて、星屑の自己相似性の複写を阻害する薬を。これを子供たちに飲ませた。月に一回、こっそりと。そのおかげか、この年になるまであの子たちは消されることはなかった。もしかしたら最初からいらないことだったのかもしれない。けれど、相手は神だ。俺たちの科学ではわからないレベルで爪痕は残っているかもしれない。それすら解明できるように、今の技術を進めている。お前がいれば、もう少し早く進んでいただろうか。まぁ、過ぎたことだ。俺の考えでは300年もすればわかると思う。その時までに、お互い子孫を残して……人類を繋げていこう』

 

これで文書は終わっていた。すべてを読み終えた俺は何事もなかったかのように紙を元の場所に戻し、仕掛けも本も全て元の場所に戻した。俺の中で謎だったことは解明された。それでいい。それでいいんだ。

 

「300年、か」

 

300年間、今の今まで繋いできたバトンが、戦いの果てにゴールまで渡った。そのバトンは……また新しい道を走っている。おそらく、この鷲尾海もバトンを繋ぐことを選んだ側の人間だ。誰かがゴールまで持っていってくれる。そう信じてバトンを託したんだ。たまたま、俺の時代でゴールがやってきただけだ。

 

──今、新しい戦いが始まっている。そのバトンを、俺たちは持っている。繋げよう。一回ゴールしたんだ、今度は譲ろう。新しいゴールに向かって、託せるように。俺は、俺たちは進む。そう決めた。

 

 

 

 

 

 




これにて完結でございます!

勇者史外典を、飲み込めさえすれば、書き切れた、ぞ……!
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