頭文字b -貧乏学生の走り屋生活-   作:ケンゴ

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第12話

 

 黄色いFDが発進したのとほぼ同時に、白いアルトがコースへと飛び出していく。

 

「何だぁ?」

 

 バックミラーでそんなアルトの姿を確認した啓介は、思わず疑問の声を上げた。

 

「アイツ……この俺に挑むつもりか」

 

 先ほどまで話していた俊樹の顔を思い浮かべると、アクセルペダルをさらに踏み込む。

 

「テスト走行がてら付き合ってやるぜ!」

 

 甲高いロータリーサウンドを響かせ、黄色いFDは加速をしていく。

 そんなFDを後ろから追うアルトの車内では、俊樹もまたアクセルペダルを全開にしていく。

 

「さて……赤城でもトップレベルと言われる高橋兄弟の走りを見せてもらいますよ」

 

 3速へとシフトアップしながら、俊樹はニヤリとした笑みを口元に浮かべる。

 

 

・バトル車両・

 

MAZDA FD3S ɛ̃fini RX-7(高橋 啓介)-V.S- SUZUKI HA23V ALTO-VAN(神原 俊樹)

 

バトルコース「秋名山・下り・夜・晴れ」

バトルBGM「SAVE ME(頭文字D Special Stage参照)」

 

 

 2台の目の前に現れるのは大きく左に曲がるコーナー。

 まずはFDが先行してコーナーへ進入していくが、車のセッティングを行ったばかりと言うのもあるのか、様子見と言った感じのコーナリングを行う。

 それに対しアルトはタックインを使用し、セオリー通りともいえるアウト・イン・アウトのライン取りで素早くコーナーを駆け抜ける。

 

「なるほど……少しは走れる様だな」

 

 余裕綽々といった表情で、後ろをついてくる俊樹のアルトにそういった評価を付ける啓介。

 そもそもこちらは車の調子を見るためのテスト走行であり、更に相手の車が軽自動車という事もあって、啓介本人は実戦形式でのセッティングチェックという程度の認識であるため、アクセルペダルも全開とは言わないレベルでの走行だ。

 

「さすがは国内トップレベルのスポーツカーのFD型RX-7、パワーが違い過ぎるなぁ」

 

 俊樹も啓介が本気で走っているとは思っていないが、それでも車のエンジンパワーの差が大きく異なるのでアルトはほぼ全開走行に近い形だ。

 もしFDがアクセルを全開にして走っていれば、すでにアルトは遥か彼方へ置いて行かれていることだろう。

 

(まぁ相手も本気では走ってないだろうし、途中でパフォーマンス走行している他の車に追いつければ……)

 

 そんなことを思いながら車を走らせていると、次は右に曲がるヘアピンコーナーへ差しかかる。

 FDはブレーキランプを点灯させると同時にテールスライドを引き起こし、ドリフト状態でヘアピンコーナーへ駆けて行く。

 

「おおっ! 流石は高橋兄弟だぜ、完璧なブレーキングドリフトだ!」

 

 ヘアピンコーナーでギャラリーをしている人混みから歓声が沸き起こる。

 フルカウンターステアでドリフトするFDの姿からは、啓介がギャラリーにも意識を払って走っていることが良く分かった。

 その後をアルトが通過していくが、その姿にギャラリーたちは困惑した表情を見せる。

 

「あれ? タイムアタックってもう始まってるのか?」

「いや、まだ10時になってねぇから違うと思うぜ」

「だとしたらあのアルトは何なんだ。もしかしてアレがスピードスターズの代表か?」

「そんなワケねぇだろ、高橋啓介のFDのバトル相手が軽自動車ってのは無い話だぜ」

 

 ギャラリーたちは思い思いの考えを話しながら、コーナーを立ち上がって行くアルトの姿を目で追うのであった。

 

 

「えぇ!? 俊樹が高橋啓介を追って行ったぁ!?」

 

 頂上でイツキが驚いた声を上げると、スピードスターズの面々がざわつき始めた。

 

「おいおい……それ大丈夫なのかよ、池谷」

 

 健二も心配そうな顔で池谷に尋ねる。

 

「流石に無茶な事はしないと思うけどな……」

「いや充分に無茶だろ、高橋啓介の後を追うなんてさぁ……」

 

 池谷の返答に全うな反応を示す健二。

 レッドサンズの面々も少々ざわつきを見せている様子だが、スピードスターズよりは反応が小さく見えた。

 

「おい涼介。さっき啓介の後を追って行ったアルト、どう思う?」

「別にかまう事は無いさ。ただのテスト走行だし、啓介なら問題ないだろう」

 

 先ほどまでスピードスターズとやり取りをしていたレッドサンズのメンバーの問いかけに、涼介は落ち着いた声でそう答える。

 

「それに啓介のテンションを上げるには丁度良いだろう」

 

 自信を打ち負かしたハチロクが来ていないことでテンションが低めだった啓介の事を思うと、ここで少し刺激を入れてやる方が良いだろうと涼介は判断した。

 

 

 幾つかのコーナー群を駆け抜けていったFDとアルトだが、啓介がアクセルを全開にしていないためか、2台の距離は意外にも離れていない。

 

「……そろそろかな?」

 

 少し長めのストレートをアクセル全開で駆け抜けながら、俊樹がコースの先に目をやるとチラホラとテールランプの赤い光が見えてくる。

 間違いなくパフォーマンス走行を行っているレッドサンズのメンバーだろう。

 

(追いついちまったか)

 

 啓介は目の前で走行しているレッドサンズのメンバー車両である白いシルビアに数回パッシングを行い、こちらが先に行くと言う意思表示を見せると、前を走るシルビアはハザードを出して少し減速しながらFDに進路を譲る。

 FDがシルビアの横を駆け抜けていくと、アルトもそれに続いてシルビアを一気に追い抜き去っていく。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 そんな2台に抜かれたシルビアのドライバーは思わず驚いた声を上げてしまう。

 啓介の操る黄色いFDに追い抜かれるのはともかく、その後ろを走っているアルトの存在は全くの予想外だった。

 そのままシルビアを追い抜いて行った2台は、右コーナーの奥へと姿を消していく。

 

「ど、どうなってんだ……?」

 

 シルビアのドライバーは動揺を隠せないまま、走り去って行く2台を見送る事しか出来なかった。

 

(他のレッドサンズの車と絡み始めたからか、明らかにFDのペースが悪くなってきたな)

 

 パフォーマンス走行をしている車は何台か連なって走っているので、前を走るFDはそれらをパスするのにタイミングを計る必要がある。

 それに対し後ろから追いかけるアルトは、FDがこじ開けた進路を進むだけで良いのでタイムロスが無い。

 気が付けば、FDの背後にアルトがぴったりとくっつく形になっており、次にそんな2台の前に現れるのは右に曲がる中速コーナーだ。

 セオリー通りにアウト側のラインからコーナーへ進入しようと、ブレーキングを開始するFD。

 

(ちょっと仕掛けてみるか……!)

 

 俊樹はFDの動きを見て、空いていたイン側にアルトの車体を放り込む。

 一気にブレーキペダルを踏み込み、ヒール&トゥで素早くシフトダウン。FDよりも遅れたブレーキポイントであったが、軽い車体を活かして難なく減速に成功する。

 

「ッ!」

 

 このアルトの動きに驚いたのは啓介だ。FDの懐に潜り込んできたアルトの車体のせいで、ステアリングを深く切り込むことが出来ない。

 コーナリングラインの制約により、思っていたコーナリング速度が出せないFD。コーナー立ち上がりで2台は完全に横並びになるが、アルトの方が少し速度が乗っているのか若干ではあるがアルトの鼻先がFDよりも前に出る。

 

(こいつ!)

 

 先ほどまではお遊び程度と捉えて走っていた啓介だったが、ここで初めてアクセルペダルを全開で踏み込む。

 350馬力を発生させるパワフルなエンジンでFDは一気に加速し、FDの車体が半分ほどアルトより前に出るが、すぐそこには低速の右ヘアピンコーナーが迫っていた。

 横並びのブレーキング勝負となった2台だが、やはり軽量なアルトがブレーキング勝負では競り勝ち、コーナーへ進入していく際にはアルトの車体が完全にFDの前へと出る。

 

「高橋啓介が抜かれた!?」

「マジかよ!?」

 

 ヘアピンコーナーで見物していたギャラリーたちが騒然とする。そこに居た全員が、予想だにしない出来事だった。

 そんなギャラリーたちを横目に、コーナー進入でFDの前に出たアルトは悠々とコーナーを駆けて行き、続く左ヘアピンコーナーにそのまま突っ込んでいく。

 しかしアルトの数倍のエンジンパワーを持つFDも黙ってはいない。コーナー立ち上がりの速度は絶対的にFDの方が上であり、さっきのお返しと言わんばかりにアウト側ラインに寄って行くアルトの横に潜り込もうとする。

 

(チッ……届かねぇか!)

 

 FDのブレーキングよりも更に奥のポイントでブレーキランプを光らせるアルト。

 前に出て進路を阻む物が無くなったアルトは、一気にステアリングを切り込んでイン側のクリッピングポイントを通過して行く。

 

「だがこの先は長いストレート。軽く捻ってやるぜ!」

 

 ヘアピンコーナーを抜けると、秋名山のコースの中では最長のストレート区間が現れる。

 パワーの差を活かしてFDがアルトに襲い掛かるが、ここで啓介の目に嫌なものが飛び込んできた。

 

(先に走ってた連中が……!)

 

 パフォーマンス走行をしているレッドサンズのメンバーである数台の車が、ある程度の間隔を開けてストレートを走行している。

 速度もそれほど乗っておらず、アルトが対向車線側から追い抜きをしていくとそれだけでFDの行き場が失われてしまう。

 啓介はパッシングで先行車両に退けと言う指示を与えるが、横からアルトが追い抜きをしてくる状況では先行車両も避けることが出来ない。

 結果的にアルトの後ろを走る事を余儀なくされたFDは、自慢のエンジンパワーを発揮することが出来ずにストレートを駆け抜ける。

 

「クソッタレ!」

 

 FDがパフォーマンス走行をしていた車を全て抜き去った頃には、既に目前には左に曲がる高速コーナーが待ち構えていた。

 しかもこのコーナーは曲がっている途中でコーナーの曲率が変わる、いわゆる複合コーナーである。

 アウト側からコーナー進入をする走行ラインを取っているアルトの存在がある限り、FDはこのままイン側から入っても途中で減速を要求されるのは明白であり、アルトの後ろに続いてコーナーへと進入せざるを得なかった。

 

「……この辺が限界かな?」

 

 先にコーナーへ進入していくアルトの車内で、俊樹がそんなことを呟く。

 この左に曲がる複合コーナーでは、FF車であるアルトは途中でアンダーステアを消し去るためのアクセルオフのタックインが必須となる。

 そしてここからは比較的スピードが乗る高速区間であり、FDとのパワー差は如何ともしがたい。

 

(まぁ本当はさっきのストレートで終わるはずだったしなぁ)

 

 先ほどのスケートリンク前の長いストレートでFDに抜かれなかったのは、たまたまパフォーマンス走行をしている車が居たからである。

 ストレートに差しかかったタイミングが良かっただけで、本来であればそこで既にFDの姿は見えなくなっているはずだったのだ。

 それを裏付けるかのように、アルトがコーナー途中でアクセルを戻してイン側に入って行くと、FDはアウト側ラインのまま横に並びかけて来る。

 次はこの速度域ではブレーキングが不要な高速コーナーであり、コーナー進入時にイン側のラインを取れているFDが絶対的に有利だ。

 複合コーナーの立ち上がりで横に並んでくるFDは、そのままの勢いで高速コーナーへ進入していく。

 

「楽しかったですよ」

 

 FDがアルトを追い抜いていく際に、俊樹はそんなことを呟くのであった――。




新年あけましておめでとうございます。
今回の投稿でストック完全になくなりました。
飽きるまでは投稿するんで、気長にお待ちください。
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