いつまで続けられるかな?
「ん?」
秋名山の山頂で秋名スピードスターズの面々が和気藹々と話していると、池谷が山頂へと近づいてくる数台の車のヘッドライトに気付いた。
ゆっくりとやってきた車列は、そのまま反対側のスペースへと入って行く。
「見かけねぇヤツらだな」
「どっか余所のチームだろ、なんかヤな感じだぜ」
秋名の走り屋は殆ど知っている池谷だったが、今やって来た車たちを見かけるのは初めてだった。
しかし、その車たち全てに貼られているとある赤文字のステッカーを見て、その顔は驚きの表情になる。
(あのステッカー……まさか!?)
山頂にやって来た車たちは停車すると、ゾロゾロと中からドライバーが降りてくる。
その内の2台――黄色いFD3S型RX-7から出てきた金髪の男性が、その後ろに停車する白いFC3S型RX-7から出てきた黒髪の男性とアイコンタクトを行うと、池谷たちスピードスターズのメンバーに向かって声をかけてきた。
「俺たちは赤城山から来た、赤城レッドサンズってチームのメンバーなんだが」
レッドサンズのメンバーであるFD乗りの男がそう言うと、スピードスターズの面々はざわつき始める。
(やはり……赤城最速といわれるレッドサンズか!)
走り屋の界隈では有名なチームのお出ましに、池谷は警戒心を抱く。
「不躾な質問で悪いが、この秋名山で最速のチームか走り屋が居たら俺たちに教えてくれないか?」
「俺たちは秋名スピードスターズってチームやってるけど、この秋名山では最速だと思ってるよ」
挑発とも取れるFD乗りの男の言葉に、秋名最速を宣言しているチームのリーダーとして、池谷は毅然とした態度で対応する。
「なるほど、それなら話は早い。この峠で俺たち赤城レッドサンズとの交流会をやらないか?」
「交流会……?」
池谷をはじめスピードスターズのメンバーが困惑の表情を見せると、後ろから別の男性が現れFD乗りの男の会話を引き継ぐ。
「ああ。お互いさ、走るのが好きでこうやってチームとして活動してると思うんだけど、地元の人間だけで走ってると段々とマンネリになってくるだろ。たまには余所のチームと走って刺激を入れた方が、走りのレベルアップにつながると思うんだ。仲間が増えれば情報の交換も出来るしね」
先程まで話していたFD乗りと違い、ゆったりとした口調で言葉を紡ぐ男。
「はじめはチーム関係なくつるんで走って、最後に各チームから上りと下りの代表を出してタイムアタックをする。別に勝ち負けにこだわるつもりは無くて、あくまでもチーム同士の親睦が目的なんだけど……どうかな?」
「そう言われちゃあ断る理由も無いけど……」
「じゃあ、来週の土曜日22時スタートってことで決まりだな。俺たち、今日の所はじっくり練習させてもらうよ、もちろん走りのマナーもはきっちり守るさ」
男がそう言い終えると、レッドサンズのメンバーは各々の車に乗り込みその場でUターンして次々と走り去って行く。
「すげえ! いきなりナイスな展開だぜ!」
先ほどまでのレッドサンズのメンバーと池谷の話を聞いていたイツキはテンションが上がっているのか、隣でボケッとしていた拓海の体を揺らす。
「どうも引っかかるな……表向きは体裁のいいこと言ってるけど、要するに挑戦じゃねぇか。自分らの速さを見せつけに来てやがる!」
続々と秋名の山を下り始めるレッドサンズのメンバーの車を見つめながら、池谷は少し怒気を含ませた言葉を発する。
「気後れすることねーぜ、俺達も出ようぜ!」
「ああ、赤城最速のチームの実力がどんなモンか見てやろうじゃねぇか!」
「秋名の山なら走り込んでる俺たちの方が上だろうが! ヤツらのケツをつついてやれ!」
スピードスターズのメンバーたちも、各自の愛車に乗り込んでレッドサンズの後ろを追って山頂を後にしていく。
「い、池谷先輩! あの人たちって……」
「赤城最速の走り屋、高橋兄弟が率いるレッドサンズさ」
イツキの質問に、愛車であるシルビアに乗り込みながら答える池谷。
「新旧2台のRX-7が居たの見たか? あいつら超有名な走り屋で、雑誌にも何度も載ったことがあるんだ」
「それってまさか、ロータリーの高橋兄弟ですか!?」
「ああ。実物を見るのは俺も今日が初めてだ!」
池谷は4点式シートベルトをギュッと締めると、ギアを1速に入れる。
「池谷先輩、俺たちも連れてってください!」
「悪いな、本気で走るときは誰も乗せない事にしてるんだ。ここで待ってろ、あとで拾いに来てやるから!」
イツキにそう言うと、池谷はアクセルを踏み込みシルビアを発進させ、勢いよく2人の元から走り去って行った。
「ああぁぁぁ……悲し過ぎるぜぇ……」
スピードスターズとレッドサンズの車が全て走り去って行くのを、ただその場で見ている事しか出来ないイツキは頭を抱えた。
「なんでこんな良い時に俺たちだけ車が無いんだよぉ!」
走り屋の世界を体験するには、正に神がかりとも言えるタイミングであるが故に、イツキは心底悔しそうに叫ぶ。
「なぁイツキ……そんなに走り屋ってのは楽しいのかな?」
「えぇ……?」
今にも地団太を踏みそうに悔しそうにするイツキの姿を見ながら、拓海は冷めた口調で疑問をぶつける。
「なんで皆あそこまで熱くなれるのかな……不思議だよなぁ……」
「不思議なのは俺の方だぜ……ホントに何も感じねぇのかよ拓海。次から次へとかっ飛んでいく全開のエンジン音を聞いて、お前は血が騒がねぇのかよ!?」
「血が……騒ぐ……?」
ハイテンションで熱く語るイツキの姿に、拓海は理解できないといった困惑した表情で小さく呟いていたその頃、秋名山を走るスピードスターズの面々は、よそ者であるはずのレッドサンズの後塵を浴びることになっていた。
「よそ者が舐めやがって……!」
スピードスターズのチーム内で実力No.2を自称する、白いRPS13型180SX乗りの
コーナー入口でブレーキングを開始してコーナリングを始める180SXだったが、あっさりと後ろから走ってきたレッドサンズの車に追い抜かれてしまう。
それでも諦めずにアクセルを踏み込んでいく健二だったが、次のコーナーを曲がるころにはレッドサンズの車は見えなくなっていた。
「くそっ! 全然ついて行けねぇじゃんかよ……!」
レッドサンズは地元であるスピードスターズの面々をあざ笑うかのように、健二以外のメンバーの車も同じくバックミラーの彼方へと置き去りにしていく。
(速い……! めいっぱい走ってるのにレッドサンズは1台も捉えられない!)
少し遅れて走り始めた池谷も全力で秋名を攻めるものの、他のスピードスターズのメンバー同様、一向にレッドサンズの車に追いつくことが出来ずにいた。
そんなスピードスターズの様子を、一足先に走り始めた高橋兄弟はコース途中にある展望台から眺めていた。
「どう思うアニキ?」
黄色いFD型RX-7の運転席側のドアにもたれ掛かりながら、高橋兄弟の弟――
「カスぞろいだ、うちのチームの2軍でも楽に勝てる。交流会はベストメンバーで来ることはない、俺はパスだ」
「だと思ったぜ。アニキが来ないなら、俺もパスすっかな」
「いや、お前は走れ。地元の連中が何年かかっても塗りかえれないコースレコードを作るんだ、そうじゃないと赤城レッドサンズの名前が伝説にならないからな」
鋭い視線で秋名山のコースを見つめ、涼介は腕組みをした状態のまま言葉を続ける。
「まずは県内のコースレコードを全て俺達で塗り替え、いずれは関東全域を総ナメにし各峠に最速のレコードを残す伝説の走り屋となってから引退する……。それが赤城レッドサンズの関東最速プロジェクトだ!」
涼介がそう宣言しFCに乗り込むと同じく啓介もFDへと乗り込み、2台のRX-7は展望台を後にして走り去っていく。
そしてその頃、秋名山を登ってくる1台の車の姿があった。
「この時間なら皆まだ居そうだな……」
ダッシュボードに後付設置されたデジタル時計の表示を見て、ドライバーである俊樹がそう呟く。
「これで拓海にドヤされなくて済むな」
彼はバイト仲間であり友人でもある拓海の顔を想像しながら苦笑していると、カーブの先からかなり速い勢いでこちらへ近付いてくるヘッドライトと思われる光源を確認した。
「あれは先輩たちか? エラく飛ばしてるな―――……うおっ!?」
そんな対向車のヘッドライトの光が見えたかと思うと、それは凄まじい速度で後ろの方へと駆け抜けていく。
思わず驚いた声を出す俊樹だったが、その後すぐにもう1台の車とすれ違うことになった。
「またかよ……!」
先ほどすれ違った白い車とほぼ同じくらいの速度で走る黄色い車の姿を、俊樹はバックミラー越しに確認する。
そして勢いよくすれ違った2台から、かなり間隔を開けて何台かの車が連なって走ってくるのが見える。
その車列の最後尾に池谷のシルビアの姿を確認するが、全車とも先ほどすれ違った2台の車よりも速度が遅いことは俊樹の目から見ても明白だった。
「……いったい何が起きてんだ?」
車内でそう呟く俊樹は、とりあえず山頂に行けば分かるだろうと思いながら車を走らせ続ける。
暫く車を走らせて秋名山の頂上へ着いた俊樹は、ガードレールに寄り添って立っている拓海とイツキの姿を見つけて、2人のすぐそばに車を止めた。
2人は自分たちの近くに止まった車を訝しげに見ていたが、ドライバーが俊樹だと分かると驚いた声を出した。
「よう、お前ら何してんだ?」
てっきり2人が池谷たち、秋名スピードスターズの車に乗って走り屋体験をしていると思っていた俊樹は、至極当然の疑問をぶつける。
「実はちょっと前に赤城レッドサンズのメンバーがやって来て、秋名スピードスターズに挑戦してきたんだよ。それでみんな走りに行っちゃってさ」
テンション高めに答えるイツキに、なるほどと納得する俊樹。
「だからさっき池谷先輩とすれ違ったのか……しかし、赤城レッドサンズねぇ」
猛スピードですれ違った2台の姿を思い出す俊樹。
彼も赤城レッドサンズという名前くらいは聞いたことがあり、昔見た雑誌にハイレベルな走り屋集団として特集されていたのを思い出した。
「それにしてもお前――、この車は何なんだよ!」
イツキが指差す先には、彼が乗ってきた車の姿。
拓海も少し気になるのか、俊樹と車を交互に見て不思議そうな顔をしている。
「何って……オレの車だけど?」
「マジかよ! お前、高校生なのに自分の車持ってるのか!? なんで教えてくれなかったんだよ、水臭いじゃねーか!」
「いや別に隠してるつもりは無くて……納車はもうちょい先の予定だったんだよ」
興奮気味のイツキの質問に、俊樹は少し気圧されながら答える。
「知り合いの整備工場に少し前からお願いしてたんだけど、割と早めに車検をクリアしたらしくてさ。今日たまたま工場に車を回送した行ったら、乗って帰れるぞって言われてな」
特に隠すことも無いので経緯も含めて全てを話す俊樹に、イツキは羨ましそうな視線を送っている。
「なぁ俊樹、この車はなんて言うヤツなんだ?」
拓海も友人の車という事で少なからず興味はあるのか、車の周りをぐるりと一回りしてから俊樹に質問をぶつける。
「アルトだよ」
俊樹は自身の愛車――白色のスズキHA23V型アルトバンの横で、口元に笑みを浮かべながらそう答えた。
ようやく俊樹君の愛車登場。
やはり峠と言えばアルトベェンですよね(鼻ホジ)