青春エピローグと黄昏ティーチャー。   作:禁止薬物

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第一章:後悔と黄昏ティーチャーの帰還
EP:太陽エピローグ


 これは、オレが教師としてだとか年上としてだとかいう意地をどっかの太陽サマと、そして今まで散々に泣かしてきた生徒(おんな)たちに全ての間違いを指摘された後のこと。

 ──背中を押されたオレは音羽結良にその想いを告げた。カッコのつかねぇカッコつけた言葉に、結良は笑ってくれた。そんなハッピーエンドという蛇の足がバカみたいに伸びた、いわば惚気話であり同時に、黄昏ティーチャーとしてやり残した最後の仕事を済ませて、愛するただ一人の約束を守るまでの、くだらねぇ日記みてぇなもんだ。とりあえず告白して、約束通り夢の国に連れていくための計画を立てているところだった。日帰りにするか、泊まるならホテルは。色々考えてため息を吐くと電話が鳴り、ほぼノータイムで出る。

 

「もしもし」

『こんにちは先生! お困りごとかしら!』

「お前が電話してきたんだろうが」

『でも、困っているでしょう?』

 

 なんだコイツ、ストーカーは眠そう顔の灰髪美少女で間に合ってんだよ。いや困ってるけどな、めちゃくちゃ困ってるしなんか相談したらホイっと解決してくれそうなヤツから電話来たなぁとか思ってたけどな? 

 とはいえ、弦巻こころがこういう物言いをしたならば逃げられるわけもなく、オレは洗いざらいをしゃべっていく。

 

『なら手配するわね!』

「……悪いな」

『一成の幸せのためだもの』

 

 こころの言葉に、オレは胸を痛めた。コイツに煽られるまま結良とくっついといてアレだが、こころはおそらくあのドリームキャッチャーとやらでオレにただの男としての幸せを見せたことで未練を昇華し笑顔にしようと考えて、んで失敗したんだろう。冷静に考えて、あの世界は甘すぎる。きっと可能なら今頃アイツらはこころにタイムマシンの設計を急がせてんじゃねぇのかってくらいにな。

 

「だから報酬はそれの尻拭いでいいか?」

『ごめんなさい、想定外に先生が幸せにしすぎてしまったから』

「お、責任転嫁か?」

『一成がわがまますぎるからいけないのよ?』

 

 カウンター食らった。まったくその通りなんだけどな。オレがカッコつけて教師として過ごすためにはアイツらと一緒にはいられねぇなんてバカなこと考えたのが悪かった。

 尻拭いっててめぇのケツはてめぇでってよく言うが、今回もその例えに漏れることなく、オレが原因なんだよな。

 

「結局、黄昏ティーチャーの出勤は続くわけだ」

『頑張って、あたしはそんな一成が……好きよ』

「知ってる」

 

 そのためのバックアップは惜しまない、とは言ってくれたこころだがオレとしてはその後ろ盾を笑顔にしてやりてぇんだよな。

 ──そうなると、結論急ぎすぎたかな。けどオレとしては結良を待たせるのも、待つのも嫌だったんだ。わがままだけど、そのわがままを通さねぇと、オレは変われねぇからな。

 ベランダに向かい、タバコの火を点ける。冷える空気は、オレの悩みをどこかに凍らせておいてくれるらしく、ゆっくりと息を吐く頃には、迷いは消えていた。

 

「こころ、今から会えねぇか?」

『あたしは』

()()()()()()()()()……それじゃダメか?」

『ずるい言い方だわ』

「クズなもんでな」

 

 ほしいもんがあるなら両方取る。それがオレだったはずだ。教師として悲しませてきた生徒に最後のケジメをつけることも、清瀬一成個人として幸せにできたはずの女に平手打ちされることも、どっちも取る。クズ教師だから、オレは由美子の生徒だから。

 しばらく沈黙が続き、やがてこころはこっちに向かってくれるらしい。別にオレとしては待ち合わせでもよかったんだが、ほらオレんちのベッド狭いし。

 

『結良に言いつければいいのね!』

「冗談だよ」

『本気にしたわ』

「冗談だろ」

 

 返事はなく、ふふっと笑ったところでそれじゃあすぐ行くわと電話が切れた。あれ、もしかしてオレやらかしたか。いやでもこの現実のこころはまだそういう経験もねぇはずで、でも確かにあいつにはあの記憶もあるんだよな。

 何が厄介って、いつもの五人は手出しちまってるし、本気で愛したいと思ったくれぇのヤツらなんだけど、こころとリサはな。手も出してないのにああなったんだから。

 

「まぁくつろいでくれ」

「……狭いわね」

「だから言ったろ」

「あなたと過ごした場所は、いつも広いリビングだったから」

 

 お茶を淹れながら曖昧に返事をする。その気になれば本当に紹介できるわよと追加で言われてしまえば、お願いするとしか言えねぇ。

 何がってとりあえずは広いベッドほしい。なるべくふかふかのやつだな、それが置けるような寝室も。

 そうなるとやっぱ他のヤツらと過ごしたあの部屋に引っ越すのが早いのかもな。思案していると手配するわねと微笑まれてしまった。

 

「悪い」

「ありがとう、の方が嬉しいわ!」

「だな、ありがとな」

 

 こころの笑みには世界を笑顔にしたいだとかいう理想とはまた違った種類のものでオレは思わず苦い顔をしてしまった。こんなに愛されてるのを必死に否定しようとしてたんだな。なんつうか、バカすぎるんだよな。

 なんせ八通りだ、一つはまずオレが選ぶわけねぇとしても七通りの幸せがあった。それを見てみぬ振りをし続けた結果、オレは流す必要のねぇ涙を流させちまってた。しかも、結良を選んだだけじゃ、あいつらは救われない。真の意味で未練を解消して笑顔にはなれねぇ。

 

「やっぱ夢に頼るのがよくなかっただろうな」

「そうなのかしら」

「なんせオレだって後悔してるからな」

 

 ちゃんと覚悟を持ってれば、なんならお前らまとめて全員幸せにしてやれたのかもしれねぇって思うと、間違えちまったなぁなんて考えるよ。選べねぇからって、全員を選ばないなんてカッコつけてさ。

 ──そんな愚痴大会が開催され、こころはオレの腕の中でじっとそれを聞き続けてくれた。おかげで少し頭の整理ができたよ。

 

「とりあえず、結良との約束を守るよ」

「ええ、それがいいわ!」

 

 こころの表情もちょい明るさというか、オレの知ってる弦巻こころに戻った気がした。またたくさん頼り切りになるけどよろしくな、そんな風に玄関前まで行った去り際のこころに声を掛けるとするりと、まるで最初からそうするつもりだったかのようにオレとの距離をゼロにしてきた。

 

「お礼は……ちゃんともらっていくわね」

「お前な」

「一成が幸せになれなさそうだったら、いつでも迎えに来てあげるわね!」

「結良がいるから、それには及ばねぇよ」

「そうね、それじゃあ……頑張ってね、()()

 

 あーあ、あいつとキスはしたことなかったんだけどな。いやキスしたがりなのは知ってる。こころはめちゃくちゃ甘えん坊で、朝は五分くらいオレに抱きついて幸せそうな笑みを浮かべるようなヤツだからな。

 ──それもまた、オレやアイツらの後悔の源なんだろう。この世界じゃありえなかった一緒に過ごしている日常を体験して、覚えているからこその。

 

「もう一本、吸うか」

 

 明日の放課後は天文部だな。結良と旅行計画についてと……今日のあらまししゃべっとかねぇとな。隠すとよくねぇことが起こりそうなことくれぇ嫌でもわかる。今まで隠してきてロクな目に遭ったことねぇからな。

 

「ヒナちゃん先輩、殴っていいよ」

「おっけー!」

「殴るだけでいーの〜?」

「いやもうマジで、すいませんでし──ってぇ!」

 

 マジで殴られた、グーで。頬がジンジンするのが今まで記憶にねぇ痛みだなと思いながらオレは誠心誠意の謝罪を見せていた。

 何がヤバいってよりにもよって結良とこっちでも縁を結びたくてやってきたモカと、暇だからとかいう素晴らしく雑な理由で天文部にやってきたヒナがいたことだった。

 

「ゆーらちゃんと付き合ったんだよね、カズくん?」

「おう」

「ゆーたんかわいそ〜、よしよし〜、せんせーは死ねば?」

「反省してね」

「してます」

 

 元メンヘラクソ悪魔と元ヤンデレストーカーに挟まれる非常事態だった。助けてこころ、マジで見返りはなんでもいいからなんとかしてくれ。だがそこで、ハイハイと二人の悪魔の視線を逸した人物がいた。

 ──今井リサ、ヒナについてきたここの卒業生はグーはやめときなよ、と呆れながらオレの頬に触れてくる。

 

「あ、ごめん痛い?」

「そりゃあな」

「う……ごめん、カズくん」

「そ、そうだよヒナちゃん先輩……せめてパーにしとかないと」

「リサさ〜ん、でもその人〜、こころんと浮気したんですよ〜?」

「それでもダメ!」

 

 リサの介入で落ち着いたのか、結良が冷感シートを持ってきてくれる。何度もごめんなさいと泣きそうになるなら、あの暴走機関車に殴っていいって言うなよな。とは言え、結良の気持ち的にはそれこそグーで殴っても足りないくらいだろう。やっぱり付き合うのナシでって言われても頷く覚悟をしてるよ。

 

「……でも、別れるのは嫌だよ」

「確実に浮気するけどな、この状態じゃ」

「アタシ、この状況で言い切るのはよくないと思うな〜」

「まぁカズくんだし」

「せんせーは、相変わらずせんせーだね」

 

 というか、元々浮気をしちまうかもしれねぇから、それで信じられなくなるなら距離を置くのもアリだと言うつもりもあるんだよ。あの時はこころやコイツらに背中を押されて、それ以上にもう二度と後回しにして悔やむのは嫌だからと告白を焦っちまったけど、正直なところオレはまだ全然、結良との明日を歩むための準備ができてねぇんだ。

 

「……カズくん」

「だから、悪い。オレをもう少しだけ、クズ教師のままいさせてくれ」

「ダメ」

「結良」

「わたし、離れたくない。恋人のままでいたいよ! せっかく、カズくんのこと好きって言えたのに」

 

 絞り出すような、必死な言葉にオレの決意はあっという間にぐらりと揺れてしまう。ああ、そうだよなオレも同じ気持ちだ。離れたくねぇし、今まで遠回りしてたぶん、待つのも待たせるのも嫌なんだ。

 結良が好きだ、我ながら恥ずかしいとは思うがこんなに年の離れた彼女を幸せにしてぇって気持ちで頭がいっぱいなんだよ。

 

「落ち着いてよ、せんせー」

「……モカ」

「ゆーたんもさ」

「え、う……うん」

 

 そんな盛り上がった気持ちに冷水を浴びせてきたのが、オレと結良の考えを的確に読み取ったモカだった。

 リサとヒナが驚きに口を開けるのも無理はねぇ。なんせ、モカはいつもの鬱陶しいくらいに間延びした口調も睡魔を撒き散らしているような雰囲気も出してねぇ。目の前にいたのはオレがよく見ていたヤンデレ悪魔の正体だったんだから。

 

「も、モカ?」

「あ、そうだっけ……あたしってケッコー秘密主義てきな〜?」

「そうだな、前に紗夜と天文部来た時に当てられて不機嫌になってたろ」

「だったね〜」

 

 けどオレはそんなモカの隠し事に救われた時もあった。口車に乗せられたこともあった。オレは結局モカのことなんて理解しきることはできなかった。もしかしたらまたなんか企んでるんじゃねぇのって思う部分もある。そんな秘密主義のストーカーは結良に向けてごめんねと声を掛ける。

 

「あたしも、日菜さんもみんな……リサさんも含めて()()、目を逸して逃げてきたから」

「うん、逃げたツケって言えばいいのカナ〜? アタシも、気づかない振りばっかりしてきたよ」

「だね、あたしも……カズくんの愛を疑ったから」

 

 結良が苦しそうな顔をする。見てきちまったんだもんな、お前は。知ってる先輩が、知らなかった先輩たちが、どんな未練を抱えてて悲しんで、もしもオレがきちんと向き合えてたらどんだけ幸せになれたのか。どんだけ、ちゃんと愛を伝えていられたのか。

 だからきっと結良の中にはそんな先輩たちときちんと向き合ってほしいとオレに願う気持ちと、そうだとしても今は自分がオレの恋人なんだからという気持ちの二つを矛盾したように抱え込んでる。

 ここで前のオレならすかさず妥協案を出して絆して、って考えることだがそれはクズ教師としての大人の汚さであって、真に愛してると誓った相手に言うことじゃねぇからな。オレがなんにも言わねぇでいると、結良はふっと顔を葛藤しているようなものからいつもの表情に戻した。

 

「一年」

「は?」

「わたしが卒業するまでに全部、終わらせて」

「……おう」

「その期間なら一度の浮気だけなら許す、一人一回だからね」

「結良……それでいいの?」

 

 リサが困惑したような顔で訊ねるが結良はだって、そうするしか思いつかないんだもんと笑った。モカはもうなんか泣きそうな顔で結良の手を握って、ヒナはヒナでそうなっちゃうよねと笑っていた。

 ──まさしくオレが出そうとしていた妥協案そのままで、かくいうオレもめちゃくちゃ困惑してる。そうするしかねぇって思わせてるのがマジでオレとしては納得いってねぇけどな。

 

「あ、デートはするし普段はわたしの恋人としてじゃないとヤキモチ妬くから」

「わかった」

「ゆーらちゃん、ごめんね」

「ほんと、終わったらせんぱいぜーいんで土下座ですな〜」

「そこまでしなくていいよ、先輩たちがホントのホントに未練も後悔も全部、託してくれないと……わたしもカズくんも幸せになんてなれないもん」

 

 未練があって当然、後悔があって当然、でもそれに折り合いをつけて結良にバトンを繋いでほしい。結良は瞳の奥に星を輝かせながら三人に向かってそう言った。

 んで、デートはするってことはこの流れで夢の国でデートすんの? え、来年じゃダメなのか? 

 

「来年も」

「ごーよくだ〜」

「あはは、ゆーらちゃんらしいね」

 

 三人はそれぞれ、その初デートが終わって年度が変わってからそれぞれのタイミングでということになった。まぁオレからはなるべく春はやめてくれ新学期のあれこれがあるからな。これ守秘義務違反になるんだが来年も結良のクラスの担任だからな。特に三年生は色々準備だの進路だので忙しいんだ。

 

「じゃあ、夏休みにってことで!」

「それまではわたしだけのカズくんだからね!」

「そんなに待ってくれんのか、ありがてぇな」

「じゃなくても会いに行くケド」

「お、案外ノリノリですな〜リサさんも〜」

「そりゃ、アタシは特に関わってこれなかったし」

 

 その内容をオレは紗夜や千聖、蘭そしてこころに伝えた。

 会話はいつだって受け付ける。暇なら天文部に来ればいいしその許可を出してやれるのはオレの特権だからな。事前申告はしろよ。

 返事は全員了承だった。こうして、オレは夏までの長い長い休暇を経て、最後の黄昏ティーチャーをやらされることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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