青春エピローグと黄昏ティーチャー。 作:禁止薬物
①波乱サマーと鈴蘭ビジット
夏期講習って言葉を訊くと腰が痛くなるのはまず間違いなくバカヒナのせいだ。ただヒナは現状芸能活動やらで忙しいから大丈夫だと思いたい。問題は結良のヤツ、性欲面では実のところヒナの悪魔の因子を受け継いでると言っても過言じゃねぇってことなんだよな。
しかも付き合えると思いきや最後のクズ教師と称してオレはかつての生徒を囲いまくってる。二人きりの時間が多い時にがっつくのも仕方ねぇところではあるんだよな。
「カズ先生、お疲れ!」
「お疲れ様です先生」
「結良と、恵理子……葵は?」
「バイトだって」
「そっか」
まぁ部活はテキトーにやっといてくれみてぇなところがある。結良が学校に来る口実でありアイツらが待てる場所を作ってやるのが大きな目的だからな。ただどうやら結良は天の川が観てぇって話らしく、八月の計画を立てていた。
あ、お盆は予定あるから引率できねぇってことだけは覚えといてくれ。
「先生、実家帰るんですか?」
「まぁ地元に帰るのはそうだけど、恩師に会いに行くからな」
「恩師ですか」
「あ、そっか」
結良が納得の声を上げるが、今年はお前もついてくつもりなんだろ? まぁこの場では言えねぇのはわかってるけどな。そんな話をしていると扉が叩かれ、リサと紗夜の声がする。オレが何かを言う前に結良が跳ねるように飛び出していき、二人を元気な声で出迎えていた。
「リサちー先輩、紗夜ちゃん先輩!」
「ゆーら、勢い強いから」
「こんにちは」
「うん、入って入って〜お茶淹れるからね、先生が」
「オレかよ」
気を遣ってくれた恵理子が立ち上がろうとするが、それを手で制する。結良がそれを察知してすかさず恵理子がRoseliaのファンだってことを紹介する。特に紗夜推し、というか紗夜のギターに惚れ込んでるらしく、真似するためにギター買おうか悩んでるレベルらしい。いやそれはオレも知らなかったな。そんなことを考えて準備室に置いてある元々はこころがコッチに来た時のための冷蔵庫からお茶を取り出して紙コップを取り出していると、手伝おっか? と声を掛けられた。
「手伝うような工程ねぇよ、麦茶だしな」
「だよねぇ」
「くっついたら暑いだろ」
「嫌だった?」
「嫌じゃねぇよ」
二人きりの隙を逃さず甘えに来たのはリサだった。背中にくっついてきて、まるで猫だなと髪の毛を撫でる。それを数分して満足したようで、さっきと同じように持つの手伝うよとお盆を使わずに紙コップを三つ、持っていった。オレが残りの二つを持ってその後を追うと、紗夜が若干苦笑いをしていた。
「随分と抽出に時間がかかるお茶なんですね?」
「そうなんだよ、おかげで暑い思いをさせられてな」
「いーじゃん、別に」
唇を尖らせたリサ相手に紗夜が肩を竦める。こういうやり取りができるくれぇにはリサは素直に甘えてくるようになったんだよな。まぁちゃんと二人きりの時を見計らうということくらいはできるが。普通できるだろと言いてぇところだがそれができねぇのがヒナだからなぁ。つかアイツ、まだちゃんとアイドルできてるが不思議なレベルなんだよな。
「確かに、アタシも流石にアイドルは辞めるかと思ってた」
「おかげで忙しいようだけれど」
「先生、会えなくて寂しいならイベントチケットいる?」
「……千聖ならまだしもヒナのアイドル対応が想像できねぇな」
「いつもと変わんないよ」
「アウトじゃねぇか」
オレが会いに来ただけでスキャンダル発生すんのバカだろ。ヒナらしいと言えばそうなのかもしれねぇけど、と思ったけどアイツはなんだかんだで、学生時代に色々と隠しきれてた……っけ。まぁ一応な、ちゃんと対面上は先生つけろって言葉には従ってくれてた部類だしな、なんとかなるかもしれん。
「日菜ちゃんってそういえば天文部だったんですよね」
「ん? ああ、そうだな」
「私、日菜ちゃんのギターもカッコいいなって思ってて、パスパレは日菜ちゃん推しなんです!」
「エリちゃんの好みがよくわかるね、それ」
「確かにね〜」
「顔以外は似てないと思いますが」
いーやお前ら割と似てるよ双子だもんやっぱ。そんな話題で盛り上がっているうちに最終下校時刻が迫ってきて、恵理子と結良とリサでそのまま葵に会いに行くことになったらしい。紗夜と二人きりか、それともあのレアキャラを捕まえれそうなチャンスか。ちょっと悩んだがアイツはオレがいると察知したら逃げるようで、奥沢も松原も苦い顔してたんだよな。じゃあやっぱり後回しだ。
「いいのですか?」
「お前だってバンドで忙しいからこそ、こんなに遅くなっちまったんだし」
「……それは、そうね」
まさか前は暇さえあれば追いかけてくるようなヤツだったのにこうやって捕まえなきゃならんくなったとはな。そう言うと紗夜は露骨にしゅんとしてしまう。ああ、そういや最近仕事が立て続けで前追っかけてたバンドマンにカノジョができちまったんだっけ? そう訊ねるとそうなんですと珍しく愚痴を吐き出してきた。
「同年代のヒトで、少し……いいなと思える方がいたの」
「おう」
「気づけば松原さんとお付き合いしていたんです……」
ああ、リサの幼馴染の確かなんだっけ、赤坂くんだっけ? そう言うとカンベさんという単語が出てきた。どうやらバンドネームらしく、アタックどころか恋愛に発展する前に玉砕したらしい。それにはタイミングとか色々ありすぎてなんとも言えねぇ、つかリサ、なんで紗夜にも松原にも紹介してるんだアイツ。
「いえ、どうやらそもそも可愛い系の方が好みだったらしいです」
「……さ、紗夜」
「追いかける恋は燃えますが、始まる前にフラれると、結構ショックなんですね」
「よし、リサにはオレから文句言ってやるしそのカンベとか言うヤツにも文句言ってやってもいい」
よくもウチのメンタル激弱わんこをいじめたなこの野郎。紗夜はなぁ、恋に関してはポンコツもいいとこだしすぐ自分からアタックできずに尻尾振って待っちゃうタイプだけどな、超絶美人だしかわいいとこだってあるし性欲は妹に負けず劣らずなんだよ。そこは関係ねぇな。とにかく、まぁ松原のカレシに怒りに行くことはしねぇけど、通報されたら困るし。でもそのショックを絆してやる。
「やっぱり、まだあなた以上の方は……いないのね」
「そうみてぇだな」
「今夜は、昔みたいに抱いていただけますか?」
「もちろん、昔より夢中にさせたら悪いな」
「ふふ、音羽さんに怒られてしまうわね」
紗夜の後悔は、強欲になりきれなかったことだろうな。もっとわがままでいたかったそれこそ妹のヒナみてぇに愛してほしいって小型犬のようにけたたましく、弱かろうがなんだろうがプライドをかなぐり捨てて吠えていれば、オレは振り向いたかもしれねぇってことなんだろうな。オレの言葉通り相手を見つけようと優等生で待っちまったことが、コイツの後悔だ。
「今は、火遊びでもいいから……あなたの身体に、明日なんてない愛に溺れさせて」
「言っただろ、とまり木にはなってやるって」
「……はい」
氷川紗夜が次に羽ばたくまでのとまり木、その役目を降りるのがちっと早すぎたんだ。今度はできるだけ待っててやる。傷ついちまったその羽が癒えるまで、オレがお前のことを愛してやるから。そんな甘くロマンチックな言葉を求めていたかのように、紗夜は微笑み、艶やかな顔でオレに迫ってきた。
紗夜ちゃん先輩は数日間カズくんに抱かれて、恋人みたいに過ごしていった。そりゃわたしは本物だもんカズくんにいっぱい、そりゃもうデロデロに愛してもらってるけど。少しだけ不満もある。
カズくん、すごく生き生きと先生やってるんだよね。元々クズ教師だったてゆーからさ、多少は元通りに昔のカズくんになっちゃうんだなぁくらいに思ってたんだけど。付き合って、わたしが独占してた時に感じた違和感を思い知らされた。
「──そうだよね、ハーレムの世界のカズセンセはあんな感じだったよね〜」
「うん、でもやっぱり違ったんだよ。わたしが独占してた二ヶ月と、今って」
「ゆーら……」
嫌だ、なんて思わない。だってむしろ独占してた時よりも感情がストレートになった。付き合いに慣れてきたってのもあるんだろうけど、めっちゃ好き好きゆってくるんだよ? 休みの日で予定ない時なんてむしろカズくんが離れてくれないくらいだし。ちょっとした二人きりの時間作って、わたしにちゅーしてくるんだもん。
「え、それって学校でってこと?」
「うん」
「わー、ガマンできてませーんってカンジだね〜?」
「授業中とエリちゃんアオちゃんがいる時だけ、それ以外はカズくんだもん」
カズ先生はカズ先生ですーぐ天文部員ばっかり指名してくるみたいだしわたしも三年間被害に遭ってますけど。おかげで二年の時は付き合ってる疑惑持たれてたからね! 付き合ったのその後だってば。確かにその時から、わたしが片想いしてたからそういう目で見られてもおかしくないんだけどさ!
「デレデレだね〜」
「それだけにさ、思っちゃうんだよね」
「ん、そっか……そうだよね」
またわたしだけになったら、カズくんは今とおんなじ顔するのかなって。もしかしたら、あの時のカズくんになっちゃうんじゃないかって不安がある。そりゃみんなの後悔がなくなったからハッピーエンドになって、わたしは約束通りウェディングドレスを着せてもらえるのかもしれない。でもさ、カズくんの後悔は? もしかしたらそれってまたおんなじことに、ううん今度はカズくんだけを置いてっちゃうんじゃないかって、そう考えると怖くなっちゃう。
「それは、アタシたちがぜったいに防ぐから」
「リサちー先輩」
「おんなじになりそうだったらみんなでぶってでも一成を笑わせちゃうよ。そうじゃなきゃ、一成がまたクズ教師になってもいいって許してくれたゆーらに申し訳ないもん」
「……ありがと」
そんなことを言いながら今日は仕事があるから先に帰ってろ、と言われていたわたしは一緒にご飯でも作ってあげようねと話し合い、ちょっとの間甘えに言ったリサちー先輩と後で合流しようと約束して校門を通り抜けたところだった。なんだかツリ目で雰囲気が怖めのおねーさんに話しかけられちゃった。
怖めなんだけど、すごくキレイなヒトだった。短い黒髪はサラッサラで風に靡いてて、夏用パーカーにダメージジーンズというライダーな格好をしてた。
「あの、キミ……!」
「はい? えーっと?」
「あたし、ここに通ってた
「麗奈さん……ん? レナさん?」
「
「……あー」
清瀬センセーとはつまりわたしのカレシのカズくんのことだよね? うん確定でいいでしょう。どのくらい上の先輩かはわかんないけど、かわいいかキレイかの二択の女性がその名前を口にしたら女誑し清瀬一成先生のことで確定していいと思ってる。そして、わたしのカズくんアーカイブの中に名前を発見したよ。レナってカズくんが呼んでた、カズくんの教師人生の失敗を語る上では結構な重要人物であり、通称生徒ゼロ号先輩だ。そんなヒトが、この夏に、ちょうどカズくんを訊ねてきたのだった。
新しい女が来た
・富士見麗奈
生徒ゼロ号、詳しいエピソードは「バッドエンド」を参照。
不良生徒であり、クズがクズ教師として過ごそうと腹を割った際に思い返して一番マトモに関わったなぁと思ってるやつ。ちなみに黄昏ティーチャー的に正しい意味での「生徒」でもある。女誑しめ。