青春エピローグと黄昏ティーチャー。   作:禁止薬物

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②欲深ティーチャー

 急に昔の生徒が訊ねてきたらそりゃもう仕事どころじゃなくなる。リサといちゃついていると連絡が来て、とんぼ返りしてきた結良が連れてきたのは、オレが考えてきた通りの人物だった。

 富士見麗奈、オレが初めて担任を任されたクラスにいた問題児であり、その前から話題になっていた不良生徒であり。

 ──オレが力及ばず、ここで卒業を迎えることができなかった生徒でもある。

 

「久しぶりだな、レナ」

「ホントに、久しぶりだねセンセー」

 

 万感の想いを込めた久しぶり、の応酬に目頭が熱くなりそうになる。会いたかった、って言うと多分めっちゃ後ろでそわそわしてる結良に怒られるだろうけど、またそういうのとは違う理由で会いたかった。

 会いに行こうと思えば行けたんだけど、由美子のことを立ち直った後も、コイツはなんでいなくなっちまったのかがわからなくて確認できてなかったんだよな。

 

「で、そのヒトは?」

「お前の後輩、そっちの結良と同じな」

「……ふーん、あたしが辞めた後に随分方針転換したみたいだね」

「そりゃもう、あんなくだらねぇ理想は掲げてねぇよ」

「そっか、カッコよくなってるじゃん」

 

 笑った顔は昔となんも変わってなくて、ドキっとさせられた。いやなんでオレの生徒たちはこうも美人ばっかりなんだろうな、結良。オレは困ってるよ。お前のヒトを刺しそうなその視線にも、レナから浴びせられるラブコメの波動にもリサの苦笑い混じりの視線にも、全部な。

 

「で、気になるなー、センセーがあれからどんな教師生活を送ってきたか」

「また自分語りか」

「苦手だもんね一成」

「……一成」

「えっと、どっちで呼べばいい?」

「いつも通りでいいよ、コイツには隠すつもりもねぇし」

「じゃあカズくんで」

「ホント、何があったのアンタ?」

 

 おいしれっとセンセーから格下げすんな。んでえっとあれだろ、倒れてからだろ。そう言うと思い出てるんだみたいなリアクションをされた。そうそう、思い出してるよちゃんと。やっぱりお前も由美子関連の被害者だったんだなって言うと化けて出てきそうだから、過去に縛られたオレのミスだったんだなって語句に訂正しとこう。そっからの大長編をかいつまんで聴かせてやると、みるみるうちにレナがゴミを見るような目でオレを見てきた。リサも補足してくれて、オレはこうして現在最後のクズ教師の真っ最中だってところで物語は終了した。まぁ感想なんて決まってるよな。

 

「マジでロリコンクズになってるとは思わなかった」

「ぐうの音もでねぇな」

「婚活目的、淫行教師、通報しとく」

「勘弁してくれ……」

 

 キレッキレなのはホント相変わらずだなお前。なんか懐かしくてそれも嬉しくなって笑ったらマジで引いてくるからもうどうしようもねぇなこれは。

 ただ、呑気に教師やってること事態は予想してたようで、どうやらここに来る前に羽沢珈琲店に寄ったことを話してくれた。

 

「加賀谷先生と、なんか背の高いかわいいヒトがまた昔の女がどうのって言ってたからね」

「あのコンビか」

 

 昔の女ズがなんか言ってるんだよなぁ。香織は一応未遂だけどみみの方がガッツリ昔の女なんだよなぁ。

 で、それはいいとしてなんでオレに会いに来てくれたんだ? いやめちゃくちゃ嬉しいけどな、つかなんでこんな数年経ってまたこのタイミングで? 

 

「一成に相応しい女になるために?」

「……は?」

「いやいや、今の一成なら薄々気付いてたでしょ」

「え、マジ?」

 

 流石に贅沢しすぎて邪推であってくれと思ってたところだよ。あーえっとなんだ、リサが改めてレナのことを()()なんだねと言い放ってきた。生徒をオレに惚れたJK的な意味で使用するのはやめてほしい。オレはレナとは関係持ってねぇからやめろっての。冗談はともかく、冗談じゃなかったとしてもともかく、由美子の話をしに来てくれたんだろ? 

 

「うん」

「あのメッセージにあった名前はレナだったもんな」

「そ、その時に受け止めきれなかった場合の最終手段、みたいなノリでさ」

「悪かったな、あの時は」

「そんだけショックだったんでしょ? あたしも受け止めきれんくて、それで逃げ出したんだし」

 

 リサと結良がやがてメシを作ってくれると離脱してからもしばらくそんな昔話をしていると、そろそろ時間になっちまう。もっとしゃべりてぇと思ったがレナはしばらくはコッチにいるからさと言って夕日に照らされながら笑顔で去っていった。

 ──なんか、実感わかねぇな。それと同時に、オレの中にあった後悔が少し晴れた気がした。

 

「ただいま」

「おかえりカズくん!」

「悪かったな、先に帰らせちまって」

「いいよ、その分ご飯の準備できたしね、ゆーら?」

「うん、自信作のハンバーグだよ!」

「おお、うまそうだな」

「蘭ちゃん先輩とモカちゃん先輩ももう着くってさ」

 

 そんな風に賑やかな食卓を過ごしていく中で、オレは蘭とモカにもレナの話をした。モカがそれに対してギルティだけどいいタイミングですな〜と呟いた。いいタイミングって、このドタバタしてる今の状況がか? そう訊ねると去年だったらきっとブチ切れられてただろうし、来年だったら二人の関係に尾を引くことになったかもねと蘭が言葉を引き継いだ。

 

「生徒、だもんね」

「そ〜、でも今は〜せんせー最後のクズムーブちゅーだし」

「だね、結良のダメージも少ないし」

「先輩たちに言われるとなんかびみょー」

「いつもお借りしてごめんなさ〜い」

「そう思うなら貸してあげるよ、モカちゃん先輩?」

「……ゆーたんが怖いんだけど」

「モカが煮えきらないからでしょ」

 

 おお、モカが虐められてるシーンってのも珍しいな。まぁこのヤンデレストーカーの悪魔は結良が大の天敵だしな。それに蘭は蘭で幼馴染ってパワーがあるからな。つかいつもの間延びした空気消すほど怖かったのかお前。

 流れ的にオレが甘やかす流れになって、それこそが結良や蘭の策略なんだよな。モカも大概、後悔を隠そうしてくるしな。そっちはオレ一人じゃ絶対にロクなことにならねぇし。

 

「それで、こころの方はどうだった?」

「どーもこーも、わたしまで避けられてるっぽいよ」

「あー重症だね〜、あのこころがゆーらを避けるなんて」

「まぁ本丸がダメならいつもの如く外堀から埋めさせてもらうけどな」

 

 ヒナと蘭がバトってた時にもやった手法だ。あんまやりすぎると嫌われる恐れがあるが、まぁ相手はあの金ピカ太陽サマだ。多少強引でもなんとかなるだろ。

 そんな理屈のねぇ自信を否定するやつは誰もいなかった。モカは結局明日が朝早いからと蘭と一緒に帰っちまったが。まぁ八月中に一人で泊まりに来いって約束させたからな。

 

「モカのことさ」

「ん?」

「あんな強引でよかったの、一成」

「いいんだよ」

「そうそう、モカちゃん先輩ってこっちから追い詰めなきゃダメなタイプだし」

「ゆーらまで」

 

 別れようって言ったところでやっと本音が出たレベルのヤツだからな、アイツは。マジでガンガン攻めねぇとモカは嘘みてぇに消えちまう。今だって蘭や結良、リサの力を使ってようやくオレんち来るくれぇだからな。ホントだったらオレや誰にもなんにも言わずに独りぼっちで泣いてるような、優しいヤツなんだよ。

 

「アイツはもう、青春を過ごしたお前らのことが大好きなんだよ……んで、自分の気持ちに気づけるきっかけになった結良のこともな」

「うん、だね」

「だからこそ、モカは自分が許せねぇんだよ。自分がもっと早くそれに気付いてれば、オレがバカな選択をしなかっただろうってな」

「そっか、モカは……アタシらの誰よりも傷ついてるんだ」

 

 昔いっつも自分のことを負けヒロインだって言ってたけど、ヒナや蘭が勝ちヒロインなら、モカは裏ヒロインだな。ある意味では勝ちヒロインよりも重要な存在であり、故に勝ちヒロインよりも重たくて単純なハッピーエンドにはさせてもらえねぇ、みたいな感覚なんだよな。だからオレが、ちゃんとハッピーエンドまで追っかけ続けなきゃなんねぇ。じゃねぇとアイツは、いつか勝手に死んじまう。

 

「そんなの許せるかよ」

「わたしも、許せない」

 

 あんだけオレを暗闇から救ってくれたモカの笑顔を守れねぇなんて、そんなふざけた結果には絶対にさせねぇ。つか既に四月までの間にカレシと別れてんだよなアイツ。モカの狂気を癒やす手伝いはしてくれたみてぇだけど、モカ本来の愛されたいって気持ちをまだ真に叶えてやれるのは、オレだけみたいだからな。

 

「んで、今日はモカよりお前ら二人とも残んのか?」

「うん、リサちー先輩と女子会するんだ!」

「オレんちでかよ」

「客間借りるね、一成」

「はぁ……もう勝手にしろ」

 

 ふと、夜通しだとするとそれじゃあオレの抱きまくらは誰もいねぇじゃん。そんな抗議をするがリサと結良は二人揃って意地悪な笑みをしやがった。クソが、ウチの生徒どもはたまーにオレより結良を優先するとこあるよな。その場合オレはクズ教師としての相手も恋人も取られる状態なんだが。

 

「それで、わざわざ明日も仕事の私を呼び出したの?」

「おう」

「……バカね」

「なんとでも言え」

「私も結良ちゃんとリサちゃんの女子会に混ざろうかしら」

「泣くぞこの野郎」

「いい年した男が泣かないで頂戴」

 

 ちなみにこの部屋、今は逃亡中の弦巻さんちの太陽サマがオレのためにと押し付けてきたマンションのため、部屋間でも割と防音が効いてる。じゃなきゃリサとの寝起きに結良たちが来たことがわからねぇことはねぇな。防犯上も侵入者の場合は即座に音が鳴るシステムになっているため空き巣対策もバッチリだ。どうやってオレらとそれ以外を分けてるかは企業秘密だって黒服さんが言ってたな。怖ぇよその企業秘密。

 つまりなにが言いてぇかというと、リサと結良の女子会会場に野暮な喘ぎ声が入ってくることはねぇんだよな。万が一聞こえたとしても明日も仕事なのにとか言いつつベッドに入った瞬間にスイッチ入ったクソビッチに言えよ。

 

「あら、シてくれないと言ったら帰るつもりだったわよ、私」

「千聖ってそういうヤツだったな」

「焦らされるのは嫌いだもの、ね?」

「はい、もう一回ですか」

「ええもちろん、忙しくて会えなかったのだから」

 

 結局、突如として呼び出されたはずの千聖は満足そうに風呂から出てきて、オレに抱きついて少女みてぇな顔で速攻眠りやがった。こう抱きしめると割と千聖って小柄なんだよなぁとか思いながら、女体に触れて安眠できるクズっぷりに自分でも呆れちまうくらいだった。結良だけの頃より欲張りになっちまってるなぁ、と思ったけどそれも卒業までのガマンだったのを思い出した。じゃあまぁいっか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




その後、ちーちゃん先輩はつやっつやのぴっかぴかでお仕事に行きましたとさ。
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