青春エピローグと黄昏ティーチャー。 作:禁止薬物
夏期講習、朝に泊まってた結良と一緒に出勤するのはもう隠せてねぇんじゃねぇかってたまに思うこともある。一応、駐車場に入る前にその辺に降ろしてはいるものの、こうも時間が被ってると疑われかねねぇんだよな。
職場の方たちは基本的に卒業生とセットだからそっちとの関係を示唆されるのがまだ救いだからそっちと結良が仲良しだし、懐かれてるんですかねと笑っている。
「つまり女誑しの噂はそもそも教師内から出てるんだね」
「たぶんな」
「まぁ、否定できないもんね」
諸々が終わり、一服と屋上へ向かうといつの間にかレナがいた。まさかコイツと一緒にこの敷地内全面禁煙の羽丘でタバコ吸うことになるなんて思わなかったなと思いながら先端を赤くして、息を吐き出すレナの横顔を見つめる。髪はどうやら染めるのを辞めたようで黒色、地毛に戻ってるけど雰囲気はあんまし変わってねぇな。
「なに?」
「いや、ホントにレナなんだなと思ってな」
「なにそれ」
「あれからお前のこと、考えねぇ日はなかったからな」
「どーでもよくなった、とか抜かしてたクセに」
そりゃ理想の教師とか、そういうのはどうでもよくなっちまったよ。地に落ちた信用を取り戻す気にもならず、ただ最低限の仕事をこなす不良教師としての日々をダラダラと過ごしちまったよ。
でもそんな無気力な教師生活にあっても、どこかいなくなっちまったレナを探してた。ふざけんなと呪ったこともあったさ、だけどお前がどっかで元気でいてほしい、元気ならオレの前にあらわれてほしいってずっと思ってたんだよ。
「似合わな」
「うるせぇよ」
「恋じゃん、もうそれ」
「別れた女を引きずるタイプだしな」
「女誑しのクセに」
「うるせぇ」
「ま、でも今の口説き文句は……ちょっとだけ嬉しかった」
うるせぇと三度目の言葉を吐く。口説いてねぇ、口説いてねぇから急に温度を上げてくるな。ただでさえ夕方だったとしても真夏の日差しは日陰に逃げなきゃならんくらいに暑いってのに。流石に暑さに耐えかねたのかそれじゃあ室内行こうよとレナに誘われるままに階段を再び降りていく。
「卒業生じゃないけど、懐かしみたいし」
「お前が学校を懐かしむなんて誰が思ったんだろうな」
「センセーとの思い出の場所だからね」
「ヤな言い方だな、ソレ」
サボり癖があったコイツがなんだかんだサボんなくなったのも、学校にちゃんと通うようになったのも、あんなことがあっても嫌いだったはずの監獄に居たいと思い続けていたのも、全部その一言で済ませてきそうな勢いだなコイツ。いや実際そうなんだろうけど、そう思って許可をちゃんと申請して通した場所は、レナが最もオレと一緒にいた場所、生徒指導室だった。
「生徒指導室ってさ」
「ん?」
「なんで、隔離されてるんだろう」
そんな思い出の場所とやらに来ていきなりの言葉がそれだった。なんでだろうな。オレの高校も花咲川も生徒指導室って確か生徒も教師もあんまり普段は立ち入らねぇ場所にあるイメージだな。聴いた話だと学校によっては下駄箱や来客と教職員の出入口よりも一つ
「まぁイロイロやってもバレなさそうだもんね」
「おい今ピンク色の妄想したろ」
「あたし的には体罰のニュアンスだったんだけど」
どうやら頭の中が乱れているのはオレの方だったらしい。つかそういう妄想の話はどうでもいいんだよ思い出に浸れよ。
なんか基本的にくだらねぇ雑談してるばっかりだった気もするけどな、お前とここにいる間は。最初の態度はヒドかったよな、教師のことなんてちっとも信用しねぇし、授業もでねぇとかいうクソ問題児だったな。
「でも、ここでセンセーと話す日々があたしを更生した」
「……できてたか?」
「うるさいな、あの時よりはマトモだったでしょ」
「まぁ」
相変わらず未成年喫煙はするわ、制服マトモに着てるの見たことないわ、始業式や終業式は制服ねぇからって出てこなかったやつがよく言ったもんだよな。その度にオレがお前をココに連れて来て、くだらねぇ話をしてサボれてラッキーみてぇなこと思ってたよ。オレも大概だったな。
「センセーに連れ込まれた回数、かなりあるよね」
「言い方がおかしい」
「ホントはさ、ちょっと期待してる」
「は?」
「……今ここで迫ったら、どこまでシてくれるのかなって」
やっぱピンク色じゃねぇか。そう思う間もなくレナはソファに座ってたオレの隣にやってきて唇を押し付けてくる。あれだな、お前結良からなんか聞いただろ。ちゃんと恋人だって伝えたはずだけどな。そう言うと偶々カフェに居た千聖に教えてもらったとか抜かしやがった。お前かクソビッチ、なんだかんだあの呼び出した日のこと恨んでるならそう言えよ!
「ほら、勝手に辞めた不良生徒のこと、指導してよ」
「その誘い文句、AVかなんかの見過ぎじゃねぇか?」
「うるさいな、好きでしょ」
「JKものが好きなわけじゃねぇよ!」
そんな口論をしてもやっぱり生徒指導室は外に声は届かない。オレが確かにこれを利用してたクズもたくさんいるかもしれねぇなと考えていたところで、なんという幸運なのか生徒指導室のドアノブが捻る音がした。これにはレナもちょっとびっくりしたようで、オレの上から飛び退いて、乱れた服を戻していく。そして、開いた扉の先を睨むように見つめていて、オレも同じ場所に視線を合わせると、ドアが開き救世主の姿が眠そうな目をしてオレたちを見つめていた。
「ど〜も〜、もと〜ちょーっぜつ〜、びしょーじょじぇーけーの〜、モカちゃんで〜す、いえ〜い」
「……なにあれ」
「最後まで聞いてやっただけ偉いなレナ」
びっくりするくらい間延びさせてくるからなあの前口上は。しかも超絶を溜めやがった。お前のその眠くなりそうな登場セリフって案外引き出しが多くてびっくりしてるよモカ。
というわけで、まぁこの場合オレを探し当てれるのは元超絶美少女JKでありオレからのありがたいヤンデレクソ悪魔でストーカーの青葉モカくれぇだと思ってたよ。いっつもオレの救世主は眠そうな顔でパン齧ってそうなイメージあるな。
「ま〜、いくらきょーしのほとんどが〜婚活目的の羽丘にも〜、えっちまでできる場所って〜限られてるからね〜」
「え、そもそも複数ある?」
「保健室、実はそういう目的で使えるんだよ」
「うらおぷしょ〜ん」
「クソみたいな制度だね」
「ホントな」
後は屋上と部室棟の上階のトイレとかだな、トイレはオレの倫理観というかなんか生理的なイメージで使ったことねぇけど。生徒指導室も使ったことねぇよ。あるの保健室と屋上だけ。
まぁそんな中高エスカレーター式の女子校の闇を暴いたところで、オレはレナに毅然とした態度で言ってやった。
「腰が痛くなるから学校ではもうシねぇって決めてるんだ」
「そっか……ん? じゃあ学校外だったら?」
「あたしも〜、わざわざ止めませんって〜」
「抵抗したのって、そういう理由?」
モカと視線を合わせてなにを当たり前のことを、とオレは笑った。柔らかいベッドこそ至高だからな。それにレナにも未練や後悔があるってんなら、オレがなんとかしてやりてぇ。今度こそ、お前を助けさせてほしい。あの日の後悔を飲み込むための偽善でしかねぇんだろうけど、それでもレナを見送らせてほしいから。
「そっか、それがセンセ―の後悔」
「倒れてる間にどっかいっちまったからな」
「あとせんせーはクズだもんね〜、レナさん美人だもんね〜」
「あの迫られ方は数年前なら諦めてたな」
「しょーじき、あれでガマンできたんだ〜って感心した〜」
同じようなシチュエーションで散々オレをガマンさせてこなかったモカに言われると、ホントにそうなんだなと思えた。んで、モカが譲ってくれるってさ。そもそも約束したわけじゃねぇけど。
ああまぁ、逆に今日はレナが来るってことは約束してたからモカの中でも順序がついてんのか?
「せ、迫っといてアレだけど……」
「ん?」
「一成んちは……緊張する」
その随分とピュアなリアクションにモカがかわいーですな〜とからかいの声を上げる。あんま先輩をいじめてやるな。十年近く前に惚れた男に会いに来るような女なんだから、見た目と男性経験が釣り合ってるわけねぇだろ。これを言うと絶対にレナは怒るだろうから口にはしねぇけどさ。
「ピュアだね〜」
「見習ってほしいくれぇだな」
「で、もう生徒指導する気まんまんなんでしょ〜?」
「結良を構ってやっといてくれ」
「りょーかいで〜す」
結良はどうせ泊まらねぇにしても少なくともオレんちでメシは食うんだ。それなら、人数多い方がアイツも喜ぶし、なによりオレが嬉しい。でもモカの食欲を満足させるのは、今の冷蔵庫の中身じゃキツいかもしれねぇな。何が食いたいかリクエストもらって、買い物行って、そんな風にレナとも足りねぇ時間を埋めていきてぇって思う。
「足りてないってなに」
「だって、お前とはもう一年半くれぇ一緒に過ごしてく予定だったわけだしな」
「……そういうのやめてよ」
「やめねぇ、オレはずっと後悔してたんだ」
そうだよ、オレの未練は何もアイツらのためにルールを創る側になりたかったってことだけじゃねぇ。みみのくれるバカみてぇな愛の前に素直になれてれば、そうじゃなくても香織に相談できてれば、そもそも女誑しのクズ教師になることもなかったかもしれねぇ。
ちゃんとレナの送る小さな愛に気付いていれば、去ろうとしたお前をもっと必死に止めれたのかもしれねぇ。そうしたら卒業していくお前に告白でもされて、おろおろしながら香織に相談してただろうな。
「加賀谷先生に頼りすぎじゃない?」
「確かにな」
けどアイツかわいい後輩で、オレとみみの幸せを見守る係だからな。相談でもすればマジメな顔で乗ってくれただろうし。まぁ当時のオレはそんなことできやしなかったんだがな。
だから、オレはレナにも手を伸ばすよ。お前は曲がりなりにも教師としての体裁を保っていられた、教師でいたいと思わせてくれた生徒ゼロ号なんだからな。
「それと」
「なに?」
「お前には協力してもらわなきゃならんこともあるからな」
「あたしに?」
「そう、オレの生徒ん中でとびきりに意地っ張りなヤツがいるんでな」
ソイツにはレナの話はしたけど多分、多分だがレナがココにいることを知らねぇはずだ。アイツがその気になればモカなんかよりもタチの悪いストーカーになれるのは事実なんだけどな。でもこころはそういうことはしねぇんだよ。なんなら今はオレとの関わりを断ち切ろうとしてるんじゃないかってくれぇだしな。
「離れるのも、自由じゃない?」
「それが本心ならな」
「……そっか、追っかけちゃうもんねセンセーは」
「そうだな」
「あたしのこともストーカーしてきたくらいだしね?」
その言い方はやめろっての。ただ、あの時はなんとしてでも会いたくてやったことはあながち間違いじゃねぇのが悲しいところだ。そりゃオレだって本気で嫌われてんだなってわかってて追いかけるなんてことはしねぇよ。でもこころがそうじゃねぇってことも、あの時のレナがそうじゃなかったってこともわかっちまったからな。
「まぁでも、そんなセンセーだったから、あたしはここにいるんだろうけどね」
そんな笑顔を向けてくるレナはいつでも力になるからと言い残して実家へと戻っていった。頼りになる生徒が帰ってきたなぁと思いつつ、オレはモカに次こそはちゃんと泊まれるようにしとくよと約束した。レナも一緒になって、この男に遠慮したら負けだと思うと煽ってくれた効果もそれなりにあったみてぇだった。