青春エピローグと黄昏ティーチャー。 作:禁止薬物
青葉モカは、オレの愛した生徒の中で一番傷だらけの女だ。中学の時に恋をして、オレの変化を遠くで眺めてきたヤツで、蘭や幼馴染といる世界が大好きな怖がりで変化を嫌う寂しがり屋の
「じゃあ、モカのことよろしく」
「しっかりね、カズくん!」
「おう」
蘭と一緒に学校から去っていく結良を見送り、次々と職員室からいなくなる同僚を見送りながら、黙々と仕事をしていく。いやまぁその間にリサが甘えに来たり、レナが香織とみみに食事に誘われたって報告がてら持ってきてくれたおやつを頬張ったりとちょいちょい休憩は挟まってたけど、やがて黄昏も暮れそうになるオレンジと紺色のコントラストに独りでいるとドアが開いた。
「ちょっと遅くなってごめんね、一成」
「いや、仕事のキリ的にはナイスタイミングだな」
「そっか」
最初から素モードのモカっていうのもなんか懐かしいな。つかよく考えたら最近は誰かと一緒ってことが多かったからそれ事態も少なかったのか。
そして、割と徹頭徹尾この状態のモカが相手の時は苦い経験が多いためオレは少しだけ身構えちまう。モカにも当然それが伝わったのかくすくすと笑われてしまう。
「身構えすぎ〜」
「悪い」
「ん〜恨んでるのは本当だけど」
「そうだろうな」
「気付いてた?」
「そりゃあ、モカのことだからな」
モカはオレの黄昏の一番の被害者だ。なにせ唯一弦巻こころと共謀して引き剥がしにかかったやつだからな。こころに紹介された時の絶望の深さはどれくらいだったんだろうかなんて予想も付かない、それでも一年くれぇはちゃんと付き合ってくれたのは、死ねばいいほど憎んだからだろうなってことくれぇしか、オレにはわかんねぇ。
「凶器の類は持ち込んでねぇだろうな」
「この辺に色々あるんじゃない?」
「……確かにな」
「ホントは二人きりになるの避けたかったんだ。あたし、まだ許せてないから」
「なんでだ、もう前に進む幸せは見つけただろ?」
「
「そう、なっちまうか」
だから第三者を介して関わろうとしたのか? という問いには答えてくれなさそうだった。電気つけ忘れてた職員室が、段々と宵闇に包まれていく。赤い夕日が沈み、ただ単色の黒がクーラーの冷気に乗ってオレの背中を撫でた。職員室の机を漁ればそりゃハサミでもなんでも手に入るだろう。モカが狂気に取り憑かれればオレなんてあっという間だ。
「モカ」
「なに」
「他の先生の机漁るのはやめとけ、後が大変だ」
「何言ってるの?」
「オレのなら許してやるから」
「……そんなに死にたいなら飛び降りればいいじゃん」
「自殺できるような思い切りのいいヤツに見えるか?」
そうだったな、コイツは大人が嫌いなんだった。こんな状況なのにわかった顔して余裕ぶるオレの態度がムカつくんだったな。モカはなんにも変わってねぇ。変わってねぇって事実が、オレにため息を吐かせた。まるでガキの頃のアイツの焼き直しを見てるみてぇで、オレだってちょっとくらいムカっとする。お前ホントに蘭と同じ年かよ。
「お前だけには昔と同じで上から説教してやる」
「あたしだけって」
「他のヤツはみんな前に進んでるよ。歩幅はそれぞれ違うけど未来に、明日に向かってる。蹲ってんのはお前だけだモカ」
未来なんてのは名前だけはキレイな真っ暗闇だ。それは今もそう思う。でも、だとしてもそこで膝を抱えててもなんにも変わりゃしねぇ。だからみんな後ろを振り向きながら、名残惜しいと光輝く過去に目を向けながらも前に進むんだよ。
オレだって、その一人だ。つかお前らのおかげでやっと立ち上がって一歩を踏み出す決意ができたんだ。その中には当然、モカもいる。
「未練を見て、後悔したのはお前だけじゃねぇ。オレだって、アイツらだってみんな、戻れるなら戻りてぇって思ってるさ、少なからずな」
「じゃあ、じゃあなんで? なんで、結局みんな、いなくなろうとするの?」
「過去だからだよ」
「あの時に一成が選べば、まだ遅くなかった」
──それとも、こうやってハーレムでも作りますか?
これは、紗夜の言葉だったか。それを選べばまた、みんなで一緒にいられたってか? そりゃねぇな。確かにそれを選んでればきっと今頃同じ家に帰って、みんなでわいわいと楽しい時間を過ごしてたのかもしれねぇ。でも、それは長く続くもんじゃねぇんだよ。
「どう、して?」
「そのうちヒナと蘭がもう、帰ってこなくなる」
「そんな、こと」
「次は千聖だな、んでリサが結局離れていく」
そう、今同じ道を作ってもそれは一夜の夢幻でしかねぇ。ヒナは今のカレシと落ち着いたら結婚してぇって言ってたし、蘭だって満足すれば自分のいるべき本当の場所へ帰っていく。千聖はあの王子様を捨てることができねぇし、リサは自分を愛してくれるヒトが自分以外も均等に愛してくれる世界じゃホントの幸せにはならねぇ。あの世界じゃ時間が解決してたけどな。
そうすりゃ、紗夜も今いる場所がただのとまり木だってことに気付くだろう。こころは、よくわからねぇけど残るのは多くてお前と結良とこころの三人だろうな。
「……そんなの、一成の勝手な予想でしかない」
「だな、でも元通りには絶対にならねぇよ」
モカは独占を求めてねぇ。それはきっとオレが強引に二人きりにならねぇ限りは、あの世界で幸せになる以外はそうなんだろう。つかそれをきっとアイツらもわかってたんだ。わかってねぇのはお前だけで。だから結良にオレの幸せを託すことにした。今は後悔を取り立ててくるけど、いつかはホントの意味でオレから卒業していく。
「三年」
「……は?」
「羽丘で留年できる最大年数だよ」
学校によっちゃ色々あるらしいが羽丘はスタンダードに三年間の留年ができる。都合六年間は在籍できるってことだな。
だからちょうど、今年までだ。モカがずっと羽丘にいたと計算すると、今年で除籍になっちまうからな。ちゃんと卒業してくれねぇと元担任のオレとしては困っちまうな。
「お前の担任になるって聞かされた時は流石に、マジかと思ったよ」
「……嫌だった?」
「だってお前、空気を読むってことしねぇし衝動で生きてるからな」
何回つい、で抱きついてきた? 後から蘭にぐちぐち説教されるコッチの身にもなってくれ。まぁ他にもヤキモチなのか教師としてちゃんとしろって意味なのかわからん説教もたくさんもらったが。
予想通りだったけどお前との噂も立ってたよ。そもそもそれを揉み消すっつうかごまかすためにアフグロメンバーと関わってたフシもあったしな。おかげで上原や羽沢、宇田川も大切な教え子になっちまったけどな。
「オレとモカとの間にある思い出は、なにもあのバカみてぇな一年の時だけじゃねぇだろ」
「そうだね」
「二年の時、ヒナへの未練でグダグダやってたオレの傍にいてくれた」
「あたしだけじゃなかったけど」
「そのせいで相当お前を傷つけた」
どうせコイツもいなくなるんだ。そんな風にガキみたいに突き放して傷つけたこともあった。けどそう思ってもいいから傍にいさせてと言ってくれたことをオレは忘れねぇよ。
今のオレはそういう楽しいだけじゃねぇ思い出で出来てる。お前が羽丘にいて、オレにすきと言葉にしてくれたことも、お前を愛してると言えたことも全部だ。
「モカがいてくれてよかった。モカがいてくれたから由美子のことも、今結良を幸せにしてぇって思えるようになったんだ」
「あたしの」
「だから、お前が幸せになるのを見守らせてくれ。それが、オレを幸せにしてくれた生徒たちにしてやりてぇことなんだ」
「……せんせー」
「モカ」
「もっと、呼んで」
「モカ」
「えへへ、うん」
「モカ」
夜闇の中、モカがオレの腕の中に収まっていく。頭を撫でて、あやすように名前を呼び、愛を込めて抱きしめる。懐かしい抱き心地だな。実のところ、コイツが二年三年の間って他のメンツで色々あって、具体的には紗夜や千聖がプロとして忙しいとか、蘭が本格的に美竹として活動してたとか、ヒナがバカヒナだったとかでライバルが極端にいなかったんだよな。それでも暇さえあればオレのところに来て愛と愛欲をねだってくる困ったヤツらだったし、羽丘を卒業してからはまたしばらくヒナも増えたし。でも、その中で抜け目なくオレの傍にいてくれたのが、青葉モカだからな。
「あたし、実は二番なんだよね〜」
「なにが?」
「一成とえっちした回数」
「アイツらの中で?」
「流石にみみさんには負けちゃうだろうけどね〜」
そりゃまるっと大学最後の二年間をずっと一緒に過ごしたし相性も抜群だったしな。じゃなくて、なんでそんなこと知ってるんですかね。流石はストーカーだな。ってことは一番は、まぁ予想するまでもなくあのバカ悪魔だな。アイツは初めて会ってから蘭モカを抱くまで独り占めだったもんな。
「そそ、でもあたしも独り占め期間あったから、二番」
「そんなに一緒にいたんだな」
「うん」
そりゃ千聖や紗夜が羽丘組より一緒にいたとは思ってねぇけど。そりゃ蘭だもんな、そもそも一緒にデートしてもヤらねぇことだってあったくらいだし、唯一な。それでいいのかと一瞬考えたが上級生組は前々からエロ担当してたから問題外だし、モカは三大欲求にストレートな性格してるからな。
「あはは、それ久しぶりに言われたかも〜」
「オレん中で当たり前の事実になってるからな」
「寝るのも好きだし〜、食べるのも好きだし〜、一成とのえっちも好き」
「はいはい、じゃあ今の欲は?」
「せーよく」
「んじゃあオレんちな、ベッド広くなったから文句もねぇだろ」
「でもあの狭いのも好きだったよ、ずぅっとくっついてられるから」
すっかり狂気の消えたモカと一緒に羽丘を後にしていく。きっともうコイツがオレを殺そうとすることはねぇんだろうな。いや一つあるとしたらコイツはヒナ並かそれ以上にオレの腰を破壊しかねねぇってことか。まぁその性欲にアテられてがっついちまうオレも、まだまだ若いということなのか。そう言うとモカにおっさんくさいと言われちまうんだけどな。
「あとは、こころんだけ?」
「おう」
「こころんは、しばらくゆーたんとレナさんに任せた方がよさそうだね」
「だろうな、アイツいないと困ることあるんだよな」
そう、ヒナと結良でとある計画を立ててるんだが、それがこころがいねぇとなんともならねぇんだよ。いや誰が欠けてもダメなんだけどな。そしてそこは流石のモカ、何も言ってねぇのにオレの思考を文字通り読んでるかのようにもしかしてとその計画を当ててきやがった。
「そうそう、楽しそうだろ?」
「だね〜、みんなには話したの?」
「いやこころがいねぇと計画立てらんねぇし」
「大丈夫、日程決めて、こころんが素直になれば合わせてくれるよ」
それに紗夜、リサ、千聖は特に日程が合いにくいからもう事前に決めた方がいいとのアドバイスにオレは頷いた。それじゃ、とりあえず集まる計画だけでも立てとくか。参加メンバーに声を掛けておくとして、後は待つ状態か。
こっからは結良が頼りだ。レナとコンビってのは不安だからモカとかリサとかその辺と一緒に頑張ってくれよ結良。
次回は結良が主人公です。もしかしたら数話に続くかも。その間カズくんは見せられないよ的なイチャイチャしてると思ってください。