青春エピローグと黄昏ティーチャー。   作:禁止薬物

14 / 20
⑤暗躍ダンデライオン

 カズくんはモカちゃん先輩を落としてみせて、残るはカズくんの生徒の中で一番堅牢な本丸を持つこころん先輩だけになった。けどこの先輩、カズくんの気配を察知するとプラチナな王様並みの速度で逃げるもんだから苦戦していた。だからわたしは愛しのカズくんに頼まれて国内どこでも好きなところに二泊三日のデートという権利を報酬に密偵をしていた。

 

「で、そんな忍者ちゃんはなんでのんびりお茶してるの?」

「レナ先輩は甘いなぁ」

「一成並にうざかったんだけど今の」

「わたしにそれは褒め言葉なんだよね!」

 

 そして相棒としてこころん先輩の認識外である富士見麗奈さん、レナ先輩を雇っていた。カズくんがだけど。ちなみに最初はレナちゃん先輩だったけど長いからとレナ先輩に改名させられた。基本的にちーちゃん先輩とヒナちゃん先輩以外はヒナちゃん先輩の呼び方に先輩をつけてるのです。他にもひーちゃん先輩やトモちん先輩というモカちゃん先輩由来の呼び方とか色々と例外はあるけど。

 

「アオちゃん曰く、最近こころん先輩の出没がめっきり減ってるっぽいんだよね」

「顔写真見せてもらったけど、道歩いてたらわかるレベルでキラッキラしてるんでしょ?」

「うん、多分近く通ったら気付くよ」

「もしかして光ってる?」

「ある意味」

「……どういう子なん?」

 

 えーっとピカピカしてる。常に眩いくらいのスマイルで活動的でおさんぽしてれば動物が集まってくるんじゃないかってくらいにあったかい先輩かな。太陽みたいな先輩ってみんな言うし、カズくんも金ピカ太陽サマって形容するくらいに光ってる。世界を笑顔にするって言葉が嘘に聞こえないほどにはいると周囲が明るくなるよ。

 

「というわけでね、でも最近は天岩戸に引っ込んじゃってるみたい」

「それはもはや神じゃん」

「太陽神だからね」

 

 そんな特徴を話していると情報提供者がわたしの名前を呼んでくれる。レナ先輩がどうもと挨拶する中でその先輩はふわりと穏やかな笑顔でこんにちはと挨拶を返した。そしてその隣でやや緊張気味に挨拶をする男のヒトも一緒だった。これがわたしの隠し玉でありあんまりこころん先輩が警戒してない人物でありながらこころん先輩に近づけるヒトだよ! 

 

「はい陽太くん、自己紹介」

「赤坂陽太です。あーっと、バンドでベースやってます」

「バンドマン……」

「レナ先輩、偏見出てるよ」

「まだ何も言ってないのに心を読むな」

 

 でもバンドマンってロクデナシが多いのにこのかわいい系は騙されてるんだなぁって思ったでしょ今。補足しとくと割と女子に人気のバンドグループ『Wanderers(ワンダラーズ)』っていう通称ワンドルさんのベーシストのカンベさんって言うんだ。ホラチャラそうって思わないでレナ先輩、中身はピュアらしいから。

 

「童貞なだけだよお」

「花音さん?」

「卒業しても童貞さんなんだ」

「そうなの」

「そうなのじゃないけど、ねぇイジメ?」

 

 どうやら高校の時に始まる前に失恋したのをバネに仲間と音楽に時間を注ぎ続けた結果、花音先輩とも時間が掛かった名誉童貞さんしいことはリサちー先輩にあらかた教えてもらった。わたしの好みじゃない。わたしの好みはあくまで大人な余裕があるけど甘えん坊なところもあって、カッコつかないカッコつけがカッコいいひとだからね。

 

「……それアイツじゃん」

「そう」

「そう、じゃなくて」

「それで、えっと結良ちゃんだっけ? 頼み事って?」

「こころん先輩の情報収集に協力してほしいんです」

「こころんって」

「弦巻こころちゃん、私のバンドの」

 

 どうやらそう面識はないようで、逆にそれでいいんだって言った。面識があると警戒されちゃうと思うんだよね。かいつまんで事情を説明するとカンベさんはうーんと唸った。まぁ、確かにそっち側に何かメリットがあるかって言われるとそうでもないもんね。それに対してレナ先輩もお願いと言葉を重ねてくれる。

 

「モテてる男って時点で敵なんだよな」

「童貞の僻みは醜いよ」

「は? めっちゃ傷ついた」

「レナ先輩、真実はヒトを傷つけるんだよ!」

「……今キミの言葉でも傷ついたよ」

「あ、ご……ごめん、言い過ぎた」

「反省されると余計に納得いかないんですがね!?」

 

 レナ先輩もほんの数日前までは処女だった、とは言わないでおこう。というか性経験が青春の全てじゃないと思うな。少なくともカズくんはそうやって説教口調でゆってくるよ。恋愛をしていてもしてなくても、青春って輝きの中で何を成すのかが大事であって、それがヒトによっては恋愛することなんだから。

 

「お、おう……なんかそれっぽいこと言ってきたな急に」

「赤坂さんの場合はそれがバンドだったってだけで、とゆーか今チョーかわいいカノジョさんもいるんだから」

「いや、でも俺の場合、モテたくてバンド始めたわけで……」

「じゃあモテない今、バンド辞めてってゆったら辞めれるんですか?」

「それは、無理だなぁ……アイツらとバカやってバンドやるの、好きだし」

「じゃあそうやってバンドする姿、きっとカッコいいって思ってくれてるヒトもいっぱいいると思うな。なのにそんなちっちゃなことで僻むのは逆に赤坂さんのカッコよさを霞ませるだけだよ」

「……そ、そっか?」

「陽太くん、論破されてるよ」

「ホントのことでしょ?」

「そうだね」

 

 勝った、勝ちました。ふふん、日夜カズくんのムーブを先輩たちから訊いたり、間近で見たりして研究した成果があったってもんだね。わたしは既に赤坂さんのことをカッコいいとか微塵にも思ってないけど。わたしの中のカッコいいの条件は清瀬一成であることが前提にあってのことだし。

 

「それに、見返りがないわけじゃないんですよ」

「え、なに?」

「こころん先輩やちーちゃん先輩が幸せになれます」

「陽太くん、頑張ろうね」

「俺への見返りじゃないんかい!」

 

 赤坂さんの喜ぶものとか性癖とか把握してないからなぁ。その点、花音先輩の協力条件は既に満たしてるからね。親友や大切なヒトだもんね。そういう輪を繋いでいく楽しさみたいなのはこころん先輩に教えてもらったことだから。

 あ、そういう意味だと赤坂さんにもメリットはあるんだよね。

 

「こころん先輩やちーちゃん先輩が幸せになれると、花音先輩が幸せになる」

「そうだねえ」

「すると、赤坂先輩も幸せになれるよ!」

「な、なるほど?」

 

 笑顔は笑顔を生むんだよ。そんな風にゴリ押しすると赤坂さんはやがて諦めたように協力を約束してくれた。後は、美咲ちゃん先輩とそのお姉ちゃんやってる喜多見さん、そして宮坂さんだっけ。あのヒトはこころん先輩とも関わりがあるからなぁ。色んなアテを使って情報網と包囲網を敷こうとしていると、レナ先輩は感心したように呟いた。

 

「ツテ、すごいね」

「まぁ、色々あって」

「そか、んでみんな、少なからず一成とも関わりがあると」

「そうそう」

 

 そういう関係ではなかったけど花音先輩も美咲ちゃん先輩もカズくんの生徒さんの一人だし、他にも喫茶店のつぐちゃん先輩を始めとしたアフグロのヒトたち、羽沢珈琲店のお向かいのにあるパン屋のさーや先輩とか、八百屋のキングとかね。後は、と思い浮かべたところでちょうどそのヒトにすれ違った。

 

「あ、結良ちゃん」

「七深ちゃんだ!」

「どーもどーも、えっとそっちのヒトは初めまして〜だよね?」

「そだね、富士見麗奈、よろしく」

「こっちのヒトは広町七深ちゃん! ヒナちゃん先輩とかこころん先輩と仲良しなんだよ!」

 

 そんな紹介をし終わったところで七深ちゃんは最近こころん先輩と会ってるか訊ねた。すると高校生の頃から続けてるらしいファミレスのバイトをしてた時に美咲ちゃん先輩とはぐ先輩と一緒に来てたってことを教えてた。どうやら二人にも結構説得されてたらしいことを七深ちゃんは語ってくれた。

 

「清瀬せんせーと何かあったの?」

「逃げてるの、カズくんから」

「なるほど〜?」

「またこころん先輩見つけたら教えてね!」

「りょーか〜い、まかせて〜」

 

 その後も、色んなヒトにこころん先輩のことを訊ねて回っていたところでエリちゃんから今日は近くを散歩してたよって連絡をもらってそっちに急行する。

 多分逃げられちゃうだろうけど、レナ先輩にも一応姿を見せとかないと。写真じゃなくて本物みればわたしの言ってることわかると思うし。

 

「あー、あの子か」

「うん」

「確かに、結良の言ってる意味わかったかもしんない」

 

 日が傾きかかっている中で、こころん先輩は公園の猫の集会で戯れていた。すっごく仲良しなんだなってことが伝わる穏やかな表情で、どこから持ってきたんだろう猫じゃらし片手に持って甘えん坊な猫たちに囲まれていた。でも、その顔は夕日のせいなのか、寂しそうに見えた。

 

「レナ先輩はここで待ってて」

「うん」

「わたしは話しかけてくる」

 

 そう言って、わたしはゆっくりとこころん先輩に近づいていく。猫と遊んであげてるので忙しかったのか、結構近づいた頃になって、ようやく先輩はぱっとわたしの顔を見上げて、それから若干諦めたように息を吐いた。

 ──こころん先輩は、カズくんの悪影響を受けた一人だと思ってる。だってカズくんの口から聞かされれるこころん先輩と、わたしが知ってるこころん先輩の印象はちょっと違うものだから。

 

「探しにきたのかしら?」

「うん」

「わざわざ?」

「レアキャラだからね」

「……あたしは結良とお話することなんてないわよ?」

「わたしもないけど、雑談くらいかな」

 

 お話することがあるのはカズくんだけ。わたしはそんなカズくんのお話したいって気持ちを持って伝えるってだけ。わたし個人としては世間話以上のことはない。

 こころん先輩は、その言葉に暗い顔をする。ちょっと苛立ってるんじゃないかって思うくらいに暗い顔、負の感情を先輩が見せることはまずないけど、まぁわたし相手じゃそうだよね。

 

「後は、こころん先輩だけだよ」

「そうなのね、モカはもうちょっと拗れると思っていたわ」

「カズくんがね──」

「一成のところには行かない」

「どうして?」

「結良はそれでいいの?」

「うん」

 

 そりゃヤキモチだなぁってなる時が絶対ないわけじゃない。今頃紗夜ちゃん先輩がカズくんちにいてイチャイチャしてるんだろうなぁと思うとちょっとだけ胸が痛む。元々はわたしだって結構、嫉妬深い性格なんだか不満だって思うよ。でもみんなの後悔のために奔走しているカズくん、そんなきっと幸せなんだろうけど痛いこともいっぱいある日々の中でわたしに見せるほっとしたような笑顔がたまらなく好きだから。

 

「なら尚更、あたしは一成のところには行かない」

「……行けない、んじゃなくて?」

「嘘を見破るのが上手なのね、結良は」

「でしょ〜?」

 

 敢えてにっこり笑顔を作る。だよね、行かないんじゃなくて行けないんじゃないかってゆってたのはちーちゃん先輩だったけど。それはさて置き、思ったよりも慎重に言葉を選んでいく。

 見た感じ、みんなが予想してたよりもずっと、ずっとずっと、先輩の精神状態は危うい感じだと思う。こんなの初めて見た。たぶんだけどカズくんも知らないんじゃないかな。

 

「あたしは、太陽じゃなくなってしまったもの」

「こころん先輩」

 

 泣きそうな声で、消え入りそうな声でこころん先輩はそうゆって小さく丸まってしまう。そしてポツリポツリと先輩は自分の話をしてくれた。珍しいって思ったことでそういえば自分語りをほとんどしないヒトだったなってことに今更ながら気付いた。ホントなら弦巻家っていう名家の一人娘で、箱入りなはずが興味と関心と笑顔だけでその箱から飛び出してきた金色の太陽の、感情に触れることになった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。