青春エピローグと黄昏ティーチャー。   作:禁止薬物

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⑥太陽ロストメモリーと黄昏アンブレラ

 こころん先輩はわたしに、誰にも秘密にしていたカズくんとの関係を教えてくれた。ヒナちゃん先輩や蘭ちゃん先輩たちがカズくんを取り合ってみたり、共有してみたりしてた頃、こころん先輩は別のルートでカズくんへの想いを募らせていたこと。それこそカズくんの黄昏ティーチャーとしての物語としては幕間やサイドストーリーのような淡い恋物語を。

 

「……そう、だったんだ」

「あたしは、そこで約束通りにフラれて……笑顔で別れたわ」

 

 卒業記念の集まりで告白して、フラれても笑顔でみんなの笑顔が消えることなく会は終わりを告げた。カズくんの視点ではそこでおしまいなんだろうけど、当然そこで終わるはずがない。こころん先輩の胸には、一生を共に過ごしたいと思えたヒトを笑顔にできず、傍にいることもできなかったんだから。

 

「いや、騒がしかったね」

「そうね、でも卒業しても笑顔でいられるのはとーっても素敵なことだわ!」

「こころんの言う通りだね!」

「はいはい、まぁ楽しかったけどさ」

「でも、こころんがセンセーに告白したの、ちょーびっくりした!」

 

 そのはぐ先輩の言葉にこころん先輩はそういう予定だったのと返事をした。しかも付き合ってほしいとかそういうんじゃなくていきなり、結婚してほしいというプロポーズなんだもんね。そもそもこころん先輩の気持ちを知らなかったはぐ先輩がそう思うのは不思議じゃなかった。気付いてた美咲ちゃん先輩ですら、プロポーズにはびっくりしてたみたいだし。

 

「でも、あそこでフれるあのヒトってすごいよね」

「人前だと断りにくいって聞いたのに、バッサリだものね」

「オレはお前と結婚するつもりなんて一生ねぇよ、だっけ……でもはぐみ、ちょっとだけ酷いなって思っちゃった」

「言いたいことはわかるけど、でもそうでもしないとこころは諦めないって思ったんじゃないかな」

 

 美咲ちゃん先輩はなんだかんだカズくんのことも理解してるよね。カズくんのダメダメなところには、どうしても離れなくちゃいけないって思った時に人間関係をリセットする方法として嫌われようとするって傾向があるんだよね。それでたくさんのヒト、元カノさんを傷つけちゃうんだから、バカだなぁって思うんだけど。

 

「一生って、重たい言葉なんだなって思っちゃった」

「うん」

「はぐみなんて、言われたら絶対泣いちゃう」

「うん……だからさ、こころ」

「……なぁに、美咲?」

「もうガマンしなくていいと思う。あたしだって、はぐみだって、泣きそうなくらい酷い言葉だったんだから」

「で、でも……先生は、一成は……きっとあたしじゃ、ダメだって……わかってて」

「こころん!」

 

 ずっとずっと、カズくんの空の上でピカピカに輝いていた太陽は、そこで優しい雲に包まれて、優しい雨をこぼした。カズくんの前では絶対に見せなかった涙を、そこで流して、流して流しきって、またいつもの太陽に戻った。ううん、幾ら表面上で戻ったように取り繕っても、胸の中ではまだカズくんのことが好きって涙を流し続けたこころん先輩は、ヒナちゃん先輩やわたしと関わることでなんとか、カズくんの世界に留まり続けてきた。

 ──そして、カズくんをなんとか笑顔にしようと思って、みんなの未練を夢に乗せることに成功し、カズくんは自分の幸せをちゃんと考えてくれるようになった。それでめでたし、めでたし。

 

「でも、あたしは知ってしまったの、一成の本当の気持ちを。嘘つきだった先生があたしに抱いていた気持ちを」

「……そっか」

 

 こころん先輩が隣にいる世界では、カズくんはプロポーズを受けていいよと笑って、そして二人は恋人同士に、そして夫婦になった。その時にプロポーズをもらった時に、本当は抱きしめたいくらいに嬉しかったこと、こころん先輩のようなピカピカの太陽の一生に選ばれたことが嬉しかったことを知ってしまった。ちょうどその時はヒナちゃん先輩たちのことについて口を出すなって条件もつけられていて、それを破ると嫌われてしまいそうで怖かったみたい。

 

「そんなの無視して、あたしも一成の片棒を担いであげていれば……そうやってずっと後悔してしまっているの」

 

 結局、世界を笑顔にしたいこころん先輩は悪者にはなれなかった。自分だけがズルしてカズくんと幸せになるのはダメなんだって思っちゃった。子どもだったこころん先輩は、そんな小さな失敗をして、それが今でも胸に突き刺さっちゃってるんだ。本当は、カズくんのところに行きたくて、抱きしめて愛してほしいのに。もうそのポジションにはわたしがいるから。

 

「バチが当たったのね、嘘つきはあたしもだったから」

「だからって、カズくんに会わないのは違うよ……だってカズくんはもう」

「でも、もう()()じゃない」

 

 カズくんがこころん先輩に与える愛は有限のもの。ずっと愛してもらえるのは、わたしだから。それはこころん先輩がほしいものじゃない。でも求めてしまったら、今度は自分が大好きなヒトを傷つけることになるから。だからこころん先輩だけが傷つく道を選ぼうとしてる。みんなが去っていく姿を、昔みたいに遠くで見守るような立場に。

 

「そんなのダメだよ」

「結良」

「もう一生じゃなくたって、ずっとじゃなくたって、こころん先輩が欲しいものはカズくんが持ってるんだよ?」

「離れたくなくなってしまうわ」

「でも、だからって離れたままなのはダメ」

「それにあたしは、あたしは()()こころなのよ? 全てを奪って、一成をあたしのものにだってできちゃうわ」

 

 確かに、こころん先輩は弦巻家のお嬢様で、望めばなんでもできちゃう。離れたくないって暴走しちゃったら、わたしどころか誰にだって止める術はない。そこでわたしが言葉を詰まらせてしまう。このヒトは、わたしとは違うヒトなんだ、そんなことまで考えてしまって、こころん先輩が立ち上がったその時だった。

 

「らしくねぇ嘘を吐くようになったじゃねぇか、こころ」

「か、カズくん!?」

「よう結良、ありがとな」

「どうして、あなたがここにいるの?」

 

 レナ先輩だ。わたしとこころん先輩が話してる隙にこっそり連絡しててくれたんだ。よく見るとレナ先輩の隣には紗夜ちゃん先輩も一緒に来ていた。ごめんなさい、と駆け寄ると優しいお姉ちゃんの顔で大丈夫よと微笑んで頭を撫でてくれる。どうやら昔話をしてくれてる途中で来たみたい。でもバトンタッチしちゃったけどよかったのかな。

 

「よくなかったら、あのヒトはそれでも去っていく弦巻さんの後ろ姿を眺めていただけでしょうね」

「ずーっとあの子の言葉、マジメな顔して聞いてたし」

「そっか、カズくんの役に立てたかな?」

「結良は正直、そこにいるだけであのクズ教師の支えだと思うけどね」

「ええ、音羽さんはみんなを繋ぎ、一成さんがその全てを愛するヒトなのだから」

「……そっか」

 

 先輩たちに褒められたところで、わたしはカズくんに後は任せましたと気持ちを込めて手を振った。ここからは二人きりにしてあげるべきだ。せっかく、やっと捕まえたチャンスなんだから、カズくんも秘密にしていた物語の続きを紡いでいかないとだしね。わたしたちはカズくんちに戻って待ってることにしよう。そう言って公園を後にした。

 ──ただし、戻ってきてよねカズくん。こころん先輩とどっか行かないでね、絶対に。

 

 

 


 

 

 

 結良が手を振って公園を去っていくのを見送り、それからオレはしばらくぶりのこころに目を向けた。オレに言葉はねぇとばかりに顔を伏せて、会話を拒否する仕草は、らしくねぇの一言に尽きるな。先にオレがベンチに座って無言で座れよと隣を叩く。けどこころは微動だにしねぇまま言葉を重ねてきた。

 

「あなたと話すことなんて、ないわ」

「お前にはなくてもオレにはあるんだよ」

「まるでお説教する前みたいね、もうあたしは子どもじゃないわよ?」

「そうだな、お前は大人になった。なっちまった」

 

 大人になることがいいことばっかりじゃねぇとはよく言うけど、この時ばかりはホントにそんなテンプレに乗っかるレベルだった。けどこんな風にコイツを大人にしたのは身近な大人だったオレの責任もあるわけで、だからオレはそういう意味で言葉を向けさせてもらうことにするよ。

 

「まずは、結良に向けた嘘を怒らねぇとな」

「嘘なんて」

「オレの知る弦巻こころはヒトとは違う、なんて自分のことを表現することはねぇ」

「変わったのよ」

「いいや、お前は変わってねぇ。変わってるんならハロハピなんて夢物語はとっくに崩壊してるだろうよ」

 

 相手は弦巻家のお嬢様で他のヒトとは違う。そういうのをコイツは否定するはずだ。昔は苗字を多少疎ましいと思ってる感じもあったしな。それはさすがに無くなったみてぇだけど。結良は過去のこころなんて知る由もねぇから納得しちまったみてぇだけど、自分が権力を振り回すことが笑顔に繋がらねぇことくらいはわかってる。例え暴走しててもそれはしねぇよ。

 

「信頼されているのね、あたしは」

「してるさ」

「……ねぇ、一成」

「ん?」

()()()()?」

「その質問は、とっくに終わった答えだろ」

 

 それは、オレがバカみたいにカッコつけた覚悟を決めた時の言葉だろ。その後にお前はプロポーズしてきやがった。あの時はびっくりして言葉が出なくなりそうだったんだからな。

 けど、そのプロポーズは卒業式のあの日、断ったはずだ。くだらねぇ理由で断った、オレの後悔の一つだ。

 

「後悔?」

「知ってたか? オレはこころに傍にいてほしいって思ってたこと」

「え……それって」

 

 あの夢から覚めた朝、オレは結良に告白するために学校に出向いた。それが過去に起こった事実だった。

 でもオレの中に選択肢があったんだよこころ、お前を呼び出すって選択をしようか悩んだんだ。もちろん結良のこともこれから歩んでくれるものとして愛していた。アイツらとは違ってただそこにいて、でも次の生徒としての時間が結良への想いだった。

 

「同時に、あんなとびきりの魔法をくれたお前を、はいそうですかって放置すんのは嫌だったんだ」

「あたしを、選ぼうとしていたの?」

「結局、選ばなくちゃいけなくてアイツを選んだけど」

 

 まぁなんだ、そのくれぇにはこころに感謝してるし、なによりこころの笑顔を守りたい。お前がずっとオレの傍にいてくれたように、お前が旅に出るその日まで。オレにとってこころはそれだけ大切で、愛してやりてぇ女だったんだよ。だからこそ、今こうしてこころを傷つけちまってるんだろうけど。

 

「でも、でもあたしは……もう一成と一生はいられないの、それは結良のものよ」

「そうだな」

「あたしは一成の傍で、みんなに笑顔を届けたかった」

「そっか」

 

 ああ、手を伸ばせば今すぐにでもコイツを抱きしめてやれる。けどそれだけじゃあこころを救うことにはならねぇ。今のオレじゃこころを救ってやれねぇ。この曇った顔を、見えなくなっちまった太陽サマをまた晴れやかにしてやることはできねぇ。

 どうしたらいい、どうすれば。ベンチから立ち上がり伸ばしきれねぇ手を中途半端に伸ばしていると、ふいにトンと背中を押されたように、オレは一歩前に出て、こころの濡れた頬に触れた。

 

「一成」

「……悪い、迷っちまった。今のお前を抱きしめて何ができんのか、とかくだらねぇことばっかり」

「いいえ、あなたの気持ちが伝わってくるから……ちょっと暑いけれど」

「それは夏だからガマンしてもらうとして、まずは伝えることが大切なんだよな」

 

 何ができるとかできねぇとかじゃなくて、一方的だろうとなんだろうとこういうすれ違いに対して必要なことはオレがこころをどう思ってるのかって伝えることなんだな。この行為がなんの解決になってねぇのはわかってる。わかってても、それとは別にオレがコイツの傘になってやりたいって思ったから。

 

「その気持ちで結良を悲しませてはダメよ?」

「お前らで最後だよ、こんなの」

「あなたは魔法使いだもの、そうとは限らないわ」

「やめろやめろ、冗談じゃねぇ」

 

 こんなのが許されんのは長く見積もってもアイツが卒業するまでだろ。それ以降に浮気したらそれこそモカとヒナのハイブリッド病みとかいう危ねぇ悪魔が誕生しかねねぇんだから。けど、ちょっとだけ笑顔が戻ったな。

 つうか、最後に会ったあたりはピカピカだったクセに会わなくなったらこれなんだからもう諦めろよ。一生じゃなかろうがなんだろうが、今のお前が笑顔になるためにはオレが必要なんだろ? それならそれでいいんだよ。

 

「そんなくだらねぇとこばっか大人になってんじゃねぇよ」

「そうね、そうよね……もう少しで一成みたいな大人になってしまうところだったわ」

「その納得もやめとけ、今度はオレが泣くぞ」

「そうしたら、あたしが傘になってあげるわね」

「お前に覆われたら干からびるっての、クソ太陽サマが」

 

 まぁオレみてぇな大人がロクでもねぇってのはそうだな。ガマンばっか覚えて、言いてぇことなんにも言えねぇままくだらない嘘で塗り固めて幸せになれるチャンス何個も逃してんだから。お前らにはそうなってほしくねぇな。こころは一度も参戦なんてしてこなかったけど、自分が奪ってやるくれぇのテンションでいいんじゃねぇの? オレはアイツらのそういうギラギラ素直だったところは羨ましいって思ってたからな。だから素直でいいんだよ、素直に一生一緒にいたいくらいに好きで。オレはそういう理不尽なもんまでできるだけ受け止めてやるって決めてるんだからな。

 

 

 

 

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