青春エピローグと黄昏ティーチャー。 作:禁止薬物
雨上がりにちょっと笑顔の戻ったこころを送ってって、後で黒服さんに背中から撃ち抜かれねぇか本気でビクビクしながら帰路に着き、約束通りではあったが遅くなったことで紗夜も怒ってるかなと思いながら家に帰っていった。玄関の靴は少なく、もうとっくにレナも結良も帰ったみたいだった。
「お疲れさまでした」
「……はは、今日がお前でマジよかったよ」
「何がですか?」
「いや、ただいま」
「おかえりなさい」
そうだった、この女は待てができる忠犬だったなコイツ、どっかの構ってくれなきゃ嫌だと暴れる妹と違ってな。帰ってきた瞬間に嬉しそうにオレに向かってくる紗夜と今日あったことを色々話して、求められるままに愛して、そうやって一夜を明かしていった。
こころのこと、なんとかしてぇけどオレは結局あの時、一瞬だけアイツの痛みを和らげることしかできなかった。他のヤツらみてぇに後悔した分の取り立てじゃねぇんだから。
「私も、このまま離れられるか不安ですが」
「そうか? オレはなんだかんだ紗夜はちゃんと追いかけれる背中を見つける女だって信じてるよ」
「ふふ、ならあなたの生徒としてのプライドに懸けて、信頼に応えてみせます」
千聖、ヒナ、蘭、あと多分モカも。ここは落ち着けば各カレシもしくは婚約者のところに戻るだろう。モカは大丈夫かどうか若干不安だが、アイツに対してオレがしてやれることはそれこそマジで信じてやることくれぇだしな。個人的にはもう十分満足してるであろうヒナには戻ってやれよと言いてぇところだ。
「あの子は、それこそみんなが離れるその時まで無理よ」
「だろうな、そもそもオレんところ来る理由もみんなしてずるいから、だからな」
「日菜らしいわね」
要するにもう十分だと思ってた青春を延長させてるだけ。千聖と蘭は急に突き放されたのがショックだったから、ゆっくりと別れの時を楽しむ的な感覚だ。モカは前に進むための準備期間、これは紗夜もだな。
問題が、オレがクズ教師としてお前らと背徳交わるランデブーしてる最中にはそういう関係にならなかった二人なんだよな。こころとリサは、このままじゃ根本的な解決になってねぇんだよ。
「時間ではなく、別の要因が必要なのね」
「そうなんだよなぁ」
それこそ、お前らと同等に扱ってたらまだ救いはあったのかもしれねぇ。だけどこの二人の後悔の根本にはオレへの気持ちを素直にぶつけて、こういう言い方はどうかと思う部分もあるがヒロインとしてオレと生徒たちを取り巻く激動の一年、現在に続くまでの時間をメインキャラとして過ごせなかったってことだからな。
オレはなんてダメなヤツなんだ。そんなことを考えて、考えている間に眠っちまったせいか夢の場所はやっぱり羽丘の屋上だった。
「やっ、悩める教師だね、一成?」
「……やっぱお祓いも必要だな、それも早急に」
「酷い! 守護霊だよ? キミのご先祖様とも仲良くやってるしさ」
「勝手に守護霊名乗った挙げ句に本来の守護霊サマと仲良くしてんじゃねぇよ!」
屋上の夢といえば、と思ったせいか登場したのは由美子だった。オレとおんなじタバコ吸って、冗談じゃないと笑えねぇことまで言ってくる。ただ、悩みとか解決に困った思考の迷宮を整理するのに、この夢は結構都合がいいんだよな。オレの言葉を真摯に聞いて恋人として、教師として言葉をくれたのはいつだって由美子だったんだから。
「そうそう、ファインプレーだったでしょ?」
「あ? なにが」
「弦巻こころって子をハグしようか悩んでた時、背中押してあげたじゃん」
「……ついに現世にまで影響与えてきやがったかクソ幽霊」
「助かったでしょ?」
「なんか昔よりアンタの存在感濃くなってる気がするんだが」
「助かったでしょ?」
「はいはい、ありがとな」
そう言うと由美子はまるでガキみてぇに満足した笑顔でよしっと言ってきた。あれ、数年前まで夢枕に時折立つかどうかくれぇじゃなかったか? いつの間にかオレの背中押してきやがるようにまでなりやがって、あれか。それがご先祖サマと仲良くやってる成果なのか。というかオレはオカルト否定派なんだからよくわかんねぇこと言うんじゃねぇよ。
「あれはオレが踏み出そうと思ったから踏み出した、別に幽霊が押してきたとかそういうのはねぇよ」
「うん、その通り。キミが踏み出せるだけの理由があったから、私が背中を押せた」
「この話はもういいっての」
「そうだね、一成が考えるべきなのは二人の女の子をどうやって送り出すかだよね」
「ああ」
この際見てきたように言うのはオレの記憶の中にいる存在だからと理由をつけておく。そんなことより由美子の言う通りオレはリサやこころのこれからを幸せにするためにどうしたらいいのかってことを考えなくちゃなんねぇ。これがめちゃくちゃ難しいんだよな。
オレってやつはどうしようもなく甘くてクズだからな。このままじゃ今度は結良との幸せすら取りこぼしちまう。それだけは嫌なんだよ。
「いっぱい考えてあげること、それがキミが生徒たちにできる唯一で精一杯だよ」
「解決できなくてもか?」
「この際、正しい答えとか忘れちゃったほうがどっちのためにもなるよ」
正しさを捨てるって案外難しいことだよな。特にオレは正しくねぇって理由だけでこころの提案に乗らなかったような男だしな。
一旦それは忘れちまうとして、オレに今必要なのはただアイツらのために考えてやることなのだと由美子は笑った。精一杯想うこと、それこそがオレができる唯一のことだから。
「さてと、それじゃあ」
「おう」
「キミの答えを楽しみにしてるよ、一成」
「ああ、見ててくれよ」
どうせヒトの背中に立ってるってんなら、由美子に教師としての在り方を学んだオレがどういう結末を迎えるのか、ちゃんと見守っててほしい。間違いだらけだったとしても、正解なんて最初からないのだとしても、オレは教師として、そして一人の男として足掻き続けるから。そうして去っていく由美子を見送って、はっと気がつくとオレは朝を迎えていた。
「ん……」
「あ、悪い起こしたか?」
「いえ……もう、起きるじかん……」
隣で身動ぎ、また寝息といつものように低血圧で寝起きに時間がかかる紗夜をしばらく抱き寄せる。なんか前は由美子の夢を見た時って結構、内容を覚えてられねぇことが多かったのに今日はえらくハッキリとおぼえていた。これも守護霊サマを説得した結果なのだとしたらいっつも由美子に見られてるってことになるのか、嫌だなそれ。まぁ用事があるらしいがまだ時間はあるだろ、なにせもう今日から八月、つまり大学生組は夏休みが始まり、夏期講習も終わったんだからな。
──とか言いながら紗夜を送ってった後はいつものように羽丘に向かい、天文部の部室で結良との時間を過ごしてるわけだが。
「それでね、ちーちゃん先輩もまとまって休みとれるって!」
「紗夜の方も大丈夫らしいから、これで全員の休みが合うな」
「後は、こころん先輩だけだね」
ホワイトボードにはこれからの予定が書き記されていた。その中にある「みんなでバカンス」という文字を眺めながらオレもそうだなと頷いた。とりあえず傘になってやるとは言ったものの、アイツが望まなければそれにもなれねぇわけで。いつもならこんな予定を立ててるってわかれば真っ先に乗っかってくるんだがな。そんな風に考えていると、突如として部室の扉が勢いよく開け放たれた。
「来たわよっ!」
「び……っくりしたぁ、ってえ、こころん先輩!?」
「こころ?」
「ええ、あたしよ!」
そこにいるのは金ピカの髪と笑顔をキラキラ輝かせる眩いばかりの、まだ東から南の空へと向かっているはずのソレと同じ、真夏の太陽のような輝きを放つ、弦巻こころだった。あまりに突然の登場にオレも結良もなんとか確認するまでもねぇはずの存在感に対して名前を呼ぶので精一杯で、なんでここに、ってよりはなんでまたいつものキラキラに戻ってんだよってツッコミもできねぇくらいだ。
「送ってってもらってから一晩、いっぱい考えたの!」
「考えただけで元通りかよ……いやお前はそういうヤツだな」
「だから、はい!」
そう言ってこころはオレの前までやってきて両手を広げてきた。
あの、あのなこころ、結良が隣にいるからな。オレだって一応は結良の前じゃそういうのは浮気になると思ってんだからと目線で同意を求めると、隣からいいよとでも言いたげな温かい目線が返ってきた。
「なんだよ、有限だからって今の内に甘えとこうって腹積もりか?」
「そうじゃないの、ただ……伝えたいことが多すぎて、言葉では足らないの」
「……わかったよ」
立ち上がりまるでスローモーションのようにゆっくりと腕の中に吸い込まれていく太陽の温もりにオレは少しほっと息を吐いた。いつものこころだ。溢れんばかりの笑顔と輝きと、んでついでに愛と、万感の想いが込められたハグだった。いやついでって言ったら怒られるな。あと抱き心地がちょい違う……ああ、二年前だもんな。そりゃ成長してるか。でも妙に抱き慣れてんのはもしもの世界で散々ハグしてやったからだな。
「えっち」
「カズくん!」
「違う、誤解だ」
「今あたしの抱き心地から身体が成長していることを確かめていたわ」
「うわ、変態だ」
「いや確かめてねぇよ、気付いただけで」
「えっちじゃん、アウトだよソレは」
「結良の言う通りよ!」
ちょっと待て、いやオレが悪いのかそれは謝るから待ってほしい。そんな風に糾弾する前にオレはこころに言いてぇことがあるんだよ。別にカッコつけなくちゃ言えねぇわけでも、二人きりで雰囲気良くしねぇと言えねぇわけじゃねぇけど、またピカピカの太陽サマに戻ったこころに。
「あら、何かしら?」
「またオレやオレの生徒たちに笑顔を届けてくれよ、こころ」
「ええ、ええ! もちろん、あたしは世界を笑顔にするんだもの!」
「じゃあじゃあ、とりあえずバカンスの予定立ててるんだけどさ!」
「とっても素敵だわ! 場所はあたしに任せておいて! 世界で一番ステキな場所に連れて行くわ!」
わいわいと盛り上がってるところにヒナがやってきて更に盛り上がっていく。その姿を見て、なんか蘭とのもしもの世界でもこんな感じだったなということを思い出していた。あの時はもう他のメンツも未練が消えてて、そのおかげで昔のように過ごすことができたんだと、だからこそ今こうやってもういがみ合うことも取り合うこともねぇんだって結良が教えてくれたな。
「んで、こころ」
「どうしたの?」
「お前は、その……どうすんだよ」
「えっちのこと?」
「明け透けに言うなっての」
「一成が隠すのは、なんだヘンテコだわ!」
「うるせぇ」
ついにこころと二人きりで家のソファに座って、お互い風呂上がりの状態になれば自然と会話はソッチの方面に突き進んでいく。それこそもしもの世界じゃよっぽど疲れてなきゃ、お互い裸で寝てたくれぇなんだけど。現実のこころはまだ処女なわけで、しかもかなり立派な貞操観念お持ちだったよな。だから一応、確認はしとくんだよ。身持ちを優先するってんならそれでいいだろうし、いやお前が今度こそ自分だけ仲間外れを良しとしねぇだろうってのも予想してるけど。
「寝る前にね、いつも思い出すの」
「あ?」
「あなたの指、息、舌……声も、あの気持ちよさも、全部」
「……お前、結構むっつりだったもんな」
「言い方が悪いわ、あたしは先生に教えてもらった通りに感じてしまうだけよ」
「それこそ言い方が悪いんだけどな」
とか言いつつ、潤んだ瞳から放たれる熱っぽい視線と、
こころはいつもハグをする。オレの腕を自分の腰周辺に置いて、潜り込んでくる。んで太腿を撫でてきて、首筋に顔を押し付けてくると今日はオッケーの合図だった。
「後悔すんなよ」
「むしろ一成に抱かれなかったことを後悔していたわ」
「じゃあ、遠慮なく」
それが、マトモな理性を残した最後の会話だった。これで七人とひとり予定外のが増えはしたけど、全員コンプリートすることになっちまった。けどこんなクズで悪いな結良と謝ると怒られるため、不満の溜まった結良を満足させるものも、結局は愛であることには変わりねぇんだけど。
ただ、これでようやくスタートラインだ。こっからオレは生徒たちを本当のハッピーエンドってやつに導いてやらなきゃなんねぇ。みんなの幸せを模索して、押し付けるわけじゃなくて、それぞれと見つけていく。それが、クズ教師としての最後の仕事だ。
千聖、ヒナ、蘭、モカは時間の経過と満足度の問題
紗夜、レナは一時的な休息のようなもの
問題は、やはりリサとこころである。