青春エピローグと黄昏ティーチャー。 作:禁止薬物
①酒宴テンイヤーズ
とりあえずオレはクズ教師として、そして一人の男として全員の後悔を聞き届けた。んで、こっからは後悔の先を見届けるって時間になるわけだが、それは夏休み終わってからゆっくりでいいよとオレを甘やかしたのは意外なことにおそらく一番損をするはずの正式な恋人、音羽結良だった。
「ほら、お盆のこととかもあるし。急ぎすぎてもまた一緒じゃないかな」
「まぁ、結良がいいって言うんならオレは甘えちまうけど」
「うんうん、それでいいよ! わたしもたくさんわがまま言うし!」
「そうか、ありがとな結良」
そんなカノジョの甘やかしにすっかり骨抜きになり、オレとしては年甲斐もなくイチャイチャと、結良としては年相応に甘ったるい時間を過ごしていたある日のこと、結良がオレのスマホが鳴ってることに気付いて届けてくれた。それは香織がオレへの誘いっつう懐かしいメッセージだった。
「あ、見えちゃった」
「いいよ、隠すもんでもねぇし」
「そっか、飲み会?」
「会じゃねぇだろ」
内容は一緒に飲みに行きませんかというこれまた懐かしい誘いだった。香織の結婚前にサシ飲みは二度としねぇって言ったばっかりなんだけどな、そう送るとサシじゃありませんよとすかさず返ってきたところでコイツが何を言いてぇのか予想して電話に切り替えた。んで開口一番に言い放ってやった。
「嫌なこった、誰が楽しくて既婚者
『話が早くて助かります』
「断る」
『旦那さんの惚気だけじゃなくてのんちゃんの惚気もしたいのに』
「余計に断る」
娘自慢も御免被るな。その言葉たちで結良も何を言いたいのかわかったようだ。あー、と微妙な顔をしてきた。同時にオレにまだ逃げてるのという非難の目線も。逃げてねぇ、マジでオレってやつはクズだからその状況で酒が入ったら何しでかすのか信用してねぇだけ、自分のことが一番信用できねぇ。
『素直になりましたね』
「なりましたね、じゃねぇんだよ。オレがみみに持ってる感情を読み取ってねぇとは言わせねぇからな」
『はいもちろん、みーちゃんが先輩に抱いている感情も』
「わかった上で誘うのか、いい性格してんなホントに」
色んなところに誤解と語弊を招く最悪の言い方をするとオレとみみは未だ両想いだ。あの頃の、恋人同士だった時の感情で凍りついちまってんだよお互いに。別れ方が最悪極まりなかったからな、十割オレのせいだけど。けど今更言葉でなんとかなるレベルは越えてんだろ。その痛みをぶり返させて、何がしてぇんだよお前は。
「カズくんとみみさんの幸せを願ってる、でしょ?」
『結良ちゃん、いたんですね……そして流石です』
「二人は後悔してる、んだもんね」
また後悔か、ああまぁそうだけどさ。だからってどんだけ言葉を交わしたって、それこそ一夜でもアヤマチ重ねたとしても、オレとみみの傷は塞がったりしねぇよ。それでもってんなら伊丹和己、だっけか。アイツの旦那と荻原くんに事情を説明して許可もらってこい。あと結良の許可もな。
「わたしはいいよ」
「不倫してもか?」
「したらお説教だからね、みんな呼んで」
「……しねぇよ」
「知ってる。だから万が一の時は覚悟してね?」
結良だけでも怖いのにアイツら全員はぞっとしねぇな。特にメンヘラ悪魔とヤンデレ悪魔と氷の女王が怖い。あとリサと、一番ヤバそうなのがこころなんだよなぁ。もしもの世界では浮気なんて考えることもなくてアイツ一直線だったからアレだった。だからこそ予想つかねぇのが怖い。未知は恐怖するもんだ、それこそバカヒナや太陽サマじゃねぇんだから。
『私の方はオーケーだそうです』
「まぁ正直、そこまでは予想してた」
『伊丹くん、は……確かに私もわかりませんね』
そうだよなぁと呟いてから、そういやアイツは旦那に自分の元カレのこと結局しゃべったのか聞いてねぇな。つか報告しろよ。そう思ってメッセージアプリの欄にいなくて、ブロックしてるんだったことを今更ながら思い出した。香織は同僚になった時に解除してくれないとみみを呼び出すって脅されて解除したんだったな。
『話したみたいですよ』
「そうか……まぁでもオレとの関係は旦那にもしゃべれねぇの多いだろうからな」
『どこまでしゃべったかは、どうでしょうね』
そもそも結婚するきっかけ、馴れ初めからオレの話が入ってきて、全部オレを忘れたいと思っての行動だったんだから言えねぇのがフツーだよな。しかも香織から聞いた話によると結婚直前になってぶり返して、会いたいと思ったからこそオレを羽丘珈琲店に呼び出して過去の話をさせたんだから。根は深いな。
『それじゃあ、結果分かり次第報告しますね』
「おう」
『先輩、結良ちゃんも、おやすみなさい』
「うん、おやすみなさい」
電話を切って、結良をしばらく抱きしめていると感情のさざなみが収まってきて、そこからはいつものようにまた惚気るのも遠慮するくれぇにイチャイチャと夜を過ごしていった。
──それから、みみの旦那から許可が降りたとメッセージが届いたのは昼過ぎになってからだった。
「それで悩んでいるのね」
「まぁな、一応結良もいい、とは言ってるが……今までとはワケが違うからな」
「ふふ、昔の恋に振り回されているのは、あなたも変わらないわね」
「だからこそお前に色々と上から目線で言えたんだがな」
結良は天文部の後輩二人とヒナ紗夜とで水着を選ぶ、とかで出かけていって、空いた時間を羽沢珈琲店で恋愛相談、というか話を聞いてくれたのは千聖だった。千聖の隣には松原もいて、苦笑い気味に反面教師ってことですか? と訊ねてきた。当たり前だろ、オレが痛い思いしてるからこそ、そうなるなよって言えるんだからな。
「つかデートの邪魔してるみてぇで申し訳ねぇんだが」
「私は、千聖ちゃんが楽しそうなら」
「別に二人きりに拘らないわよ、3Pでもイケるのだから」
「……スルーでいいか?」
「はい、いつものことなので」
松原にスルースキルがついてるのは喜ぶべきか否か。純粋だから守らなきゃいけないのと言ってた相手にいつものことと言われるほど自然に下ネタワードを放つのはどうなんだ。じゃなくて、正直逆の立場だったら、例えばオレがみみの旦那で、みみが元カレと親友と三人で飲みに行きたいですとか言い出したら死ぬ程反対するってところが、今回の悩みなんだよな。
「一成さんは昔から取られるのが嫌いだものね」
「つかそれでも幸せなら、って思えるのがわからん」
「……先生がそれを言うのはちょっと説得力が」
「私のことなんて遊びだったからそういうことが言えたのよ」
「悪かったって、その件はマジで」
要するにみみの旦那がどういうロジックで送り出すって決めたのかがわかんねぇんだよ。オレにとって完全に未知の領域なわけだよ。だから怖いってか、裏があるってわけでもねぇんだけど、ホントにホイホイ三人で食事していいのかって迷ってモヤモヤしてどうしようもなくて、藁にも縋る思いだよコッチは。
「そんな水に流される藁の戯言なのだけれど」
「お前ひょっとして機嫌悪いのか?」
「いいえ、今日の千聖ちゃんはとってもご機嫌ですよ?」
「言葉のトゲが隠されてねぇんだけど?」
「先生とお話して、頼られてテレちゃってるんですよ、ね、千聖ちゃん?」
「……花音ったら」
いや納得できねぇんだけど、水に流されてるんじゃなくて煙に巻かれてる気がしてきた。いつも煙に巻いてきたのはオレだろってそうツッコまれるのは予想してるからわざわざ口に出すなんて野暮なことはしねぇけどさ。しねぇけど、なんでそこでラブコメ始まりそうな空気出してんだちさかの。やっぱオレは邪魔者じゃねぇか。
「そうね、行動原理は案外とてもシンプルで、今の一成と同じじゃないかしら?」
「同じ?」
「どうして私に相談を持ちかけたのかしら?」
「そりゃ、モヤモヤを晴らしてぇって気持ちだな」
「それと同じよ」
モヤモヤを晴らしてぇって、つまりはなんだ? みみとオレの関係が宙ぶらりんなのがモヤモヤしてて、決着をつけてほしいんだって思ってるってことか? オレだったら乗り込んじゃうけどな、そういうの本人たちだけ会わせてもう大丈夫だよとか言われても嫉妬で頭がイカれそうになるだろうなぁ。
「えっと、だったらその覚悟はした方がいいんじゃないですか……?」
「同じだって思えばそうだな、確かに」
「一発くらいは殴られてあげなさい」
「マジか」
「私が慰めてあげるわよ」
「是非頼む、クズだからそういうのが一番ダメージなんだよな」
そんな情けねぇ約束をして、それほど経たずに三人は大学時代、オレの卒業の時に予約してた店に集合していた。幸いオレとみみは夏期講習も終わっているため、時間も都合も付きやすかった。香織は主婦だしな、ずっと思ってたがアイツが専業主婦ってなんか似合わねぇよな。みみにそう送ると確かにねと返事がきた。
「んで、幹事が一番乗りじゃねぇのかこういうのって」
「そういう堅苦しいものじゃないので、気にしないでください」
「いやお前が言うんじゃねぇよ幹事」
「なっくん、昔のノリなんだからさ」
「まぁ、そうだけどな」
十年、十年なんつう長い時間を経ても、三人が揃った瞬間にまるで昔に戻ったような感覚に陥った。オレの向かいには大学時代の後輩としてずっと一緒に過ごしてきた二人がいて。そんななんでもなかったはずの光景にノスタルジーを感じたことに、ずっと一緒だと無邪気に信じていたはずの
「えー、それでは乾杯を」
「何に対しての乾杯だよ」
「先輩の卒業&就職おめでとうの乾杯です」
「あはは、十年経ってるけどね!」
「……笑えねぇ」
それドタキャンした身からすれば笑えねぇにも程があるんだよバカ野郎が。しかもその理由も今考えればくだらなくて、意味わかんなくて、カッコ悪いもんだしな。けどそんなのお構いなしどころかむしろそれをたっぷりと後悔して、あの頃の懺悔をしろとでも言わんばかりの笑顔で、香織がカンパーイとグラスを持ち上げやがった。
「カンパーイ! ほら、なっくんも」
「めでたくねぇ」
「テンション下げないでよ〜ほらほら、乾杯しよっ」
「うるせぇ」
元気いっぱいのみみに押し切られてグラスが触れ合う音がして、生ビールに喉を鳴らしていく。香織、お前はそんなに強くねぇんだから飲みすぎるなよ。みみとオレ、特にみみにペース合わせるとすぐに昔を懐かしむ余裕すらもなくなっちまうからな。そんなオレの小言に香織は唇を尖らせた。
「そんなの言われるまでもありませんから」
「ねね、なっくんってどんな先生してるの?」
「……どんなって」
一瞬、絆してヤって囲ってのクズ教師の方が思い浮かんだ。違う違う、通常業務の方な。まぁそこそこマジメにやってるよ、それこそ無気力状態だった頃よりはな。ただ一度サボりグセがついたら戻すのは大変だし、なんならガキ相手にキリっとすんのも面倒くさすぎてダメ教師にはなってるけどな。
「オレとしてはみみが先生やってる姿ってのも気になるけど」
「わたし? んー、やっぱりこういう性格だからちょっと舐められ気味かも」
「まぁ体育だと遊び半分のヤツも多いだろうし、まとめんの大変そうだよな」
「え?」
「なんだよ」
「わたし、体育じゃないよ」
「なんで?」
思わず問うてしまい香織がみみの隣で肩を震わせてやがった。コイツまたやりやがったな。オレを笑い者にしやがって、お前が教えてくんなきゃわかるわけねぇだろバカが。そんな少しだけ理不尽な怒りを向けてから、別の教科担当取ってたのか、と驚きを口にした。オレの知ってるみみはお世辞にも五教科担当ができそうな頭はしてなかった気がするが。
「みーちゃんは現国の先生ですよ」
「……マジか」
「マジマジ、まぁ部活は陸上の顧問やってるけどね!」
現国、とはまたどういう方針転換なんだか、そう口にする前にみみはその現国教師になることに決めた原因と、旦那との付き合いは密接な関係にあることを語り始めた。はぁ、やっぱ惚気じゃねぇかと思いながら本格的に語り始める前にそれなりの値段がする焼酎の一升瓶とつまみを注文した。
しばらくバンドリキャラが出てきませんがとある需要のため続きます。
ごめんね。