青春エピローグと黄昏ティーチャー。   作:禁止薬物

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③悪役ダーリン

 飲み会から一夜が明け、伊丹和己って男の精神構造と思考回路は香織に近いらしいことを知った。違いといえばみみの幸せを見守る係なのではなく、みみの幸せそうな姿を見守りたいやつって感じか。とにかく出逢った時から陰りの太陽だった美城未来って女をどうにかして晴れさせよう。彼女の持っていた本来の表情を取り戻させようと必死だったってことだ。

 

「だから、紹介せずにいたんですが」

「なるほどなぁ、オレは悪役だもんな、しかも最悪だ」

「はい」

 

 はいじゃねぇよ。爽やかに笑うのは香織の旦那である荻原くんだった。みみにはそんなつもりはなかったらしいが少なくとも就職するくれぇまではお世辞にも元のみみとは言いづらい状態だったらしい。そもそもその伊丹くんそのものも、陸上で頑張るみみを知ってて、だからこそ輝かせたいと思ってたらしいが。つまるところずっと片想いだったわけだ。

 ──まぁそんなみみのヒーローになる彼にとってオレは大悪党なわけだ。なにせみみの笑顔を奪った諸悪の根源だからな。

 

「よく殴り込みにこなかったな」

「惚れた子を助けるために、という大義名分があっても傷つく覚悟で拳を握れるヒトは、そういませんよ」

「しねぇよオレだってんなこと」

 

 どうでしょうと笑われ、そんなことしたことと過去を思い浮かべて千聖を助けるために事務所に殴り込んだ記憶が蘇った。たぶんこれは違うだろう。ほらな、オレはそんなことしたこともねぇよ。なんせオレはとんでもねぇクズだからな。殴られることこそあるだろうがな。そんな話をしているとやっほーと底抜けに明るい声がオレと荻原くんの耳に届いた。

 

「セイさんとなっくんのツーショットって珍しくない?」

「暇だからな、話相手になってもらってたんだよ」

「それでみーさん、和己のやつは拗ねてるの?」

「ズミくん? うん、全部しゃべってあげたら落ち込んじゃった」

 

 カラリと笑いながら言うことじゃねぇんだよなぁ。飲み会であったことを包み隠さず話したらしい。みみってこんなヤツ、だったわ。やめといてやれって、ホントにカレシは元カレってもんに弱いんだからな。しかもこうやって奥さんが暇があればちょいちょい会いに行く元カレとかもうそれは不倫なんだよ。

 

「今日はセイさんに会いに来たんだもーん」

「なんだ、今度は友達の旦那と不倫か、えらく性癖歪んだな」

「なっくんのせいだね」

「その前に否定してくれるかな?」

 

 オレはそんなやり取りに肩を竦める。隣にどいて、みみが荻原くんに旦那の相談をし始める。この関係だけ切り抜くと結構ややこしいよな。女同士が親友で片方の旦那は後輩で片方の旦那は同級生、うーんややこしい。しかも同級生の旦那は女二人の先輩であり片方の元カレ(オレ)とも知り合い。うーんめちゃややこしい。

 

「でもズミくんもさ、友達付き合いとかいいつつ最近アイドルのイベント行ってるんだよ!」

「えーっと、どんな?」

「なんだっけ、なんとかパレット」

 

 思わずコーヒー吹き出すところだった。あぶねぇ、最近活動再開したなんとかパレットってアイドルはオレもよく、よくよく知っていますとも。つかオレそこの二人と身体の関係あるし。みみは荻原くんのリアクションでオレが何かを知ってると気付いたらしく、コッチを睨んでくる。オレをその愚痴に巻き込むんじゃねぇよ。

 

「パスパレだろ」

「なっくんもイベントとか行ったことあるの?」

「あるある、つかお前の旦那が行ったであろうイベントも行ってる」

 

 七月前半にあったお渡し会だろうな、結良がそのチケット渡してきてヒナちゃん先輩が絶対に連れて来いってとオレを指名してきたらしく嫌がったものの無駄な抵抗だった。当然みみはそのパスパレにオレの生徒がいることを知らなかったため、驚きの表情をしてくる。ちなみに誰推しだろうか、いや多分ヒナだろうな。

 

「うん、確かその子のグッズ持ってた気がする」

「まぁみみに惚れる男だしな」

「似てるの?」

「お前会ったことあるよ、ほらショッピングモールで会った時にオレがデートしてたやつ」

「え!」

 

 荻原くんがどんまいです、と同情の声をオレに向けていた。ああ、みみの元カレであり推しと身体の関係があるとかいう最低な敵役になっちまったな。幸い顔は知ってるから会わねぇようにしよう。サマーライブ行くんだよな、結良に引っ張られる形にはなるが。そう言うと、みみは突然立ち上がった。

 

「わたしも行くっ」

「やめとけやめとけ、ストレス溜まるだけだって」

「他人の趣味に口出すと夫婦生活って成り立たなくなるから」

「でも、でもでも全然教えてくれないんだもん! モヤモヤするじゃん!」

 

 なにこの状況めんどくさ。めちゃくちゃ面倒くせぇにオレデートなんだけど一応。元カレがせっかく幸せになろうとしてんのにそれを邪魔するんじゃないよ、馬に蹴られて地獄に落ちちまうからな。

 ただしそこは言い出したら聞かないみみなので、オレは結良に許可をもらうことにした。

 

「確かに相手の趣味って気になるもんだよ」

「それはわかる。結良の趣味とか性癖とか性感帯とか気になるもんな」

「後ろ二つは、知ってるじゃん」

「もしかして誘われてるのかオレ」

「カズくんが誘ったんでしょ〜」

 

 まぁ趣味についても写真と天体観測って知ってるからな。逆に結良はオレの趣味がカフェでのんびりすることとスポーツ鑑賞なのも知ってるけどな。後ろの二つは、さてどうだろうか。そんなイチャイチャを繰り広げてから、翌日、オレは結良()()を乗せて車を走らせていた。

 

「いつもすみませ〜ん」

「知らねぇ仲じゃねぇし、ついでだし」

「パレちゃんは友達だもん!」

「は、結良ちゃんかわいい……」

「音羽さん、友人は選んだ方がいいと思います」

「紗夜、言葉が厳しい」

 

 助手席にいるのはもちろんオレの愛しい愛しい結良だけど、後部座席にもヒトがいた。オレの真後ろにはヒナの音楽を聴くためと紗夜が、そしてその隣にいるのは、学校こそ違うが結良の同級生でもあり同じパスパレ好きを公言しているもの同士でもある、鳰原令王那が座っていた。

 

「パレオです」

「あ、はい」

 

 訂正、パレオらしい。ハンネでありRASっていうバンドのバンドネームでもあるパレオと常に名乗っている変人でもある。いや変人なのはツートンカラーのツインテールの時点で見りゃわかる。結良は友達だと彼女をかわいがっているがパレオの方は結良をどう思っているのか甚だ疑問である。つか目が怖ぇよ。

 

「すみません、パレオはかわいいに目がなくて」

「結良がかわいいのは認める」

「ですよね、特に──」

「語らなくていいよパレちゃん」

「あう……結良ちゃんは意地悪です」

 

 このように首輪とリードの見える関係を果たして友達と呼んでいいのか疑問なのは紗夜もオレもそうである。しかも彼女のご主人様である……決して白金カップルのようなものじゃねぇ、RASのチュチュっつう随分ちんまいヤツがいて、ソイツは結良にパレオを取られたと去年の今頃、バトっていたこともある。結良は持ち前のシャイニングスマイルでパレちゃんは友達だよとチュチュすらも手玉に取ったらしいが。笑顔で絆すのか、誰に似たんだろうなコイツ。

 

「弦巻さんとあなたを足せばそうなるわよ」

「……オレは、関係ねぇだろ」

「よくカズくんみたいってゆわれるよ〜」

「その補足は今必要だったか?」

 

 しかもなんで嬉しそうなんだよ。いや言わなくていい、結良の言いそうなことくれぇ想像がつく。そもそも結良はもしもの世界たちの中でそれぞれのメンバーと深く関わりすぎた結果、少なからず影響を受けてるフシがある。最初はそれがオレの気を引く方法だと思ったんだろうが、思った以上に音羽結良ってヤツにそれが馴染んだ結果なんだよな。今じゃ自然とそれが垣間見えるようになってた。

 

「もうそんなことしなくてもカズくんとわたしはラブラブだし〜?」

「そうだな」

「む、ちょっとくらい照れてよ……こっちがはずかしーじゃん」

 

 そんな甘く、胸焼けがしそうなほどの二人の世界を形成する流れは、ただし流れだけで結良がパレオに話しかけたことでストップしてしまう。まぁほら、二人きりとか特定のメンバーがいるならまだしも、パレオはまだこの空気に慣れてねぇだろうし、結良の方から敢えて断ち切ったんだろう。一人で納得をしていると後ろから首元に生暖かい吐息が掛けられた。

 

「寂しそうですね」

「運転ミスるからやめてくれ」

「そういえば、伊丹さんを連れて行かなくてよかったんですか?」

「やっぱ他人の趣味には口出しNGだろ」

 

 伊丹さんって誰だよと一瞬思ってしまったけど、みみのことか。そういう呼び方の認識違いが生み出すややこしさってのは夫婦同姓の弊害だなと謎の思考に至っていると、それを完璧に読み取ったエスパー少女の結良が突如として会話に割り込んできた。やめとけ、パレオがびっくりしてるだろうが。

 

「わたしは清瀬名乗る気満々だけどねっ!」

「……音羽さんはそうでしょうね」

「だから紗夜ちゃん先輩もそろそろ名前呼びしないとややこしくなるよ!」

「そ、そうね……」

 

 やっぱり夫婦別姓の方がわかりやすいじゃねぇか。と思うこともあるがやっぱり夫婦って書面上の繋がりでしかねぇ他人だから、とにかく見える形に繋がりを表現してぇって欲求なのかもしれねぇな。同じ名前を名乗ること、同じ指輪をすること、そういった形式に拘るのは自然なことなんだろう。今の結良みてぇに。

 

「まぁでも、だからってオレは結良の趣味に無用な口出しはしねぇし、結良に口を出されるのは嫌だけどな」

「それにお給料全部使う、とかだったらダメだけど」

「それは無用の範囲外だよ」

 

 つうわけでやっぱりみみは連れて来ない方がよかったってことで。それにオレの車じゃ後ろに三人はちょっと狭いだろう。定員オーバーだからな。みみには悪いが今回ばかりは旦那の味方だよオレはな。

 そんなこんなで、なんだかんだ雑談が途切れることなくオレたちはライブ会場までやってきた。結構ヤバめの事件で活動一時停止してたはずなのにこんなにヒトがいるんだからやっぱりアイツらってすげぇんだよな。

 

「一成さんはほぼプライベートしか知らないですからね」

「ヒナとか千聖も一度だってライブ来てとか言わなかったしな」

 

 まぁそんだけオレはあくまでプライベート側の人間だったってことだろ。強いてアイドルだって認識してたのは丸山くらいだったな。若宮は行きつけの喫茶店で働いてるし、大和は羽丘だったしなぁとか言っていると結良にスイッチを押すと様々な色に光るペンライトを手渡してくれた。使えってか。

 

「それとカズくんは紗夜ちゃん先輩と連番だからね」

「紗夜とか?」

「嫌なの?」

「そうじゃねぇけど」

「パレちゃんと先輩でもいいんだけど、わたしが一緒にいたいので!」

「ゆ、結良ちゃん……っ」

 

 オレと紗夜はそれ以上の追求をやめて大人しく二人でライブ鑑賞をすることになった。ところで忠犬かわいいとはいえ普段はちゃんとクールな紗夜がパスパレのライブで腕を振って盛り上がるイメージがつかねぇんだけど。パレオと結良は容易に想像できるから、そっちと温度差がすごいことになってねぇかこっち。

 

「な、なぁ紗夜、頑張って盛り上が……」

「はい?」

 

 なぁ紗夜、なんでお前は使い捨てのペンライト大量に持ってんの? なんで指の間という間に挟んで持とうとしてるんだ? え、もしかしてお前この後に及んで新たなキャラ崩壊をしようとしてねぇだろうな。

 ──そんな問いかけは妹のガチオタクと成り果てた紗夜には一切届かなかった。多分昔のオレもお前にこうなってほしくてヒナとの関係を説教したわけじゃねぇと思うんだよ。またひとつ、教育って難しいなと思った瞬間だった。

 

 

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